■13.
お手伝い3つ目!
プラズマ団残党さんの再調査……というか、情報収集です!!
あたし達 in 研究室。
周囲に積まれたる謎の機械やらが、ぴこぴこと七色の光りを放っております。アクロマさん曰く「ゲーミング座椅子」とか。座椅子じゃねぇですか。やけに電気代をくうだけの、座椅子じゃねえですか。
本当に座椅子なのかは
つまりは問題に挙げられているゲーチスさん、およびダークトリニティさんの後を追うためにお力を借りさせて頂くのですね。
これは南側の海上に陣取った「プラズマフリゲート」内で今はこき使われている、アクロマさん派閥の皆さんに直接お伺いしています。昨年の都市氷結事件を経て、アクロマさんという有名な(変わった)研究者の下働きとなる事で市民権を得たプラズマ団の方々。未だリーグ占拠事件の余波は世間に根強く残っていますが……それらカルマを背負った上で活動をというのですから、暖かく見守ってくださる人々も数多くいるとの事です。この間の女神ハウスなども、それら生暖かさの一例なのでしょうね。
どちらかというとショウさんも、暖かく見守る派閥なご様子。
「基本的には首魁に罪被ってもらったとはいえ、ここに居る人らは法的な罰は終えてから来てるからな。何より研究には人手が必要なんで、手伝ってくれる分にはむしろ助かるってくらいだぞ?」
「ああー。アクロマさんは何というか、アクティブでありながら忙しそうな人ですものね」
「そーそ。……いや、アクロマさんの名前はほんと大きいぞマジのガチで」
「そうお聞きしましたね、はい。ショウさんからも。あのオーキド博士と並ぶくらいの知名度だそうで」
「おう。むしろ研究の最先端にいるって意味で、今はそれ以上かもしれないけどなー」
オーキド博士はカントー地方におけるポケモン研究の第一人者。あたしが初等部で習った教科書に名前が載っているくらいの人物です(尚ご存命)。
まぁ、このお仕事はショウさんが殆どを片付けてくれています。ダークトリニティさんの身体能力に関するデータや、彼らが出陣した際の活動記録の受け渡し。あたしは傍にいるだけですね、殆ど。
そんな感じであたしはだらだらと過ごしている……のですが。
ショウさんが副長方からデータを受け取っている、その後方。団員さん達が小さく頭を下げて行き交う、通路の片隅にて。
「……ところでヒュウさんはここで何をなさっているのでしょうか?」
「残党の動向調査みたいなもんだ。俺も来年からはエリトレとして活動しなきゃならねえからな」
名前通りに帆船(ただし空を飛べる)のプラズマフリゲート艦内だというのに、隣に、ヒュウさんが居るのでした。
ヒュウさんはいわゆる、近所の幼なじみという間柄。エリートトレーナーの資格を持っておりまして、来年からは公務に就く事が決定しております(倍率凄い高いんです。おめでとうございます!)。
あたしはどちらかというとその妹さんとの交流の方が多かったのですけれども、彼とは昨年の冒険を経て、幾度となく協同したりぶつかったりを繰り返してきました。おかげでポケモンバトルは上達しましたので、今となっては良い思い出だったりします。公的なリーグなどには参加しないのですが、強いですからねぇヒュウさんも。
ただ。今そのヒュウさんは腕を組んだまま……ずっと、どこかしらむっつりした顔をしていますけれども。
「……。……あのう、
「なんでだよ。怒ってねぇよ」
「でも、何かしらの思う所はあるんですよね? 何でしょう」
「―― 本来はオレが口挟む問題ではないんだけどよ。あのショウって人は、本当に信用できんのか?」
ふむん。信用とはまた、けったいなご文句。
……バトルの腕で言うなれば、ライモンシティにて。
「少なくとも、ここの地方のスーパーシングルトレインは突破していましたよ」
「……ある程度実力の証明にはなるな。けど、あそこはイッシュ地方のポケモンがメインだからな……」
ヒュウさんの言う通り。ここ最近で、ポケモンバトルというのは急速に「競技化」と「遠隔化」が進みました。
元々ヴァーチャルさんな某と相性の良いポケモンです。遠隔地にいながらにして、気軽にポケモンバトルをすることが出来るようになったというのがひとつ。それに伴い、各地で様々なバトルリーグが発足したというのも活性化のひとつの理由として挙げられますね。
「だな。……けど悪いが、レートバトルリーグでも、それに準じた実力の証明になるっていうバトルフロンティアのシンボルゲッターにも、ショウっていう名前は見覚えがなかった」
「ヒュウさんはまめにチェックしていましたものね、そう言えば」
バトルフロンティアとは第1回がホウエン地方、第2回がシンオウ地方とジョウト地方で開催されたハイレベルなポケモンバトル興行施設。ちなみに移動型です。
それぞれが数ヶ月だけの期間限定で催されたのですが、実は協会肝いりのバトル施設だった事もありまして。その施設制覇の「シンボル」は、ポケモントレーナーとしての実力証明にもなったりしているのです。
あたしも参加してみたかったのですけれどね。トレーナーとして旅だったのが去年だったもので、情報収集だけしていたり。次の開催が待たれるところ!
そんなバトルフロンティアですが、それだけにシンボルを獲得した人はバトル界隈では有名になっていたりします。実のところ突破率が果てしなく低かったそうなのです。特にフロンティアブレーンと呼ばれる施設管理者を2週目まで突破してみせると手に入れられる「ゴールドシンボル」は、ひとつ手に入れるだけでも四天王位と同等の価値があるとかないとか。
「ブレーンの皆さんは、誰も彼もが今では有名トレーナー。むしろどう実力を隠していたのか、っていうレベルでしたね。……最終的なゴールドシンボル取得人数は二桁なかばでしたっけ? 挑戦者との比率が凄まじくなっていた記憶がありますよ、あたし」
「だったな。全制覇してみせたカントーの旧チャンピオン
「ほえー。そのゴールドのしんぼるげったー……の皆さんは、今は何をなさっているのでしょ」
「オレが調べた限りじゃ、どいつも現役でワールドプロリーグやら四天王で活躍してる。例外はその旧チャンピオンと、今カナワタウンで私設ジムを開設してる人だけだな」
ヒュウさんがそのまま、ふんふんと鼻息を鳴らしながら話します。
いえ別にこれ、警戒しているとか敵意を燃やしているとかじゃあ無いのですよね。ヒュウさんの場合は。
(……妹さんのチョロネコの敵討ち、に徹している時間が長過ぎたのでしょうね)
プラズマ団残党との争いは1年前。未だにそれしか時間が過ぎていないのです。あの頃のヒュウさんはなにかにつけて
かくいうあたしも、誰かと「争う」事に忌避感を覚えなくなったのは、おそらく昨年の ―― ポケモンバトル漬けの旅が、あったからなのかなぁと。それ以上の……ポケモン達と共に競う「楽しさ」を心底持って感じられたからこそ、全トレーナーの小数点以下%割合。チャンピオンという位にまで手が届いたと言っても、間違いではないのでしょうから。
「―― まぁ、他人より知人か。ところでバトルの調子はどうなんだよ、メイ」
「あぁ……何というか、ショウさんには力及ばず。負け越してますね、あたし。ただそれは別地方のポケモンとバトルするのを主軸に置いているからであって力不足という訳ではなさそうですし! ですし!! ……そもそもきちんと学べてはいますので。そこは心配ご無用ですよ!」
「負けず嫌いは変わらねえのな。……しかし、へぇ? お前でも負けるんだな」
「いやいやいや。そもそも、あたしって結構負けてませんか?」
ヒュウさんがやたらびっくりしてみせますものの……あたしも反論させて頂きます。
それこそプラズマ団に負けた事もありますし、確か道中でも一度、一般のトレーナーさんに負けたこともあったはず。
「プラズマ団に負けた時は、それこそプラズマフリゲートだったな。でもあれは、メイが回復アイテム買い忘れた上に頑なに休憩挟まなかったからだろ」
「いやぁ…… Time is money というか。それこそ船を急いで追うべき場面だと判断しましたからね。その節はご迷惑をおかけしました」
「まぁそういう奴だものな、お前は。あとは、一般トレーナーに負けたって言うと……ああ、あのチャンピオンロード遠回りした時に勝負を挑んできた、歪んだ女エリートトレーナーか。よく覚えてるな?」
「はい。負けた試合は忘れませんよ、あたし」
エリートトレーナーのあちらさんは、プラズマ団では無かったようですけれどね。ヒカリさんだかヒカルさんだか……どうでしたっけ。なんというか、勝ちへの執念が凄まじい方でした。それ以外に愛情を示す方法を知らない、って……踏み出し方を間違えなければ、末恐ろしいトレーナーになり得るお方とも思えます。
そうして、むむぅと考え込むあたしの斜め後ろ。……ところでヒュウさんは、なにゆえそんなお顔をして身を引いていらっしゃるのでしょう?
「いや。さっきの『忘れませんよ』にやたら強い執念を感じた。……まぁ、いいけどよ。言われれば思い出せるが、メイはリーグのポイント戦に参加してからは、結構負けてたんだなそういえば」
「はい。それも含めて、覚えています。流石に同レベル帯の人やポケモン達と勝負して、負けないはずはないですからね」
「そりゃあ、そうか。……俺にとっちゃ、あの旅でのメイの印象が強すぎんだろうな」
言って、ヒュウさんはツンツン髪をかき上げ溜息1つ。
自分の考えとかは忘れる事も多いですが、状況を俯瞰した様子、対面、技の手順。相手の思考、自分の選択肢。それらは基本的にはトレーナーツールのメモ帳に書き出しています。印象深い敗北であれば、メモを見るまでもありませんね。
有効打。トレーナーとしての技術。癖。それら、できる限りは自分で記憶してしまいます。だって、その方が……。
「―― そういう所、拘るよな。メイは」
「そうですか?」
あたしとしては当然……というか。「そうしたいからそうしている」の最たる物なんですけれどね、知識の取り込みって。それこそチャンピオンとして活動をするからには、負けたくは無いですもの。
ヒュウさんはいつもの怒り顔を崩し、呆れたように。
「それこそ、ここ数年の出来事だ。……バトルがワールドワイドになるに伴って、急速に……ポケモンバトルっていう場所で日の目を浴びるポケモンの種類は増えた。新しいポケモンに、新しい技、新しいタイプまで。データが膨大過ぎて、追いつけないんだよ普通は」
「ですね。同時に「情報の価値」というのも上がり、需要が出てきました。王者カントー地方を中心としてまとめられたデータの数々は『トレーナーツール』にアップロードされてますから、ポケモントレーナー必携!……みたいになってますね」
「ポケモンの能力を数字で調べられる時代だからな。でも、メイ達は自分でぶつかって、調べて、取り込もうとする。……メイのそういうストイックな、真っ直ぐなところがバトルには活かされてるんだろうなって思うよ」
うーん。それも含めてバトルが好きなので、あたしとしては何とも。単純に、調べる時間が無ければその分すばやく指示を出せますからね。身をもって識れば、脊髄反射の(ような)速度で、打てば返る指示を飛ばすことも出来ます。経路は短くて損はないですよ、ポケモンバトルって。
「……それも才能、って奴なのか。こうしてポケモンに関わる職についてみて、本当にそう思う」
「はぁ。でも、誰でも出来ることですよ?」
「出た出た。ナチュラルボーンプレデター、メイ様だ」
「はぁぁん? いやプレデターは言い過ぎじゃないですかね!?」
「お前の怒りの琴線がわからん」
などと、多少の小突き合いを含むやり取りを少々こなしていると。しばらくして、遠くに姿が見えました。ショウさんです。副長さんとのやり取りを終えて、此方へ帰ってきたのでしょう。同時に、ヒュウさんが「じゃあな」と小さく手を挙げて離れて行きます。
ショウさんは、紙資料を抱えたコジョンドの隣で、その背を見送り。
「……ほーん」
「コジョ。ジョッ、ジョジョッ?」
「お? おう。向こうの集積場までは頼む。……気を使わせた気がするんだけどなー。良かったのか、メイ?」
「えぇ、ただの近況報告ですから。あたしとしてはショウさんと居る方が、大事ですよ」
そろそろお昼休憩です。ポケモン達のコンディションを一緒に見て貰いたいですし、バトルログによる模擬戦解説もお願いしたいのです。
貴重なショウさんのお時間を無駄にはしたくないですからね! はい!