時は1992年、マサラタウン。
「……では、やはりデータは秘匿扱いに?」
「そうじゃな。この世界に最後の1体かもしれん」
国内に帰ってきた俺は、研究所にてオーキド博士と共にミュウの処遇について話し合っている。
「最近のポケモンブームは凄いですからね」
「うむ。ラプラス、カモネギ、イーブイ……いずれもポケモンバトルが人気になってから個体数が激減したものばかりじゃ。データ等の存在自体を隠して、そいつはお主がきちんと持っておくのがいいじゃろ」
博士の口頭によって挙げられたポケモン達は、最近になって個体数の減少が確認された種類だ。
何しろポケモントレーナー制度が施行され、モンスターボールが手軽に手に入る様にもなったこの時代。もともと個体数が少なかったポケモンを持つことは一種のステータスになることもあり、レアな個体はその数を減らし続けているのだった。
そんな時期だというに、この「ミュウ」の捕獲という事件である。俺達は色々な意味で面倒になることを見越し、データを研究所の俺と博士のみで処理すると決めたという訳。
……まぁ、一応データは取るけどな。俺用に。
「コイツはマサラの空気を気に入っているみたいですし、俺と一緒にいることも了承してくれてます。一緒にいることに異存は無いですね」
「頼んだぞ。ワシも発表の際にはそいつを数には入れんからな」
「お願いします」
とはいったものの、実際ミュウはこのマサラ以外では肩身の狭い思いをすることになるだろうな。珍しい、もしくは見かけないポケモンは注目の的になるし。
マサラがド田舎だからこそ、普通に出て歩けるのだった。田舎でよかった!
……あ、そうだそうだ。さっきの「発表」についてだが、オーキド博士は1995年にカントーに住むポケモンの総種類数を発表する予定なのである。
そのため、俺や研究班は戻ってきても相変わらず研究に追われる日々なのだ……というかむしろ前より忙しくなったから、最近はトレーニングをする暇が殆ど無い状態だけど。
さて、2人でそんな現状を憂いていると、オーキド博士が何故か遠い目をして語りだした。
なんかノスタルジックな雰囲気出してるが……
「それにしても、トレーナーの数は急に増えてきておるのぅ……。最近は国が力を入れておるから、トレーナーへの学業免除やスクール建設、リーグの全国放送なんかがあって至れり尽くせりじゃ」
「あー……確かに。中学校はそもそも努力義務でしたけど、結構前に小学校も10才までに詰め込む方針に変わりましたからね」
そう。この世界はポケモンに関する色々と特別な制度があるのだ。
先にも言ったが中学校はそもそも努力義務。小学校は12才までだったが、トレーナー制度導入の数十年位前から社会実験をしたうえで、制度開始と同時に「10才までに教育を終える」ことができる様改正されていた。
ぶっちゃけ転生前の世界観を持つ俺からすればありえない制度なのだが、ポケモンに関するこの世界の人間の執着は恐ろしいものがあって、子ども達も必死で勉強に取り組むようになった……らしい。
……つか、学力はむしろ前より上がったらしいしな。
おそらくオーキド博士は、そんなトレーナーにとって便利になった社会と昔の自分の頃の状況を比べていたのだろう。昔はぼんぐりオンリーだったし、今よりトレーナー数も少なかっただろうからな。そりゃノスタルジックになるわ、うん。
「トレーナー資格はとるんじゃろう?」
「そうですね……。最近は通信で取れるのもあるんですけど、しばらく休みを貰ってタマムシで取ろうと思っています。両親にも親孝行しときたいですし」
「親孝行とくるか……。ショウ、お主8才じゃろうに……。まぁ、だが、確かにそれが良いじゃろうな」
まぁ、そんな先のことよりもまずは研究だけどな!!
俺の年に関してはいまさらだし!
……さて、本題である研究の進行具合の話に戻そうと思うんだ。
「あぁ、そうだ博士。この間言っていた、伝説の3鳥についての見聞をまとめておきました」
「おぉ! 相変わらず仕事が早いの」
そう、この仕事が面倒だったのである。
ゲームをやっていた時、俺はこう思っていた。「なぜ、まだ知られていない伝説のポケモンのデータが図鑑にはあるのだろう」……と。
しかし、実際俺達が作っているのは「ポケモン図鑑」。
ある程度一般的なポケモンのデータは当然として、伝説のポケモンも入らないわけにはいかないのだ! 研究的に!!
そこで俺達は「伝説」になっているポケモン達の見聞や僅かな観測データ等を実地で集め、外見判別くらいはできる様にしたのだ。
……うん、かなり苦労したけど。
あとは捕まえてから詳しいデータを取る予定で、これで殆どゲームどおりになるのだった。
「フリーザーはセキチクからサイクリング辺りを望遠、サンダーはイワヤマトンネルで張り込み。……ファイアーに至っては、見たことがあるというカツラさんにかなり頼りました。大変でしたよ、博士……」
「すまんすまん」
補足すると、カツラさんは昔山で遭難した際、ファイアーに導かれて下山できたらしい。そのせいで今も炎ポケモンに拘っているのだとか。
……はい補足終了。そんなことより、
「ひと段落したら、きちんと休みは下さいよ」
現在は明らかに労働超過だし、年齢的には前世で言う労働基準法にも引っかかってるんで。
「うむ、それは安心してよいぞ。しばらくしたら、ワシの先輩であるナナカマド博士にも手伝ってもらう予定じゃ」
あぁ、DPPtに出てきた影薄いけど妙に偉そうな博士。
……あの人、先輩だったのな……という発見をした俺へ、博士は続けて口を開く。
「それに、進化の方面に関しては助手のウツギくんに一任することができそうじゃ」
「おぉ……! それは楽になりますね」
図鑑の進化方面を任せることができれば、実際かなり楽になるだろう。
因みに、ウツギはHGSSとか金銀で出たあの博士である。俺と同時期に博士の助手を始めていて、最近はその才能を発揮し始めているところだ。
このまま進化に関する研究を進め、「ピチュー」とかの発見に至るのだろう……うん、頑張って欲しいな。主に俺の休みのために!
「なら俺も、さっさと自分の分の仕事を頑張りますかー!」
「うむ。ワシも、お主にも頼まれているポケモンの個体差についてのデータを纏めるとするかの」
「あー、すいません。俺の個人的頼みに時間を割いてしまって」
俺が博士に頼んだのはポケモンの「ステータス」を数値化できないかということ。
現在の図鑑は開発の甲斐あって、データを採ったポケモンのレベルに関してはほぼ誤差なく見れるようになった。しかしまだゲームの様にはいかず……俺達はステータスが見れない状態なのだ。
ステータスがなくては廃人もできん! 廃人しないかもしれないが!
ということで(どういうことだよ)博士には、他のポケモンとの運動データの数値比較から「HP」「攻撃」「防御」「特攻」「特防」「すばやさ」の6つの項目を抽出し、因子別に数値化する……といった研究をして貰っている。
こればっかりは色々なポケモンのデータが蓄積してからでなくてはできなかったため、最近お願いしてみた次第なのである。
「いや、構わんよ。同じようなことを協会からも頼まれていた所じゃからの」
「あ、そうなんですか」
「そうじゃ。現在開発中のぽけぎあ、とかいうトレーナー用の携帯ツールに搭載したいらしい」
「まぁ実際、ステータスが分かると育成もバトルも楽ですからね。トレーナーにはありがたいでしょう」
それにしてもポケギア、この時代から開発してたんだな。
と、未来のトレーナー像を夢想していた俺に衝撃の事実が……
「まぁ協会を通して依頼したのはシルフにいるお主の幼馴染なんじゃがな!」
「……あいつは有能ですからねー」
ミィかよ! と突っ込まなかった俺は偉いと思うんだが。
……それにしてもあいつ、本気で稼ぐ気だな。その内凄い地位を手に入れそうな気がするな……ジョ○ス的な感じで。多分まだ、死なないけどさ。
「はっは! お主も10才を過ぎたら旅に出るのじゃろう? それまでは頑張ってくれ。人材を探してくるのも、中々に難しい問題じゃからの」
「……まぁ、10才になってすぐには行きませんけどね。研究がキリ良くなったら、旅に出ようと思います」
いつか図鑑の判別に関する機能が完成して、レッドもリーフもグリーンも旅に出るだろう。
その頃になったら俺も旅に出る予定だ……具体的には、1996年な。
ついでに言うと、そのころの俺は12才である。
「そうか……すまんの。よろしく頼む」
「勿論です。これは俺の研究でもありますからね」
ポケモン世界を楽しむからには、バトルを上手くこなせなくてはいけない。この図鑑完成はその第1歩なのだ。
……というか、俺の転生目的は「ポケモン世界を楽しむこと」、次点で「ゲームの通りに旅をしながら伝説ポケモンを捕獲して因子を回収すること」だからな。
まずは原作ゲームの様にできる環境を創らなくては。
……実はここに来て初めての目的発表だけどな!!
以上、後始末と説明回になりました。
図鑑についてですが、
1.全種の外観データのみ図鑑に登録。これによってポケモン種を判別可能に。
2.旅してもらって捕獲
3.ポケモン預かりシステムを通じて、預かり施設に。そこで研究班が詳しい生態データなどを採る
4.採った生態データを大本のPCに転送し、ゲームの様に図鑑から見ることができる
という流れになっております。この第1段階である外観データ採取のために主人公達は現在頑張っていた訳です。
ついでに、
1.をもって「図鑑の開発の完成」、
2.の全種捕獲をもって「図鑑の完成」
と呼称するとかなんとか。無駄設定です。
どうせ時代の移り変わりでポケモン増えますし、完成とか言うのもおこがましいですからね。