ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/秋 VSロケット団④

 

 Θ―― タマムシトレーナーズスクール/管理棟・屋上庭園

 

 

 

「―― シュン君はガラガラを! あたしは、前を!!」

 

 

 《《ボボボゥンッ!》》

 

 

「ミューゥ♪」

「クッチィ!」「ガチガチ!」

「ギュゥゥオオン!!」

「ピジョオ!」

「ガウガウゥ!」

「―― プリュリーッ♪」

 

「頼みます、皆!」

 

 

 ラムダの口上と同時。ルリはすぐさま前線を陣取り、ラムダの繰り出したポケモン達と対峙した。

 勇ましい掛け声と共に、ルリのフルメンバーが屋上へと散らばってゆく。

 

 

「……ハッ! マジのチャンピオンメンバーじゃねえか!? こら精々、気合入れてお相手しねえとな……!」

 

 

 ラムダは自分のポケモンへの指示に集中するらしい。此方……ただ1匹飛び出したガラガラとオレらとの戦況からは、完全に意識を逸らしていた。

 しかし、目の前に鎮座しましたる大柄のガラガラはというとだ。

 

 

「……ガララァ」

 

 

 そんな(主のはずの)ラムダを気にする様子は全く無く、此方をじっとりと睨みつけていてだな。ヘイトを溜めたつもりは無かったんだけど。

 ……つい最近まで群れのボスだったという事からも、どちらかと言えば野性に近い個体に違いない。元よりラムダからの指示を仰ぐ必要性は無く。そして同時に、バトルをしないという選択肢も無いのだろう。

 

 

「―― ガラララ、ラララッ」

 

 

 ガラガラがその手に持った骨を振り上げ、戦意をこめた鳴き声を張り上げる。地面を蹴り。

 

 

「判ってるよ。……頼むっ、ミドリ!」

 

「ヘナァッ!!」

 

 

 接近するガラガラに対して、オレは大きく後退しつつ……マダツボミ(ミドリ)が割り込み、立ち向かってくれた。これにて此方も、バトルの開始である!

 ここでオレはちらっと手元でツールを確認。何らかの阻害を受けているのか、ガラガラのレベルの割り出しには時間が掛かっていた。だからといって、画面に浮かぶ「精査中」の文字をいつまでも見つめているわけには行かないな……と!!

 

 

「骨を絡めとれ、『つるのムチ』!」

 

「ヘ、ナァァッ!!」

 

 《シュルッ》――《ピシィッ!》

 

「!? ガラガ、ラッ!」

 

 

 ミドリがオレの指示に素早く応じ、伸ばしたツルをガラガラの持った武器……骨の棍棒に巻きつけた。よし。ダメージは入っていないにしろ、勢いの良かったガラガラの動きを止める事に成功だな。

 さて、この均衡状態を使って状況をまとめたい。何せ急に始まったバトルである。

 フィールドは「草原」、もしくは「森」といった所。特筆すべきは……木々を挟んだ向こう側にはフェンスがあるという点か。とはいえ近付かなければ影響も無い。木々は利用できなくも無いが、園芸サークルの一員として保護は責務である。どうしようもない場合だけ利用する事にしよう。

 次に相手について。

 ガラガラは「孤独ポケモン」カラカラの進化した姿だ。怪獣の様な二足歩行で、頭に被った親の頭蓋骨(らしきもの)が特徴だろう。

 一番の武器は、その手に持つ「骨」。漫画骨っぽい。太さといい、部位的にはおそらく大腿骨なんだろうけれど……ガラガラ自身の足は短い。あれに関して言えばカラカラ系等の骨ではないっぽいな。ま、そこは気にしていても仕方が無い所か。

 ガラガラのタイプは地面。ポケモンの種族として注意すべきは、その物理的防御力の高さと……

 

「(……あと1つ……何か、何か引っかかってるんだけど)」

 

 ルリの講義を思い返してみるも、残念ながらすぐに結果は得られない。……もう1つ何か、重要な注意点が残っていた筈なんだけどな。なんだっけか?

 

 

「―― ガラッ、ガラッ!!」

 

「ヘナッ!?」

 

 

 考えているうちに戦況が動く。ガラガラに思い切り骨を引っ張られ、ミドリの体勢が崩されてしまった。

 

 

「離して、距離を取るんだ!」

 

「ナッ……!」

 

 

 木に巻きつけていた片方のツルを巻き取り、接近したガラガラから距離を取る。

 ……悠長に悩んでいる暇は無いな。今はまだ、オレの手持ちポケモン達とのタイプ相性が悪くないというのを強みにしていくべきだろう。

 前線にはルリも居る。電撃作戦であるからには、相手であるロケット団の側に時間制限もある。防戦に徹するのも悪くは無い選択だ……けど、ここで黙っている訳には……行かないだろ!!

 

 

「それなら行くかっ……ミドリ、もう1回『つるのムチ』!!」

 

「ナッ、へナァ!」

 

 《ピシィ、バシィ!!》

 

「ガラッ、ガララッ!!」

 

 

 四方八方から迫る2本のツルを、ガラガラは器用に捌いてゆく。それでも一撃も入らない辺り、元々の技量の高さが伺える。

 しかし相手の武器が骨だというのなら、距離を取っての戦いは有効だ。

 ガラガラのレベルは……と考え、「測定中」の文字が現れていたツールを閉じる。機器の調子が悪いらしい。レベルの判明は諦めよう。さっきのツルを挟んでの綱引きから、また進化系であるという事からも、少なくともレベルはミドリ以上であろうという予測をしておいて。

 ……そこだっ!!

 

 

「ミドリ、『きゅうしょねらい』!」

 

「! ヘェッ ―― ナッ!!」

 

 

 指示に応じ、ミドリが両方のツルでもって攻撃に転じる。

 距離がある分、あの剣の達人じみたガラガラへの攻撃は通り辛い。だからこそ、1本目のツルをあの骨で防御させておいて、『急所を狙った』2本目を正中に当てようという試みだ。

 5メートルほど。1本目のツルを、目論見通りガラガラは苦もなく弾く。絡みつかせないよう大振りになった後 ―― その隙を!

 

 

「狙って!」

 

「―― ナッ!」

 

 

 本命のツルが鋭く伸びて行く。

 1本目のツルを弾いたホネは振り上げられたまま。

 

 ……が、しかし。

 

 

「ガラッ!!」

 

 ――《スパァンッ!!》

 

 

 弾かれる。

 ……ガラガラが何処からか取り出した、「2本目の骨」によって!!

 

 

「は!?」

 

「ヘナ!?」

 

 

 思わず口から間抜けな声が漏れる。ミドリも同じだ。

 そしてガラガラに取って、その間は十分な「隙」であったらしい。

 一足に距離を詰め、

 

 

「ヘ! ……ナァッ!?」

 

「―― ガラァ」

 

 

 『ホネこんぼう』。

 ミドリを一刀(二刀流なのに)の元に切り捨て、打ち倒してみせた。

 ……まずいまずい。今の光景の衝撃で、さっき思い出そうとして思い出せなかったブツを思い出したぞ。

 

 

「『ふといホネ』かっ!?」

 

「……ガララァ」

 

 

 両手に骨を構えたガラガラはオレの声を受け、見せ付けるように突き出す。

 あれは「ふといホネ」。ポケモンに持たせることでバトルをサポートするアイテムの1つだ。ルリから貰った資料によれば、「ふといホネ」はカラカラ系統にとって思い入れのある一品らしく、その攻撃力を底上げしてくれるのだそうだ。

 

「(……骨が2本で攻撃力も2倍とかなのか?)」

 

 それは無いと信じたい所ではある。

 こうしてみる限り、その外見は元々持っていた骨と大差無いように思えるが……効果抜群ではない『ホネこんぼう』一発で、体力満タンのミドリを倒したのだ。攻撃力が半端無いという点について、少なくとも間違いはないのだろう。

 さて。いずれにせよ、この状況で距離の離れてしまったルリに助けを求めるのはいけない。オレとオレのポケモンらによって打開すべき状況である。

 負けられないぞ。もちろん負けたくもない。頭を回せ。ポケモン達の力を引き出して、活かし、その上でオレが「うまく」組み立てる。

 

 

「……っ、頼んだアカネ!!」

 

「―― ブ、ブィイ!」コクコク

 

 

 ミドリをボールに戻しつつ、2番手にイーブイ(アカネ)を選ぶ。茜色の体毛がぶるると振るえ……うん、危険な技(・・・・)は無い。大丈夫みたいだ。

 兎も角も、このガラガラとの間に明らかな力量差が隔たる以上、ごり押しではにっちもさっちもいかないのである。

 決戦に向けて「げんきのかけら」や回復アイテムは備えて来た。問題は使う暇があるかどうかだが……それはオレがどうにかすべき問題だな。

 戦況を組み立てながら、思う。

 ……少なくとも、苦戦は免れないみたいだと!

 

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 

「後ろの戦況が気になるか? チャンピオンさんよぉ!!」

 

「まぁ、気にしておいて損はありませんので。 ……ミュウ(『サイコショック』)! ジヘッド(『あくのはどう』)!」

 

 

 確かに後ろのシュンの戦況は気になるな。でもそれはラムダを相手取ってからでも遅くは無いし……とか考えておきつつも、右手を振るってミュウとジヘッドにサイン指示を出してゆく。

 毒ポケモンを主体とするロケット団の手持ちだけあって、攻撃という意味でミュウは有効に立ち回ることが出来る。防御面では毒攻撃を無効化できるクチートを基軸に、遠距離技を主体にしてじわりじわりと戦線を押し上げてやる。俺達は扉を背にしている為、ラムダの逃げ場を狭めている形だ。

 ここまでは上々。しかし面倒なのはラムダの「呼び出し方」というか、「布陣」というか。こうして少しでも隙を見せたならば……っと!

 

 

「そこだぜ、食らいつけラッタ!」

 

「ラァッタ!」

 

「援護を、クチート!」

 

「クチチィ!」

 

 ――《ガチィンッ!!》

 

 

 「またも」だ!

 しかし、そう。アーボックに向けて『サイコショック』を繰り出し静止していたミュウの横合から、隙を突いてラッタが飛び出したのである。

 対する此方は、クチートに割り込んでもらい、鋼の顎を楯に側面の援護を依頼しておいて。

 ……んでもって、それだけじゃあ終わらん!

 

 

「叩き込んでやってください!!」

 

「クゥ ―― チィ!!」

 

 《ド、パンッ!!》

 

 

 クチートが元から張っていた『みがわり』は突破されていない。おかげで体勢を崩す事無く、反撃の『きあいパンチ』をぶっこんでみせる。綺麗に決まった「みがきあ」コンビネーション。さあさ効果は抜群で、ラッタを木々の間へと吹飛ばしてくれた。

 よぅしよし……そんじゃ、次いでこっちで!

 

 

「ニドクイン(ジヘッドをカバー)!」

 

「ロケットダンンゥ、バンザーィ!!」

 

「―― ギュゥゥンッ!」

 

 《ズドンッ!!》

 

「クアァ!?」

 

 

 今度はジヘッドに、カルト染みた宣言を繰り返すヤミカラスが飛来していた。タックルで割り込んだニドクインによってことなきを得たが……ギリギリセーフだな、ほんと! とはいえレベル差があるから一撃ではやられないけど!!

 ……とまぁこの様に、お判りいただけただろうか。隙を見せたら最後。ラムダは常に「2対1」の状況を作り、手痛い一撃を食らわせようと狙ってくるんだよな、これが。実に悪役らしい、ルールに則らない手口ではある。いや俺もアポロに2対1を仕掛けようと企んだ事はあるけど、あれは未遂だったのでノーカンで。

 さてだ。こうしたポケモンの配置をしてくるラムダはというと、腰に着けたバッグから次から次へとポケモンを繰り出してくる。物量で押し通すつもりらしい。

 

 

「そらよ、新手だ!!」

 

「「「ドーガァ~ス」」」

 

 

 ドガースを3体。……やっぱり『じばく』には注意が必要だなぁ。

 

 

「自由迎撃を!」

 

 

 ミィから聞いていた情報から、ラムダのポケモンの『じばく』を意識しつつ。オレが全員に各個撃破との作戦方針を伝えると、あちこちに散らばったポケモン達から、頷くなり鳴き声なりの返答。

 よし。頼んだぞ、と丸投げしておいてだ。

 ……なんだろうな、その視線! ラムダさん!

 

 

「へっ。まさかあの黒尽くめ以外にも、んな馬鹿げたことをやってのけるトレーナーがいるなんてと思ってな。……自由迎撃だ? なんだそりゃってレベルじゃねえか」

 

「この程度、今のリーグでしたらざらに居ますでしょうに。でも、でしたら、少しくらい手を抜いてくださっても良いのですよ? 終わらせてさしあげますので」

 

「はっはぁ、意外と話せるじゃねえか天才少女! でもよ、残念ながらチャンピオン級のトレーナーとそのポケモン相手に出し惜しみは無しだ!!」

 

 

 正面に向き合ったラムダは、どうやら無駄話に付き合ってくれる積りらしい。情報を引き出そうという試みなのかも知れないが、ここはチャンスでもある。

 あー、因みに。ラムダについて解説を加えておくと、HGSSにおける占拠事件で局長に変装していたロケット団幹部だ。そういえばチョウジタウンの秘密基地でも連れてたな、あのヤミカラス。ヤミカラスが合言葉を連呼していたせいで発電所のロックが解けるとか言う、間の抜けたシチュエーションも印象的か。

 しかし今、重要なのはそこじゃあない。さらに言えばラムダの戦闘方針でもなく。

 

 

「―― 先ほどバトルを始める前に、貴方は研究といいましたね」

 

「そうだったか?」

 

「思うに、今回の事件は貴方達にとって『絶対の利』がある作戦なのですよ。何せ『雌伏の時』を経てきたロケット団が、わざわざこうして大掛かりな作戦を展開したのですからね。表舞台に立つのは避けたかったはずですし」

 

「真面目に答える義理はねえな」

 

 

 流石は変装の達人。とぼけて見せるものの、表情を面に出すことは無いらしい。だとすれば「研究」というのも本来重要な意味を帯びてはいないに違いない。

 ……けどな。真面目に答える義理はなくとも、俺にとっては興味も意味もある内容なんだ。

 

 

「いえいえ。あたしはある意味当事者でしょう? 何せこれは、あのカントー事変を発端とする『一連の流れ』なんですし」

 

「……。……てめぇは何を知ってやがる?」

 

 

 おおっと、やっとの事で表情が変わったな。

 だがしかし、俺がこれを読めていたのは、いわゆる原作知識によるものだ。おいそれと話せる内容じゃあなし。……いや、おいそれとどころか普通に話せないな。どうでも良いけど。

 

 

「まぁ、その辺りは適当にご推察くださればと。いずれにせよ、あたしにはこの件に関わる理由があるのだと判っていただければありがたいですね」

 

「……この件、って……おいおい!? まさか、昨日、カラカラどもを追い立てる邪魔をしたってのは……」

 

「ええ。あたし(と仲間)です」

 

「……。今、おれ様を迎えに来る予定のランスを妨害してるってのも……」

 

「ええ。あたし(の仲間)です」

 

 

 一部誇張が含まれているが、邪魔してるのは黒尽くめに扮したミィとそのサポートのナツメなので間違いはないな。うん。カッコをつければ。

 ついでに言えば俺も……シオンタウンの東の原でロケット団を追い払って、怪我をしたけどトリアージの結果医療施設からあぶれたカラカラ達を孤児院で引き取る算段を立てて、イワヤマトンネルやシオンタウンの野生ポケモンにも影響を及ぼしたんでその辺の調査を方針だけ指示して、無人発電所の無事を確認して、自分で引き入れた癖して女神姉妹にカラカラ達の世話を丸投げしたんでバーベナからジト目で睨まれて悪寒を感じつつもこの場へ急行したんだよ。

 ……さて。

 

 

「―― 覚悟は出来ていますか?」

 

 

 手間を取らせてくれたな、と暗に言い含めた満面の笑みで告げてやる。

 んでもって何より、変装中なんで口には出せないが、俺の妹も世話になったからなー。ああ。全力でお相手するぞと。

 ラムダの頬に一筋、冷や汗。

 

 

「……けっ。悪役ってのは損な役回りだなぁ、チクショウが!?」

 

「それも悪役の務めでしょう! ……さあさ、行きますよ!!」

 

 

 腕を振るい、ラムダの繰り出したポケモン達を一斉に攻め立てる。

 

 

「ミュミュミューッ!」

「―― プール~ゥ♪」

 

 

 切り込み隊長はミュウだ。

 それでも、今では全員が自分で考えながらある程度の動きは出来るようになってくれているため、皆の後ろ姿は大変に頼もしい限り。プリンも『フレンドガード』で全員を覆いつつ、俺の横で変化技を仕掛ける準備をしてくれているしな。大きな瞳でウインクが眩しい。

 

 

「クッチーィ」「ガチンッ!!」「ギュゥゥンッ!!」

「ガゥオォーン!!」「……ピジョッ!」

 

 

 俺からポケモン達へ。任せたぞ、気をつけてという想いを視線に込めつつ……相手を観察する事も忘れないでおく。

 今現在ラムダの手持ちは、(数の増減はあるものの)見えているだけで12体ほど。対する俺のポケモンは、プリンが非戦闘員的な立場なんで実質は5体。それでもレベル差があるため、何とかなるだろうという算段はつけられている。

 

「(……だとすれば、注意すべきはやはりラムダ自身の挙動だな)」

 

 例えば俺がかつてバトルをした別の幹部・アポロは、サカキに惚れ込んでいる様子があった。ミィに聞く限りではランスもそっち系。唯一の女幹部であるアテナは、その気がありつつも悪の組織という部分に誇りを持っている感じであるらしい。つまりはこれら、サカキというカリスマを中心として集められた人物達なのであろうと。

 そんな中、最も何をしてくるか判らないのがこのラムダ。こいつからはサカキを尊敬しているというよりも……いや、していない訳じゃあないんだろうが……何か、他に重視している部分があるように思えてならない。

 これが杞憂なら良いんだけどな。残念ながら、俺の悪い予感はかなりあてになる。悪い意味で。

 

 

「―― ア……ネ、『あまごい』!」

 

「―― ィ」

 

 《ポツ、ポツ》

 

 ――《ザァァァァァ》

 

 

 現在進行形でバトルは展開されている。

 どうやらシュンが選局を動かす為……仕掛けをする為に、アカネに『あまごい』を指示したらしい。

 

「(良い手だ。んでもって、雨はオレ達にとってもありがたい天候だぞ)」

 

 『あまごい』によって降る雨は局所的とはいえ、屋上程度は範囲の内だ。当然、俺の頭上にも強い雨粒が落ち始めている。

 ……ツーテールのキューティクル……は、気にしないで良い。それはウィッグだ。むしろ化粧が……いやナチュラル程度だから気にしなくて良い。気を強く持て、俺。

 置いといて。戦況も熟してきた頃か。例の電波によって「通信機器が妨害されている」とはいえ、援軍のランス率いるロケット団員を相手しているミィとナツメならば、そろそろ決着を着けてくれるだろう。

 

「(……逃走を図られる前に、どうにかして先手を取りたい場面)」

 

 シュンとそのポケモン達がかなり奮闘をしてくれている。流石だな……と思いつつ、ガラガラをシュンに任せながらも、そのガラガラの強さも十分に知っている。

 現在シュンが相手にしているのは、俺ことルリがシオンタウン周辺で立ち回った際、唯一群れを守ってロケット団の矢面に立ち ―― 辛くも捕らえられてしまった母ガラガラなのだ。その点について、ラムダの言葉に嘘は無い。

 しかしだからこそ、あの個体がバトルに強いのは相違なく……ついでに、孤児院で帰りを待っている子ガラガラのためにも、何とか連れ帰ってやりたいなー。と、考えている時分での遭遇となっていたのだ。

 つっても、今のシュン達がガラガラ単体に引けを取る事は無いだろう。シュンもそのポケモン達も、戦術と体術のレベル上げを油断無く積んできている。こうして研鑽の結果も出た。レベルではかなり劣っているというのに、ポケモン達の奮闘や道具の使用によって戦線を保てているのがその証拠だろう。シュンの求めた「トレーナーとしての強さ」、その一端を手に入れようとしているのだ。

 ……あー、ついでのついでに。そう言えば、あのガラガラはロケット団の「手に負えない」強さの個体だったご様子だな。唯一ボールに入っていないのが証拠だと思う。

 

「(ガラガラのためにも、孤児院で待ってるカラカラのためにも。……いや。他にもカラカラ達の件で迷惑かけてる女神姉妹とか、ここに援軍として向かっているロケット団の足止めって言う貧乏くじを引いてるミィ&ナツメのコンビに愚痴を言われない為にもだな)」

 

 さてさて、さて。

 ここは推して参るべき場面なのだし。

 ……ついでにこいつのご登場と行きますかっ!!

 

 

「行こう ―― ニンフィア!」

 

 《ボウンッ》

 

「フィー、アーッ♪」

 

 

 モンスターボールから元気良く飛び出したる「7体目」、ニンフィア。

 ニンフィアは俺の周りをぴょんぴょんと跳ねて回り、そのリボン型の触手を俺の右腕に巻きつけておいて、相手のポケモン達に向き直った。あー、巻きつける必要は無いけど突っ込みは後にしとこう!

 

 

「ここで援軍かよチャンピオン様!?」

 

「アナタに言われたくないですよ、物量作戦」

 

「……そいつぁ確かに」

 

 

 俺の適当な言い訳に、なんとラムダが殊勝に頷く。自覚はあったらしいぞおい。

 さて。ここは少しでも力が欲しい局面と考えて、援軍を呼んでみたのだが……「6体(フル)ローテ」でも無い限り、ポケモンが7体だろうと指示系統に問題は無いし。

 特に今の手持ち達なら、むしろ俺のフォローすらしてくれるだろう。援軍がニンフィアなら、ロケット団にばれないで済むしな。

 因みにニンフィアは勿論、マサキから貰ったイーブイが進化した姿な訳だが……

 

 

「そんじゃあこっちも援軍といくかよ!!」

 

 《《《ボボボウウンッ!!》》》

 

「「「ドーガァ~ス」」」

 

 

 援軍1体に対して3倍量、ドガースの群れが再度ラムダの頭上に現れる。3倍て、援軍過多だろおい。

 ……無駄思考はここまでにしておくか。タイプ相性的に「フェアリー」タイプであるニンフィアは不利。ここは集中していかないとな。

 そんでは!

 

 

「続いてくださいっ、ニンフィアっ!!」

 

「フィアアーッ!」

 

 

 最後まで油断しないでいきますかね! 最後まで!!

 






>>ラムダ
 現在シュン達の目の前に姿を現している分には、HGSSのあの姿で間違いはありません。
 ですが、変装の達人がわざわざ素顔をさらす必要性もないのではないかと愚考しております。

>>ガラガラ
 ここでガラガラは出しておかねばなりませぬ、という強迫観念。つまりはポケモンタワーへの伏線です。……まぁ駄作者私ですし、日和った結末になることは請け合いですので……と連呼していますね。
 あと2刀流大好きです。2本持って攻撃力も倍々ゲームですぜと言わんばかりの。
 スターバースト……っ○×△ッッ

>>カッコつける
 無意味にネタをネジこんできましたね。

>>フレンドガード
 周囲のポケモンの防御力を上げる技……と、解釈させていただいております。
 ミュウツー戦に向けてこれを習得させる為に、ショウとプリンはマコモさんの研究に協力していましたという、大分忘れかけている伏線があったりなかったりします。ドリームシンクの研究に、眠りの歌姫は有用性抜群だったという次第です。
 いえ……だから、大分前の話なのですけれどね(苦笑。とはいえ特性やら技やらといった面倒な話題は、ここ幕間で語りたかったという目論見もありました。
 因みに。研究云々といった話題の顛末については、BW2特別編に持ち越しの予定。

>>妖
 八重歯がたまりません(詳しくは後々


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