□8.
計2日。イッシュ地方における年代別トレーナー代表選考会を、先ほど、やっとの事で終えました所です。
すこーしだけ、肩の荷が下りた気もしますね。いえ。リーグチャンピオンって、割と乱雑な(語弊)……どんなルールにおいても発揮できる強さが求められる位階なものでして。メディアさん達の期待というか、視線というか。そういうのも当たりが強い物なのですよ。
さてはホドモエシティの南側。あたしは未だ喧噪の残るロビーの端っこで、ソファに座って回復アイテムの残りを確認……はい、し終えた所です。たった今。
これにて後片付けも手打ちです。元々はPWTのために造られたこの会場ではありますが、今回全世界を対象にした
そんな真新しく、賑やかな会場の片隅で……いえ。あたしの隣には誰もいないのですけれどね、誰も。ぼっちじゃなくて近寄りがたいとはキョウヘイ君の談なので採用します(強権)!
ひと段落着くと同時。なんとなーく、手持無沙汰になります。なってしまいます。
虚脱感とでも言うのでしょうか。
勿論、先ほどまでの選考トーナメントは、常日頃イッシュリーグでしのぎを削っている方々との対戦でしたので、手応えは抜群でした。
バンジロウ君との決勝での闘いは、ジャローダでの積みが相性が悪いので『麻
ジムリーダーさん達の中でも特に、チェレンさんとのバトルは激しかったです。ノーマルの選任ジムリーダーを脱し、いちトレーナーとしての実力を見せてくれた彼には、流石先代のポケモン図鑑所有者さん!と賛辞の言葉を尽くすべき所でしょう。
そんな風な熱戦を、合計8戦。全てで勝利を収められたことに、誇らしさと満足感はあるのです。あたしと、あたしのポケモン達の努力を示すことが出来たのですから。これに勝る喜びは、あるはずもないと。
けれども。
けれども……。
「(……あのバトルサブウェイでの勝負が、印象に残り過ぎているのですよね)」
確かに、ショウさんと共に戦ったあの勝負。ノボリさんクダリさんを対面に、綱渡りの上を全力疾走で駆け抜けた挙句ばちこーんかました ―― あのドキドキワクワクハラハラの勝負こそが、ここ最近のベストバトルで間違いはないのです。
だからこそこんなにも後を引いてしまうのでしょうか。ううん。重ねて、イッシュリーグの方達が実力で劣るということもないのですけれどね? まぁあたしは今回のトーナメントで負けてませんけれども(そこは胸を張る)。
それに、昨日の朝方……ホワイトフォレストにおいてバトルのお相手を務めてくださった『白の樹洞』のトップトレーナーさんも実力はかなりのもの。ええ。ワタリさんと仰るあのベテラントレーナーさんは今回の大会にはご参加されていないご様子で……それが残念に思えるほどには。
そういうお人達とそのポケモン方々がまだまだこの世界には居るのだと思えば……はい。これからのWCSがとても楽しみになってきますね!
と。自分で落ち込んで自分で持ち上げるセルフワインディングを終えましたので、あたしもロビーの隅ソファから腰を上げます。
おしりをぱんぱんと払って、靴の踵を直しまして。
「―― そろそろ話しかけても良いかなっ、メイ!!」
「……ふわぁ。次の集合日の打ち合わせくらいは……今の内に済ませておきたいのだけれども」
そんな会場の端っこへ、お二方。
「あっ、すいませんアイリスさん、カトレアさん。勿論話しかけても……。……いえ。あたし、独りで居ましたよね? どの辺りが話しかけたら駄目なタイミングに見えたのでしょうか!?」
「うーん。えーとねっ、ぼーっと空中を見てたり、トレーナーツールをいっぱい弄ったり、バッグを必死な顔でかき回したりしてる所かなっ!!」
「ですね。同意しましょう……」
子どもの素直な感想が心に痛いのですけれども……!!
なんてあたしの
ジュニアクラスのチャンピオン次節、アイリスさん(10)。
ミドルクラスのリーグチャンピオン、あたしことメイ(16)。
マスタークラスのカトレアさん(23)。
計3階級の、選抜トレーナー方々なのです。
ええ、はい。今回のWCSは、世界中のポケモントレーナー達が一堂に会するお祭りみたいなポケモンバトルの大会です!
個人戦も考慮されたらしいのですが、なんともはや、参加選手の数が多過ぎるという問題が浮上していたのでした。だので国毎に選手を階級別に選抜し、6-3対面シングルバトルのトレーナー3人ずつで成績を競うものとなったのだそうです。
それで、今回のトーナメントで選抜されたのがこの3人と。
「よーし! シャガおじーちゃんに教わったバトルのやつ、全部出して! 出し切って!! 戦うよーっ!」
「グノーッッ!!!!」
こちらアイリスさんと、その相棒のオノノクスさん。目の前で拳をがっつり握って宙に突き出し、勝負服のチャンピオン衣装をふりふりと揺らしていますのが大変かわいらしいですね。
さて。彼女は昨年末の『勝ち抜き戦』にて、あたしが対戦した元・チャンピオン位の序列1位さんです。ドラゴンタイプのポケモンを選任としていまして、安定した戦いぶりと爆発力が売りですね。
因みにアイリスさん、チャンピオンに就任したのが9才という恐ろしいご幼女でもあります。「英雄」と呼ばれたかつての20代目チャンピオンの後、その余韻を吹き飛ばすほどのインパクトと共にトーナメントを勝ち進んだニューヒロインでして。あたしも、その活躍と暴れぶりはテレビで拝見させていただきましたね。あの時はまさか、その翌年に対面で勝負することになるとは思っていませんでしたが。
付け加えて、この9才チャンピオンという年齢は、世界的に見ても
「―― ウフフ……アイリスがやる気なのは良い事……。ふわ……。でもアタクシ疲れてしまったから……合同練習の日取りを決めて、今日は早めに眠りたいかも」
「ムナーァ」
目の前で身長程もある髪の毛をぶわぶわさせながら優雅にあくびをしているのが、現・四天王のカトレアさん。その斜め上に浮いて、なにやら口元をもくもく動かしているのがムシャーナさんです。眠気でも食べているのでしょうか……?
四天王としての彼女はエスパータイプの選任なのですが実の所、ポケモントレーナーとしてもかなりの実力の持ち主なのですよ。今回は一般トレーナー枠として出場し、見事マスタークラスの激戦を勝ち抜いてくださったのですね。
因みにカトレアさん、イッシュでは四天王位序列2位であります。ワールドレートランキングも2桁上位を5年間維持している、超強豪の頼もしいお方でもあったり。
ただ、どうやらやんごとなき「御家」のご息女らしく、色々な利権が絡むチャンピオンにはあまり興味がないご様子。四天王という位置づけに留まっているのは、あくまでポケモンバトルに関わりたいという彼女自身の意向である……と、年末の四天王特集ワイドショーでお見かけした気がしますね。ええ。
あと四天王の序列1位は現在、レンブさんが務めています。シキミさんは小説の執筆で忙しいと順位が激しく上下しますし、ギーマさんはよくよくバカンスとかで居なくなってしまうので、必然的にこうなるのだとか。この場合の序列はリーグ挑戦者への対面率が大きく関係するので、ネームバリューの大きなカトレアさんよりもレンブさんへの挑戦数が偏って多いというのも一因としてありますね。
と。
前置き、兼、紹介を終えておきまして。
「では日取りだけ。……あたしが決めても良いんでしょうか?」
「うん! メイが
「アタクシもそう思います。……スケジューリングは得意ではないので、メイに任せるのが良いでしょ」
「ええ。では任されましたよっ、大将!!」
どん(ぼよん)と胸を叩いてみせて、あたしはやる気を込めた鼻息をふんす。
早速大将として、意図せずしてガールズチームとなってしまったイッシュナショナルチームの合同練習日をスケジューリングするのでした。
――
――――
さて。
問題はここから。
「―― メイ」
「? どうされましたか、カトレアさん」
2か月間のおよその計画を立て終えた頃合いでした。
アイリスさんが「ばいばーい!!」と元気よく手を振り去った後。あたしは何故か、カトレアさんに呼び止められたのですけれども……?
カトレアさんは口数少なく、ずいっ。
「……
「いえあのカトレアさん。近い、近いです。顔が、顔が……!?」
「ムーナァ?」
ムシャーナまでがこてんと疑問符を浮かべ、あたしの視界いっぱいに広がりましたるカトレアさんのお顔。
あと、とても美しい
ではなく!
「何か見えましたか……? 多分、未来視ですよね?」
そう、身を引きながら行動分析してみます。
あたしがしばらく両掌を前に出しNOと言えるイッシュ人と化していると、カトレアさんが表情を取り戻します。
「やっと。やっと……見つけました」
「ナーンムァ!」
「何をでしょう……って」
話を二段飛ばしに大遠投したカトレアさんと、非常にうれしそうに周囲を回遊するムシャーナ。
するとカトレアさんが、とても、とても……切なさ満点かつ真剣な表情に、端正な顔を歪めまして。
「アタクシでないのは悔しく思います」
「は、はぁ」
「ですが、何より……やっと見つけたその影を、逃すつもりもありません」
「ほぇ……?」
「メイ……頑張って。あなたはきっと、希望の光。壁を砕き道を開き路を照らす、『鍵穴』のひとつ」
『ムァ!』コクコク
「……」
「アタクシ、期待するの……。『ムァーッ』……ウン。アタクシだけではなく……ムシャーナも、大好きだものね。……。……メイ。今は、貴女のしたい事を優先するといいと思う」
『ンムァ』
ムシャーナがぶんぶんと夢の煙を振るうのを見上げ、けれども、いつもより数段口数多く……あたしも初めて見た、興奮した様子のカトレアさんの瞳は、少しだけ涙に濡れていました。
「未来視なんて……あてにならないけれど。でも、こうして……見つけることが出来たのだから。アタクシ、今日ほど超能力を宿していてよかったと思ったことは、ないかも……」
縁に感謝を。
そう告げられた言葉が……カトレアさんの背中を見送るあたしの頭の中に、いつまでもいつまでも、響いていました。
……ううん。
これはいよいよ、きな臭くなってきましたね……?
・PWT
本作においては、お祭りとして開催されたゲームのPWTと、イッシュ全体のWCS選抜として開催されたPWTの2種類が混在しております。あしからず。どちらも開催されたものとしております。
ちなみにPWTはゲームで出ますが、WCS自体はゲームではなく現実で開催されているポケモンの世界大会の名前です。とはいえゲーム内で全く語られないわけではなく、実は話題に出すトレーナーが存在したりします。
だのでその辺は自分勝手に融合させてもらっています。あしからず(2回目。