ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ24 タマムシの着物、再び

 

 

「タマムシの着物……って、甲子園の魔物みたいな響きだよな」

 

 

 などという小ネタについては気にしないでおいて欲しいところ。

 

 さて。

 そんな風に着物を思い出したのは、俺が現在タマムシシティにいるからだ。

 セキチクはサファリパークにて新種のポケモンを捕まえた俺たちは、その後タマムシ大学へと戻る必要があった。研究室にてある程度のデータを揃え、マサラの研究所へとデータを送るためだ。

 

 

「……うし、これで終わりだ。ミィのとこ戻っていいぞ」

 

「リュウ? ……リュ!」

 

 

 俺が声を掛けると、手元から離れたコイツ……ミニリュウは、親トレーナーであるミィの所へとピョンピョン跳ねながら戻っていく。

 

 

「あら、……ふふ。いい子ね」

 

「ミ……リュウゥ♪」

 

 

 ミィの手の中で撫でられ、ご満悦の様子だな。ミニリュウは。

 

「(だが、と……置いといて)」

 

 その前に少し、話さなくてはいけないことがあるため……俺は隣でデータのバックアップを取っている研究員へと話しかけることにする。

 

 

「おーい」

 

「あぁ、ショウ班長。どうしましたか?」

 

「口裏あわせ。コイツの発見者は『サファリにいた一般人』なんだからな」

 

「はい。……このポケモン、『ミニリュウ』も今までは幻といわれていたポケモンですしね」

 

「おそらくは、サファリの『保護区域』にコイツの居た湖の源泉があるだろうからなぁ。色々と詮索されるのもマズイ」

 

 

 そう。只今の会話の通り、今まで「ミニリュウ」の存在は幻のものとされていた。そこを俺達がまたもや発見してしまったわけなのだが、簡単に生息情報を明かしてしまうと今のポケモン探検ブームからして、ミニリュウの「密漁」、もしくは「乱獲」になる可能性が高いのだ。

 しかし、サファリは国としても多額の資金を投資して行っている事業であるため、オープンを前にして「開業中止」とは出来ないという問題がある。これが非常に面倒な部分なのだった。

 そこでミニリュウの発見者については「発見したのは一般人で、偶々発見された」とし、保護区域からは数が出て行かないように調整を行うという方針が決定された。

 これによってミニリュウの主な生息場所を隠すことが出来れば、事実上ではサファリの「独占保有」となっているミニリュウの価値を「逸らす」こともできるのではないかと思うのだ。

 

 

 ……ということが資料に書いてあるんだ、うん。

 …………いや、俺も協力して考えたんだけどな?

 

 などと分割思考するが、その間にいつもの通り確認を終えている俺。

 

 

「はい、口裏あわせ終了。……こんなもんかね」

 

「一応資料にも纏まっていますからね。これで十分なのではないでしょうか」

 

 

 うん。この様にデータ班からの了解も貰ったことだし……と。

 

 

「ねぇ、ショウ」

 

「うん? どしたよ、ミィ」

 

 

 さっそくと研究室を出ようとしたところで、ミニリュウをボールへと収めたミィから話しかけられた。

 

 

「貴方、忘れているのでしょう」

 

「なにが……って、お前からの指摘は怖いな……」

 

 

 無表情の中にも呆れの表情を浮かべたどこまでもいつも通りのミィではあるのだが……

 

 

「この子、……新種なのよ」

 

「そうだな」

 

 

 この世界においては、ピッカピカの新種なことは間違いないだろう。

 

 

「進化系統の、データ採取はどうするのかしら」

 

「……あー……」

 

 

 盲点だった……!

 

 最近は新種発見に力を注いでたから、忘れてたよ……。

 

 

「……ちょっと、いや……かなりマズイか」

 

「時間は、……かかるでしょう」

 

 

 俺達が知っているミニリュウの最終進化に必要なレベルは、55。

 しかも、ミニリュウの系統はレベルアップに必要な経験値が最も必要なグループだったし……一般トレーナーに任せてレベルアップさせていては、1995年の発表に間に合わないだろう。

 

 

 さらにここで、ついでにこの世界での「ポケモン育成」について話したい。

 

 現在の俺の手持ちレベルは30前後。また、第1回や第2回のポケモンリーグを見るに、上位入賞のレベルで50手前辺りだろうと予想している。ゲームでもそんなんだったしな。

 そして、それはまだいい。ゲームにおいてならば50前後は難しいラインではなかったのだから、この世界においてもそう難しくは無いのだろう。

 

 ……ただしそれは俺が「冒険できていれば」の話になる。

 

 この世界の殆どの野生ポケモンのレベルはゲームと同じく、高くても30越えがいいところ。マサラ周辺になっては、1桁辺りでしかありえない始末だ。

 つまり、これだけ……「野生のポケモン相手だけ」では、満足にレベル上げができないのである。

 一応あげられない事も無いが、ゲームと違って移動・回復などに時間がかかるこの世界では、かなりの時間がかかることだろう。

 

 さて、そんな背景もあって、この世界では「強いトレーナーになりたいなら旅をしよう」というのが常識となっている。因みにこれは実際に理にかなっていることで、「野生」でだめなら「野生で鍛えている旅のトレーナー」との対戦で強く育成しようということなのだ。

 他にもトレーナー戦以外にも各町に設置されたジムを回る、とか、野生ポケモンと戦うことでトレーナーとしての力量も上げられるといった利点もある。そのため、旅をすることがポケモントレーナーとしては一石二鳥でも三鳥でもあるという次第なのだった。

 ……さらについでに補足すると、ゲームでは行けなかった「ダンジョン奥地」にも……まぁ当然ではあるが、この世界ではいくことができる。

 そこではゲームにおいて主人公達が通っていた「一般トレーナーも多く通る、比較的安全な場所」よりもレベルの高いポケモンやその進化系が出てくるため、そこでの育成も冒険しなくては出来ないものの1つになるだろうと思う。

 

 ……などと、ここまでが育成についての無駄思考だ。

 さて、これを踏まえたうえで先程のミニリュウについて思考をすると、

 

 

「ミニリュウを55までとか、どうすっかな……」

 

「……そう、ね。私としても、図鑑の完成は必要なところだし」

 

 

 つまりは、ミニリュウの進化系統のデータを図鑑に登録するのには時間が足りないのであった。

 

 

 

 

 ――そして、そのまま2人して研究室の前から歩きつつ悩むこと数分。あーだこーだと論じてみたものの、結局は結果が出ないまま……とりあえずは実家に帰ることにしてみた。

 悩んでも案が出ないときは、時間を置くとか環境を変えることが有用だと思うんだ。うん。

 

 

「さて、また明日な。ミィ」

 

「えぇ。私も、もう少し考えておくわ」

 

 

 そういって、ミィとはタマムシデパートの前にて別れることにする。

 分かれた後、俺が上を見上げてみると既に空は暗くなっており……俺もさっさと帰った方がいい時間帯になっている様だった。

 

 

「……はぁ」

 

 

 少し気分を変えたくて、空を見上げながらため息をついてみる。

 ここ最近は確かに研究が忙しいのもあるのだが、研究がどうこうというよりも……締め切りに追われているこの状況は俺が苦手としている雰囲気なのだ。どうもプレッシャーを感じ過ぎてていけないし……

 

「(俺らしくはないなぁ、これ。最近は大体こんなだけど)」

 

 愚痴思考を浮かばせながら上を見続ける。しかし当然であるが、ため息をついても、空を見上げても、人波にもまれても……案が浮かぶわけはない。

 そう考えて今度は視線を落とし、しかし結局はまたも何となしに疲れた気分で周りを見渡す。年始であることも影響してか、目の前にあるタマムシデパート前の広場は活気に溢れていた。むしろ年始であることが影響して、人の出入りはいつにも増して激しいのかも知れない。

 俺はそのままのノリで周りを見回し……

 

 

 何時ぞやと同じく、またも1人の少女を見つけてしまうのだった。

 

 

「……デジャヴ!」

 

 

 その少女は今日も目立つ衣服……もう良いだろう……はっきりいうと、着物を着ている。そしてこれまた何時ぞやと同じく、噴水に腰掛けている様なのである。

 けどなぁ……。

 

「(前とは違って、俺から声を掛ける必要は無いよな?)」

 

 別に避ける理由も無いとは思うが、いらぬフラグを立てることも無いだろう……と、

 

 

「む、キミは……」

 

「あぁ、あの時の男の子ですねぇ」

 

「……ども」

 

 

 ……避けきれなかったかっ!

 

 前にいる対象(着物少女)に注意を向けていた俺は、背後から近づいた対象(着物両親)の接近には気づけなかったらしい。あえなくご両親には見つかることとなったのだった。

 ……よく考えれば、子どもがこの時間に出歩くとなれば親がついているのが普通なのだから、当然の帰結ではあるのかもな。

 ただし俺の経験からして、家出でもして無い限り……という条件はつくみたいだが。

 

「(……まぁ……良いか)」

 

 見つかって、しかも話しかけられてしまったからには誤魔化す必要も無いだろう。むしろ誤魔化してはいけない。

 それこそさっき考えたように「避ける理由は無い」(ただしフラグを除く)のだし、会話でもしていれば、なにか……現状を打開する案が浮かぶかもしれないしな。

 ……いつだって前向きに生きたいものである。

 

 じゃ、そう決めたからには会話を開始するか。

 

 

「娘さんは元気にやってくれてますかね?」

 

「えぇ。貴方には感謝しないといけないわねぇ……ほら、アナタ」

 

「……む」

 

「もう、アナタったら。……ごめんなさいねぇ。この人無愛想なのよ」

 

 

 いえ、構いません。無口なのは知ってますし、

 

 ……と返そうとした俺だがしかし……怒涛の攻勢を仕掛けてくる主は、背後から忍び寄っていたのだった。

 

 

「どうしたのですか。お父様、お母様?」

 

 

 ……うぉぅ。

 今度はご両親の方向を向いていた俺にまたも背後からの以下略で、さっきまでは正面の噴水に腰掛けていた着物少女が話しかけてきたのである。

 

 

「……おう。久しぶりだな、着物お嬢様」

 

「あなたは、……そうですね。お久しぶりになります」

 

 

 フランクにと考えて挨拶をした俺へ、丁度目の前である両親の隣まで移動してきた着物少女……これまた、もうエリカでいいだろう……エリカは、ふかーく腰を曲げて挨拶を返した。

 あー……この様子だと、両親は俺のことも普通に話しているみたいだな。まぁこれはこれで、誤魔化したり後で説明したりする苦労が無くていいとは思うけど。

 それにしても、前回遭遇した時はマフラーとかしてたんだが……やっぱ意味は無かった様で。

 

 で、話を戻して……ここにエリカが両親といるということは、だ。

 

 

「もう家出はして無いのか?」

 

「しておりませんわ。……今のところは」

 

 

 まず、また家出をされては困るんだが……まぁ、良いか。俺から振った話題だし、おそらくは冗談だろうし。……多分!

 

 

「それはなによりで。最近は色々と怪しいやつらが出てまわっているから、また家出をする予定があるなら気をつけろよ」

 

「ふふ。そうですわね。ご忠告、感謝致します」

 

 

 今ではロケット団がいるからなぁ。そんで、あいつらはここ……タマムシシティにも基地を作っているはずだから、万が一が考えられるだろう。

 ついでに言うがそもそも、

 

 

「また家出したとしても勿論、俺の家は不可だぞ」

 

「わかっております。ですが、最近はこの噴水の前がわたくしのお気に入りでして……」

 

 

 などと、暫くはそのままの流れで本気半分冗談半分の忠告も交えた会話を繰り広げる。

 ……すると、お嬢様からのご提案が。

 

 

「あの。わたくしからあなたへ、少し御礼をしたいのですが。……まだお時間の方はご都合がつきますでしょうか?」

 

 

 確かに、既に時間的にも場所的にも立ち話をするには適していないだろう。前と違って今回はご両親が傍にいるのだが、今はそこが問題なのではないと思う。

 となれば、

 

 

「あー……まぁ、いいと思う」

 

 

 ここまで来てから避けても仕方が無いだろう。ただ、俺の両親に連絡さえすれば、だけど。

 などという、エリカからすれば若干渋りを感じるであろう俺の答えに、それでも満面の笑みにてエリカは返す。 

 

 

「ありがとうございます……それでは。お父様、お母様も。参りましょう!」

 

「……あー、わかった。逃げない。逃げないから。俺の腕はつかまなくていいから」

 

「……む」

 

「あらあら、まぁまぁ」

 

 

 なんとも騒がしいお礼になりそうな予感がするのだった。

 

 

 

 

ΘΘΘΘΘΘΘΘ

 

 

 

 

 時間はとんで、既に深夜になる頃。

 

 そんな感じでエリカ達からみっちりと夕食によるお礼を受けた俺だったが……その甲斐もあったのか……ミニリュウの問題については1つの案を考えついていた。その思いつきの元となったのは、エリカとの会話である。

 あの後に繰り広げられたのは、自己紹介から始まるお礼というなんとも奇妙な夕食だったのだが……会話をしながらエリカの近況を聞くことが出来たのだ。

 ついでに、エリカ曰く「家元とジムリーダー、シルフの仕事も出来る限り両立していく」とのことで、彼女は結局は自ら大変な道を選んだようだった。

 ……まぁシルフにはミィもいるし、今では両親もいるのだからこの点については大丈夫だろうと思う。

 

 それは置いといて。

 

 俺にとって思いつきのヒントになったのは「ジムリーダー」という部分。

 今までもレベルによる進化に関してはジムリーダーへの要請という形で研究を行っていたのだが、新種・新タイプであるミニリュウに関しては門外漢であろうとも考えていたため、その方法は候補に入れていなかったのだ。

 ……けど、

 

 

「……別にこの地方じゃなくてもよかったんだよな」

 

 

 カントーには適したジムリーダーがいなくても、俺には心当たりがある。

 隣の地方は、竜の里。そこに住んでいるであろう人物は、ゲーム通りに歴史が進むのならば……来年辺りにでもチャンピオンになる予定(だろう)という人だ。

 まぁ、そもそも彼は今の時代では只の「強い一般トレーナー」である。彼が駄目なら、里の長老さんにでも取り次いでもらえば良いだろうな。うん。

 

 

「いきなり『はかいこうせん』とか撃たれなけりゃいいんだけどなぁ……」

 

 

 流石に無いとは思うがそれでも捨てきれないインパクトにビビりながら、俺はポケモン協会へと取次ぎを要請するのだった。

 

 


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