「どうだったかね? 若きトレーナー達」
あー……、
「……まるでお説教でしたよ」
「……」
「その様子だとやっぱり、長老からの『用事』はお小言の類だったみたいだね」
「リュウの穴」から出てきた俺達を待ってくれていたのは、案内をしてくれた筋骨隆々のお爺さんとワタルだった。
……、
「はっは! 君達がそうも疲れて感じるのなら、お説教だったのかもしれない」
「……うーん……とりあえず疲れたのは確かです」
「……そう、ね」
「そうか。……それでは、私もセキエイに行かなくてはならんのでね。ついでに、疲れている君達を送っていくことにしようじゃないか」
「俺も、カントー地方では『そらをとぶ』の許可にはジムバッジが必要みたいだし、そもそも地方間を超えての『そらをとぶ』による移動は禁止されているからね。とりあえずは君達をマサラまで護衛する事にするよ」
どうも疲れきっているから確かにありがたいんだが……
……まぁ、いいか。
「「では、お願いします(するわ)」」
「任せたまえ」
「うん、了解させてもらう」
この返答で、帰りの4人旅が決定したのだった。
ΘΘΘΘΘΘΘΘ
――《ザッ、ザッ》
――《ザッ……ザフッ》
「……」
「……」
「……、……」
こうして雪道を帰っているのは良いものの、やはりと言うべきか、帰り道は無言になってしまっている。因みにワタルは先行して野生ポケモンを警戒しているため、お爺さんと俺、ミィの計3名が固まって歩いている状態だ。
……ついでに言っとくと、無言が長いのは大体ミィ。無言に長さとかあるのかは知らないけどな。
……と、
「悩みは晴れたかね?」
沈黙を耐えかねたのか、はたまた別の理由があるのか……お爺さんが俺達に問いかけた。
「(そうだな……晴れた……というか、そもそも悩んでいたかは疑わしい)」
しかし、
「なんとなく、見透かされた感はあります」
「……的は、得ていたのかもしれないわ」
要するに長老は、俺達が子どもなのに色々と頑張っているのが心配だったのだろう、と思う。
あとは……周りの人との距離、か。
この世界に転生した俺達では……いままでもそうだったが……周りとはどうしても違ってきてしまうのは、仕方がないと思っていた。
だからこそ俺達のポリシーとして「この世界を楽しみたい」のだし、だからこそ俺達はまず開発系統で頑張ってみようと思ったのだから。
……けど、長老の話を聞いてみて、何となく思うところはあったな、うん。
「つまりは……周りを気にし過ぎているんですかね」
「そう、かもね。私達には『自分が』という考えが足りないのかもしれないわ」
俺達自身では、そう結論付けてみる。
あー……
精神が多少年寄りなのは、仕方ない。個性の1つだ。
この世界で開発チートをしてみるのも、別にいいだろう。個性の1つだ。
この世界のために、と努力してみるのもいいだろう。結局は個性の1つ。
これらについては周りには心配されるとしても、やはり変える必要はないだろう。だが、……「世界を楽しみたい」という立場ではいけないんじゃないかな、と思った。
「傍観者……じゃ、ないんだよなぁ。そういえば」
「……私達『も』、というのでもいけないのね。私達『が』なのよ」
俺が知っている「ゲームにおけるこの世界」の主人公はレッドだった。実際、この世界にもレッドは存在しているしな。それ(主人公がいること)によって自分を脇役としてしまうのは、ある意味仕方ない事だろう。
そして原作を壊さないことが望ましいのも、俺の受けた依頼の都合的には確かなのだ。
だが、転生者だからといって、自分が裏方に回ろうとするのでは……それはただ「外から作品を眺めている」に過ぎないのかも知れない。
そこには自分自身がなく、……そんなので本当に「世界を楽しめる」のか? っと、自問自答せざるを得ないと感じたのだ。
だからおそらく、「世界を」だけではなく「俺達が楽しみたい」も必要なのだと思う。
……結局はそれこそがこの世界を楽しむことにもなる……の、だろう。
「うむ。私としても、君達は周りの人に対してある種の壁のようなものがあると感じるがね」
俺達の会話を聞きながら、お爺さんが口を開く。
やっぱr
「……というかな。つまりは私も長老も、子どもである君達が心配だというだけなんだ! はっはっは!」
……またも長考に入ろうとした俺の思考を、快活な笑い声で見事にぶった切ってくれるお爺さん。
そういわれると凄い簡潔なことに思えてくるから、不思議なんだが。
「なにも、私達年寄りの言うことを真に受ける必要はない。君等は君等らしく、溢れているエネルギーのままに進んでくれれば良いのである。……ただ、今回はそのエネルギーが尽きかけている様に見えたからな。つまりは、年寄りの冷や水という訳だ」
お爺さんはクールな中にも熱さを見せる語り口で話しをしてくれる。
……うんむ。(誤字ではなく、発音として)
おっと……そういえば。
「あなたもポケモントレーナーなんですか?」
「そうでなくては君達を送る、等という事はできないだろう?」
そう言いながら、完全防寒お爺さんは、少しだけコートを広げて俺達にモンスターボールを見せる。
……まぁ、言われてみれば確かにそうなんだが、まだ聞いていなかったんで。
「私は確かにトレーナーだが、実際にトレーナーになってみてからはあまり多くのものを見れなかったのだよ。視野が狭かったとでも言うか」
「……どういう、事かしら」
「うむ。つまるところ私は、ポケモンバトルに傾倒してしまったのだ。……まぁ、それはフスベの里の人間の多くもそうなのだがね。ワタル君もそうだ」
「……えーと、何となくわかります」
ワタルって、ゲームでもバトルマニアっぽかったからなぁ……。
「フスベの里の一族は、竜と暮らし、竜を操る素質を持っている。そして竜の気質の関係で、戦う事が決まっている様なものなのだよ」
語りながら、自嘲する様な笑みを見せるお爺さんトレーナー。
……でも、それって悪いことではないだろ。
「そうだな。悪くは、ない。だが同時に私は、若いトレーナーにはあまり見せたいものではないと思うのだよ。……若さを、私の知らない未来を見せてくれる可能性を……潰してしまっている様な気がしてね」
「……成程」
だからこそ、こうまでして俺たちにお節介を焼いてくれるのだろう。
だがそれをお節介と取るかは……別の話だな。
「……それはそれで良いんじゃないですか?」
「私も、そう思うわ」
「……ふむ」
俺の言葉に、ミィも同調してくれる。
お爺さんはどうも不思議そうな顔を浮かべている、の、だが。
「俺たちがここに来て新しいものを見つけたように、あなたも見つければいいじゃないですか」
「古が、新を育てるのは悪いことではないわ。……それに貴方は、強制はしていないのだから」
「……」
「別に良いんじゃないですか? その若者が望んでいるのなら。……いっそのこと、門下生でも募集して、バトル技術を教えてみたらどうですかね」
この人が実力があるのは確かなんだろう。なら、人は集まってくるはずだ。
そうすれば――
「そうすれば若者達は、自分で何かを……『あなたから』、見つけてくれるんじゃないですか」
「そうね、今日の私達の様に……といったところかしら。だって、私達には沢山の時間があるという特権があるのだもの」
……と、さっそく長老の言葉とかを引用してパクってみた!
うん。自分達で言った言葉くらいは信用してもらわないと、それによって考え方を変えてみようという俺たちはどうなんだ! ……という事になりかねないからな。
などと俺たちが話してみると、
「……ふむ。君達は、こんな老骨からも……何かを見つけてくれたのか」
おぉ、確かに。それは、
……なら、所信表明でもしてみるかな。
「そうですね。勿論見つけたものはあります」
「私も、よ。……けれど少なくとも貴方の様に、バトルだけ、とはならないのでしょうね」
「それに俺たちは、今やっている研究や開発なんかも捨てる気はさらさらないみたいでした」
俺達の言葉を聞きながら、しかし意味だけは正しく受け取っているらしく……
……バトル好きなお爺さんポケモントレーナーは、笑いながら、聞き返す。
「ならば、君達は何をしたいと思ったのかな」
「そうですね」
「私達が、目指したいと思っているのは」
「バトルが出来て、俺達を信頼してくれるポケモンとも一緒にいられる」
「だけれど、研究や技術革新をして、他の誰かの為になることも出来る」
「でもって、なろうと思えば別に旅人にだってなれる」
「そんな風に、やりたいことが纏めて……何でも出来る様になるのが1つだけあるわ。ただし、この世界なら……なのだけれど」
「……はっはっは! やはり、な!」
「まぁつまり……結局、目標だけは変わらなかったみたいです。……俺たちがやりたいと思ったのは、」
「「ポケモントレーナー」」
――《ビュウウゥゥ……》――
「……だったみたいです」
「……だった、らしいわね」
――《ビュオォォウ!!!》
……などという、豪雪の中での宣言となったのだった!
さて、色々と面倒な展開は終了な!!