ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

136 / 189
1995/秋 待ちかねろ学園祭

 

 

 Θ―― タマムシシティ/南郊外

 

 

 遅れてやってきた夏休みも涼しさを増し、佳境を迎えた頃。

 タマムシシティの南西に在る園芸サークルの一室に、20名超のスクール生徒が集まっていた。かくいうオレ、シュンもこうしてサークル部室に集まっている訳なのだが……うーん。なんで呼ばれたんだろうな。木の実の収穫にはまだ若干早いし。

 暫くそのまま待っていると、サークル顧問のエリカ先生に引き連れられショウが正面に立った。ホワイトボードを指しながら声を上げる。

 

 

「さて、集まってくれてありがとな。時間は無駄にしたくないから直ぐに本題に入るけど……皆に集まってもらったのは他でもない。学園祭の『出し物』の事なんだ」

 

「えええ、学園祭ぃ!?」

 

「おう。良いリアクションをありがとな、シュン!」

 

「なんでそんな大げさなリアクションなのよ……」

 

 

 オレとショウのやり取りを、呆れた表情で見つめるナツホ。いつもの構図だな。うん。

 けど、珍しくサークル員の収集がかかったと思えば、待ち受けていたのは「学園祭の出し物」を決めるという実に民主的なイベントであったらしい。

 

 さて。

 開催を控えるは、タマムシ大学の学園祭こと ―― 『虹葉祭』。

 

 大学を含む全域が敷地として使われる、他の学園祭と比べてもかなり大きな規模のものだ。タマムシ大学の傘下にある全ての学校が対象であるため、当然オレ達のエリトレクラスも参加することとなっている。

 しかし、その「虹葉祭」にはサークルとして「出し物」を用意しなくてはならないらしく……オレら園芸サークルも例に漏れず、恒例の屋台を出展しなければという流れなのである。

 

 

「合宿があったエリトレクラスは代わりの夏休みが長めだって言っても、それも残り2週。今の内に内容とかを詰めておけば、近くなってから焦らなくてすむからな」

 

「ふふ。それに、早めに企画を練っておけば企画書を他のサークルより早く生徒会に提出することが出来ますわ。似通った内容の出し物だと、どうしても先着順になりますから……そういった点で有利に運びますでしょう」

 

 

 ショウが語ると、隣の畳が敷かれた和室区画に正座しているエリカ先生が微笑みながら解説を付け加えた。それにしても……うん。なんともショウらしい理由である。

 ともあれ、どうやら先手を打っておくことで後々に色々で様々で諸々なアドバンテージがあるらしい。既に夏休みも終盤。園芸サークルの皆も無事に帰省を終えてスクールに戻ってきている頃合の今であれば、確かに意見を纏めるくらいなら出来るに違いない。

 

 

「まぁエリカ先生の言う通り、そんな感じなんだ。そんで皆から意見を聞きたいと思ってな。ほい、園芸サークル長のナタネ先輩、こっから宜しく」

 

「ええっ、ここであたしなの!? あなたがここまで説明済ませておいて、あたしに何を言えと!?」

 

「意見を募って下さればと。俺はホワイトボードに書き出しますんで」

 

「くぅっ、……もう!! はいはい意見のある人は手を挙げてっ!!」

 

 

 煽られつつも慣れたもの。煽り耐性抜群のナタネ先輩は、気を取り直して発言を促した。

 サークル員達は次第にぼそぼそ、ざわざわ、がやがやとざわめいてき出す。

 

 

「育てやすい苗をプランターに小分けすれば?」「ああ、それ用のはサークル代々のスペースを用意してあるから大丈夫」

「木の実も売ればいいんじゃない」「ポケモン連れの人には売れるかもね」

「押し花でしおりとか?」「間に合わなくはないかな。でも需要も問題だし」「図書館脇のスペースで販売して貰えば」

「とりあえず模擬店の周りは花一杯にしなくちゃねー」「それは同感」

 

 

 部屋のそこかしこから雑談の声があがり、ショウが聞き取った意見を端からホワイトボードに並べてゆく。

 暫くすると意見も出尽くしたようだ。声が収まり、皆がホワイトボードに並んだ意見を眺める体勢をとり始める。オレもそれに習って眺めてみて……と。

 苗や木の実の販売は、園芸サークルの専売特許のようなものだ。決定で間違いないだろう。屋台は代々の園芸サークルに受け継がれた骨組みがあるみたいだし、少々の大工仕事をこなせば飾り付けだけで済むみたいだしさ。

 ショウは挙げられた案1つ1つに腹案と手順の解説を挟んでゆく。ショウとエリカ先生、それにナタネサークル長による事前の手回しは首尾よく済ませられていたようだ。やるべき事も思ったより少ないな、などと考えつつ……すると。

 

 

「あの……お菓子、とか、どうでしょう……」

 

 

 型通りの意見が出揃った所で、前髪少女ことミカンがおずおずと手を挙げ、ぽつりと呟いた。やや静まり始めていたサークル室内であったためか、小さなその声もやけに通りが良いように思える。

 

 

「お菓子? ……って、なんで」

 

「あう」

 

 

 誰かが疑問を口にすると、ミカンがびくっと身を縮こめ、見るからに萎縮。あわあわと周囲を見回し、今更に自分に注目が集まっているのを感じてか、一層慌しくなっていって。前髪の下の目はさぞやグルグルしているに違いない。

 と。ここで助け舟を出すのはそっちの役目だろ ――

 

 

「……あー、俺はいいと思うぞ。ミカンの意見」

 

 

 ここで、今までは意見を出さずに静観していた書き手たる奴め(ショウ)が、いつもの口調で割り込んだ。流石、期待には応えてくれる奴。

 そう言えばショウはあの孤児院ボランティアの後も変わらず、夏休みの間はずっと、ミカンの鬱憤晴らし活動のお供をしていたらしいんだが……それは兎も角。ここでショウの助力が入るのは大きいぞ。何だかんだサークルの重役だしな。

 ショウの発言に、全体が思わず傾注。ショウはちらとミカンへ視線を送り。

 

 

「……あ、の……ショウ、君?」

 

「おっと、悪い悪い。……始めに聞いとくけど、ミカン。お前もある程度はお菓子作れるんだよな?」

 

「はっ、はっ、はい」

 

「それならミカン主体で活動出来るし、木の実を使ったお菓子っていうなら他にも得意な友人に心当たりがある。俺自身もコンテストのコンディション調整のお菓子ぐらいなら作れるしな。何より、トレーナーだけじゃあなくポケモンも食べられるお菓子って、それこそお祭り向けじゃあないか?」

 

「まぁ三大欲求にダイレクトに訴えかける分、プランター並べてるよりは集客が見込めるわね。あたしは良いと思う。増収よ、増収!」

 

 

 『虹葉祭』における収支は、そのままサークルの活動費用に直結してくる。肘を突いて事の成り行きを眺めていたナタネサークル長が賛同すると、サークルのムードも一気に賛成側へと傾いた。

 各々が騒ぎ始め、声が飽和してゆく室内。……しかし、そこへまたもショウが突っ込む。

 

 

「つっても問題はあるんだけどな。商品としてお菓子を出すなら、ある程度の種類が欲しい」

 

「なんでよ?」

 

 

 相変わらず直球なナツホが尋ねるが、しかしショウも手馴れたもの。待ってましたとばかりにホワイトボードの端を指した。

 そこに貼ってあるのは、他のサークルの出し物(予想)一覧だ。

 

 

「勘の良い奴は判ったと思うが、これがそのまま、他のサークルの出し物予想の一覧にもなる。根拠は昨年の出し物なんだが……いや実際、学園祭はサークル代々で同じものをやる事が多いからな。多分そうそう外れてはいないと思うぞ。そうだろ、ナタネ先輩?」

 

「そりゃそうね。屋台だってタダじゃないんだし、出し物を変えるたび新しい屋台を出してちゃあキリが無いわ。その点、うちのサークルの屋台は毎年補修して装飾変えるだけ。わたしも去年はプランター売ってたし……それに、プランター売りなら地面に置けば屋台のスペースをとる事はないものね。その分をお菓子を売るのに使うのなら、問題は出ないと思う」

 

「ああ、それでお菓子の種類がって訳か」

 

「あによ、シュンまで。……だから、何でなのよ?」

 

 

 どうやらショウに曰く勘の悪い奴に分類されるらしいナツホが疑問を向ける。

 ショウはあー……と間延びした声を出しながら顎に手を当て、解説。

 

 

「シュンの言う通り、つまり、端的に言うと競争力の問題だな。他のサークルもお菓子自体は出してくるだろうし、木の実のお菓子っていう発想に到るサークルは多いと思う。スイーツサークルとかになると、毎年本格的なのを出してたはずだ」

 

「あら。そういえば去年、ショウと一緒に回った際にいただいた覚えがありますわ。ナツメも一緒でしたわね」

 

「……。……いや、エリカ。このタイミングで思い出すのは兎も角、割り込まなくて良い場面だったよな?」

 

「うふふふ」

 

「意味深っ!? え、今の割り込みに一体なんの理由が……」

 

 

 あーあ、と。いつもの顧問漫才である。

 他のサークルの人が見ているのならば兎も角、園芸サークルからしてみれば日常の風景だけどな。生暖かい視線を繰り出して防御力低下を試みるのも慣れてきた。

 ……ジムリーダーで両手に花とかな。いい加減、そろそろ爆発しないものだろうか(にっこり)。ゴローンが転がって来い。

 そんな型通りのやり取りをこなした後で、ショウはえふんと仕切り直す。

 

 

「そんで、話題をもどすぞー。……どっちにしろ花押しの園芸サークルにお菓子が1品ってなると、どうしても他のサークルのに埋もれてしまう。となるとこっちは『ポケモンも食べられる』の他に、栽培している木の実の種類の多さを武器にした『お菓子の種類』位の対抗手段(セールスポイント)は用意しておくのが良いんじゃないかなぁって感じなんだが……どうだ? これなら園芸サークルの色を出せると思うぞ」

 

 

 最期に問いかけると、今度は部室全体が喧騒に包まれた。

 

 

「えー、でもわたし達が作るんでしょ? 大変じゃない?」

「簡単なのだったら出来なくはないと思うよ」

「単純に作ってみたい気はするけどなー。設備とかは?」

「大学の施設を使わせてもらえば何とかなるんじゃないかと思う」

「日持ちのする焼き菓子とかで売り切りにすれば、保存は気にしなくて良いし」

「女子の手作りに心惹かれない奴は男じゃないだろ」

「勿論作るとなったらあんた達も作るんだけどね」

「すごい事に気がついた。エリカ先生の手作りって言う付加価値」

「よし作ろう今すぐ作ろうやれ作ろうの三段活用……は、出来てないか」

「「「 だんしたち は はりきっている!! 」」」

「いつ『きあいだめ』したのよ!?」

 

 

 とかとか。

 手間がかかる事を悩んだ人は居るものの、どうやらおおむね賛成であるらしい。

 かくいうオレもサークル長の言う通り、プランターだけで人を呼び込めるとは思わないので賛成だ。園芸サークルとしては新しい試みになるんだろうけれども、そこはショウが大丈夫と太鼓判を押すのだから問題はあるまい。門外漢の部分はアイツとサークル長に丸投げだ。

 ある程度の意見が出揃った頃合をみて、ナタネさんが手を叩き注目を集める。

 

 

 《パン、パンッ!!》

 

「はいはい皆注目! それじゃあお菓子作りは決定で良いわね? 異論のある人は……そうね、後であたしに直接言って頂戴な。考えとくわ」

 

「そんじゃあナタネ先輩、次は班分け宜しく」

 

「はいはい判ってるわよ、もう。……ああ、勿論、園芸サークルが毎年やってる活動も疎かにはしないから! ……模擬店班、プランター班、木の実班、お菓子班に分けるとして……模擬店班はそこのアナタ、プランター班はあたし、木の実班はショウが取り仕切って……お菓子班は……そうね。あなた、ミカン!」

 

「ひゃいっ!?」

 

 

 ナタネさんに名指しに呼ばれると、小動物的なリアクションのミカンが、またも縮こまる。

 前髪の奥でうろうろと動く眼に視線を合わせ、ナタネさんはにかっと笑う。

 

 

「あなた、言いだしっぺなんだから班長をお願いするわね。それに当然、ショウがフォローするんでしょ?」

 

「そりゃ勿論。つっても、俺はナタネ先輩と同じくどの班にも顔は出すからな。何か手伝える事があったらなんでも言ってくれ……ただし動くのは基本的にサークル長のナタネ先輩で宜しく」

 

「そこでこっちに振るかなぁ! あなたも少しは年長者を敬いなさいよね!?」

 

「敬ってる敬ってる。12才ジムリーダークラスのナタネ先輩」

 

「それが敬ってないんだって、何で判らな……いや、あなたの場合はそれも判った上でそういう対応なのよね……。ああ、頭が痛いわ……」

 

「ふふ。ご安心を、ナタネさん。わたくしエリカも、顧問として微力ながらにお手伝いをさせていただきますわ」

 

 

 エリカ先生がフォローを入れつつ、そのまま細かい所を話し合う。

 2週間後に控えた書類提出期限に向けたスケジュールを詰めると、最期にエリカ先生が畳スペースにぴしりと立った。

 

 

「それでは皆さん、宜しくお願い致しますわね。園芸サークル一同、成功に向けて頑張りましょう」

 

「「「はぁーい」」」

 

 

 こうして、『虹葉祭』に向けた園芸サークルの活動が始まった。

 

 

 その後も少しだけ話を詰めて、後日連絡という流れになった。これにて本日の話し合いが終了したとみると、部室を出た先でサークル員達が次々と解散していく。

 ショウが伸びをして、その脇に立ったミカンがおろおろ。どうやら話しかけるタイミングを窺っているみたいなのだが……

 

 

「さてさて、そんじゃあ! こっちも頑張りますかね、ミカン」

 

「……あのう……はい。ふ、不束者ですがよろしゅく、おにぇがい、しましゅ」

 

「あっはっは。いつにも増して噛み噛みだなー」

 

 

 そこはショウの事。どうやらコミュニケーションに関する問題は無さそうだ。

 ぺこぺこと頭を下げるミカンとは一定の距離を保ったまま、ショウが腰に手を当てて笑う。しかしそれを見かねた様子のナツホが間に割って入り、ふんと鼻息を荒くして。

 

 

「……全く。ほらショウ、ミカンを緊張させてるんじゃないわよ!」

 

「りょーかい。微力を尽くす。……ほいほい、そんじゃあミカン」

 

「ひゃい!」

 

「いきなりで悪いんだが、これからお菓子作りが得意な奴の所に案内するんで着いて来てくれないか? そこで話し合って、借用できる施設とか器具とか……あー、後は日付を決めてこよう。その方が話し合いも進めやすいからな」

 

「あ、は、はい。……その、あの、名前……」

 

「あー、そいつな。ナナミって言う、俺の幼馴染なんだ。丁寧な奴だから安心して良いと思うぞ。……ナナミはジョーイ資格を取る為に、実家のあるマサラタウンからタマムシにまで来ててな……っと、今の時間は別棟にいるらしいから大丈夫だとさ」

 

 

 手元のトレーナーツールを使って連絡を取っていたのであろう。ショウが文面を指し示すとミカンがそれを(若干遠目に)覗き込み、うんうんと頷く。

 

 

「あの……わたし、作れ、ますか……?」

 

「んー……無責任に作れるとは言わんが、コンテストに出るなら覚えて損は無い。それにまあ、一般的なお菓子ってのはテキスト通りに分量さえ守ればどうにかなるもんだ。俺でも出来るんだし、大丈夫だろ。多分な」

 

「……は、はい。……が、頑張りますっ」

 

 

 奴めは「多分な」とか言っているのに、ぐっと拳を握ってやる気を見せるミカン。

 ……傍から聞けばショウが無責任なだけに聞こえるのかもしれないが、恐らくショウは「多分な」という言葉に重圧を減らす意味合いを込めたのだろう。しかもその意図をミカンが読み取れる事までを予測して、だ。

 なあんて、オレがむやみやたらに考えている内。いつの間にかショウとミカンは離れた位置に移動して、こちらへと手を振っていた。

 

 

「おーい! そんじゃまた後でな、シュンとナツホ!」

 

「……!」ブンブン

 

 

 大声を上げるショウ。何かを言っているっぽいのだけど、聞き取れず、目一杯手を振っているミカン。

 彼らへ向かって、オレとナツホも手を振りかえしておいて……その姿が小さくなるまでを見送る。

 

 

「ミカンがちょっと心配ね。ショウと一緒で大丈夫かしら?」

 

「まぁ良いんじゃないか。仲良くはなってるみたいだしさ」

 

「……ショウの場合はそれこそ心配になるでしょ。……仲良くなるって」

 

 

 成る程、それは最もな御意見で。

 全く持って異論は無い。まぁ、もう手遅れな気もしてなくはないけどさ!

 

 

 

 ΘΘ

 

 

 

 ―― なんてやり取りがありつつも、オレとナツホは「お菓子作り班」としての活動を始めた。

 屋台の場所や大工仕事は他のあてを頼るらしく、話し合いの際に当たりを付けた「木の実を使ったお菓子」についての内容を詰めるのがオレらの主な仕事になる。

 しかし「つっても売る時にはお祭り価格だからな。材料費とかは業務用スーパーで買えばどうやってもプラスにはなるだろ」とショウが言うので、採算は度外視。まずはその内容を決めておこうという流れになった。

 そこで、オレとナツホにその他のサークルメンバーを含めた面々で話し合ったところ ――

 

『 他の地方で特有の、木の実を原料とした、ポケモンと人間の両方が食べられるお菓子 』

 

 という題目が掲げられた。

 木の実を使ったお菓子と言うのは珍しい発想ではないらしいので、ショウの言う通り園芸サークル独自の色を出して行こうという感じだ。

 因みにここで「地方特有のもの」としたのは、宣伝文句が考え易いから……とはナタネ部長の談。相変わらず実も蓋もないお方であった。守銭奴っぽい。まあ、一緒に地方のアレンジを取り入れれば独自色の手管として使えるから、別に問題はないんだけどさ。

 

 さて。

 それらお菓子の内容を決めるに当たって。オレ達は折角の国立図書館を利用し、幾つか当たりを付けてみる事にした。広い図書館の中から曖昧なキーワードでお目当ての棚を探すのは難しかったのだが、そこは図書館司書のお姉さんに尋ねて中りをつけてもらう事で解決。あとは人海作戦で資料を読み進めて行った。

 ではでは、その成果を以下に並べて行こう。

 

 まず、ホウエン地方発祥のお菓子として「ポロック」というものがあるそうだ。

 ポロックは木の実入りの角砂糖兼キャラメルみたいな感じで、粉砕して混ぜ合わせて固めれば出来るため、商品としての数の確保が容易である。ポケモン用のおやつとしてはこれ以上なく、携帯し易さや食べるポケモンを選ばないのが利点だ。あとは、砕くと木の実の香りが増すらしい。

 折角なのでセキエイ高原合宿で知り合ったホウエンの友人達に詳しい作り方や現地アレンジを聞きつつ、ポロックをラインナップとして加える事はめでたく決定。

 

 次に、シンオウ地方発祥のお菓子「ポフィン」も採用が決定した。

 ポフィンはポケモン向けに味を調整してある焼き菓子だ。混ぜたり何だりという工程は必要だが、シンオウ地方出身のナタネ部長に曰く、木の実を使ったお菓子としてはメジャーなものであるらしい。

 メインの品として十分に活躍できるポテンシャルを秘めているため、これについては即・採用と相成った。

 

 3つめ。オレの地方……ジョウト地方のものも何か無いかと探したのだが、菓子類となるとどうにも記憶からは思い当たらない。煎餅とか饅頭なら一杯あるんだけれどさ。

 なので、出身地の事も同様に図書館を利用して調査。するとどうやら「ポケスロン」なる競技を行う人達の間で「ボンドリンク」という木の実を原料としたジュースがあるらしいことが判明した。

 ただし、その「ボンドリンク」の原料が問題で。木の実の中でも一際大きく味に癖を持つ「ぼんぐり」と呼ばれるものが原料であったのだ。

 「ぼんぐり」は一般的な木の実とは区別され、一般的に栽培はされていない。ジョウトにおいては一部の町にぼんぐりをモンスターボールへと加工する技術を持つ職人がおり、彼らは自生した木々から収穫されたぼんぐりを加工しているのだそうだ。

 肝心の食用はというと、桃色ぼんぐりなどは甘い香りがするそうなのだが、総じて独特のえぐみ(・・・)があるため食用には適していないらしい。煮詰めに煮詰めえぐみを消した上で、やっとのこと食べられるのだとか。

 しかし栄養価は高いらしく、何より土さえ合っていれば痩せた土地でも一年中収穫が見込めるらしい。そんなぼんぐりをなんとか飲用のものとして利用したのが「ボンドリンク」だ……というなんとも複雑な歴史があったりする。ここまで国立図書館の「今昔モンスターボール」「レジェンドオブポケスロン」より引用。

 ……さてさて。こうなるとぼんぐりの収穫方法が問題になるのだが、その解決方法については心当たりが無い訳でもない。オレとナツホがこれについて、我らが万能なる利器・ショウへと相談を持ちかけたところ。

 

 

「あー……そんじゃあ丁度良かったな。ぼんぐりは直接はポケモンの食用にならないんで、別のスペースで排他的に栽培してるのがあるんだ。流石に土も気候も違うからか実の大きさはジョウト程じゃあなくって、モンスターボールの作成には使えないんだが……ん。ジョウトでポケスロンの特集を企画してたアオイさんやらクルミ曰く、ボンドリンク加工のためってんなら問題はないっぽいぞ。時機を見て収穫しとくから、必要量だけ連絡くれればオッケーだ」

 

 

 これが、軍手に枝バサミを持ち脚立にまたがり枝の選定をしつつ放たれた台詞である。奴は危険だ。便利すぎる(褒め言葉)。

 とはいえショウに頼りすぎるのもあれなので、収穫の申し出については断った。時期だけを教え、サークル員で収穫を行う事が決定。

 

 あとは合宿の前にショウと共にカロス地方へと出かけていたミィから、「ポフレ」について作り方を学んだ。

 これも焼き菓子なのだが、ポフィンと違うのは始めからデコレーションする土台として出来上がっている点であろう。粉砕したポロックなんかも使えるらしいので……ま、この辺は女子の皆様方のセンスにお任せだな。

 因みにカロス地方と言えばミアレシティの木の実ジュースもあるが、これについてはボンドリンクと被るために除外しておくこととなった。まぁ競争力がありそうなのはボンドリンクだよな。珍しいし。

 

 とりあえずの品目はこれら4種類。他にもお菓子は色々と見付かったのだが、友人から知識を得られる範囲となるとこの辺りが切り上げ時だと判断した。

 そんな感じで決定した内容について報告を行い、ナタネサークル長からの許可を貰う。

 菓子作りの練習についても段取り良く進んだ。女子寮のフリースペースにオーブンがあるらしく、使用について申請をしてみた所、女子寮長から入寮許可を得ることが出来たのである。

 ……申請の際に提示した取引の条件は、練習で余った菓子を女子寮の皆様方に無償で提供すること。満場一致で受け入れとなったのは全くの余談だったりするんだけどさ。

 とまぁ、ありがたくも試食をしていただいている女子寮の皆様方からじゃ中々の好評をいただいていたりするので、味については問題ないみたいだ。本番は街の人や外来のお客がターゲットなので、ここで山ほど食べられた所で飽きられると言う心配も無い。

 

 

 なんて。ここまで、学園祭に向けた準備は順調なのがお判りいただければ幸いか。残る詰めの部分はナタネサークル長とミカン、それにエリカ先生が協力して行うらしいしな。任せてしまって良いだろう。

 となると実際に動き始めるまでオレ達には仕事が無く、再びの夏休みが訪れる。

 

 ―― ああ。訪れたかに、思えたのだが……。

 

 それは男子会で使う菓子類の買出しに行った、帰り道。

 荷物をポケモン配達に頼み、タマムシデパートから帰宅する際の出来事だった。

 

 

「おいシュン、ゴウ。あれ見ろよ」

 

「なんだユウキ……む」

 

「あれはー、……女の子ぉー?」

 

 

 ユウキとゴウ、それにケイスケまでもが首を傾げたのも無理は無い。

 年はオレらの少し下だろうか。フリフリした目立つ服……ミィに倣った様なゴスロリ服を着る少女が、モンスターボールを片手にタマムシシティの郊外へと走って行ったのである。

 モンスターボールを持って走る少女。これだけならばよくある光景だ。だが、既に時間は18時を回っている。日は沈み、辺りには秋めいた冷たい空気が漂い出していて。

 少女の格好も異様さに拍車をかけている。ゴスロリの可愛い服を着ていながらも、その服は土と葉っぱで汚れていたのだ。それはお洒落に気を使っている(っぽい)少女が、周囲に気を回す余裕を失くしているという事でもある。

 オレ達は思わず顔を見合わせる。

 

 

「―― しゃーない。追いかけますか!」

 

「僕も今回ばかりはユウキに賛成だな。流石にこの時間帯に郊外へ出るのは危険と言わざるを得ない」

 

「そんじゃあオレがナツホ達にメールしといて……ん、よし。行こう」

 

「あっちってー、ヤマブキシティの南側に出る通路だよねー?」

 

「だな。あのガキンチョ、どこへ行くつもりなんかね」

 

 

 少女の背中を追って。

 夕闇に染まりつつあるタマムシの郊外を、オレ達は揃って走り出していた。

 






 これにて一旦切りとなりますです。

 
>>そこのアイツ
 ナタネの指名の台詞より。パワプロでいうモブの事です。
 昇級試験ではよくよく滅多打ちにします(されます)。私的には彼がクビになっていないか、大分心配していたり。
 まぁ、ゲームの突っ込み所はそれ自体も楽しみではありますけれど!

>>ポケモン世界のお菓子
 こうしてみてみると、結構数はありますよね。種類は少ないですが(ぉぃ
 ぼんぐりに関してはちょっと悩みましたが……ボンジュースはやはりジョウトに特徴的なものでしょうということで。
 今日もムーンボールやヘビーボール入りのポケモン達を求めて、ジョウトを彷徨う廃人がまたひとり……

※ボール引継ぎが成される昨今のポケモンにおきまして、ムーンボール等ガンテツさんのボールに入ったポケモンを手に入れるに、能動的にはHGSSから引き継ぐしか手立てが在りません。GTS以外だと。廃人要素の塊ですね(にっこり

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。