ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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■9.ホドモエシティにて ― 国際警察・座談会

 

 ■9.

 

 

 とまぁ、何とも意味深な感じでカトレアさん(およびアイリスさん)と別れたあたしではありますが。

 あの助言らしきものは、結局あたりのやりたい事をやって良いと背中を押してくれたわけですからね。あたしの得意分野です。チャンピオン位を得てからこの方、お母さんによくよく(お小言を)言われるくらいには、あたしはやりたい事を優先する性分でして。

 件のやりたい事 ―― 興味は今、勿論! ポケモンバトルに向けられているのですからねっ!!

 

 なんて、WCSに向けた一件はこれにてお片付け。あたしはこれからの2か月間の予定について少し考えた後、やりたい事リストの1番手を、早速行動に移すことにします。

 ……神速を貴びまして!

 

 

「―― ショウさんっ! あたしのバトル練習の専任指導者(コーチングマネージャー)を務めてくださいませんかぁっっっ!!!」

 

「ええぇ……」

 

 

 気合の一声と共に放たれます、イッシュ王者渾身のDOGEZA(伝統芸能)

 同時に腰のボール達がかたかたと揺れまして……あたしへの突っ込みとショウさんへのシンクロ土下座が半々ですね、これは。

 ずざざっ! という小気味よい(擦過)音にドン引きするショウさんを、あたしは上目使いに見上げまして!

 

 

「お暇な時間で構いません! 家事などはあたしも手伝います! それにお金は払います! お金はあるので!! (yen)は!!!」

 

「いやいや……確かに財産は俺よりメイのがあるだろうけどさ。しかも家事て。主夫でもないし自分でやるから」

 

 

 ぐいぐい押すあたしと、距離を適切に保ちながら後退りするショウさん。

 そして、その背後。

 

 

「ヒモですか。ヒモですね」

 

「ヒモだね。ショウにはその辺の才能あるなぁとは思ってたよ!」

 

「女神姉妹よ……お前らなぁ……いやホントにコーチを引き受けたとしたら、その時点で普通に仕事だから。働いてるから。……でもそれだと出資元が年下少女になるのは違いないなぁ畜生め」

 

 

 バーベナさん、ヘレナさんからの心強い援護追撃(ひるみ先制)が入ります。

 いけいけ押せ押せ……からの壁ドン!

 

 

「白の樹洞からいらっしゃった、ワタリさんから聞いたんですよっ。ショウさんは、色々な地方を旅して世界中のポケモンをお持ちだそうですねっ! だので、これから世界戦に挑むのに経験面での不足がありありの、あたしのコーチとしてはぴったりだと思うんですよっっ!!」

 

「ぬーん……チャンピオンの理論武装だ。防御力ぐーんと高い」

 

 

 追いつめてやりましたうへへへ。(やっこ)さん困り顔ですぜ。

 ……なんでしょうね。これ、無駄に高揚します。困らせるのは本意では無いのですが、どうにもこうにも!

 あたしがじぃっと見上げ詰め寄り……視線を逸らすでもなく真っ向から困った表情を見せるショウさん。そして溜息。

 そんなやり取りを数度、挟んだところで。

 

 

「はっは! まぁ、その当たりにしてやったらどうだメイ君。キミ達若者諸君の元気な様は、見ていて此方も活力をもらえる物だがね! ……しかし時間が時間だ。今はここいらに君らを集めた理由の方を先に済ませて貰えれば、私としては嬉しいかな?」

 

 

 あたし達が介する一室、その壁にもたれかかっていた渋いコートの……壮年の男性から声がかかりました。

 上役からのご注意に、すぅっと、あたしも頭が少し冷えまして。あら、あ、いえ。少しどころか、なんであんなテンション上がってたのか判らないので、跳び退いた先で身を縮こめまして(冷めたテンションの代わりに頬が熱いです!)。

 

 

「あー……大変ありがとうございます、ハンサムさん。いえ、ほんと助かります」

 

 

 頬を掻きながら、ショウさんが頭を下げますが……そう。

 この方、ハンサムさん(コードネーム)は国際警察の中でも特に世界中を飛び回る「特権」を持つお方。彼のキャリア的には管理職でもおかしくないのですが、どうも自ら動くのを信条としておりまして、未だに現場にこだわっているらしいですね。

 その代わりと言っては何ですが、新人のスカウトと教育にも熱心みたいです。何を隠そうこのあたしも、ハンサムさんにスカウトされたクチなのですよ。

 

 

「メイ君はリーグチャンピオンという忙しい身でもある。今回は私らの片づけに付き合ってもらって、申し訳ないと思っているよ。その分、少しくらいは融通を効かせておいてあげたいとも思う。その辺りは、ショウ君にお願いしたいのだが?」

 

「……まぁ、ハンサムさんに頼られるのは悪い気はしませんね。そも、十分承知してますよ。……メイ、さっきのは前向きに検討しとく。でも返事はちょっとまってくれな?」

 

「はいっ!」

 

 

 善処という言葉を信じ、あたしは期待と懇願をめたくたに混ぜて拳をグッ。

 実際、WCSを目前に控えた現段階で海外へ武者修行に、なんて遠出をしている暇もありません。目前に優良物件がいらっしゃるのであれば、頼まない理由はないですからね。無論、その分のお礼は此方から出せる限りのものでお支払いさせていただきますし。

 ……さて。そんな私の突撃当身を横から眺めていた方が、ここで初めて言葉を発します。

 

 

「―― ショウさんの専属コーチか。それは僕からみても羨ましいね!」

 

 

 追随なさいましたのは、ハンサムさんの斜め後ろに立ったご青年。

 かつての面影を残しながらも成長したそのお姿は、圧倒的な存在感を放っておられます。

 はい。この人こそが、かつての「英雄」。

 

 

「あ、それじゃあ ―― トウヤさんも一緒に修業しませんか? ポケモンバトルですのでお相手は沢山、いればいるほど良いのですけども!」

 

「あはは。忙しくなければぜひ、とお願いしてたところだけどね。僕はハンサムさんの補佐をしているから、直近ではあまり時間がないんだ。ごめんね?」

 

「いえいえ、こちらも頼んでみただけなのでお気遣いなく!」

 

 

 お誘いはすげなく断られてはしまいましたが言葉通りに、いってみただけですからね。

 というかお願いのタイミングが悪いですもの。今回は。

 

 

「僕としても ―― うん。レシラムも、ちょっと興味はあったみたいだけど」

 

 ―― 《カタタッ》

 

「それはあたしもですね。ね、ゼクロム」

 

 ―― 《カタタタッ》

 

 

 こくりと頷いて、ボールが互いにカタカタと揺れます。

 英雄相うった(討ってない)所で。あたし達2人を見渡し、首肯。ハンサムさんがお話を進めてくださいます。

 

 

「それでは本題に入りたい。私の補佐、トウヤ。助っ人捜査官のショウ君。荒事部門のメイ君。諸君らにこのホドモエ、女神の家に集まってもらったのは他でもない。プラズマ団の動向について、最後の調査を入れたいからだ」

 

「……ふぅ。女神の家じゃないと、何度も言っているんですけど」

 

「まぁ判りやすいし諦めようよ」

 

「ふむ。不快なら改めようと思うが……それはまた後々の話にしよう。さて、プラズマ団の残党……とはいっても残党の殆どは昨年のメイ君の活躍によって、現在はアクロマ君の側について研究などに精を出しているのだがね。仮にこれを『アクロマ派』と呼称した場合に、全く異なる活動を広げている輩が僅かながらに存在する。これを活動の内容から『ゲーチス側』と呼称するとして……」

 

「……あのう。あの人がまだ動いているんですか?」

 

 

 話を遮るのは申し訳ないと判ってはいても、思わず聞いてしまいます。

 プラズマ団の首魁、ゲーチスさん。あたしにとっても……そしてトウヤさんにとっても、因縁浅からぬお相手です。

 

 

「ああ。とはいえ今は、彼の周りで動いている人員も少ない。大規模な破壊工作やテロは行えないと、上も私達も判断しているよ。だが、完全に捨て置くこともできないと言う部分でも意見は一致していてね。彼は間違いなくカリスマ性がある。再起を企てるその前に……叩くなら今だと、そういう風にも考えているのだ」

 

「僕もハンサムさんに同意見です。けれども今のゲーチスは、広い広いイッシュ地方の片隅に追い込まれた、瓦解寸前の組織の首領だ。このためにただでさえ少ない国際警察の人員を割くのもできないと、そういう判断かと思います」

 

 

 ハンサムさんの後をトウヤさんが次いで、注釈を付け加えてくださいます。

 

 

「つまり、人員をかけずにケリはつける。良いとこ取りをしろという事みたいですね。だから今回は、名前の知れているハンサムさんには動かないでいてもらいます」

 

「ウム。私は変装も得意ではあるが……相棒のいない今の私は中途半端だ。それこそ相棒(バディ)でもいなければな。バトルでは足を引っ張ることになるだろう。ならば私は、裏方をしながら、ミアレ異動の準備でも進めておこうと思っているよ」

 

「ええ。お願いします、ハンサムさん。だので、今回の作戦については……この件が解決するまで国際警察に身分や所在を隠して貰っている僕と、直接の戦闘経験があるチャンピオン。助っ人としてショウさん。事件に関わったこの3人だけで挑みましょう」

 

「判りました!」

 

「おう。りょーかい」

 

 

 あたしが元気よく挙手すると、ショウさんはこっくり頷き同意。

 返答を受けたハンサムさんが一歩後退したのを見計らい……トウヤさんが入れ替わりに前に出まして。

 

 

「じゃあ早速ですけど方針です。僕はここ数年、外国とイッシュを行ったり来たりしていたもので、最近の話題についてはあなた達の方が詳しいと思います。ショウさん、例の調査の進捗はどうでしたか?」

 

 

 話を仕切って下さいます。

 しかし、例の調査というと……もしや?

 

 

「おう。そのもしや、だ。……結果から言うと、まぁ、予想通りだったなー。あの人はしっかり最後の『わるあがき』を手札として残してたっぽい」

 

「それはこの間のゴーストポケモンの調査から判ること、なんですね?」

 

「だな。今から説明する。……女神姉妹、ホワイトボードとかないか?」

 

「ないよ。バーベナ、雑紙はあったよね?」

 

「えぇ。子ども達がオリガミに使用したものの残りが。……ショウ、これで代用してください」

 

「十分、十分。さて」

 

 

 ピンク髪のバーベナさんから藁半紙の束を受け取ったショウさんは、鞄から取り出したボードに挟んで手早く図を書き込んで行きます。

 くるっと円形に描かれたのは、イッシュ地方の中央部分……つまりはヒウンシティの北側。

 真ん中に「ハイリンク」、東側に「ライモンシティ」→「ブラックシティ」→「サザナミタウン」を図示。それらに囲まれた北側に活火山の(・・・・)「リバースマウンテン」と「ヤマジタウン」を書いて……ついでみたいにセイガイハ、カゴメタウンまでを付け足しておいて、所要30秒。

 

 

「そんでもって、これがゴーストポケモンの分布移動な。北側のカゴメ周辺から、セイガイハ、サザナミと南下してきてる」

 

「ほうほう。かなり判りやすいですね」

 

「そうだね。これがそのまま、彼の足跡に近いと考えて良いんでしょうか?」

 

「まー、移動速度を考えたらゲーチスさんの足跡っていうよりはゴーストポケモンらが『集まる原因』の足跡ってとこだけどな。俺らがまず狙うべきはゲーチスさんの手札……つまりは原因の方だから、こっちを追って間違いじゃあない」

 

 

 ですね。

 ゲーチスさんの身柄をこれまで拘束できないでいるその理由は、「ダークトリニティ」なる超人的な運動能力を持つ3人の部下が居るという点につきるでしょう。追い詰めても追い込んでも、彼ら(彼女らかも知れません)が首魁さんを匿って移動してしまうと、追うことが出来なくなってしまうのです。エスパーでは無く、物理的に!

 つまりは先に原因の方を叩いて首謀者を誘き出す事から始めないと、遭遇すら出来ないのですよね。困りものです。

 

 

「……で、こっからは予測だけども。計測は終えたけど、あの日海辺に居たプルリル達はかなりの数と割合だ。水棲の幽霊ポケモンだもんで、海が入り組むサザナミでは押しくらまんじゅうになってたんだろうな。……と考えると、ゴーストポケモン達が次に向かいたいと思ってるのは、多分西だ。てか地形からして陸続きには西しかないんで、当然なんだけどな!」

 

「まだイッシュ地方で何かを企んでいるからこそ未だ逃亡せず、この辺りに居る訳ですからね。ゲーチスさん達が海側へ出立する理由は薄そうだとは思いますよ、はい」

 

「だね。……西側で潜伏しやすいのは、やっぱりブラックシティかなぁ」

 

 

 トウヤさんが顎に手を添えてむぅと唸ります。

 確かに、あの街に潜伏されると厄介ですね。ブラックシティは「お金が全て」な街でして、隠れる場所には困らないでしょうから。

 

 

「まーその分、手段を選ばなけりゃ調べようもあるんだけどな、あそこ。……っても捜索に無駄に時間を食わされるのは間違いないんで、同時進行だ。調べる方は俺よりも得意な奴がいるんで、依頼しとく、俺らは周辺の調査を始めようぜ。具体的にはヤマジタウンに逗留してひたすらフィールドワークって感じ。こっちも援軍は呼ぶけど、流石に人手が必要だから手伝ってくれるとありがたいぞお二方」

 

「了解です、コーチ!!」

 

「判りました。手掛かりがないのなら、まずは足で稼ぐべきですからね。それでいきましょう」

 

 

 ショウさんの意見にあたし達が同調し……どうやら話はまとまったご様子です。

 広げていた資料をバッグの中に詰め込んだショウさんが「うっし早速行きますか」と区切りをつけ、あたし達も椅子から腰を上げます。

 

 

「では行ってきます、ハンサムさん」

 

「ああ。身体には気を付けるんだぞ、トウヤ」

 

「はい」

 

「……あー、俺としてはハンサムさんも心配なんで、気を付けてくださいね。ただでさえ時期が時期なんで」

 

「ああ。肝に銘じるよ、ショウ君!」

 

 




・トウヤ
 BW主人公。レシラムに選ばれた英雄さん。
 氷漬けになったりとかもロマンスありますけれど、本作ではこうなりました。

 前作主人公の名前読み込みとかせっかく実装したのに、全編において赤緑からの金銀の流れをオマージュとかしてるのに、戦わせてくれないので泣きました。私が。


・ダークトリニティ
 物理的にゲーチスさんを保護する3人のNINJA。三色ジムリーダーではない。
 やたら凄い身体能力を持っている。
 レベルインフレしたBWにおいては、ポケモンバトルは余り強くない印象。
 (それでも引き合いに出されるジュン君はホント強い)

 私が特に感じるBWの不消化感のひとつだったりします。
 スーツだとか、ホール潜っただとか、今ならいろいろと妄想は出来ますけどね……?



・リバースマウンテン
 バージョンによって活火山かが変わる山。
 トウヤがレシラムを持っているのでホワイト準拠。

 ……準拠ですが……はてさて。

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