ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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1995/夏 VSイツキ-①

 

 Θ―― セキエイ高原、闘技場/本戦会場

 

 

 セキエイ高原の闘技場は、予選用の会場であっても十分な人数が収容できる。本戦仕様ともなると更に規模は増し、観覧席も設けられている……のだが、その席は今、半分以上が観客によって埋め尽くされていた。

 学生による非公式の大会だとはいえ、エリトレや学生によるポケモンバトル大会は物好きな人達にとっての娯楽だそうで、セキエイの街の人々もかなりの数が見物に来ているらしい。

 

「(ショウの奴、これを見越しての助言だったのか?)」

 

 この雰囲気は確かに、予選とは一線を画すものだ。予選は試合の数が多くて基本的に空席だったからな。プレッシャーとか空気とか、そういうのが断然違う。

 ショウの仕事を聞く限り、ポケモンの研究という仕事はセキエイ高原にあるリーグや協会との繋がりも強いものだそうだ。だとすれば、ショウが事前にがセキエイ高原の雰囲気を知っているのもそう不思議でもないのな。

 

 そんな事を考えながら、オレも中央部に設けられたバトルスペースの赤側へと歩み入る。道具入れをスペースに配置しながら周囲を確認すると、反対側からイツキが入場してきた。同時に、観客席の視線が一気に集まるのを感じてしまう。すごいな、観客の盛り上がり様。

 

「(フィールドは……と)」

 

 セキエイ高原本戦会場は、バトル毎にフィールドの変更がなされる。水場の割合が違ったり土の質が違ったり。その情報は実際に場に出るまで選手には伏せられるため、手持ちに様々な環境に対応できるポケモンを揃えておく事が大事だと言われている。

 ところで、今回のフィールドは「岩場」と言った所か。フィールドの中に小さな岩が7つ、大きめの岩場が1つ用意されている。これら障害物は主に遠距離攻撃を遮断する用途で使われるため、物理ばかりが得意なオレのポケモン達にとっては命綱とも呼べる。

 そんな感じでバトル前の情報を整えつつ、中央に歩み出し、オレはイツキと握手を交わす。

 

 

「さて。結果としてはボクの予知通り、君とバトルをする事にはなったみたいだけれども……初戦からあの様で、ボクに……エスパーに幻滅したかい?」

 

「いやまったく。イツキとヒヅキさんとのポケモンバトルは凄く勉強になったし、見ていてワクワクしたよ。幻滅どころか感動したって」

 

「まぁ、君にならばそう言って貰えると思っていたけれどね」

 

 

 イツキは仮面の下で確かに笑顔を浮べている。どうやら気負いはないらしい。

 ……それならオレも遠慮をする必要はないな。いやさ、遠慮をしていたら勝てない相手だし。

 スクエアに戻っても尚、イツキのトラッシュ・トークが続く。

 

 

「ボク自身、ヒヅキさんとのバトルのお陰で世界は広いと実感することができたよ。この国の中ですら、こうして素晴らしいポケモンとそのトレーナーに出会えるんだからね。ヤマブキという狭い世界の中じゃあ判らなかった。……だからこそ、シュン君。ボクはこの大会を勝ち進みたい。乗り越えて、その先へと踏み入りたい。ボク()の目指す世界は、そこにこそ在る」

 

 

 芝居がかった口調で話し出すイツキ。雰囲気が徐々に「判り辛く」……読み辛くなってゆく。

 成る程。イツキにとっては仮面も、エスパーである事も、この雰囲気も含めて心理戦を仕掛けるための手管であると言う事なのだろう。

 かと思うと両手をがばっと広げ、

 

 

「さあ始めよう、シュン君! ボクもボクのポケモン達も、もっともっと強くなる! ここで負ける訳には ―― いかない!」

 

「オレだって、それは同じだよ。……勝負だ、イツキ!」

 

 

 気迫で圧してくるイツキに立ち向かう様に、オレもボールを放る。

 

 沸きあがる歓声の中、

 

 ……さあお目見えします。互いの、1匹目!

 

 

 《《ボボゥンッ!!》》

 

「―― ヘナッ!」

 

「―― キリリィン!」ガブガブ

 

 

 マダツボミ(ミドリ)が地面に降り立ち、相手のキリンリキに対面する。

 キリンリキはその穏やかで人懐こい顔とは裏腹に、尻尾が独立稼動してギザギザの歯をうち鳴らしている。ガブガブしてるのはそっちな。あの尾も攻撃手段として存在するため、死角は想像以上に少ないと考えるべきだろう。

 

 さて。オレが初手にマダツボミをもってきた理由はとても単純。先発をマダツボミ(ミドリ)にして、戦況把握に努めておこうという訳だ。

 ……クラブ(ベニ)はミドリに比べて、相手ポケモンによる得意不得意が大きいからなぁ。特に特殊攻撃中心の相手になると、それはもう困った事になる。

 イツキは正に特殊攻撃が中心になっているエスパーを主軸としているし……何しろヤマブキスクールにおけるトップトレーナー……謂わば『スクールチャンピオン』。ほんの一手、僅かな挙動が戦況を左右するバトルになる。戦況を読むのは大切だろうという訳だ。

 

「(それじゃあ、と)」

 

 大事な初手について考えを巡らす。

 ミドリの相手はキリンリキ。ノーマルとエスパーの複合タイプを持つポケモン……だったよな? 確か、うん……その筈。情報源はルリの資料に書かれたコラム「今日のピックアップポケモン」だけどさ。

 さてさて。そのキリンリキだが、ミドリとの相性は少なくとも良いとは言えないだろう。が、

 

 

「任せた、キリンリキ!」

 

「キリィン!」

 

「初手だ、ミドリっ!」

 

「ヘナッ!」

 

 《シュルンッ》

 

 ――《キィィィッ!》

 

 

 ミドリが(つる)を伸ばすと同時に、キリンリキの目の前の空間がぐにゃっと歪む。……くっ、やっぱりそう来るか!

 そう。蔓を使った物理攻撃を主体にしているオレのミドリに対して、イツキのキリンリキはエスパー故の遠距離攻撃を得意にしているのだ。距離を開けて攻撃をし辛くする、というのは当然の策。

 ……けどそれは、エスパーにしてもありきたり(・・・・・)な作戦だよな!

 

 

「単純に距離が遠いな……頼むぞ、ミドリ」

 

「ヘナッ、ヘナナッ!」

 

 《シュルルッ》――《パシィンッ!》

 

「キリィ!? ……リッ!」

 

「! やるねっ」

 

 

 ミドリは両手から蔓を伸ばし、『つるのムチ』。片方でフィールドの岩を掴んで移動(・・)、片方でキリンリキへの攻撃(・・)を試みた。

 ……よっし! どうにか、『ねんりき』の直撃を避けることが出来てるっぽい。

 種族的にもマダツボミは根っこで走るより、こうやって移動した方が早い。とはいえ、ミドリだってこんなに器用に使うには大分練習が必要だったけどさ。

 電光掲示板のHP……は、昨日の例があるからあまり気にしないでおいて。あくまで感覚的に(・・・・)だが、『ねんりき』がフルヒットすれば、ミドリのHPは残り2割もないだろうか。

 

「(今はかする程度だけど……やっぱり、効果抜群はキツイな)」

 

 ミドリはまず間違いなくKOされるであろう先発という役目を、意気込んで引き受けてくれている。だからこそ……その意気に報いるためにも、この間にイツキの突破口を見つけ出さないと、と。

 どうやら念波を起こすためには集中力が必要であるらしい。その証拠に、キリンリキは岩間を移動し立ち止まっては念波、を繰り返していた。

 その挙動を、オレはじぃっと観察し……

 

「(……、見つけた!)」

 

 キリンリキの優等生顔と挙動を観察していると、何やら奇妙な動きが目に止まった。

 よくよく見れば後ろ側、真っ黒な尾のほうが時折、歯を鳴らして頷いているのだ。

 

「(あれは……指示受けのタイミング、か?)」

 

 仮面越しのイツキの表情は窺えない。テレパスによる指示を平然と使用してくるために、今まではそのタイミングも読めなかったが、どうやらキリンリキの反応は突破口になりそうだ。

 考えている内にもキリンリキの尾が頷き、歯を鳴らす。……来る! 

 

 

「ミドリ、『なわとび』!」

 

「ヘナッ!」

 

「!? ……キリンリキ、迎え撃て!」

 

「キリリ、キリィ!」

 

 

 岩場によってサイン指示が出し辛い。声かけを行うと、タイミングをずらした指示に耳を奪われ、イツキの集中が僅かにそれる。

 指示の遅れによってキリンリキの素早さが奪われ、移動と攻撃が後手に回り……先制したのは岩場から身を乗り出したミドリによる『つるのムチ』……の、「バリエーション」!

 

 

 《ピシィッ》――

 

「リキッ!?」

 

 

 その1本目で足元をすくい、

 

 

 ――《バシンッ!!》

 

「リキッッ!!」

 

 

 体勢を崩した所で「急所を狙った」2本目の蔓がキリンリキの頭の横を鋭く抜けて、その尾をうった。

 クロスカウンター気味に飛ばされた『ねんりき』がミドリを狙うも、体勢を崩しているためにこちらに直撃はしない。

 ……このまま押し切ってみせる!

 

 

「近付いて、『ぜんりょく』!」

 

「ヘナッ ―― へナァァッ!!」

 

 

 尾を打った蔓を戻さず、そのまま近場の岩に巻きつけて巻取り、ミドリが一直線に飛びかかる。

 十分に勢いをつけた所で蔓を離し、2本揃えて、キリンリキを叩き付ける!!

 

 

「―― キリンリキ!!」

 

「キリリッ、リィィ!!」

 

 

 蔓が振り下ろされるが、しかし近付いたミドリに向かって、キリンリキの脚が伸ばされた。

 成る程、テレパスによる指示は岩場に隠れても問題なく届くのだろう。……多分、『ふみつけ』!

 

 

 《《 ビタァンッ!! 》》

 

 

 直撃はほぼ同時。しかし、

 

 

「……へ、ナァアッ……」

 

「マダツボミ、戦闘不能です!」

 

 《―― ワァアァァーッ!》

 

 

 倒れこんだのはミドリだけ。キリンリキはその場で立ち上がり、ふるふると首を振るっていた。

 ……良くやってくれたぞ、ミドリ。

 

 

「戻ってくれ。……流石はスクールチャンピオンのポケモン。奇襲だけじゃ、突破は難しいよな」

 

「それでも大分削られてしまったけれどね。『ねんりき』による包囲でなら、突破も難しくないと思っていたんだけど……ボクらも慎重になりすぎたかな」

 

 

 イツキはそう評しているけれども、どちらにせよ負けは負け。オレはキリンリキを突破して、残るネイティとバタフリーにも戦力を回さなくてはならなくなった。

 ……となれば、次は……。

 と考えていると、イツキが続けて口を開く。

 

 

「君のポケモンの攻撃はやっかいだね」

 

「うん。まぁ、練習したからなー」

 

 

 とはいえ、それでもキリンリキの『ふみつけ』には打ち負けてしまったんだけれども。……もうちょっと周りを絡めた攻撃が必要そうだな。それは今後の課題にしておこう。

 

 さて。

 オレとミドリが使った「バリエーション」とは、要するに「攻撃の出し方」である。

 

 「技」を狙って出す、勢いをつけて出す、急所を狙って出す。それら目的を持って攻撃を行う事で、技の本質に「味付け」を行う事が出来るという理屈である。

 実はこれ、エスパーポケモンが当然の様に行っている『ねんりき』攻撃を基にしたもので。ナツメさんやカトレアお嬢様が『ねんりき』を面でくリ出したり放射状に繰り出したりするのをヒントに、オレとミドリ流にアレンジしたのだ。

 ショウによるダメージ計算の結果、蔓を2本出すとダメージは半減以下になるらしい。が、元よりミドリは、『つるのムチ』の扱いに長けていた。蔓が1本から2本に増える……2本を別々に扱えるという事実は、それらを補って余りあるメリットをもたらしてくれていたのだ。

 

 ついでに付け足しておくと。「バリエーション」は、間接攻撃よりは直接攻撃のほうが組み合わせ易い。

 間接攻撃とは、つまり(多くが)何かを「飛ばす」技である。炎にしろ水にしろ攻撃方法は「線」な訳で……無形のものを出す側の一存でコントロールするというのは、大変に難しいのだ。

 その点においてミドリの『つるのムチ』は間違いなく有用性に富んでいると考えている。何せ直接攻撃で有りながらにして、攻撃範囲が広いという、十分な利を持っているんだから。

 

「(とはいえ、学生の間に……というのは、時間がなさ過ぎたんだよな)」

 

 いつだかショウも言っていた通り、学生の内に出来ることは有限なのである。その上「フレンドボール(もどき)」によるレベル制限と来たものだ。

 だからこそ辿り着いた、オレの学生ポケモントレーナーとしての答え。

 

 それが ―― ポケモンの「長所」を、思いっきり伸ばすこと!!

 

 オレのミドリの場合、それが『つるのムチ』の習熟度を極めることだったと言う訳だ。

 いや……とはいってもこれ、上述したみたいに他の皆も使ってるんだけども! ショウに曰く、学者的には「それを系統的に分類できた事には大きな意味がある」らしいけどさ。

 

 

 《ワ ―― ァァァ》

 

「と。さて、次だ」

 

 

 歓声に呼び戻され、オレは意識を次へと向ける。勝ち抜き制が採用されているため、相手は引き続いてのキリンリキだ。なら、決まっている。

 頼むとは言わない。ここまで経験が少ないのは、あくまでオレのトレーナーとしての我侭だから。

 それでも、ヒョウタ戦は上手く運ぶことが出来たし……だから、送り出す時は!

 

 

「頑張ろう ―― アカネ!」

 

 《ボウンッ!》

 

「……ブ、ブィー……」コクコク

 

 

 出るなり岩場の影に縮こまり、それでもこちらを見て小さく頷くアカネ。その後、素早く視線を相手へと戻した。

 どうやらおっかなびくりながら、頑張ろうと言う意思は見せてくれている。……よっし。なら、目に物見せてやるとしますか!

 

 

「ヒョウタ君とのバトルで中盤戦をしめた(・・・)、茜色のイーブイだね。……キリンリキ!」

 

「キリ、リッ!」

 

 

 アカネがバトルフィールドに入ると、バトルが再開される。

 指示を受けて、キリンリキはアカネ(の隠れた岩場)に向けて猛然と迫ってくる。岩場を避けての近距離戦。恐らく、一撃でけりをつけるつもりなのだろう。

 察しの通り、アカネはバトルの経験が圧倒的にないだけあって、未だレベル3。その上ミドリの様に「バリエーション」を使える程の技の熟練度もない。

 

 

「キリィィーッ!」

 

 

 けれどこれまでバトルを避けてきたアカネを、何の策もなくポケモンバトルに出す訳はない。

 キリンリキが岩場を回り込んで……ここだ!

 

 

「今だっ!」

 

「ブ、ブイッ!?」

 

 《ブンッ》――《ヒョイッ》

 

「キリッ!?」

 

 

 アカネがキリンリキの技を『みきり』、踏み出された足を横っ飛びに避ける。

 イツキからは見えずオレからは見えるという最高の位置……岩の陰を位置取ったまま、サイン指示 ――『シンクロノイズ』!

 

 

「ブ、イッ……ブイ!!」

 

 《ヒィッ》――《キィィィンッ!》

 

「リィッ! ……キ、リィン……」

 

 

 頭と尻尾が同時、弾かれた様に仰け反ったかと思うと、キリンリキはぐったりと倒れ込んだ。勝敗が告げられ、闘技場がにわかにざわめきに包まれる。

 ……ふー。指示の先出しからの連携からの逆襲は、どうにか成功したらしい。これにて先頭のポケモンを突破だな。

 

 

「戻ってキリンリキ。……どうやら、此方が誘い込まれたみたいだね」

 

「まあな。ミドリでキリンリキは削れていたし、一撃くらいならアカネでも十分だ」

 

 

 なんてハッタリをかましてみるものの、実際にはかなりのレベル差がある訳で、倒せるかどうかはかなり不確かだったんだけどさ。その時はその時で、別の策を実行するつもりだったから。

 此方のそういう策の組み立てまで、イツキは理解しているのだろう。オレの目の前で口元を緩めると、次のボールを浮かばせた。

 

 

「それじゃあ次、行くよ。―― いけっ、ネイティ!」

 

 《ボウンッ!》

 

「トゥートゥー」ピョコッ

 

 

 モンスターボールから出て、地面を跳ねるネイティ。……次手はネイティで来たか。

 調べてみて判ったのだが、イツキのネイティはヤマブキのスクールで「エスパーポケモンキラー」として恐れられていた個体であるらしい。『ひかりのかべ』や『リフレクター』などの補助技を駆使する上、エスパーに抜群のゴースト技『シャドーボール』を使用してくる筈だ。

 ……けど、今の相手はノーマルタイプのイーブイ(アカネ)。ゴースト技は効果がなく、オレとしては、バタフリーが来るのかも……とか思っていたりもしたけれど……3VS3のバトルだから、補助に徹するっていう可能性も勿論ある。選択肢として捨てていなかったため、想定内であることが幸いか。

 

「(それなら、こっちも相応の戦いをしなくちゃな)」

 

 むしろ、補助は性格的にアカネの得意分野でもある。

 これで方針は決まっただろう。……行くぞ!

 

 

「アカネ!」

 

「ブ、ブィッ!」コクコク

 

「ネイティ、『サイコショック』!!」

 

「トゥートゥー」

 

 

 変化技から入った事に対するイツキのリアクションは……と見てみるも、やっぱり仮面で判らない。

 しかし、先手はネイティだ。ネイティにとって岩場はあまり障害ではないらしく、羽ばたきながら飛び上がり、上から『ねんりき』……もしくは『サイコショック』辺りのエスパー攻撃を放ってくる。

 アカネ相手に先手を取れば倒せる……と、イツキが思っているのなら、さっきのキリンリキの二の舞。イツキの踏んだ場数からして、対策はしてあるんだと思うけど……考えている内に、念の歪みがアカネを覆う。

 

 

 《ヒョオンッ!!》

 

「ッ……ブゥィ」

 

 ―― 《パァンッ!》

 

 

 よし、狙い通り!

 先のキリンリキ戦の初手に「先出し」していた『みがわり』が効果を発揮する。アカネの周りを薄く纏っていた「HPの壁」がはじけて消える……その内に!

 

 

「ブィ……ブイ、ブイブィッ!」

 

 

 アカネが何事かを呟いて、頷いた。

 これで、仕込みは成功だな。あとはイツキのネイティ次第だけど……

 

 

「……このまま押し切るんだ、ネイティ!」

 

「トゥ、トゥー」

 

 

 最も高い岩場に跳び登ると、そこに脚を落ち着けて、ネイティが再び同様の攻撃を繰り出す。

 ……流石はイツキ。仕込みを続けさせては、くれないなっ!

 

 

「アカネ、『あくび』!」

 

「ブ、ブィッ、ブィッ!」

 

 

 岩場に隠れながら指示に従おうとするも、アカネは突然の指示に対応できず、攻撃に取り囲まれた。

 空間が歪んで、アカネは踏ん張ろうとするものの、手前に吹飛ばされてしまう。

 オレはすぐさま手を挙げ、フィールドへと駆け寄って。

 

 

「すいません、こっち戦闘不能です!」

 

「はい。トレーナー申告により、勝者イツキのネイティです!」

 

 審判が告げると、観客達が待ってましたとばかりに歓声を上げた。

 抱き寄せ、モンスターボールへと戻す。……バトルが苦手ながら、アカネは十分に頑張ってくれたと思う。ありがとな。今度はもっと上手くやれるよう……アカネにとって怖いバトルをさせないようにって、オレも一段と頑張るよ。

 

 

「……シュン君はマダツボミにしても、その臆病なイーブイにしても……その長所を生かすポケモンバトルをしてる。正しくポケモントレーナーの理想だね」

 

 

 ちょっとぼうっとした表情で此方を見ていたイツキがそう言ってくれるけれど……いや、それは褒め過ぎだと思うぞ。オレは。

 とはいえ、兎に角。今までのバトルによってイツキにはオレの方針がばれているらしい。けど、オレもイツキのエスパーとしての手の内は調べたために知っている。お互い様だ。トレーナーだけで言えば、五分五分に違いない。

 ……うん。

 

 

「で、オレは最後のポケモンだよな」

 

「とはいえ、簡単には負けてくれないんだろう?」

 

「そりゃあ勿論。そっちだって、ネイティも簡単には突破させてくれないんだろ?」

 

 

 オレから、仮面の内から。バトルフィールドを挟んで互いの笑顔がぶつかっている。

 ミドリもアカネも、レベル的に格上のポケモンを相手にしながら、オレの指示に良く従ってくれた。あれは特殊な事情があったけれど、チトセのライチュウみたいに「自分で対処したくなる」部分もあったに違いない。

 ミドリは自分に大ダメージを与える『ねんりき』に逃げ出す事無く、立ち向かってくれた。

 アカネは圧倒的なレベル差のポケモンを前にして、それでも「次の為に」と頑張ってくれた。

 

 ……オレも、皆の頑張りに報いたい。

 勝ちたいというのは自分のためだけではなく。ポケモン達と、イツキのバトルの情報収集なんかを手伝ってくれた……オレを応援してくれる友人達のためにも、だ。

 

 一瞬だけ息を吐いて、空を仰ぐ。

 ……大丈夫。勝ち筋は、十分に残してる。

 

 ―― 見上げた先では、セキエイ高原の闘技場の空が曇り始めている(・・・・・・・)

 

 視線を追って空を見たイツキが、口を大きく開く。

 

 

「っ! イーブイの最後の技……『あまごい』!!」

 

「ああ。舞台は万全。―― こっちのエースの登場だ!」

 

 《ボウン!》

 

「グッ、グッグゥ!」

 

 

 ボールを放れば中からクラブ(ベニ)が現れて、大きな鋏を振りかざした。

 ぽつぽつと雨粒が落ち始めたかと思えば、すぐに本降りになる。辺りの土が水気を含んで泥へと変わり、ベニを最も活かせるフィールドが出来上がってゆく。

 

 

「これは……」

 

「ポケモンの長所を活かす『育て方』、それを組み合わせてバトルを進める『戦い方』。それを組み合わせて戦術を練るのが、トレーナーだろ? これが、頑張ってくれるポケモン達に返す……ポケモントレーナーとしてのオレの回答だからさ!」

 

 

 さあ、決着をつけよう、イツキ!

 





 情報不足のためちょっと追記

 手持ちポケモン()内はレベル

シュン
・マダツボミ(14)戦闘不能
・イーブイ(3)戦闘不能
・クラブ(16)

イツキ
・キリンリキ(17)戦闘不能
・ネイティ(19)
・バタフリー(17)


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