ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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□6.サザナミタウンにて ― What's 何でも屋?

 

 □6.

 

 ライモンシティはバトルサブウェイでの一戦から翌々日。

 今、あたしの目の前には一面の海が広がっていました。

 そう。海。Sea!

 

 

「―― それで、ショウさんはサザナミタウンに用事があるんですよね?」

 

「あー、まぁ、俺自身の用事じゃあないんだけどな。研究仲間からの依頼、みたいな感じで」

 

 

 という訳で、現在地はサザナミタウン。

 サザナミはイッシュ地方の東側に位置する、海岸沿いのリゾートと観光の町です。聞くところによるとここの北東側に新設されたセイガイハシティが一般観光客のベッドタウンの役目を果たしており、ビーチを利用する場合やものっそいお金持ちの人が別荘を建てたりする場合には、このサザナミタウンを訪れるのだそうです。あたしみたいな一般人の金銭感覚じゃあ関係ない話題ですね。ええ。

 ……しかして、ショウさんの「研究仲間」ということは。

 

 

「ショウさんって、研究もしてらっしゃるんですか?」

 

「そうそ。今は本業じゃあないから、一応はって形になるかもな。つっても歴史的な発見をしている訳じゃあなし。世間的なネームはイマイチだけど……主な業績は化石の研究発掘とか、再生とかになるか」

 

「へぇぇ……最近の何でも屋さんは、本当になんでもするんですねえ……」

 

「いや悪い、昔の話だ。俺は普通の何でも屋ではないぞ? つかあれは只の例えであってだな……」

 

「あ! それじゃあ、あたしがアーケオスやアバゴーラに出会えたのもショウさんのお陰なんですね!」

 

「凄げー話が飛ぶなぁおい。……んー、まぁ、そう言われてみれば、アロエさんとそのダンナさんの博物館やあの組織に再生技術を売ったのは確かだなぁ。大分前にはなるけど」

 

 

 言いながら、ショウさんは顎に指を沿わせます。

 そう。化石の再生といえば、シッポウの博物館。「飛石アクロバットアーケオス」や「殻破頑丈アバゴーラ」の速攻と最大火力には、あたし、大変お世話になっておりますので!

 ……でもまさか、ショウさんがそんな研究に関わる様な人だなんて思ってもいませんでしたけれど。

 

 

「そうなると、今、こんな夜中にサザナミの海岸線を目指しているのは……その研究者さんのお手伝いのためなんですかね?」

 

「研究の内容は結構違うけど、まぁそうだな。この先の海底遺跡の調査をしている研究者から、俺の最近の研究テーマの1つに関連した情報を貰ってて……んーと、これだこれ」

 

 

 言いながらひらひらとタブレットをかざしてみせるショウさん。

 その画面には、「プルリル/海底遺跡」との簡素なタイトルが掲げられていました。

 

 

「へぇー……プルリルが研究の題材なのですか?」

 

「あー、色々あってプルリル……ひいてはブルンゲルの分布調査をしてたんだよ。そんで、発生源はどうやらこの辺りらしくってなー」

 

「そういえば、この辺の海ってプルリルが多いですものね。研究には丁度良い場所ですね!」

 

 

 サザナミからセイガイハシティへ向けて海底を通るマリンチューブからの眺めも、よくよく思い返せばプルリルがとても多い。水色(雄)とピンク(雌)のプルリルが連れ添って泳いでいる所なんて目撃した日にゃーもう、キョウヘイ君にダンゴロ大爆発です。

 

 

「あ、それに最近は月曜日とか木曜日にちょっとでっかい、特殊な特性を持ったブルンゲルが出ますよ、ここ」

 

 

 嫉妬とかいう感情は存じ上げません(暴論)。

 などと言わんばかりに、あたしが偶然知った通常と違う特性の親玉ブルンゲルの出現情報を添えて話すと、ショウさんは少し吃驚した顔をしてくれました。

 

 

「良く知ってるなぁ、メイ」

 

「えへ。あたし、勉強と情報収集は欠かしていませんから」

 

 

 そう言って、あたしは少し得意げに胸を張ります。ああ。これは重くて邪魔ですけれども(暴言)。

 しかしまぁ……そんなものをぶら下げているだけあって、あたしは視線に敏感でもあります。だので判るのです。件のショウさんの視線は、ただ今、向かいの海にだけ真っ直ぐに向けられていましてですね。此方には一瞥もくれやがりませんで。

 自意識過剰のお一人スモウレスラーですね。置いといて。

 

 

「……話を戻しますけど、何故プルリルを研究の題材に?」

 

「んー、簡単に言えば『大規模事件後の地域におけるポケモン分布に関する調査』だな。……これは前に俺の居た地方でも度々確認された現象なんだが、ゴーストタイプのポケモンって人間の『騒動』に対して敏感に反応するんだよ。野生ポケモンは数多く居るけど、住処を頻繁に移すのはゴーストタイプのポケモンが特に顕著でなー。関連付けもし易いとなると、研究者にしてみれば格好の研究対象なんだこれが」

 

 

 そ、そうなんですね。むつかしい……。

 正直あたしはブルンゲルって、異様に硬い特殊防壁&かなしばり&熱湯物理鉄壁ってイメージ ―― それだけだったんですけれども、それはブルンゲルというポケモンのバトルにおいて発揮される、いち側面に過ぎないのでしょう。流石は研究者ですね、ショウさんは。

 でも、私でも判ることを整理して行くと……1つだけ疑問点が。

 

 

「あの、もうちょっと詳しく聞いてもいいですか?」

 

「おう。どぞー」

 

「どもです。……『騒動』って、一口に言っても沢山あると思うんですけど」

 

「うーん、まぁそーだよな。騒動ってのはあくまで観測的な表現なんだ。……フヨウの言葉を借りると1番判りやすいと思うんで引用するけど、要は『人の心の揺れ動き』に集まるんだそうだ。そうだな。具体例でいえば、悪事とか」

 

 

 ショウさんの放った言葉に、ちょっとだけびっくり。

 悪事という言葉に関して、あたしは心当たりが在る ―― どころか、在り過ぎ(・・・・)ます。

 

 

「……悪事っていうと、もしかして……」

 

「多分メイの想像通り。―― 去年と3年前に、イッシュ地方は大規模な騒ぎがあったばかりだろ?」

 

「はい。そうですね」

 

 

 ショウさんの挙げた3年前と去年は、いずれもイッシュ地方全てを巻き込んだ事件が有った年。

 何れも、その原因たる組織 ―― プラズマ団。

 3年前は「幻のチャンピオン」と呼ばれた当時15歳の少年が、プラズマ団の「王」を倒したことで事態は自然終結へと向かい。

 去年は、それでもしぶとく残ったプラズマ団の首魁側の人達を、不肖あたしめが追い込みました。

 ……とは言っても、あれは色々な人の力を借りての解決だったのですけれどね。あたしだけで成し遂げたと言うつもりは毛頭なく、その様な事実も当然の如くありはしません。

 いえ。というか実質、殆ど、あたしはポケモンバトルをしていただけですから!

 ポケモンジム踏破の旅。その行く先々でああも出会ってしまっては、巻き込まれざるを得ませんでした、というだけの話です。……まぁ今ではあの経験こそが今のあたしを形作っていると思える辺り、あたしも成長出来たという事なのでしょう。

 あたしがそんな回想をしている内にも、ショウさんは指をぴしりとたてて。

 

 

「そんで、その事件の傷跡が未だ残るイッシュ地方は、ゴーストタイプのポケモンにとっては居つきやすい環境だったんだろーな。騒動はゴーストポケモンにとっての『餌』みたいなものなんだろう、っていう研究結果が出てる。餌を培地に、ゴーストポケモン達が集まりに集まり……お陰で個体数は増えに増えて、今に到ると。俺はその辺を関連付けてレポートに起こしてる最中なんだ。だから、今回のこれは現地調査って奴だな。―― さてさて。どうやら海岸線が見えてきた。メイ」

 

「あっ、はい!」

 

 

 ショウさんの言葉にあたしも前を向いてみれば、確かに波際が望める高台に差し掛かっていました。

 サザナミタウンの夜の海。リゾートらしい静かな波音と、ぎっしり詰まった赤い光。

 

 赤色光。

 

 ……って、赤い光!?

 

 どうです! 三段ノリツッコミっっ!!

 

 

「あの……ヒトデマン、じゃあないですよね?」

 

「まぁな。だったら俺はここまで足を運んでないと思う」

 

 

 手を(ひさし)に、ショウさんは興味深げな視線を前方へと飛ばします。

 うねうね。ごわごわ。そして。

 

 

「プルリルリー♪」「プルリラー♪」

「ルリプルリラー♪」「プルリルリー♪」

「ブルブルブッルンゲル!」

 

 

 御覧のあり様。

 赤い光の大元は、サザナミの海岸沿いにぎっしりと詰め込まれた……プルリルとブルンゲルの群れなのでしたっ!

 夜の海に浮かぶ彼ら彼女らの目が、赤く光ってるんです。目が。

 

 

「えーっと……折角のサザナミタウンなのですが、お天気は雨ときどきプルリル……のちブルンゲルのご様子」

 

「あっはっは! 俺のプリンが混ざって歌っていてもおかしくは無いな、あれ!」

 

 

 ショウさんはそんな風に笑い……シャッター音はないけれど、手に持ったトレーナーツールで写真を撮りながら段々とプルリルとブルンゲルの海に近付いて行きます。

 あたしもその横を、恐る恐るな足取りで波打ち際へ。

 するとあたし達の存在に気付いた海一面のプルリル達が、一斉に視線を向けてきました。

 

 

「プルルリル」「ルリルッ?」

 

「うっ。……わあ」

 

「まぁ、普通は慣れないよなぁこれ。つっても観察しなきゃいけないから、メイはそのまま、俺の後ろからで良いんで記録写真をとっててくれるか。海岸線に沿って、左側からよろしく頼む」

 

「す、すいません」

 

 

 謝っておいて、ささっとショウさんの後ろへ回り込みます。裾をしっかり握りつつ。

 ……うーん、プルリルとブルンゲル……というか、ゴーストポケモンの視線はやっぱり恐怖感をあおられますよね。生理的に。

 とはいえ、あたしもお手伝いをサボる訳にはいきません。手元でばしばしシャッターを切っていきます。この写真を元にある箇所の面積毎のプルリルを数えたら、後は海の測定面積からおおよその個体数を割り出すらしいです。責任重大ですよね。

 

 

「……ぷにぷにしてます」

 

「順応早いな、おい。良い事だけど」

 

 

 写真を撮っている内に、ゴーストポケモンのうんたらかんたらには慣れてしまいましたけれどね!! 順応早いあたし!

 波打ち際で自ら顔を出しているプルリルの頬をつついてみたりしてみました。ひんやりしてます。ぷにぷにしてます。ぷにちゃんと名付けましょうか。あ、何処からかそれはやめときなさいと電波が……。やめときましょう。

 ……んーまぁ、生理的なあれで攻められると、ゴーストポケモンも怖いにゃ怖いですけど。しかしそんなずっと怖がっているのもお暇なのです。というかプルリルにしろブルンゲルにしろ、よくよく見ると愛嬌のある顔立ちをしていますし。

 

 

「そう油断させといて、図鑑の説明文がおっそろしいのがゴーストポケモンなんだぞーっと」

 

 

 微妙に煽ってきますね、ショウさん。

 ……えーと。

 

 

「図鑑の説明文を全部真に受けていたらきりがないと思うのですよ、あたしは」

 

 

 この返しにショウさんも「そらそうだ」と納得。いや納得するんですね。

 そのままぐだぐだと、画像を撮ったりすること数分。ショウさんは記録媒体をポーチに差し込むと、ふうと息を吐き出します。

 

 

「さて、カウントも映像記録も終えたことだし、戻りますかねー」

 

「あ、はい。戻りましょう!」

 

 

 そう言うとショウさんは少しの後腐れも残すことなく、ゴーストポケモンでぎっしり埋まった海の正面から踵を返してしまいました。

 ……このプルリル達、このままで良いんでしょうかね?

 

 

 …………さて、それはそれとして。

 それでは移動の時間を利用して、これまでの展開について、少しばかり説明を挟ませていただきたく思います。

 こうしてあたしがショウさんに着いてきているのは、実の所、バトルサブウェイで相方を務めて頂いた御礼というだけではなくてですね。先ほどの言にあった組織……プラズマ団。あの人達が関わっている以上、あたしにとっても他人事ではないでしょうという心持ちからなのです。

 この機会に、ショウさんから調査とやらの内容を伺おうと思っているのですね。守秘義務とかなく可能であれば!!

 

 そんな事を振り返っている内に、サザナミ湾の海岸線から移動すること数分。

 夏の空気がむんむんと立ち込め、むしろ湿気に満ち満ちたサザナミの通路に差し掛かりながら。

 十分に離れた位置……貯金ばk……いえ。ブルジョワな一家のお家がある辺りまで来た頃を見計らって、それら思案の内容について切り出したあたしに、ショウさんは向き直ります。

 

 

「まぁなぁ。俺としては、プラズマ団について話すのは構わないんだ。メイは無関係な立場じゃないからな。……構わないけど……話は凄く長くなる。メイは来週にもPWTとWCS(ワールドチャンピオンシップ)に参加する予定なんじゃないのか?」

 

「はう、う、ぐぐぐ……! それは……そう、なの、ですけれどね」

 

「そのためにポケモン達の調整をしてて、サブウェイに挑戦してたんじゃなかったのか?」

 

 

 もうやめてください! イッシュチャンピオンは目の前真っ暗です!?

 追い打ちしてくるとか何気に容赦がないですよね、ショウさんは……。

 

 

「でまぁ、どうするんだよ実際。時間は食うからメイ達の状況次第だけど」

 

「ぐ、う、ぐぐ……プラズマ団その後の解説を、ヨロシクオネガイシマス……」

 

 

 後半思わずカタコトになるほど唇を噛みしめながら、あたしは言葉を絞り出します。

 まさかポケモンバトルを二の次に回すような事態に陥ってしまうとは……ポケモンバトル大好きあたし、一生の不覚かも知れません。

 とはいえ。

 

 

「とはいえプラズマ団の事は、ずっと気になってはいたんですよね……あれから音沙汰もありませんし。国際警察の方々も色々と協力してくれてはいますが、あたしのような(・・・・・・・)戦闘部門(・・・・)の末席にまで情報が回ってくるのは大凡の事態が解決した後か、人手が必要な時くらいですものね。それを最中に知る機会があるのなら、逃したくはありません」

 

「あー、まぁ……んな気質だからこそメイはリーグチャンピオンになれたんだろうな」

 

 

 苦々しげでわざとらしい表情を止め、チャンピオンとしての表情に切り替えるあたし。実は国際警察(の末端も末端)にも籍を置いてたりします、というどうでも良い事柄を付け加えつつ。

 ……しかしそんなプラズマ団の動向を知っているとお話しするあたり、ショウさんはやはりただの何でも屋ではないのでしょうけれども……。

 などと悩みながらもきりりと表情を作る此方の様子を見て、ショウさんは、腰に手を当て嬉しそうな笑みを浮かべています。

 

 

「うっし判った。そんならなるべく手短に……ついでに、バトルの調整の助けにもなるようにしてみるか」

 

「? それはどういう……」

 

「ほいほい、連絡済み……っと。そっちは着いてからのお楽しみにしとこう。でもって ―― そらっ!」

 

 

 話の途中ながら、ショウさんは腰のボールを宙に放ります。

 中から出てきたのは。

 

 

「きゅぅぅん♪」

 

「おふっ……毎度、好いてくれててありがたいことで」

 

 

 赤くて小さなポケモン、エムリット。

 エムリットは邂逅一番、名乗り上げもおろそかにふわりと(素早く)ショウさんに頬ずりをかましたかと思うと、宙を滑り……

 

「そんじゃ、ちょっと場所移動だ。テレポートするぞー」」

 

 びかり。

 

 ああ。あたしが抗議する暇も無く、『テレポート』が発動されてしまいました。

 いえ、いいんですけれどもね。あたしもよく利用するので『テレポート』酔いとかはしませんし。時間短縮は大事ですし、時間を無駄に出来ないあたしを気遣ってくれたその心遣いは嬉しいですし。

 でもほら、やっぱり円滑なコミュニケーションを形成するに当たっては大切な物がぅおええ。

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

「何も聞かなかったし見なかったぞ、俺は」

 

「既にその発言が物語ってるんですよ!?」

 

 

 何を? あたしの数分前までの惨状を、ですよっっ!?

 ……いえ。取り乱しました。

 

 

「慣れてるつもりだったんですけどねー……『テレポート』での移動は」

 

「はっは! 俺のエムリットのは、結構移し(・・)が荒いからなー。いや、悪かった。でも、そんなに酔ってる反応は初めて(・・・)みた(・・)。酔い易い奴って、ホントに酷いのな」

 

 

 すまんねと付け加える様に言いながら、ショウさんは軽い調子で笑います。

 悪びれてないようにみえて、多分、ストレートにわざとなのでしょう。

 

「(……しかしこの方。なんとなく。なんとなくですけど……)」

 

 あたしが年の離れた……7才年下の16才女の子であるという部分を気にかけた、だからこそ砕けていて、突拍子もない行動を主とした接し方。

 

 つまりは……自分との間に意図的に距離を作る接し方。

 

 ショウさんのこれら態度は、なんとなくですけど、そんな風な行動原理を元にしている気がしてならないのです。

 気になります。ええ。めいっぱい気になってしまいます。

 そうする理由は、残念ながら今のあたしには判りません。なにせあたしはショウさんと出会って、未だ3日しか行動を共にしていないのです。ポケモンも、考え方も、出身地も……例えば好きな食べ物なんて、どうでもいい事柄すらも。

 知るには深すぎるショウさんの「底」も問題だとは思いますが、それはそれ。

 

 わざと、人との間に距離を置く。

 ……人を遠ざけて過ごす事を信条としているのでしょうか。

 ……ポケモン達とあんなに楽しそうにバトルをしていた、この人が?

 

 それは違うだろうと、あたしの感覚は言っています。

 ノボリさんクダリさんとのバトルの最中。ポケモン達と息をぴったりに合わせていたこの方は、本当の本当に楽しそうな笑顔を浮かべていました。それはきっと、この人がポケモン達にも好かれていて……とても良いポケモントレーナーであることと、無関係ではありません。

 だとすれば、知らなければ見えることのない、何かしらの壁を抱えているというのが正解に思えます。

 うん。……うん。

 

「(この人の、そういう思惑にまんまとのせられて……斜に構えて見ることしか出来なくなるのは、悔しいですね。癪ですね)」 

 

 あたしは心の中で、そう、意地を張ってみることにします。

 素直に好感度を下げられてなんてやられるものですか。ウェットティッシュで口元を押さえながら、ショウさんに必要最低限の睨みだけを効かせ。反応はできる限り淡泊に。

 

 

「……まぁ、いいですよ。それでショウさん。あたしをこんな所にまで案内したんですから、早速プラズマ団についてのお話をお聞かせ願えますか?」

 

 

 こんな所。

 あたしが嘔t……いえ。テレポート酔いしてまで、移動してきた場所。

 座っているのは、開けた木々の合間に作られたロッジのベランダ。

 大樹が立ち並ぶ周辺。それは街の端まで行っても変わらない光景の筈で。

 夜中であっても吹き抜ける風が心地よく感じられる、自然を主にした人とポケモンの街。

 

 ホワイトフォレスト。

 ブラックシティと対を成す、ハイリンクを隔てた先にある街。

 通常は『テレポート』で来られない(・・・・・)街……その借ロッジの中なのです。

 

 

「んー、でもメイならここまで連れてきた理由は判るだろ?」

 

「恐らくは。他の誰かに聞かれる可能性が薄いから、でしょうね」

 

「正解。あとは俺自身、あまり足跡を残したくないってのも副次的な理由としてはあるけどなー」

 

「……それは、あの」

 

「あ、ちょい待って」

 

 

 夜分に駆け込み素泊まりでチェックインした木組みのロッジは、必要最低限の物しか在りません。アメニティなどもっての外。

 だというのにショウさんは、四次元鞄から次々と道具やら何やらを取り出し、木目調が美しい机の上に並べていきます。

 

 

「―― きゅわわんっ」

 

「お、悪いなエムリット。見繕ってくれるのか?」

 

「きゅゅぅ」

 

「んじゃあそっちは任せるわー」

 

 

 ショウさんがコーヒーを準備している間に、エムリットが鞄から買い置きのマラサダを取り出しては4分割カット。

 それらを丁寧に、あたしとショウさんの前に取り分け。エムリットの前には、ショウさんが蜜たっぷりのドリンクを用意しまして。

 準備完了、でしょうか。

 

 

「そんじゃあ話すか。イッシュリーグチャンピオン様の夏の夜長をお借りしまして ―― 」

 

 

 そう切り出すショウさんの口調は、イタズラを思いついた子どもの様に楽しそうなもの。

 ぴっと人差し指を立てる動作が堂に入っておりまして。

 

 

「―― まずは2005年、プラズマ団がイッシュ地方ポケモンリーグを占拠した事件にまで遡って話を始めるかね」

 

 

 ああ。それは確かに、長丁場ですねぇ。

 でも、なめないで下さいね。貴方の向かいに座るあたしの感性は、割と一般的なそれからはかけ離れた所にある……とヒュウさんによく言われるのです。最近はヒュウさんの妹にも、ベルさんにまで言われます(ベルさんに言われたくはありませんけど!)。

 それに、ショウさん。貴方が語ってくれる内容はあたしにとって、楽しみな物でもあるんですよ?

 あたしがポケモン図鑑を持って旅をした去年の、さらに前。

 だって、その事件について、あたしは伝聞でしか知らないのですからね!

 

 





・プルリル
 マリンチューブめ……。


・飛石アクロバットアーケオス
 時代を感じさせる構成。
 現在はジュエル系統はリストラが進み、ノーマルジュエルだけが生き残っている状況であります。
 スキン系統では変わらず生かせるご様子。

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