ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ幕間 飛び立った後に

 

 

 1992年6月。

 少年が外国へと調査のために旅立った辺りにおける、別視点のお話。

 

 

 ―― Side ミィ

 

 

 空港にて少年を見送った少女(達の1人)であるミィは、シルフカンパニーの個人研究室にて黙々とパソコンに向かっていた。

 在住はタマムシシティの少年と同アパートなのだが、親がシルフカンパニーへ出向している研究者であるため、此方に入り浸っていても別段不便があるわけでもなかったりする。

 親の紹介で研究職として配属された彼女は「開発」を行う部門において結果を出した。少年がオーキド博士の班で結果を挙げる内に、主に「モンスターボール内でも使用できる道具」「転送機能を応用した鞄やトレーナーツール」「ポケモンの肉体データを生かした世界初の人工ポケモンの開発」といった末恐ろしい商品開発を進めたのである。

 ……いちおう、最後の研究に関しては彼女が率先して進めた訳ではなく。それを押し出そうとした組織(・・)に任せてはいられなかったという理由もあるのだが。

 現在の職位も上の方。というか人工ポケモンの開発とやらのせいで、ほとんど独立した部署になってしまったから昇進したという意味合いが大きい。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 格好はゴスロリ服(実は猫耳フード付き)にインバネスコートを羽織るというなんとも目立つうえ暑苦しい格好だが、そのくせ汗ひとつかいていない。こんな格好とその年齢にも関わらず部署の開発班には舐められておらず、むしろ尊敬すらされていた。会社における地位が高く、インパクトのある研究を任されている。それだけでも衆目を集めるのは間違いあるまい。

 

 

「(……まだ、調整が必要ね)」

 

 

 息をついた少女はグラフィックボードから顔を上げて距離をとり、休憩。束の間、少年のことを考える。

 ここ数年、少年とはかなりの頻度で連絡を取り合っている。とはいっても、住んでいる場所が違うために直接会うことがなかなか出来ないのも、また事実。

 

 

「(……ショウは、上手く。やれるのかしらね)」

 

 

 あの少年は、必要であるとはいえ外国にまで行ってしまった。

 そこで待ち受けているのは「ポケットモンスターという原作を大いに盛り上げた要素」を満たすために不可欠なイベントで……大変であることは言うまでも無い。

 こうは言ったが、うまくやらなければならない。必要性のある案件なのだ。

 

 

「(……いくら、知識は。最新のものがあるとはいっても。身体能力は普通の8才のものでしょうに)」

 

 

 肉体の能力については年相応。鍛えなければどうしようもない。しかもこれまでは飛び級や研究に対して時間を割いていたため、肉体能力に関する訓練の時間はあまり取ることが出来ていないのだ。

 また、ゲームとの認識の差を埋めるため、ポケモンバトルの訓練も欠かしてはいない。その成果こそ「ハンドサイン指示」や「指示の先だし」といったものに現れていると少女は思う。

 

 

「(……ここで、私が心配していても。詮無きことね。どうせナツメやエリカお嬢様が私の分まで心配してくれるでしょう)」

 

 

 自分がむやみに心配したとて、少年の安全を保障するわけでは無い。他の(見送りで凄く心配していた、複数形の)少女らに丸投げするとしよう。

 そう考えを切り替えた少女は、自分に出来ることを始めるために、またもパソコンに向かうことにする。

 

 

「(……それにしても、『この子』)」

 

 

 手元にスペックが浮かぶ。2000年での開発が予定されていたパソコンの中の「人工ポケモン」は、この少女が開発を受けもったおかげで開発の時期を早めていた。

 この開発を推し進めていた組織。具体的に言ってしまえば『ロケット団』だ。

 手が早い。早すぎる。おそらくは「人の手でポケモンを作り出す」という研究においては、彼ら彼女ら悪の組織が第一人者であるに違いない。まぁ、無理もない。「生命を作り出す」などというのは、色々と抵触する可能性があるのに違いないのだから。

 そして……そういえば、と「この世界」について思う。

 

 

「(……この世界は、やっぱり。『私達を取り込んで初めて正史となる』ように進んでいるようね)」

 

 

 少年がかつて話していたゲームの中の歴史において「こいつ」の開発される予定の年は……1995年。FRLGの舞台となる、その前年の事象である。

 これは予定よりもかなり早い時期だ。そしてそれは、「少女が開発を請け負う」ことで初めて達成されるように思えてならない。事実、今そうなっているのだし。

 もちろん発表年数やら開発開始やらといった政治的な諸々を含めてしまえば、一概には言えない。しかし「この少女が開発すること」自体が世界の予定に組み込まれ、開発時期が変わったという可能性は非常に高いものだ。

 とはいえ、仕方がない。だって自分たちは、そのためにここへ来ているのだから。

 

 

「(……一応、私がいなくても。何らかの理由があって急激に開発が進む、と言う可能性もあるのだけれど)」

 

 

 だが、少女はあまり偶然を当てにしないタイプであるようだった。

 少し考える。だとすれば ――「自分たちが存在しないとすれば」。穴を埋めるための土嚢のひとつは。

 

 

「(……まぁ、いいわ。それより、『この子』の名前。……上の奴等は『シージーポケモン』とか名付けたいらしいけれど……)」

 

 

 少女は思考を戻して、グラボの中でぱたぱたと動く人工ポケモン、その種族名について考える。

 先にあったように開発が早まり、……それを喜んだ会社の「上の奴等」が嬉々として命名権を争っていたりもするのだ。勿論、少女にとっては果てしなくどうでも良い争いである。

 「コンピューターグラフィックスポケモン」。なるほど、狙いは理解できる。人工のポケモンというインパクトをマイルドにするため、あえて物々しい……「人工物っぽい」名前を冠したいのだろう。

 悪くはない。悪くはないが……そもそもCGじゃあない。語弊がある。モンスターボールから外に出すにあたって、デボンコーポレーションなどからも助力を得て、色々と現実に存在する素材を使わせてもらっている。

 ならば変えてしまおうか。そう思う。先に付けてしまえば、まぁお小言は言われるだろうけれども、製作者の当然の権利として認められはするだろう。

 

 

「(……後で、登録変更をするのも。どうせ私の仕事になるのだろうし。それなら初めから『バーチャルポケモン』で良いでしょう。……何より、面倒)」

 

 

 少女はそのポケモン……本来ならばポケモン種が「CG」から「バーチャル」に変更されるのが未来の歴史にて確約されていた……の種を命名し、登録することを決める。種族名だとて、少年が属しているオーキド博士の側に強い力があったはずなので、そちらに手を回しておけばいさかいは少なくて済むだろう。手間は減らしておくべきである。

 

 

「(……きっと、『電脳戦士』とかになるよりは。大分マシでしょ)」

 

 

 そしてまた、仕事を再開するのであった。

 

 






・ポリゴン
 初期からポケモンの種族名が変更された経緯があります。
 CGポケモン→バーチャルポケモン。
 人工ポケモン、って改めて見るとものっそい出来事ですよねというお話。


・電脳戦士
 いい加減許してやっちゃあくれませんか、アニポケ様ぁ……。
 だってあれ悪いのポリゴンじゃあないじゃあありませんか。


・ポケットモンスターという原作を大いに盛り上げた要素
 初代ポケモンはゲーム性もさることながら、あるひとつの要素が大きく界隈を盛り上げていたと記憶しています。

 道具の七番目でセレクトボタンを~秒。
 アネ゛デパミ。
 勝負できるオーキド博士。

 そういう要素ですが、しかし、ポケモン屋敷やハナダの洞窟のフレーバーから読み取れる、ひとつだけ。
 公式から実装されていたのが印象深いのですよ。





 20220801改稿。
 削った部分はありません。ミィの口調はやや修正しました。

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