「―― 酷い目にあったわ。覚えてなさいよ、ショウッ!?」
「スマン。そして判った。報酬ちょっと上乗せしとく」
「せめて誠意で支払えよ……」
テレポートから数分の後。
やっとの事顔色の回復したオレとナツホはポケモンハウスの居間に案内され、ソファーに突っ伏していた。
ショウの説明を信じるならば……元より疑う気は無いが……どうやらオレ達に襲い掛かったのは『テレポート』酔いであったらしい。脱力感と浮遊感、頭重感……それと嘔tいやなんでもない。
「……でもさ。こういうのがあるなら事前に言ってくれ、ショウ。本気で見せられないよ、な映像をお届けするかと思ったぞ」
「いや、本気でゴメンって。普段は俺1人なもんで忘れてた。背中をさするから替わりに秘伝マシンをおくれ」
「意味が判らないって。……それより、そのポケモンだ」
「あー、そうだな。このフーディンは俺がシオンタウンに行く日だけ、ナツメから借りてるポケモンなんだ。言おうと思ったらもう『テレポート』発動寸前でな」
――《カタタッ!》
「おう、悪いな。いつも世話になってるよ」
「フーディン? ……それってナツメさんの切り札じゃないの?」
ナツホが聞き返すと、ショウは頷く。
言う通り、フーディンといえばヤマブキジムのリーダーであるナツメさんのエースのポケモンだ。何故それがショウの手元にある、なんて流れになるのだろうか。
するとショウはそのまま顎に手を当てる、何時ものポージング。
「まぁ確かにそうなんだが……だから、シオンタウンから帰る時はいつもナツメが迎えに来る事になってんだよ。俺は1人で移動するのも好きだし、自分の自転車があるからナツメの手を煩わせなくて良いって言ってるんだけど。どうも時間が掛かるのは非効率的だとか言われるとなー」
等々、ショウは話を続けるものの……恐らくも何も、会うための口実だと思う。ナツメさんの策略だ。
同じことを思っていたのであろう。隣のナツホが頬杖を着き、呆れの色を濃厚に、オレの意見を代弁して言い放つ。
「はいはい、何時ものショウね!」
「あー、そうだな」
「そしてお前が同意するのか!」
「ナイスなツッコミをありがとな、シュンもナツホも。……と」
ソファーを挟んでいつものやり取りを繰り広げていると、ショウは何かに気付いたらしく、突然オレらの後ろへと視線を向けた。
何を……おお。
「―― いらっしゃいましたね、ショウ。お茶を入れてきたのですが……何やら皆さんお疲れのご様子です。どうぞ」
「ここで休んでいったらいいんじゃないの? ほらほら、わたしとバーベナと子供達が焼いたクッキーとか出してあげる!」
オレも視線を移せば、その先でピンク髪マシマシと黄色髪ハネハネの少女が2名、お盆を手に持ってこちらを見下ろしていた。2名の少女はそれぞれ、各々が髪色と同系統のワンピースを纏っている。儚げだが清楚な雰囲気は、孤児院という環境にも2人にも実に似合っていると言って良いだろう。
そのまま持ってきたお盆を机に乗せて、湯飲みとクッキーがオレらの目の前へと置かれた。何となくだけど安心感というか何と言うか、そんなものを感じる動作だ。
「あんがと女神姉妹。ポケモンハウスはどうだ?」
「どうもこうも。貴方が来た先週と相変わらず……皆、心身ともに壮健です」
「平穏よ、平穏。世はなべて事も無し。ショウも平和、好きでしょ?」
「はっは、そりゃ勿論! ……さてさて、紹介をしなきゃな」
ショウが言って、少女達が談笑をしながらテーブルに着く。
……見た目は2名共、オレらと同じ程度であろうか。どこか浮世離れした様な雰囲気のある……姉妹、で良い筈。ショウの言葉を借りるなら、ではあるけれど。
「こちらは女神姉妹。ピンクの髪がバーベナ、黄色の髪がヘレナ。同年の11才だけど、俺が居ない間はこの2人が孤児院の面倒を見てくれてるんだ。……そんで女神姉妹。この2人は同い年、俺のスクールでの友人。男子がシュンで、女子がナツホ。今日の『ふれあいの家』のイベントを手伝ってくれる予定。ほい、女神姉妹から挨拶どうぞ!」
「貴方に言われなくとも。……失礼しました。お初にお目にかかります。わたし、バーベナと申します。本日はお二方が催しのお手伝いをして下さるとの事。どうぞ、宜しく、お願いします。……それにしても。ショウに何か迷惑をかけられてはいませんか?」
「ねえバーベナ、それは流石に失礼……普通に友人じゃ駄目なの? ……あ、わたしはヘレナっていいます。バーベナとは姉妹みたいな感じね。いやぁ実際、手伝ってもらえるのはとても助かるんだ。悪ガキどもの見張りをするだけでも結構大変でさ」
バーベナが深くお辞儀をすれば、横からヘレナがフォローを入れつつの挨拶。コンビネーションも良く、物腰も何かと丁寧な印象を受ける。
……しかし、隣の幼馴染が疑問符を浮べていてだな。
「姉妹……みたいな、感じ? ってあによ。姉妹なら姉妹ってはっきり……」
あ、この流れは拙い。素早くフォローを、と、
「待てナツホ。……ここはどこだと思う?」
「? ここ……って、勿論……孤児院……あ」
ぽかっと口を開けたナツホは、想定通りに気付いてくれたらしい。あわあわと視線を動かし……オレの出番。
「……さて。2人とも、話を切って悪かった。とりあえずこっちも自己紹介するよ。オレはシュン。隣は幼馴染のナツホ。どっちもショウと同じポケモントレーナーでさ、今回はお手伝いに参加するんで宜しくお願いします」
「…………なんかゴメン。あたし、ナツホ。宜しくお願いします……」
微妙にへこんだ我が幼馴染が、遅ればせながら挨拶を返す。まぁ孤児院だからお察しという辺りはオレも勘なんだけどさ。
ここで少女方々の反応を気にして表情を窺ってみれば、件の2名はしかし、さして気にした風も無く笑っていた。ヘレナが手をぶんぶん振って、ナツホへと笑いかける。
「ううん。気を使ってくれてアリガト、シュン君。それにナツホも気にしないでね。変に気を使われるよりは全然良いからさ! すぱっとした性格なんだねー。あ、他にも何かあったら遠慮せずに何でも聞いて頂戴!」
「そうですね。ヘレナの言う通り、気にすることは無いです。わたし達自身も生い立ちについては全く覚えておりません。ついぞ気にした事も、ですよ」
「そう言ってくれるとありがたい。な、ナツホ」
「うん。……えと、ありがとう。ヘレナ、バーベナ」
ナツホが必殺の上目遣いを発動しながら2人と順番に握手。うんうん、良き哉良き哉。
目の保養になるような美人方々の紹介の後。バーベナとヘレナとも微妙に馴染んだ感じがした所で。
「うっし。さてさて……これにてポケモンハウス重役との顔合わせも済んだ事だし、さっさと打ち合わせに……」
「いえ、ショウ」
「……ん? 何かあったか、バーベナ」
「フジ老人が帰ってきていませんよ」
「それって良いのかな? 勝手に進めて」
ショウが本題を話し出そうとすると、女神姉妹から突っ込みが入れられた。
聞けばどうやら、そのフジ老人という方がこの孤児院の代表を務めている人らしい。
だとすればバーベナとヘレナの疑問は最もなのだ……けれども。
「あー、良いと思うぞ。許可は貰ってある。……どうにも最近、黒服のがここらに出張り始めてるからなぁ。急遽その辺りを『お話し』しなきゃいけなくなったんで、今日のイベントの仕切りは俺に任せるってお達しを貰ってるよ」
ショウはいつもの事とばかりに、そう返していた。見ればバーベナもヘレナもまたかという感じ。……いつもの事なのか、これ。子供に任せる仕事かよ。いや、オレもナツホも子供だけれど。
……ま、その辺は気にしないでおこう。ここまで含めていつもの、と言える辺りは実にショウらしくもある。それよりもだ。
「黒服って、ロケット団か?」
「あー、いや、それに関しては俺の言い方が悪いだけだ。黒いのはスーツで……直接の関係は、少なくとも表面上は見当たらない。土地の利権とかの話になるとどうしても俺は舐められるんで、そういうのは事前に打ち合わせしてからフジさんにお願いしてるんだって」
ショウの話を聞くに、お話しの相手はロケット団ではないがどうも
しかし得意分野の舌戦でショウよりも、となると……フジ老人はそういった方々にも最低限の顔が通っているお人だという可能性があるのだが。
……いや、これ以上は考えるのを止めておこう。きっと筋骨隆々のお爺さんで、
などとそのまま、流れた話題を強引に引き戻してから、ショウが仕切りなおした。
「そんじゃあ今日の予定をおさらいな。場所はここから徒歩5分の位置にある公園で、開園は10時から。今回はうちだけでなく他の提携してる孤児院との合同企画だから、他の地方とか、海外からもお客さんが来る予定だ。子供は総勢200人前後。監視と運営を含めて他の孤児院からも応援の助っ人は来るし、勿論シュンとナツホと俺ら以外のトレーナーもボランティアとして参加する。……お偉いさんも居ると思うけど、そういうのは俺か女神姉妹、または後から到着するフジ老人が接遇する手筈だから、シュンとナツホは聞かれた時にテントまで案内してくれればそれで良い。つまりシュンとナツホは設営の他、子供達とポケモンで遊んでやるのがメインの仕事になるな」
そういえば昨日渡された紙に書いてた気がするな。海外からも、とか。半ば忘れてたけれど。
そのまま、ショウは来る団体の名前やら参加予定のお偉いさんの顔写真やらを見せながら解説を続けてゆく。小気味良く進めること5分ほど。ある程度の説明を終えたショウは首を捻って腕を伸ば、伸びをする。
「んー、っと! こんな所か。……バーベナ、ヘレナ、あと他に注意点はありそうか?」
「そうですね……。特に最近、子供たちの間でポケモンバトルごっこが流行しております。ここに居るポケモン達は基本的にレベルが低くなっているので、危険な事にはならないと思うのですが、それとなく気を配って下さると大変助かりますね。……ヘレナ?」
「わたしも? うーん、バトルについてはバーベナが言ってくれたからね。……イシツブテ合戦は良いけど間違って『じばく』しない様にコダックを必ず抱いておかせてね、とか。室内で遊んでるポケモンを無理やり外に出すのはやめてあげてねー、とか。そんな感じかな」
そして、バーベナとヘレナが幾つか注釈を付け加えてくれた。うーん……こうして話を聞くだけでも注意点は数多く、中々に大変そうだ。
「さて。あと何か、質問とかは無いか?」
「あたしは無いわね。……シュンは? 何かある?」
「あ、それじゃあ折角だから直接の関係はないけど気になってる事を。……女神姉妹ていう呼び名については聞いても良いか?」
ある程度場もこなれた所で、オレは遅まきながら突っ込みを入れてみる。
いやさ。最初から気にはなっていたんだけれど、我が幼馴染のフォローに入ったから時期を逃していたんだ。やっと聞けたよ。
質問を受けた女神姉妹は、しかし、揃ってショウの方向を見つめていて。……あ、やっぱり原因はコイツか。
「えぇー……と。……解説してくれるか、ショウ」
「残念ながらそんなに深い理由はないって。2人ともキレイ所だろ? そんな感じ。命名は俺な!」
そこで胸を張るな! 由来が全く持って判らんから!!
……というか、暗に女神みたいに綺麗だって言ってるとなると口説き文句でしか無い訳で。うん。オレは普通に呼ぶことにしよう。脳内では呼ぶかもしれないけどさ。
「いくら止めてと頼んでも、ショウは聞き入れてくれませんでしたから。イジメでしょうか。イジメは良くないのです」
「いーじーめーてーまーせーんー。美しさは罪だって誰かが言ってた気がする」
「って、ショウは見ての通りの感じでね。それでわたしもバーベナも、もういっかなって諦めたんだ。まぁね、悪い気はしないんだけどね。流石にこうして初対面の人にも平然と『女神』とか使われると……うん。恥ずかしいって」
「やっと定着してきたんだけどなー」
止めてよというヘレナの言葉をショウは平然と受け流す。奴は止めるつもりがないらしい。ショウは普段は子供離れしている癖に、こういう所でだけ相応の子供っぽいんだよなぁ。
「つー訳で、だ。まずは公園で他の施設の人達と顔合わせしてそのまま設営に移る予定。今から案内するんで、全員着いて来てくれよ」
「わかった」
「さっさと案内しなさいよ」
「……皆、良い子で待っていて下さいね」
「バーベナの言う通り! 喧嘩なんてしてたら、あとでおしおきだからねー」
「「「はーい」」」
オレとナツホは早々に扉を開けたショウの背を追って席を立ち、女神姉妹は子供達に言い聞かせてから。
5人でもって、シオンタウンへと繰り出した。
Θ―― シオンタウン/公園
ポケモンハウスを出て15分ほど歩けば、町の南側、シオンタウンの町立公園へと到着。
公園の入口から入って、まずはショウに連れられながら挨拶回りをこなす。孤児院同士のネットワーク的なものがあるようで、シンオウ地方やホウエン地方、オレのジョウト地方からも人員は集まって居る為にスタッフ側も中々な人数が動員されているようだった。
……そういえば、シンオウ地方といえば……あのヒヅキさんが明日、コトブキ社とシルフの提携協力の会談(をする父に着いて)カントーを訪れるらしく、ついでにタマムシシティに顔を出すのだそうだ。オレも合宿のイツキ戦の前に言っていた「お返し」について、待っていてくれとメールで連絡を受けている。
彼女と会うのもそうだが、加えてアカネがブラウンに会えるのを楽しみにしているんだよな。どうやらアカネは、ブラウンの騎士的な態度(と、とりあえずは呼称するが)に感じるものがあったみたいだし。
話を戻して。
挨拶回りを終えてからはショウおよび女神姉妹と別れて公園で設営を始める。やはりボランティアとなると男手は少ないらしく、柵や旗の運搬の様な力仕事が主だったものとなる。
……ショウに付き合って運動はしてるから、まだマシになっているとは思うんだけどな。なんだか微妙に腰が痛い。
しばらく設営を済ませてポケモン達を誘導した所で10時となっており、いよいよ本番。入口からどっと流れた沢山の子供達が、公園中に放たれたポケモン達を追いかけながら散ってゆく。
「……凄い元気」
「オレ達と5つくらいしか違わないけどな。5年前はオレ達だってあんな風だったと思うぞ?」
「ま、それもそうね。マダツボミの塔とかアルフの遺跡でかくれんぼとか、毎日の様にしてたもの」
「そんで最後には皆でユウキを捜索し出す所までがセットだけどな」
ナツホの隣で走り回る子供達とポケモン達を眺めながら、少しだけ思い出話に浸ってみるものの……さて。
こうなると、オレ達の仕事はショウの言っていた通り安全管理および遊びの相手になるだろう。
それじゃ気合入れて、相手をしますか!!
ΘΘΘΘ
そうして、子供達と遊んで2時間が経った頃。
オレとナツホも大分ボランティアに慣れてきて、子供達とポケモンを昼食の振舞われている区画へ案内している最中だった……のだが。
「―― 失礼ですが、運営側の方。ひとつ、道案内をお願いしても宜しいですか?」
子供達全員が、そろってぽかーんと口を開けた。
「「「……でっかぁ」」」
「へッナァ」「グッグゥ」「ブイゥ」ササッ
それも仕方が無いこと。何せ、オレの後ろから声をかけてきたのは、身長2メートルはあるかという大男であったのだ。
紫と金が多用された豪華な装飾のマントを羽織り、モノクルを装着し……その背後には影と見紛う様な黒い人物が控えているが、SPか何かだろうか。
どちらにせよ威圧感が半端ないせいで、子供達は一斉にオレとナツホの後ろに隠れてしまう。すると。
「―― アナタ達は下がりなさい。子供達が怯えているでしょう」
「……はっ」
察した男の人が、優しげな声音でSPを下がらせる。……ってか一瞬で消えたぞ、今。人力テレポートかよ。
しかし体駆や格好を差し引いても、この人自身にもオーラがある感じだな。これがカリスマ性という奴だろうか。SPもついていたし、それにポケモンハウスで見た顔写真も記憶に残っている。ショウの言っていた「お偉いさん」の1人に違いない。
オレはやや態度を整えつつ、隣のナツホへ目配せ。
「……すまないナツホ。オレが案内するから、暫くここ頼んだ」
「いいわよ、別に。さっさと行って来れば良いじゃない」
「お? シュン、どっか行くのかー」
「えー」
「シュンお兄ちゃん、また後でねー」
「ああ。案内終わったらまた来るからさ、皆、良い子にしててくれよ? お前たちも、宜しく頼んだ」
「グッグ!」「ヘナッ!」「……ブィ」コクッ
最後にポケモン達にも声をかけ、色よい返事を貰った所で、オレは男の人の居る側へと向き直る。
「すいません。お待たせしました」
「いえ。此方こそ、お手数をお掛けした様で。お仕事中に申し訳ありません」
「構いません。これも仕事ですし、そもそもオレ達はボランティアですから。それでは……あちらです」
男の人を数百メートル先のテントまで案内する事に。
しかし、暫く歩いていると……うーん。
「あの、杖とか車椅子を用意してきましょうか?」
などと、オレがこの提案をしてみたのには理由がある。男の人の歩き方は、どうにも右脚を庇っている様子なのだ。不自由とまでは行かないものの、それなりに動かない状態であるらしい。
……モノクルを右側にしている所を見るに、もしかしたら、右半身が……なのかも知れないけれど。
「お気遣いをアリガトウ。見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません。……ですが、大丈夫ですよ。多少歩き辛いだけなのです、問題はありません。むしろ歩くのは好きなのですよ?」
見苦しくはないと否定したかったが、件の男の人は会話繰りによって安易な追求を回避。
問題ないといわれてしまえば、此方としてもあとは触れない方が安牌だろう。などと、切り替えることにしておいて。
その後も、男の人は微笑みながら話を続けてくれる。
「……この町の孤児院であればワタクシも何度か訪れているのですがね。カントーをこうして歩くのは久方振り……公園に至ってはまったくの初めてでして。ワタクシとした事が、不安だったのです。貴方が居てくれて大変に助かりました」
「そうなんですか」
「―― ところで。貴方も大変お若く見えますが、何歳になられるのです? いえ、失礼。この場にて、しかも初対面の得体の知れない男に年齢を聞かれて大変困惑されるかとは思ったのですが……このイベントにはどうにも若いトレーナーが多くいらっしゃる。ワタクシとした事が、興味をそそられてしまいましてね」
「大丈夫です、気にしてませんよ。オレは今年11才になった所です。エリートトレーナーを目指している学生で」
「おお、それはそれは。ワタクシにも同い年の息子がおりまして、どうも親近感とうか保護欲というか、そんなものを覚えてなりません。皆さん将来有望なようで何よりです。それに若い人材を育てることは何処の国でも、何時の時代でも必要となる案件でしょう。貴方達の様な方々が未来を担ってくれるのであれば……いやはや、カントー地方も安泰というもの。これも年寄り故の老婆心という物なのでしょうけれどね」
饒舌というよりは、話し慣れしているといった方が適切か。そんな相手側の会話の上手さもあってか、オレは結局会話を途切れさす事無くショウの居る所まで案内する事が出来た。
設営されたテントに一礼。男の人の体格からすると小さなその入口をオレはそのまま、後から着いて来た男の人は屈みながら潜る。
目的のショウは入ってすぐ、入口の脇に座っていた。子供達を見ながら名簿に何やら書き込んでいたショウは、此方に気づくと顔を上げて立ち上がる。
小走りに近くまで寄ってきて、男の人と握手を交わす。
「案内をありがとうな、シュン。……あー、ども。お久しぶりです ―― 悪魔的な音さん」
「いきなりの挨拶がそれとは、ショウさんは相変わらずウィットに富んだユーモアがお好きな様だ。……いえ、実際にお久しぶりですがね。こうして直接顔を合わせるのは、バーベナとヘレナが転院した一昨年以来になります。2人は壮健でしょうか?」
「ええ。面倒見も良いし、家事も抜群。やんちゃ盛りの子供達を相手に、根気強く頑張ってくれていますよ。むしろ、俺もお世話になっている位ですし」
「それはそれは! あの2人が馴染めたのも、ショウさんとポケモンハウスの方々の尽力あってこそなのでしょう!」
「あー……いえ。俺なんかよりも孤児院の子供達や、フジさんの力が大きいんじゃあないでしょうかね。後は2人の元から持っている気質だと思います」
「はは。ショウさんはまた、御謙遜をしていらっしゃる。謙遜はこの国の美徳ではありますがね」
「謙遜じゃないですって、ホント。俺はただの友人ですから、やっぱり、子供達との交流が大きいんだと思いますよ。……なんなら顔を見ていきませんか? 2人とも、あっちでふれあい広場の運営をやってますが」
「いえいえ。ご好意を袖にする様で申し訳ないですが、それには及びませんよ。先ほど遠目からではありますが、しっかりと目に留めさせていただきました。……あの娘達が今、あのように大勢の子供達に囲まれているのです。大変に喜ばしい事ですね」
その言葉通りに、悪魔的な音さん(仮)は微笑んでいた。内容から察するに、この人はどうやらバーベナとヘレナに関わりのあるお人らしい。
……となると別の孤児院の運営者さん、とかなのか? だとすれば成る程。間違いなくお偉いさんだ。
「ショウ、オレは席を外してていいか? ナツホを待たせてるんだ」
「おう、いーぞ。昼飯時にありがとな」
「ワタクシからもお礼を。ありがとうございました、少年」
ショウと男の人に揃って見送られ、オレは一礼してからテントを後にする。
……なんか不思議な人だったな。いや、それを言ったらショウも十分に不思議な奴なんだけどさ!
案内の場面にはポケモン恒例の道案内BGMを御用意くださればと。……いえ、案内されたお人には似合わない音かも知れませんね。キャラソンでも良いのd(ry
さて、今回はとりあえずここまで。ボランティアがあとちょっと、小話が盛りだくさんで行きます。
前回更新分の修正とかもしたいのですが……うーん、中々に時間がありませんね。
では、では。