ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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■11.15番道路 ― abstract

 ■11.

 

 

 かくして。ショウさんの研究のお手伝い(あたし)、兼、国際警察のお仕事(両名)、兼、あたしのコーチングマネージャーを務めて下さる(ショウさん)……という今までにないくらいに忙しい1ヶ月が始まりました。

 合間合間にショウさんのコーチングを受けながら、お仕事の手伝いもさせてもらいます。

 コーチングについては、ショウさんは最高の教師であると断言できましょう。座学もできて実践もドンとこいだとか、どこの完璧超人モンスターですかショウさんは。

 というか、流石に学者さんなだけあって、データだとか具体的な例だとかを挙げるのがお上手なのです。主に「強い」とされるポケモン達とその対策を、実例を添えながら教えてくれる現役トレーナーだなんて。そんなのは寡聞にして聞いたこともありません。いえ言い過ぎました。居るのかもしれませんが、少なくともあたしは出会った事がありませんでした。ショウさんに合うまでは。

 

「あたしがこれまでイッシュ地方でしか活動していないというのが大きいんだと思いますけどねー」

 

 チャンピオン位で勝率もまぁまぁとはいえ、在籍年数も少ないですあたしは。そもそもイッシュ地方のポケモンはとてもバラエティ豊富で、他と比べても固有の種が多いのだそうです。イッシュでの調査で「新たなポケモン」と認定された種族は、それこそカントーで最初に図鑑に登録された種族数と同様の、150匹にものぼるのだとか。これはまぁ、全世界でポケモン図鑑を作るぞっていう調査に踏み切ったタイミングが、イッシュは2番手に選ばれたからというのも大きいのですけれどね。カントーを有する国とここは仲が良いので。

 

 さて。不肖あたし、それらコーチングのついでにお仕事のお手伝いをさせてもらいます。何でも屋なだけはあって内容は多岐にわたり、イッシュ地方の様々な場所を巡ることと相成りました。

 

 記念すべき、お手伝いひとつめ。ゴーストポケモンの分布推移の洗い直しと、原因ポケモンの検索!

 こちらは先日談合が行われた国際警察の、あたしとショウさんがメイン担当となったお仕事。実際に直近の移動経路を辿り、探索区域を絞っていきます。

 どうやら野生ゴーストポケモン達がサザナミシティから西側へと移っているのは確かなようでして。14道路、ブラックシティ、15番道路……と。ライモンシティへ向かう道なりの道路を順に巡りました。

 その先。ライモンシティの手前、15番道路の崖際にて。

 

 

「……んー。どうやらあぶれてる(・・・・・)っぽいな、これ」

 

「はい? どういう事でしょう」

 

「幽霊ポケモン達の目的地は、こっちじゃあなさそうだって事。14番道路はサザナミと水路続きだし、滝とかがぐねぐねしてる湿度の高い場所だからゴーストポケモン達も多かったが……」

 

「ッサム」

 

 

 ショウさんがRoute 15の北側……高台から森を見下ろし、説明をくださいます。ハッサムが器用にハサミに挟んだ傘を伝い上から下へ、雨粒がしたたり落ちて。

 15番道路は断崖で構成され、吊り橋によって通路と成る上と、下の深い森のエリアに分かれています。そんな中……眼下に見渡せる森の様子は、常日頃の穏やかなもの。物音も擦れる木の葉や雨粒のもの。物見遊山なポケモン達の動向も見当たらず。

 ふーむ、確かに。

 

 

「なるほど……。ポケモン達の移動に伴う争いが起きているようには、あまり見えませんね?」

 

「だな。森のそこかしこで衝突が起こってるならまだしもだ。多分、許容範囲な程度の個体数しか移動してないんだと思う。ゴーストポケモンは場所を取らないんで縄張り争いにはあまり干渉しなかったりするけど、流石にあの数が動くとなると話は別だからなー。日照権の問題で森の中に集中すると思うし」

 

「ほうほう……。あ、ありがとうございます」

 

「ほいほい。あ、でもメイはミックスオレじゃなくてサイコソーダの方が好きだったりするか?」

 

「いえ。どちらも好きです!」

 

 

 ショウさんが差し出してくださった、手近な販売機から買った缶ジュースを受け取っておきまして、あたしはぐっと力説。(いつもおごりありがとうございます!!)

 ミックスオレの味には地域性が出ますからね。口元をさっぱりさせたい時には(未だに生産方法が明かされていない)サイコソーダが有能ですし。

 プルタブをかしゅん。……あ、このミックスオレはだいぶ前にジョウト地方の伝説ポケモン降臨を記念して造られた「虹色の空」味ですね。結構レア物です。見た目がアローラ地方のベトベターの体色にそっくりだと一部で話題になったのを覚えていますよあたし。因みに味はデリシャスなのでご安心を。

 ショウさんの方も、サイコソーダを飲みさして。ハッサムにもストローパックの『おいしいみず』を差し出し、傘を代わりに受け取って。イケ魂おふたり。

 

 

「ッサム」コクリ

 

「おう。飲んどけ飲んどけ。―― まぁ15番道路側はこれなら、ポケモンの動向は俺の研究員に任せて問題ないかね。次の捜査に移るか」

 

「ふぁ? あのう。ショウさん……の研究員さん、というのは何方でしょう。そもそも、どちらに所属しているんです??」

 

「あー、言い方が悪かったけど。俺が元々研究してたんだ。これ」

 

 

 そう言ってショウさんは、後ろ手の指し指をぐっと掲げ、建物を示します。

 あたしの後ろ。「シフトファクトリー」との看板に、やたら実務的な外観の建物。ここ、あたしは名前くらいしか存じ上げないのですが。

 

「確か、時間を超えてポケモン交換を出来る……という触れ込みの場所でしたか」

 

「その通り。因みに空間も超えられるぞ? 時間だけだとパラドックスとかも問題になるしな」

 

 自慢げにそう仰るものの……いや凄いじゃないですかね、それ!!

 

「おう。……仰る通り、機能(スペック)としては凄いんだけどな。流石はマコモさんとパーク博士の合作というべき代物だ。俺が幼年期の頃にはもう計画はあったけど、結局完成には最近までかかったな。出資も、色んな所からもらったよ。南国な気候の島の財団のご夫婦とかにまで、俺が直接掛け合ったりな」

 

「わおう。急に世知辛い話をお挟みになられますねぇ……」

 

「それが建設に年数かかった主な原因だしなぁ。ただまあ、このシステム、よくよく考えると交換する『相手側』の選定がもの凄く面倒でな? 色々とポケモン保護の法律にも触れるし。……そもそも個人で公的な許可を得て動かすとなると費用がお察しになる」

 

「あぁぁ……それは確かに、ですねぇ。というか相手側には、どういった風に接触するんでしょう」

 

「容量少なく、規格合わせてメールでやり取りするのが一般的だな。文章は送るのが楽だ。……だもんで、研究所が稼働してこの方、成功例はそのまま試行回数。未だ実例は1回だけって話だ」

 

「それもまた何というか、ご無体な話です。……十字斬り(なむなむ)

 

「ポケモン通信バトルリーグのレベル固定技術に比べると、『時空という境目を超える』って部分がかなりネックになったみたいだなー。まぁ今は副次的な所……具体的には時間空間の技術開発面であげた成果でもって資金は潤沢にやりくり出来てるんで、本元のポケシフター自体はもう稼働してなくても問題ないんだけどな。金銭的には」

 

 などと本末転倒な締めくくりをなさるショウさん。

 けれど成る程。どうやらそんな風に苦楽を共になさった研究員さん方に、後の15番道路の環境調査……という程でもないですね。まぁ、ゴーストポケモンの分布が異常に広がっていないかの観察をお願いするようでした。そのリスクは低い事を承知の上で、ですけれどね。

 

「んではこれにて。まとめて束ねて報告書、と。んじゃあブラックシティまで戻りますかね」

 

「そうしますかぁ。あ、ホワイトフォレストにゆけばワタリさんともバトルが出来ますか? あの方のポケモンはとっても強かったので!」

 

「ッサム」コクリ

 

「ハッサムもあの人強いのは知ってんな。イッシュに来た時、戦ったし。でも……あー……確かにそっちのがいいか。他地方のバラエティ豊かなポケモンを育てて、扱えてる強トレーナーってんならワラキアさんも居るけど……今は、ブラックシティだと潜伏してるであろう不協和音さんにちょっかいかけられる可能性高いからな」

 

「お強いですよねー、ワタリさん。ご家庭もあるそうなのですが……不思議と話してくださいませんでしたね」

 

「一緒にイッシュには来てるそうだけどな、奥さんとその息子(・・)も。ワタリさん自体は、ジョウト地方のキキョウシティご出身で、まだ開催数ひと桁だった時代のカントーポケモンリーグで準優勝してる実績があるんだよ。その腕を財団に見込まれて、『黒の摩天楼』のラスボスを引き受けてるそうだ」

 

「ワタリさんのご勇名は納得できますけど……財団?」

 

 

 なんとも不穏な響きです。いえ。言葉単語以上の意味は持たないのでしょうけれども……中二心をくすぐられるというか?

 

 

「近年、ポケモンバトルの開発を一気に進めた ―― その元凶なんだよなぁ。財団なにがし。勿論、邪な活動してるわけじゃないけどさ。それでもタブン、俺にとっちゃあ、元凶って呼ぶのが相応しいんだよ」

 

 

 ショウさんはそう言って再び、苦笑みたいな、アンニュイ笑顔を浮かべてみせます。

 

 

「んじゃ、先に行ってるよ。いくら夏だっても雨の日に出歩き過ぎて体調崩しかねん。さっさとホワイトフォレスト行って、ワタリさん達と合流しようぜ」

 

「ッサムゥ」

 

 

 すいっと踵を返して、ショウさんとハッサムは15番道路の東へ。ホワイトフォレストの在る方角へと歩いて行きました。

 ……くそう。暗い影ばっかりみせられたら、気になるじゃあないですか!

 

 

「何か、きっかけが必要なんでしょうかね……? とはいえ、あたし自身、あまりショウさんには詳しくないですし」

 

 

 後ろにあるシフトファクトリーを見上げ、空から落ちてくる雨粒が鳴らす傘の音を心地よくも不思議に聞いて。

 もしかしたら。専門性(エキスパート)なトレーナーの資格等々、上級トレーナーとしての権限も持っていたりするのでしょうかね、ショウさんは。今度聞いてみる事にしましょう。

 というか、研究内容云々についてはもしかしたら調べたら出てくるのかも……? ううん。課題が山積。とりあえずは目の前の試合に集中したいというのは、一貫して優先されるべき目標なので後回しになるのですけれどもね!!

 

 


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