1992年、7月10日。
俺達はギアナから無事、ヒウンシティへ戻ってきていた。
いやー、長旅だったな……。疲れたし。でもまぁ、成功したのでいいだろう!
「では、フジ博士。こいつ……『ミュウ』の登録についてはお願いしますね」
「わかった。捕獲者はショウ君でね。私達は本国から追ってきていることになっているから、許可自体はすぐに降りると思うよ」
そう。この時代、外国で捕まえたポケモンは気軽に他国へ持ち出しできないのだ。しかしそこは事前から「追ってきていた」ことにして、連れ帰る許可を貰っている。
実際、嘘ではないしな。
ちなみに、現在こいつの名前を(鳴声まんまの満場一致で)『ミュウ』として、遺伝子サンプルとして睫毛を貰ったところだ。これでフジ博士の依頼は達成である。
こうなれば俺達は帰るだけのはず。
……長かったぁ!!
と、考えていると。
廊下の向こうからとある執事が歩いて来ていた。
手を挙げる。挙げ返される。
「やぁ、ショウ。調査はどうだった?」
「成功、成功。コクラン達のおかげだな」
「そうか。それはなによりだね」
にかりと執事節に笑ってくれる。
……んで、コクランはどうしてここに?
「ショウへの伝言を預かっていてね……疲れている所悪いが、ライモンシティまで来て欲しいんだ」
「あー……了承だ。どうせ登録云々の許可が下りるまで、数日間はこの国にいなきゃいけないんでな」
「ありがとう。少し時間がかかるが、『御家』の車を借りてきたからね。午後には着くと思う」
「んじゃ、ちょっと待ってて。研究班に言ってから来るから」
どうせ大切な部分は船上で終わらせているから、提出だけを他の班員に代理で出してもらえば良いだろう。
そう決めた俺は書類を班員に任せ、一路ライモンシティへと向かうのだった。
Θ―― ライモンシティ
「うおー、規模がでっか! やたらとビッグ!」
「そうだね。イッシュ地方の内では、都会なほうだ」
たどり着いたライモンシティは、なんかピカピカしていた。
観覧車とか、サブウェイとか、スタジアムとかがかなり目立っていて……これも町の特徴だから良いのだろうが、何となく落ち着かない雰囲気だ。
フキヨセへ行く際とヒウンへ帰る際に通り抜けてはいたのだが、こうして町の中心を歩くとまた違って見えるものだなぁ……。
「で、目的地はどこなんだ?」
「『御家』の持っている別宅があるんだ……ここだね」
コクランが『ここ』といったのは、そこそこ普通の外見をした家だった。
正直言うと、もっと「金持ち!」って感じの家が来るかと思ったんだが。
「コクラン、ただいま戻りました」
そしてコクランが門の前にあるインターフォン(多分)にそう告げると、メイドさんがワサワサ出てきて俺は応接室に連れられていくことになった……。
ワサワサという擬音語が適切かどうかは知らないけどな。
さて、応接室に通されたが、広過ぎず狭過ぎずの丁度いいスペースであると思う。
……家の中の廊下とかはしっかりカーペット敷きで、途中途中に高そうな絵がかけてあるのは予想通りだったけどな!! 金持ち!
まぁそんな感じで呼び出された伝言の「主」を待つ。と、
《コンコン》
「はい。既にお客様はいらっしゃっております」
《……ガチャ》
ドアを開けて入ってきたのは俺と大体同年代だが、既にそこそこ長いウェーブの髪の毛をした少女。
「お待たせしていて、申し訳ありません……」
見たことのある容貌。どちらかというとBWよりも、Ptで見た外見により近い。
楚々とした佇まいは、彼女の『御家』における立場を示しているようにも感じるな。
さて。長々と紹介はしたが。要は、お相手とは。コクランの主たる少女 ―― カトレアだったのだ。
……まぁ、だいたい分かってたけどもな!
「どうも初めまして。お招きいただきました、ショウといいます」
「アタクシはカトレアです……。そこのコクランの主ですね」
「この度は私達の研究における食料調達の仲介をしていただき、ありがとうござい……」
以下略。こういうやり取りは苦手なので以下略!
置いといて。
伝言について聞かなければいけないだろう。
「それで、私をここに呼んだ理由……伝言があると聞いているのですが」
「……まず、アタクシがこれから話すことを信じてくれる?」
おぉ……なんか前提とか心構えが必要な伝言なのか。
「えーと……失礼とは思いますが、聞く前から一概に『信じることができる』とはいえません。ですが、私はあなたのことを信じたいとは思っています。恩もありますからね。なので、『信じる努力はします』。あとは聞いてみてからでないと分からないかと」
一息で話した。
これが相手が上司だとか日本的なビジネスだとかならまた接し方は変わるが、この場面はこれで良いと……思う。多分。
相手はリアルエスパー少女(2号)だしな。ここは正直に接することを大切にしたい。
……いや、エスパーお嬢様か? どうでも良いけど。
「まぁ少なくとも、聞いていきなり『信じない!』とかは無いですんで、まずはお話を伺いたいです」
「……アナタは正直な方。まぁ、アタクシとしても半信半疑なので……」
カトレアはそういって目を閉じ、指を搦めて手を組んだ。
「……アナタの未来が。見えません。他の誰しもに見えている、未来が。……どういうこと、でしょう」
……うーん。心当たりは凄いある。
俺はどちらかというと「変える」ための立場だ。
エスパーの人に「
その行く末は、見えなくてもおかしくはないのである。
「一応言っておきますが、歩く路は見えなくもないです。……ただ、その先が……」
「心当たりはありそうだね、ショウ?」
「あぁー、一応な。あるぞー」
言えるような。言えないような。
……「目指す所」についてであればいう事は出来るか。うし。そうしよう。
とか考えていたが……そういえば。
「口調とかは丁寧にしたほうが良いか?」
「別に、口調はそのままで構いませんし、アタクシも呼び捨てで構いません。アナタはアタクシに仕えているわけでもなく、年齢も変わりません」
「そんじゃー、お言葉に甘えて。……ともかく、俺の未来が見えないから心配してくれてるってことな。あんがと」
「はい。一瞬、アタクシがおかしくなったのかとも思いましたが」
エスパー能力が、ということだろう。
それはないな。というか多分、俺みたいに「未来が見えづらい」人は結構いると思うんだよ。
実際、ナツメ自身も俺の事を「見えない人」と呼んでいた。だから懐かれたっていう経緯もあるし。
だから、説明する。
見えづらい人ってのは、可能性が多すぎる人。もしくは「見える外」に行く可能性のある人。
そうだってナツメも言っていた……と、言うと。
「……そうなのですか。……」
カトレアがうつむきながら、考え込む。
納得がいかない……って表情でもないな。
どちらかというと。……うっわまずい、これ、悪戯を考えて……!?
「……アナタの、ポケモンバトルを教えてくださいませんか」
「……いや、なぜ?」
「コクランから、アナタは8才なのに強いトレーナーでもあり、またエスパー戦に長けているとお聞きしたので……」
ここ、フラグだったかぁー!!
確かに。カトレアは原作において、ポケモンバトルで感情を制御できないことがエスパー力の暴走に繋がる……っていう流れだった。
それでバトルキャッスルではコクランがブレーンを担当してるんだよな。
「あー……確かに俺はトレーナーっぽいが、カトレアと年は大して変わらんぞ? 10才じゃないと免許は取れないから、非正規トレーナーだし。だから公式試合とかには出れなくて」
「……構いません。それは未来に。今は、座学にてご享受いただきたいので」
ああいえばこういう!
このやり取りの頑なさよ。おそらく、このお嬢様は折れないだろーな。性格的に。
ならば。
「んー……分かった。引き受けよう。ただし俺の私見も入るうえ、対エスパーに至ってはただの感想っぽくなるぞ?」
「はい、よろしくお願いします……」
ここで少しでも感情の制御を教えておければ、最悪の事態は回避できるだろう……などとせめて前向きに考えることにする。
ほんと、前向きに捉えればこうだよな、うん。前向き前向き。
「……あの」
おっと、思考が飛んでたな。
できるだけヒウンを離れないほうが良いから、早めに始めようか。
「じゃあ、ちょっとだけ教える。……さて、まずは俺のポケモンに触れてみるか」
触れたこともない、のだそうだ。始めるならば、ここからだろう。
つーか、どうなってるんだ『御家』の情操教育。籠の鳥過ぎんかね!
ΘΘΘΘΘ
カトレアに妙に懐かれた気のする講義を終え、俺はヒウンへと戻っていた。
実を言うと、「未来が見えない」という点については、ここイッシュ地方に所以する理由も思い当たっていたりする。
「……ポケシフター、2010年完成予定。なんだよなー」
そう。理外の施設、ポケシフター。
ゲームではDPPt・HGSSからのポケモンを送るのに使用されていた施設だったんだが、この世界では『別世界でのポケモンをこちらに送る施設』になるらしかった。
……確かに、施設の機能それ自体は俺の冒険にとって大きな力になってくれるに違いない。だが、その年まで20年近くあるのが問題だ。しかも外国である。
「気長に待て、ってことか?」
というか、手持ちに愛着が沸いているのであんまり貰う気も無いんだけどな。今のところ。
20年近く先。その頃には普通の彼女くらいは出来ているといいなぁ。できないと、どうしても、ミィが傍に居ることになるし。
「……まー、良いか。未来の俺、ファイトだー」
無職とかでなくて。彼女が出来てて。それなりに世間様には顔向けできる立ち位置で。
それくらいあればいいなー、とかとか。考えながら。
次の仕事へ向けて、頭を切り替えてゆくのだった。
20220908/神様関係の所を今風に修正。
流れは全く変わっておりませんが。