ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ8-5 カントー源流域にて

 

 

 

 ―― カントー源流域

 

 

 

 ぬかるむ訳ではないけれど、古木がやたら倒れていたり、小川が細かい支流となって足場を埋め尽くしていたり。

 日本の原風景というか、そういうイメージの風景がやたらと広がるエリアにいよいよ足を踏み入れる。

 ……というか、こう配がきついなぁ。上下が激しい。っても高地な訳じゃあないぶん、易しくはあるか。納得。んでは。

 

 

「この辺りから調査エリアですね。がんがん写真とサンプルとってきましょー」

 

「了解ですわ。ショウさんはあちら?」

 

「ええ。だのでエリカさん達は向こうをお願いします」

 

「お任せください」

 

 

 採取の基準は覚えてもらってるんで、エリカお嬢様が素早く動いてくださる。

 ついでと辺りを確認。見通しは悪くないが、木々の間引きとかがされているわけでもないので、良くもない。今はプラターヌ兄に高い位置に立ってもらって、周囲の野生ポケモンやらを見てもらってはいるけれども。

 

 

「だとしても何かあったら頼むな、ダクマ」

 

「グッマ!」

 

「ふふ。やる気十分ですわね」

 

「モッジャ!」

 

 

 カメラを構えたエリカお嬢様の膝丈くらいに、負けじとモンジャラが蔦を盛り上げる。

 エリカお嬢様の手持ちポケモンはこのモンジャラの他に、ラフレシアとウツボットがいてくれる。何方もレベルは20台後半で、俺のポッポとニドランよりはダクマに近い。いずれにせよ戦力としては大変にありがたい限りだ。

 

「んー……自然保護区のポケモンは、人なれしてませんからね。あんまり刺激したくはないんですが、これも調査ですんで」

 

 自分に言い訳しながら、興味津々な保護区域内の撮影とサンプル採取をこなしてゆく俺。

 横転した車からここに来るまでに遭遇した野生ポケモンは、まぁおおよそ予想の通り。サファリゾーンで見られるようなメンバーだった。植生にもよるが、サイホーンとかドードーとか。基本的には『いやいやボール』的なものを投げてご退散いただいている。あれな、ポケモンスナップで使ってた奴。中身はどうやら、ゴールドスプレー的な化学刺激の強いものというよりは、自然由来(・・・・)であるらしい。……より生々しくて嫌だと思うのは俺だけだろうか。

 だからこそ(科学刺激強いんで)手あたり次第使う訳にもいかなくて、タイプ相性悪くない相手には、ダクマに応戦してもらっていたりするんだけどさ。

 しばらくポイントを等間隔に広げつつ、採取採取。エリカお嬢様が額の汗をぬぐって。

 

 

「ふぅ。……周辺はわたくし達で終えられそうですけれども。中央付近はどうされます?」

 

「出来れば数か所、土壌だけでなく水質のサンプルを採っときたいですね」

 

 

 ちらっと上のプラターヌ兄を見る。

 ……腕を回して東西南北確認、最後に高台の側を指さした。どうやらサンプルを採取すべき水の流れの大元は、そちらにあるらしい。

 

 

「水源は高台の方みたいですね。こっち総当たりで片づけたら……っと。ダクマ。先手頼んだ!」

 

「グマッ!」

 

「―― ホォォン!?」

 

 

 木陰。「こちらに飛び出そうと構えていた」サイホーンに、ダクマが先手で仕掛ける。

 覚えている技は、これまでの練習で見てきている。今の所の最大威力で、『かわらわり』!

 

 

「グッマァ!」

 

 

 震脚から、腰の入った拳。サイホーンの巨体が大きく傾いて、そこへ ―― 当て身(・・・)

 うわすっご!? うまぁ!

 

 

「ホォン!」

 

「グマッ……グマ!!」

 

「ホォォォン……!」

 

 

 どすり、とサイホーンが倒れこむ。本当に何というか、「対ポケモン」の訓練を相当量積んできた動きなんだよな。ダクマは。

 技ではない純粋な立ち回りで、サイホーンの『つのでつく』の死角側へ回り込んで、被弾を最低限に。そのまま体術で……よく判んないくらいすごい身体をひねって、威力減衰のないまま密着からの『かわらわり』2発目。

 

 うーん、何度見ても凄い。ゲームやアニメの範疇にしかない俺の想像を、遥かに超えた動きだぞこれ!

 

 引いてはマスタードさんの教えも凄いって事なんだろうけど……これだけ出来ているダクマに、俺から学んでもらえることなんてあるのかね、と思わないでもないな。うん。

 さて。俺の少ないながらの経験上、こうして音を立てると他の野生ポケモンが……。

 

 

「エリカさん、そちらも! ……っと。心配するまでもないですね。見事なお手前で」

 

「ええ。お相手させて頂きましたわ」

 

「モジャッ」

 

 

 しずっ(擬音)と佇むエリカお嬢様とモンジャラの奥で、目を回したオニドリルが木の幹にくたりと倒れこんでいた。手早い!

 まぁここは森の中、木々の間である。どうやら草タイプのポケモンには相当なアドバンテージがあるようで、相性不利であるはずのオニドリルですら、手も足も出なかったようだ。モンジャラに傷が見当たらないものなぁ。

 周囲を見回す。『つるのムチ』の手足になりそうな草木が沢山。『せいちょう』に使えそうな日差しに水源。空が制限された状態で、地面の高低差も激しい。飛行ポケモンが活躍するのはちょっと不便だよな。フィールド大事。覚えておこう。

 

 

「お流石ですね。そういう部分の知識では敵わんですから、いずれご教授とかお願いしたいです」

 

「ふふ。ショウさんにお時間の猶予があるのならばいつでもお相手を、とお答えしておきますわ」

 

 

 痛い所をつくなぁ。お世辞を見抜かれたようで俺が頬をかいてむーんと唸ると、エリカお嬢様も再び笑う。

 しかしまぁ、最も心配していた源流域における野生ポケモン相手には、戦力的にはダクマとエリカお嬢様がいれば足りないという事はなさそうだ。何より何より!

 などと、時折出くわす野生ポケモンに対処し、場所を変えながら周辺のサンプル採取を続ける。高低差がある分、露頭とかには恵まれているようで、ありがたいことこの上ない。どうしてもな地形にはニドラン♀に協力してもらって、ちょっとだけ削って貰って採取。

 そんなことを繰り返していると、想定よりかはやや早いくらいの時間で採取を終えることが出来ていた。

 

 

「先ほどから依頼の通り、ここいらに逗留しているレンジャーの方々も手伝ってくれ始めましたし、この辺りのサンプル採取は彼と彼女にもう任せていいでしょうかね」

 

「そうしましょう。……では、いよいよ本丸に突入するのでしょうか?」

 

「表現が物々しいですが、まぁそうです」

 

 

 これだけ対面していると判ってくるが、エリカお嬢様はユーモアたっぷりなんだよな。

 それに、心根が強い。「本丸に」と言っているあたり……いちばんの問題についても理解していて、ついでに心構えまでしている節もある。

 そうなんだよなぁ。問題ないと良いんだけどなぁ……。

 

 

「そんじゃ、上に行ってプラターヌ兄と合流しましょう」

 

「了解ですわ。運んでくださいな、モンちゃん」

 

「モッジャ!」

 

 

 モンジャラの(ツタ)エレベータをお借りして、俺とエリカお嬢様とダクマも上へ。便利だなぁ。

 高低差をすいっと、プラターヌ兄が居る場所まで……っと。

 

 

「―― ごめんよショウ。少しばかり厄介ごとだ」

 

 

 地面に腹ばいに伏せた姿勢のままで、プラターヌ兄が言う。

 何事かと、俺とエリカお嬢様がこそこそとその後ろへ近づくと。ついでに兄に倣って腹ばい。

 ……視線の先。高台の下。

 

 こんこんと湧き出る透き通った清水と、それが貯留したひろーい池。

 すんごい神秘的な雰囲気をまとっていたりするんだが……そこに、黒一点。

 お待たせしました、黒ずくめの集団!

 

 

「うへぇ」

 

「キミの『嫌な予感』は本当に当たるね、ショウ」

 

 

 最近ではうへぇ大盤振る舞いな俺の視線の先で、いつもの集団こと ―― ロケット団が、たむろしていたのである!

 まぁさ。予測は出来ていたけどさぁ。関わらない理由がないものなぁ、ロケット団。だとしても、もうちょっとやり方ってものがあるだろうに。

 思いつつ観察を継続。見えている頭数は5。腰につけているモンスターボールは1つずつ。おぉほんとに下っ端だ、とか考えていると。

 

 

「……少し、お聞きしてもよろしくて?」

 

「どぞ」

 

「なぜ、ロケット団はここに居るのでしょう」

 

 

 そう、尋ねられた。

 エリカお嬢様はちょっとばかし強張った顔を隠せていない。『いっつも悪事に関わっている集団』という認識はあれど、直接的に顔を合わせるのは初めてなんだろう。10才だものな。割と芯からの悪人と出くわすのは、そら緊張するって。

 ……というか俺も(悪事の現場で)直接顔を合わせるのは初めてだからな。人員自体は、親父と一緒に行ったゲームコーナーで見たことあるけど。

 プラターヌ兄は「説明は君に任せた」と言わんばかりに親指をぐっ。畜生め。……あー、理由か。それはまぁ聞いてみないとホントのところは判らないけれども、予測は出来なくもない。

 

 

「俺の想像でよければ、ですけれども。有力なのは『今回の俺たちの調査に先んじて』ここに来たって説ですかね」

 

「それは、どういう……?」

 

「今回俺らは、お国からの通達で調査を受けました。お国というか、まぁ本筋は協会とリーグなんですけどね。そこは置いといて」

 

 

 国を通して相談があって、リーグが承ったっていう流れなのは仕様がないので。

 あとオーキド博士にまでまわって来たのは、単に「ビッグネームだから」だろう。箔は大切だものなぁ。その分、こちらも利用させてもらっているのでお相子ではあるけれども。

 だからこそ、だ。発信先と経由先。

 

 

「だから、ロケット団は『依頼を出したことを傍受できた』んです。で、俺たちに先んじて水質をいじろうとしてるんじゃあないですかね」

 

「なるほど……」

 

 

 俺からの意見を受けて、エリカお嬢様が考えこむ。

 ……つまりは、今の話を芯から理解できたっていう事だ。実に才媛!

 

 

「調査の結果を悪く出来ると、あの方たちにとって利がある。そういうことでしょうか」

 

「かもしれない、くらいで捉えといてもらえると助かります。悪の組織の考え方なんて知ったこっちゃあないですんで。まぁ環境保全に力を裂くことで対ロケット団の人手を削れるとか、そういう遠回しな理由かもしれませんが」

 

 

 そこは大切じゃないからな。今重視すべきは、調査結果に横入りされるのは困るし……そもそも気に食わない! って所だ。

 そんな感じなので、俺は敵意マシマシである。お嬢様も心なしか、気合を入れてくださった表情だ。足元で俺と同様に伏せの格好をしたダクマも、眼力つよつよである。

 

 

「ショウ、突貫するかい?」

 

「ですね。いつもの布陣で頼みます、プラターヌ兄。……隣から怪訝な目で見られているので、エリカさんにも判るように説明しますが」

 

 

 そら当然訝しまれるわなぁ、と考えつつエリカお嬢様にも注釈を付け加える。

 

 

「俺が前に出て時間を稼いで、プラターヌ兄には脅かし役(・・・・)をしてもらうっていう手段で行きます。フィールドワーク中にヌシとか、高レベル帯のポケモンにご退去いただく際の常とう手段なんですよ。俺たちの班では」

 

「な、なるほど……?」

 

 

 少し首を傾げつつも、エリカお嬢様は策自体は受け入れてくれたようで、こくこくと頷き返してくれる。

 

 

「だので、エリカさんは下に居てサンプル採取を手伝ってくれているレンジャーのお二方を呼んで下さると助かります」

 

「……不躾ながら。わたくしが居らずとも、こちらの戦力は足りるのでしょうか?」

 

 

 俺の手持ちのレベルを知っているからこその聞き返し。冷静だなぁ。

 しかしまぁ、これまた当然の質問。俺に時間稼ぎが出来るか否か。証明する材料は少ないだろうけれど。

 

 

「いちおう言っておくと、足りています。普段は俺とその班だけでバトルを切り抜けますが、今回はプラターヌ(にい)も居る。十分過ぎるかと」

 

「ボクのリザードも、ショウに指揮をお願いするのさ。それに今ではダクマも居るよ。正直なところ、ポケモンバトルにおいては彼が一番に頼りになる。そうだろう?」

 

「グマベアッ」

 

「頼もしい限りで。……だので、こちらは俺とプラターヌ兄へ任せてもらってエリカさんは下へ。レンジャーふたりの指揮下に入ってください。ロケット団は取り逃がす可能性が高いんで、人を捕縛するための準備をお願いします。だのでいちおう言っておくと、下だからと言って安全ではありませんよ?」

 

 

 むしろうち漏らしをお願いしたいのだし。あと伏兵なんて珍しいわけでもないだろうし。なにせ、相手は悪の組織なのだから。

 ……そこまで話した所で、今度は別の種類の怪訝顔を浮かべましたるお嬢様。何事で?

 

 

「聞いてはいました。変わり種(・・・・)なお方であると」

 

「ショウの事かい? そうだね! 彼はとっくべつに型破り(ユニーク)さ。でもそれは、見方を変えれば変わり種(スペシャル)とも取れる。期待したくならないかい?」

 

「……そうですね。少しだけ、上からな物言いにはなりますが……」

 

 

 伝家の宝刀、上目遣い。俺、まだ地面に伏せたままだけども。

 エリカお嬢様はちょっとだけ素の表情を ―― 彼女を少しだけ彩るいたずらっぽさを、こっちにも向けてくれた様相で。

 

 

「現トレーナーたるわたくし共の世間一般な常識(・・)。既存のポケモンバトルにおける『レベルと数の絶対』というものを覆すことが出来るのならば。それを許される状況と場でもあるのならば。そのお手並みを拝見させていただいても、宜しいでしょうか?」

 

 

 全然上からじゃない態度で、お嬢様から格別のご愛顧をいただいた。うん。期待には応えたくある!

 実際、こちらの戦力は十分以上だろう。策を3重くらいに用意できる程だ。あとは湖に居る野生ポケモンを先んじて逃がして、多面展開(れいのもの)。……相手側も人が指示を出す状況でやってみるのは初めてだけれども、「むしろ時間的な猶予が増える」と考えている。

 ぶっつけ本番でやってやれない事はない。うっし!

 

 

「そんでは、俺とダクマは行きますんで。よろしくお願いします!」

 

「ッグマ!」

 

 

 気合の後、ふたりして崖を滑り降りていく。

 相手ロケット団員の手持ちを確認。ボールに入ってさえいれば、開発中のバトルツールでポケモンの種類は確認できるんだよな。身体データが数値化できていないんで、レベルは判らないんだけれども。

 

 さてさて、なになに。ズバット1、コラッタ1、リージョンラッタ1、アーボ1……その他(・・・)もろもろ。

 リージョンラッタは相性的にはいいけど……んー、アーボかなぁ……。

 

 どちらにせよ場にポケモンが出ていないんで、近づいてからだな。先制の不意打ち(アンブッシュ)は出来ないけど、考えようによっては、相手がポケモンを繰り出すまでの間で湖の中に野生のポケモンがいないか確認できるってことでもある。破れかぶれの特攻とか仕出かされても研究としては困るんで、優先したい。

 

 ずざざっと降りた俺とダクマに、いちはやく気づいた団員が振り向く。ボールに手をかけた。

 そんじゃあ、ロケット団員戦、いきますかぁ!

 

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 

「……心配かい?」

 

「当然、心配ですわ。それは貴方とて同じなのでしょう?」

 

 

 目の前で、お嬢様はそう返す。

 でもボクは見逃さないね。その態度には、しっかりと「希望」と「期待」とが見え隠れしている。

 

 

「少しだけ作戦について補足をしておくと、ボクは遊撃ですよ。戦わない訳じゃあありません。リザードもショウの指示には慣れているのでご安心を。ただ、だからこそボク自身はトレーナーだと胸を張って言い難いけれどね」

 

「……ええ。貴方の持つ資格についても、存じ上げております」

 

 

 下調べは十分にするタイプのお嬢様のようだ。心強い……と、ショウも言うだろうね。

 

 

「それは光栄だ。ならば知っているのでしょう? ショウはきちりと、風穴(・・)を開けるために。そのために新種のポケモンや新タイプといった風を吹き込もうとしていることを」

 

 

 お嬢様の唇が強く結ばれる。そちら同様、研究界隈に吹き溜まったきな臭さについても知っているようだ。勤勉だなぁ本当に。いや。彼女の立ち位置からすれば、否が応にも耳に入る部分があるのかも知れないな。

 さてどうするか。作戦の事を考えたら、ボクは早く動くに越したことはない……けれども、こちらもまたやっかいな境遇(バックボーン)を抱えた令嬢である。

 その背を押すだけの時間的な余裕は、うん。ショウが余裕綽々に応じていた(あれはおそらく見栄も多分に含まれているけれども)だけあって、いちおうあるか。続けよう。続けるだけの価値は、あるはずだ。

 

 

「子どもだてらに立ち向かう。ポケモンと一緒なら……と語ることは出来るけれども、実際に目の当たりにすると実感するよね。立ち向かう相手の迫力というか、必須な胆力というか」

 

「……ええ」

 

「相手が野生ポケモンでも悪の組織の大人でも ―― そうだね。これはあくまで例え話なんだけれども、相手が産みの親(・・・・)だったとしても、事と次第によっては立ち向かうんだろうね。彼は」

 

 

 語りの間も、お嬢様の目はその中心にショウを捉えて離さない。

 一挙手一投足に注目し、彼の活躍を逃すまいと揺れ動く。

 

 

「まぁ、彼の両親は極めて善良な研究者だけれどね。立ち向かうと言っても、まずは言葉なんだろうし」

 

「……。……なぜあんなにも、彼は一生懸命なのでしょう……? 一生懸命に、まっすぐに……自分に素直に、なれるのでしょう」

 

「そうだね。……彼は始めから、何かひとつの物事を成し遂げようとしているように、ボクは感じているよ」

 

 

 所感だけれど、と付け加えておいて。

 

 

「それが悪事ではない限り、誰もが応援するような物事をね。早すぎると思うかい? ボクとしてはまぁ、天才っていうのはそういうものなんだろうなぁ……くらいに思っているけれど」

 

 

 だからこんなところで挫けるような人じゃあない。ボクのショウに関する評は、そんなところだ。

 ボクが遅まきながらカロスを旅したように。そうすることを進めてくれたのは、他でもない彼だった。その際には、カントー地方では珍しいポケモンたちを「図鑑の進化系統収集」っていう名目まで付けて、連れ立たせてもくれた。

 用意周到だ。根回しは早いし的確。先見の明もある。なのでこの場も、彼が大丈夫と見込んだならば、本当に大丈夫なのだ。つまりは心配には及ばない。

 

 

「では、あなたが心配しているのは……?」

 

「よくぞ聞いてくれた!」

 

 

 びしりとキメ顔。無駄に伊達男と言われることが多いボクだけれど、どうやらお嬢様には不評だったようだ。

 顔を元の、彼の事を語るための表情に戻しておいて。

 

 

「ロケット団員とのポケモンバトルなんか目じゃあない、何か。彼が打ち破ると決めている目標そのものさ」

 

「……目標」

 

「そう。『壁を破る』からには、まず『破るべき壁にぶつかる』必要がある。ボクが心配するとすれば『その日その時、彼らは打ち破るだけの力を持っているのか?』というあたりだろうね」

 

 

 彼が相手取ろうとしているものの強大さは、身に染みて理解している。

 なにせ直接的、物理的にどうこう出来る問題じゃあない。途方もない根回しと、時勢と、時間までもが必要だ。

 ……だから、ね?

 

 

「だからこそひとつ提言なんだけれど。貴女が悩んでいるなら、直近の内に彼にを頼ってみてはどうだろう? 例えば、年若いけれど相応ではない立場をもってしまった……っていう共通点のある、いち友人としてね」

 

「……」

 

「肝心の企みをあけすけにしてしまうとだね。ボクとしては、彼が壁にぶつかったその時に、ひとりでも多くの人が助力をしてくれると嬉しいんだ。キミは適任だろう?」

 

「そう、ですわね」

 

「ああ。だからボクはキミの背を押すよエリカ嬢。ただの10才の女の子が、誰かに甘えてみるくらい。許されてしかるべきだろう? そうして貴女が『彼へ返すべき借り』のひとつやふたつ作っておいてくれると、いつか壁にぶつかった時に助力して貰うための理由も出来る。なんだ、一石二鳥じゃないか!……ってね。どうだい?」

 

 

 そう締めくくる。だって単純に、年は近い方が共感できるだろうからね!

 まぁ、任せてしまうとまた彼に「プラターヌ兄さぁ……」って、愚痴をこぼされてしまうのだろうけれども。それも可愛い弟分からのものと思えばご愛嬌だ。

 ……それにショウの側も、お嬢様には何やら興味津々だった。観察が過ぎていたからね、判るって。そもそも、放っておいてもショウは自分から首を突っ込むタイプの気性だしさ!

 ボクからこの提言を受けたお嬢様は、しばらくの間、唖然とした表情でいたけれども。

 

 

「……ふふ。そうですわね。少し、考えてみます」

 

「そうするといい。若いうちは悩むことも大切だよ」

 

 

 どうやら彼女にとっても何かしらの進展はありそうで、何よりだ。

 ……それじゃあ、ある程度の憂慮も晴れたところだし。

 いよいよボクの方も、準備をするとしようか!

 

 






 演台にあがるのは嫌いです。ポスターもちょっと(




・ポケモンスナップ
 新作おめでとうございます! いやっほうめっちゃ楽しい。
 イヤイヤボールの化学物質云々は、当てるとベトベターが喜ぶあたりから。
 ニコニコ時代から、学会方々のRTAのあの動画がめっちゃ好きでリピーターです。


・ゲームコーナー
 今の技術で、ゲーム内でも本格的な奴をプレイしてみたかったなぁ。
 今はもう、届かぬ願いなのでしょうけれども。

 ちなみに主人公はメダルコーナーで遊んでいただけなのであしからず。
 でもめっちゃ稼いだ。


・お家
 そんな複雑なあれではないです……。
 ただ、エリカさま編の「校正前の展開」に世界線的なものは収束していくと。そういうイメージです。

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