ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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□12.ヒウンシティにて ― introduction

 

 

 □12.

 

 

 

 さては2番目。

 その次に手を付けたお仕事は、デルパワーを利用したハイリンクエネルギーの循環路の発掘。

 こちらはどちらかというと、ショウさん個人のお仕事に由来するものみたいです。あたしもショウさんとスパーリングを行う傍ら、ちょっとだけお手伝いしてみたり。

 このお仕事(?)はどうやら不思議エネルギーを副次的に都市や興行に利用できないか、という試みのようでした。ショウさんが持っている電動ランニングシューズが、そのエネルギーを変換できる機構を備えているらしく。なんと走ってハイリンクを囲む都市をぐるりと1周、所要1週間。ええ。とてもエクスプレスな日程でした……。

 あたしも体力トレーニングは欠かしていませんが、それにしてもイッシュを一周は……違います。シャレではありませんってば!?

 

 つきましては、雲すら望む摩天楼。

 最後に立ち寄ったヒウンシティで、あたしがチャンピオンとして個人事務所を構えるビル……その屋上にてふたり。

 

 

「―― ところで、デルダマって結局なんなんですか? ハイリンクに由来するエネルギーで、多様なものに変換できるというのは流石に知っていますが……」

 

「ノジャ?」

 

 

 模擬戦を交えた後。汗をタオルでぬぐうあたしから、ヘリポートから離れた位置でガラガラと一緒に屋上縁のプランターを眺めていたショウさんへの質問です。

 ただいまストレッチ中。ジャローダがあたしの背もたれになってくれたので、スパッツ姿で前屈。ぐいぐいと後ろから押してもらい、なんとかつま先を掴みつつ、ショウさんを見上げます。どうやらなにやら、ジャローダはショウさんには畏敬というか、そんな感じの念を飛ばしている事が多いように感じるのですが。

 

 

「ん? あー、デルダマとデルパワーなぁ。土着の不思議パワーについてはマコモさんがほんと詳しいんで、殆ど受け売りなんだが……求められたんなら説明するか。の、前に。ガラガラー」

 

「ガァララ? ガァラ」

 

「おう。メイの午前分の練習はこれで終わりだな。どうする、ボール戻るか?」

 

「ガラァ」

 

「おっと、まだホネの見繕いか。作業の途中で手伝って貰って悪かったな。さんきゅー!」

 

「ガァラ!」ノッソ

 

「ンミュー?」「ピジョーッ!」「ンガァ」「チーィ!」

「ッサム」「どぶるぅ」「きゅぅん」「ジュホーゥ」「んべろぉ」

 

 

 おそらくは「いいってことよ」あたりでしょうか。そんな風に信頼の感じられるやり取りを交わして、ショウさんが私の側へ。ガラガラはショウさんがボールから出したままのポケモン達の所……緑化スペースの側へとのっそり歩いてゆきました。

 少し意識して、上目遣いに見やり。首をちょいとかしげ。

 

 

「あのガラガラとショウさんは、付き合いも長いのでしょうか? なんとなーく、そんな印象を受けるのですけれど」

 

「だいぶになるなー。それこそカントー地方だよ、ゲットしたのは」

 

 

 成る程。生地からのお付き合いでしたか。しかしまぁショウさんはトレーナー歴も長く、ポケモン達も多数育成していらっしゃるので、さもありなん。

 

 

「さて、説明に戻るけど。……デルパワーか。これは数ある不思議パワーの中でも、2番目くらいに解説に困ったもんでな。いやさ、解説に困らないなら不思議パワーとか呼ばんのだけれど」

 

 

 ポケモンバトル用のバトルフィールドにもなっているヘリポート中央当たりまで歩いてきて、ショウさんは言います。1番目はO(オー)パワーなんだが、と前置きを挟んでおいて。

 

 

「解析不能なりに、『別位相との擦れ合いで発生した余剰エネルギーがパッケージングされたもの』って仮想される事が多いな。学会とかだと頭文字で略されてる」

 

「いいえ! よく判りませんけど!?」

 

 

 思わず反射的にそう言い放ってしまいます私。不遜だ不遜!

 ですが仕方ないと思うのです。全然簡単ではないですよ、それって!?

 

 

「……じゃあもっと端的に、誤解を覚悟でいうならだけど。『別の世界から移動した時に出るエネルギー』みたいな感じなら伝わるか?」

 

「うーん、ニュアンスなら」

 

 

 正確ではなくともイメージは掴めます、その表現ならば。

 別の世界、と言われてしまえば物々しさはありますけれども。ここイッシュ地方において「壁を隔てた異世界」というのは、比較的身近な単語でもあります。

 

 

「だろうな。イッシュ地方は特に、異世界とまでは言わないけど、ハイリンクがあるからなぁ。そもそもからして、こういうのが生成されやすい土壌になってしまってるんだそうで」

 

「ふむふむ」

 

「ポケモン固有のエネルギーやら、こういったランニングシューズとかの普段使い出来るエネルギー開発の場としては最適なんだなこれが」

 

 

 言って、ショウさんは自分の靴を指さします。

 滑泥コートの輝く白地。おみ足を覆いましたるは、白を基調としたカラーリングの電動補助ランニングシューズ。

 

 

「ほえぇ。それって土地のエネルギーで動いているんですか?」

 

「還元率が悪くて少しだけだけど、一応は。そもそも俺の靴は特殊なんだけどなー。ほぼ一品物になってるし」

 

 言いながら、ショウさんは掌で顔を仰ぎます。

 曇天だとはいえ、蒸し暑くなってきました真昼のイッシュ。そろそろ、雨の降り出す気配もありそうです。いえ。連日振ってるんですけどね、雨。

 

 

「だな。室内戻って昼飯にしますかね。……おーい、我がポケモンたち! 昼飯いくぞー」

 

 

 ショウさんの号令に反応して、沢山のポケモン達が駆けてきます。そのまま連れて、室内へ。

 ……にしても。

 

 

「研究に見境がありませんね、ショウさんって」

 

「ジャロぅ」

 

 

 ジャローダの頼もしい相づち。お礼に王冠周りをぐしぐし。

 研究、とひと括りにしていいのかは判りませんけれども。今のショウさんはそれ程には忙しく……いえ。あたしのトレーニングに巻き込まれているのでそう見えるかも知れませんがごめんなさいごめんなさい。

 とにかく。忙しい、という程ではないように思えます。それこそあたしに付き合ってくださっている程度には(自虐)。あの嵐の夜のライモンシティでも、突然のお誘いにも関わらずトレイン連戦にお付き合い下さいましたし。

 

 

「昔はお忙しかったのでしょうか……?」

 

 

 と、考えてしまいます。大変に失礼なのですけれどね。

 何というか。「生き急いでいる」感はあまりない様子なので、あたしとしては今のショウさんはとても良いと思います。はい。

 そのままひとりとジャローダ1体。身体のアイドリングを終える意味合いを含めて、暫しヒウンの街並みを眺めます。

 

 

「……ふう」

 

 

 手摺りに腕をかけ。

 ヒウンシティの乱立したビルとビルの合間を、お仕事を終えた方々が多数行き交い。ポケモンはおおよそモンスターボールの中。ネオンと街灯によって照らされた街並みは昼と変わらずか、それ以上にまばゆく。裏通りの暗さをもかき消して、雲までもが輝き出します。

 

 

「5勝5敗。ポケモン選出は地方毎のバイアスかけつつランダム。ジャローダの使用戦型は2つ、作戦の仕様バレは7回。積み突破1、完勝0の完敗1……」

 

 

 目を瞑り、今日のバトル練習を少しばかり反芻(ふりかえり)

 相性有利不利のサイクル。4倍弱点による役割破壊。先手後手の回しかた、トリックルーム保有の有無。ジャローダによる積みと麻痺まきの仕込み型。……をちらつかせておいてからの、特性による「リーフストーム」の有用性。

 濃い……濃過ぎませんか! 1日で振り替えれる量じゃないですねこれ!!

 とはいえそれこそ、座学用に網羅された()技リストやショウさんが保有していない要注意のポケモンなんかも資料を頂いていますし……ええ。ポケモン達にも疲れはありますので、あまり無理を強いるのもいけません。今日はこれくらいに切り上げて、座学フェイズと参りましょう。

 あたしはくるりと向きを変え、出口入り口の側へと足を動かします。

 

 

『―― 行こう(・・・)! ―― !!』

 

 

 直近、間もなく開催されましたるは ―― WCS。

 その宣伝を兼ねているのでしょう。昔の、とても人気のあったチャンピオンのバトルシーンが使用された街頭広告が、あたしの足元……摩天楼のスクリーンを流れて行きました。それも、この映像は確か最も有名な……初代WCSで優勝を決めたときのものでしたかね。あたしが最も見た、見返した……原点にして頂点とも言える、トレーナーさん。

 曇天。蒸し暑さ。ご機嫌くさぶえ(眠らない)ジャローダ。草ポケモン的には宜しいのでございましょうけれども。

 ……まぁ、ここで考えていても仕方の無い事ですね。今はトレーニングに注力しなくては。

 さてはあたし達も、昼食にしておきましょう!

 





 おおよそ日常回。字数ぶつ切りにつきご容赦。

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