ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ26 聖なるかな、リュウ

 

 

「ふむ……よく来てくれたのう、お2人共。そして、連絡が行き渡っていなかった件についてはこちらの落ち度じゃ。すまなかったの」

 

「いえ、こうして来れたのですから問題はありません」

 

「……ショウの、言うとおりよ」

 

 

 俺達が祠に入ったところで長老から謝罪があったのだが、まぁこうして会えたのだから実際に問題は無いだろう。

 

 

「こうして来てくれたのじゃし、ポケモン研究の協力についても安心してよい。お詫びになるかはわからんが、試練を終えたこの里で最も優秀なトレーナーを協力させよう……これ、ワタル!」

 

「……はい、長老!」

 

 

 協力を承諾しながら、長老が呼び出したのは……ワタルだった。

 ワタルといえばゲーム内では四天王だったりチャンピオンだったり、ともかく強いトレーナーとしての描写が強かった……ドラゴン使いのポケモントレーナーである、筈。

 ……あとは『はかいこうせん』が大好きな、筈。

 

 さて、マントこそしていないものの、俺達の目の前には件のワタルが立っている訳で。

 

 

「俺の名前はワタル。今年からカントー地方のリーグに挑戦させてもらう予定なんだ。先程試練を終えたばかりではあるけれど、少しばかりバトルには自信があるよ。長老からの要請もあったし、旅をしながらも君達の研究に協力させてもらおう」

 

「ありがとうございます、ワタルさん。俺の名前はショウ。オーキド博士と共に研究をさせてもらっていますね。……で、こっちがミィ」

 

「……」ペコリ

 

「研究協力の見返りとして、この町にトレーナー施設を幾つか配備する予定となってますが……それはシルフ社員であるこのミィが主になって行うと思います」

 

「宜しく、お願いしたいところよ」

 

「こちらこそ。よろしく頼む」

 

 

 うん。これにて自己紹介は終了だ。それでは、

 

 

「では、研究について幾つか説明をさせてもらいますね……」

 

 

 

 ……

 

 

 

「うん。つまり、俺のハクリューとカイリューが定期的にデータを取ってもらえばいいのかな」

 

「そうですね」

 

「わかった。この町の発展のためにもポケモン学のためにも、尽力させてもらおう」

 

 

 説明をし終えたのだが、うし……よかったー!

 これで、ミニリュウの進化系統のデータ収集ははかどる事だろう。いや、ほんと助かる!

 

 

「こちらこそ……これで肩の荷が1つ降りましたよ」

 

「もうよいかね?」

 

「あー、はい。今終わったところです」

 

 

 おっと……少しリラックスしているところへ、長老が。

 

 

「ワタルよ。この者達に、少しばかり話がある。お前は先に出ていなさい」

 

「わかりました」

 

 

 ……お?

 なにやら話があるようで、ワタルを祠から出したようなんだ、が……

 

 

「俺とミィに、ですか?」

 

「そうじゃ。幾つか、忙しい若者に道を示そうと思っての」

 

 

 ……成程。

 …………「忙しい若者」か。

 

 

「わかりました」

 

 

 そういって、俺とミィは祠の中央に座る。

 長老はゲームでも定位置だった……壇の手前、上座の位置に座った。

 

 

「なーに、心配するでない。なにも尋問やら詰問やらをする訳ではないのだよ。……少しばかり、わしの質問に答えてみなさい」

 

「質問というと……」 

 

「質問自体はポケモンとの関係について、じゃ。これによって、お主らに助言してやることが出来るかもしれん」

 

 

 あれかな。『しんそく』ミニリュウのヤツ。

 と、思ったのだが……答え方はゲームとは違うだろうな。

 ゲームには選択肢があった。だが、そもそも選択肢の内容なんかは覚えていないし、ここで俺達に「道」を示してくれるというなら……俺達自身が答えなくてはいけないだろう。

 

 

「今ここにいるお主らのままに、答えてみなさい。では、いくぞ……」

 

「「はい」」

 

 

 隣を見ると、ミィも何となく、気持ち真面目な表情になっている。

 さて、長老から促されたことだし……

 

 ……問答の、開始だ。

 

 

 

 

「まず……『お主』にとって、ポケモン勝負で勝つために必要なこととは何かな?」

 

 

 ポケモン勝負、ねぇ……。

 

 

「策、だと思います」

 

「戦略、かしらね」

 

 

 俺とミィは奇しくも同時に、同じ内容の答えを返すことになった。

 ……まぁ、ゲームで廃人やってれば大体はこの言葉になるだろうな。

 

 

 

 

「ふむ、成程……。では、どんなポケモントレーナーと戦ってみたいと思う?」

 

「……うーん、特に誰、という訳ではないです」

 

「別に、願望という意味でなら誰でも構わないわ」

 

 

 ……「強くなるために」という言葉がつくのなら経験値とか努力値とかを考える必要はあるのだけれども、「戦ってみたい」ならば別に相手には拘らないだろう。

 というよりも、そもそもこの世界にいるポケモントレーナー全てを記憶できている訳ではないのだから……「どんな」といわれてもなぁ。

 

 

 

 

「ふむ、成程……。では、強いポケモンと弱いポケモンとならどちらが大事かの」

 

「その選択肢では、選べません」

 

「私も、同じ」

 

 

 そもそも、強いと弱いの定義が曖昧過ぎる。

 別にバトルだけが全てではないんだし。

 

 

 

 

「ふむ、成程……。では、ポケモンを育てるのに一番大切なことは、なんじゃと思う?」

 

「それについても、そもそも1つを選んだのでは……」

 

「……さぁ? 愛情、とでも答えて欲しいのかしら」

 

 

 ……あ、ミィが若干やけくそになってる。

 とはいえ、俺も気持ちはわからんでもない。1番大切な、という質問をされても……「1つだけを選べないからこそ、大切」なんだから。

 

 

 

 

「ふぅむ……。では、『お主』にとってポケモンとは、なんじゃ?」

 

 

 ミィの発するプレッシャーをものともせず、長老は話を続ける。

 ……「なんじゃ?」とか聞かれてもな。

 

 

「仲間……って感じな気がします」

 

「近しい、間柄ではあると思うわ」

 

「……うむ。これで質問は終了じゃ」

 

 これで終わり、か。

 俺達の返答に首を少し動かすと、質問の終了を告げ、……少し遠い目をして長老が語りだす。

 

 

「では、少しだけお主らのために話をしよう。……爺の戯言とおもって聞き流してくれても構わんがの」

 

「いえ。それこそ、聞いてみなければわかりませんので」

 

「なーに。どちらにせよ結局は、只の助言にしかならぬ」

 

 

 俺の返答に、「ほっほ」とかいう感じの笑い方をしながら長老は返す。そして、話の続きへと入る様だ。

 

 

「……さて、お主らは、ポケモンをとても大切にしているようじゃ」

 

 

 まぁ、それは確かに。

 

 

「うむ、これはトレーナーとして大事な要素といえるじゃろう。……じゃが、同時にお主らは気づいているのではないかの? 自分自身の回答の大半が、はっきりとはしていない事に」

 

「……」

 

「そう、かも知れません」

 

 

 言われてみれば、そうなのかもしれない。

 隣のミィも無言であり……思うところはあるのだろう。

 

 

「見た所、お主らは10にも届かぬ年齢。普通の子どもというものは悩みこそすれど、その無垢さ故か、はっきりとした『自分なりの答えを、自ら見つけ出せる』ものじゃ。……これはわしの経験だがの」 

 

 

 ……そんなもんですか。

 

 

「無論お主らを責めているわけではないぞ。肩書きからして、また、思想からしても、お主らが子どもである必要性はないようじゃからの」

 

「じゃが、少しだけ考えてみて欲しい。お主らはこの世界にいる一個人。一存在なのじゃ」

 

「返答の際に、お主らは2人揃って遠い目をしておった。まるで、この世界を外側から眺めてでもいるようじゃった。なにもそこまで客観視せずとも良かろうに……と、わしは思うたの」

 

 

 ……。

 

 

「その『目』、『視点』。その『志向』、その『成長』、その『力』。わしには……お主らが何かに焦っている様に見えてならん」

 

 ――《カタカタ、カタカタ!》

 

「ふむ? すまんのう。一応、お前達の主を責めているつもりはないのじゃ」

 

「……じゃが、お主らはもっと子どもらしく……心を何かに頼ることを思い出してみても良いのではないか、と感じたのは本当じゃよ。それこそ、お主らの近しい、仲間の、ポケモンなんかにでもの」

 

「周りとの乖離を感じておるのは、お主らが一線を引いているからじゃろうな。それが悪いともいえんが、その感覚を最も気にしておるのもお主ら自身の筈」

 

「なぁに、心配する必要はない。誰かを導くだの、何かを創るだの。そんなものは他の誰かがやってくれる事もあるじゃろうて」

 

「なぁに、焦る必要もない。寂しいこと、苦しいこと。そんな風なものは時間が癒してくれる事もあるじゃろうて」

 

「そしてそもそも、お主らが自分自身を決めてしまう必要はないのではないかの? 盛大に流されてみるのも一興じゃろう。……ほっほ。未来が沢山あるのは、若者の特権なのじゃからのう」

 

 

 ――、

 

 ――――。

 

 


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