ポケットでモンスターな世界にて   作:生姜

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Θ8-3 タマムシデパートにて②

 母親と別れて再びのタマムシデパートへ侵入。ダクマを連れだって屋上を目指す。

 俺が見たかったものは……ううん。いや、大方の予想を裏切りはするんだろうけれども。

 

 

「見られるといいんだけどなー、ポケマジ(・・・・)の撮影」

 

「グマァ」

 

 

 そう。割と通好みな青春虫ポケ恋愛ドラマ、通称「ポケマジ」の収録が行われているのである……!

 なんぞやという疑問の声はご尤も。いちおう解説しておくと、DPPtのテレビ内で放映されていた番組だな。その後にイッシュやカロスで再放送されてたりもする……端的に言えば、テレビのオブジェクトを調べようとするとよくよく目にする、フレーバーテキストとして存在する番組のタイトルだ。

 なんというか、単純にそういうのって面白そうだよなーってのが俺の興味の基準だったりする。随分と低い。まぁ、ゲーム内だとそう言うフレーバーな部分はさわりくらいしか見られなかったからな。実際に見てみたいって思うのも本筋では無いにしろ、悪くは無いんじゃないかなぁと。話の種になるし。話し相手は友人じゃあ無くてほとんど研究員だけどな、俺の場合は。

 だのでまぁ、折角頂いたお小遣い(多)は全くもって消費する予定は無い。後々のためにプールしておこうかね。

 

 

「で。……んー、あれか? 人だかりはあるけれども」

 

 

 天下のタマムシデパート、その屋上には何と噴水が据え付けられている。噴水のもっと奥……夜景と水辺が重なる如何にもな撮影スポット辺りに、人が集まっているのが見えた。

 人だかりにちょっと腰の引けたダクマの手を引き、共に前へ。……撮影は、してなさそうか?

 

 

「本日の撮影は終了です! 皆様、ありがとうございました!」

 

 

 エキストラを務めていたのだろう周囲の観客達へ向けて、仕切りさんが声を上げる。周囲が一斉に拍手に包まれた。

 というか終わったかー! なんともはや、タイミングが悪い……とまでは言わないけれども。これはこれで、仕方ない。

 

 

「すまんダクマ。撮影は終わっちゃったみたいでな」

 

「グマ」

 

 

 謝る俺に向けて、仕方ないぜと拳を前に突き出しましたるダクマ。イケメンだぁ。

 さてはどうしようかと周囲をきょろきょろしている内に、屋上から人がはけ始めた。ただでさえ寒い冬の屋外である。キャストの人の姿もなく、機材も回収されてゆく。

 そんな景色を……おっと。

 

「(んお。あれは……)」

 

 視線が吸い寄せられ、思わず足が止まってしまう。

 屋上の緑化事業の一環としても使われている噴水と、その周囲を飾る花々。

 恐らくはドラマの撮影に使用された小道具で……賑やかしとして用意されたものなのだろう。

 その隣。飾られていた草木を片付けている作業員と ――

 

 

「―― あら。お花、お好きなのですか?」

 

 

 目立っていたのだろう。

 人波に取り残された俺は図らずも……噴水に添えられたように立つその少女と、ばっちり視線が合ってしまっていた。

 

 

「……」

 

 

 にっこりと微笑んだまま、此方に歩み寄ってくる少女。というか目立ったからと言って何故俺に声をかけるんです(焦り。

 少女は身体ごと、ゆるりと脚を踏み出す。袖が揺れる。音は無い。

 草木をモチーフとした艶やか……というよりはすっきりとした印象の文様に彩られた着物。するりと組まれた手のひらを胸の前で合わせ ―― いや。流石に知ってるぞ、この人のことは。

 身に纏われましたるは、お着物。タマムシシティの大手生花業、兼、舞踊と生け花の家元。この国の文化の中心部に食い込んだ名家に生を受けた女の子。

 ついでにいえば、おっす未来のジムリーダー!

 

 

「私、エリカと申します。不躾に声をかけてしまって申し訳ありません。驚かせてしまいましたでしょうか?」

 

「いえ。声をかけられるとは思ってなかったもので、焦りはしましたけど、驚いたという程ではないですね。……ども、俺はショウって言います。こっちは修業仲間のダクマ」

 

「グッマ!」

 

「あらあら。これは丁寧に、ありがとうございます」

 

 

 挨拶を元気よく返したダクマに向けて、エリカさんはころころと笑う。

 ……うーん、ここで会うのかエリカさん。タマムシシティ在住ではあるんだが、年代がちょっと違うんで顔を合わせる機会がなかったんだよな、今までは。いや別にこのタイミングでも問題は無いんだろうけれども、この人って何というか、カントーの地理的にも文化的にも中心部にいるせいで……こう、面倒な流れに巻き込まれそうな予感がするんだよなぁ!?

 

 

「あー、でも、撮影は終わってしまったみたいですね。ポケマジの」

 

「成る程、撮影を見に来たのですね。ショウさんとダクマさんは」

 

 

 内心焦りつつ、俺が切り上げようとして発した迂闊(・・)な台詞に、エリカさんは鋭敏に反応した。

 わー会話が弾んでしまうと焦りを増す俺を余所に、たおやかに、こくりと頷いて。

 

 

「わたくしは家業のひとつである生花業の手伝いに来ていたのですが……これから撮影を終えた生花達を、店内に降ろす所なのです。タマムシシティであれば、緑化活動には事欠きませんもの。デパート内や……昨年に建てられたポケモンセンターもありますものね。きちんと活用して頂けるのは、とても嬉しいことですわ」

 

 

 そうとにっこり笑い、距離を詰めてくる。……なんだこのプレッシャーは……!?

 そもそもなんで近づいてくるんだ……? 俺は逃げ出したいってのに……と考えつつ、バリア代わりに適当に話題を回しておく事に。エリカお嬢のに乗っとくか。

 

 

「あー、ご苦労さんです。その年から家業の手伝いってのは大変そうですね」

 

「はい。ですがわたくし、トレーナー資格は前受験で取得してしまいましたから、時間を持て余している時期なのです。時間の有効活用ですわね。こういう場所に顔見せをして回るのは、大事なことですから」

 

 

 トレーナー資格……10才か。俺が言えた義理じゃ無いけど、若いなぁ。

 言葉を返している内に、エリカさんが真ん前で脚を止める。ふいと、流すように俺とダクマを眺めて。ダクマは視線を受けて首をこてん。愛嬌は抜群だ!

 

 

「あなたとダクマさんは仲が良いですね。そんな風に過ごせるように。このタマムシシティに、ポケモンも人も。もう少しだけ住みやすくなるように。わたくし、努めさせていただきますわ」

 

 

 そんな事をのたまいなさるぜお嬢様。

 ……うーん。なんかこう、わざと裏を臭わせているような口ぶりな印象。赤緑からタマムシシティジムリーダーを務めているエリカお嬢様に対する俺のイメージはというと……ROM容量的にも、人物的な掘り下げは少なかったからな。初代とかは。強いて言えばリメイクであるHGSSにおいて、同じくジョウト地方のジムリーダー・ミカンとのやり取りで、ちょっとだけ。ちょっとだけこう、黒い部分が見えていたような気がしないでも無い。

 だとするとこちらのエリカお嬢様は、はてさて。そんな思考を飛ばした俺に向けて、エリカお嬢様は茶目っ気をみせる。

 

 

「……ふふふっ。ごめんなさいね、ショウさん。今の思わせぶり(・・・・・)の種を明かしてしまいますが、実はわたくし、あなたの名前は存じ上げていたのです」

 

 

 あらま。

 まぁ、タマムシの中心部に居る人だものな。耳にしていてもおかしくはないか。

 

 

「国立タマムシ大学携帯獣学部に籍を置く、最年少院生ですもの。噂になっていますのよ? それで少し興味があって、今日は声をかけさせて貰いました」

 

「なるほど。そりゃーそうですね。……俺も挨拶回りとかした方がいいんですかね、お上の人とかに。そういうの全部オーキド博士に投げちゃってるんで、まだ気にしてないんですよね」

 

「研究者の方にとっての主たる舞台は学会ですもの。名声は博士に任せておいて、研究に邁進なさるのがよいのではないかと」

 

 

 ほー。割とドライというか、達観してるというか。ほわほわお嬢様のイメージもあったけど、やっぱりこの年齢で「名前が通っている」だけあって、それなりに芯のある考え方をお持ちだな。

 俺としてもまぁ、そうするつもりではある。今とりあえず目標にしている「イベント」をこなすには、社会的な立場が必要になるだろうから……多分、俺にも研究班長くらいは任せられそうな雰囲気はあるんだよなぁ。プラターヌ(にぃ)(ぐち)にいわく。

 

 

「あなたの研究の内容も耳にしておりますわ。声が掛かりましたから……出資(スポンサー)も、わたくし共からもさせていただくやも知れません」

 

「その時には是非。俺のこれ、ポケモン界に役立つ研究だってのは胸張れますんで」

 

「グマァ!」

 

 

 俺が胸を反らすのと同時に、ダクマが隣で拳を突き出して気合一声。自らの修業には直接関係ないってのに、ダクマもここ数日は手伝ってくれてるからな。ありがたやありがたや!

 そのまま、イタズラ心含み笑いなお嬢様としばし商業会話。こういう会話だけみてたら年相応……いやごめんそうでもないわ。お(いえ)の話とかしてる幼年期は嫌だ。

 とはいえ実際、原作の主要人物にパイプがあるのは俺としても困らないので。関わり過ぎない程度の関わりは欲しいよな(強欲。

 

 

「―― さて。それではショウさんとお話も出来たことですし。……お身体を冷やし過ぎてもいけませんわね?」

 

「あー、確かに。長話する場所では無いですね」

 

 

 エリカお嬢様がそう切り出す。現在地、寒空の下。タマムシデパートの屋上なのであるからして!

 ダクマはまぁ毛皮あるんで大丈夫だろうけれども。俺も外套着込んでるんで大丈夫なのだろうけれども。

 踵を返して「それではごきげんよう」の決め台詞。かくしてエリカお嬢様との初対面は、無事に終えることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……の、だったの、だが。

 その翌日の事である。

 

 

「おお、来たかショウ。ひとつばかり困ったことが起こっておってな」

 

「うへぇ」

 

 

 我が上司・オーキド博士から呼び出された俺に向けられた第一声がこれである。

 思わず悲鳴(うへぇ)を漏らしてしまったのも仕方があるまい。ただでさえ疲れ易い年齢だのに、長期遠征に向けた段取りや準備を夜通し行い、何とか詰めた日の朝なんだよ。日が目に()み過ぎている。

 

 

「おぬし、タマムシシティの水質悪化に関するレポートを読んだことはあるか?」

 

 

 いつも通りの俺の様子はスルーして(でも手ずからお茶は入れてくれる)、オーキド博士は話を進める。

 タマムシシティの水質悪化。近年取り上げられる事の多くなった話題だ。人とポケモンが集まり、工業用水やら生活排水やらで……自然の河川または湖における水質の変化が進んでいるのである。

 博士が特に挙げたのは、ゲームで言うタマムシスロット横の水場で『なみのり』すると垣間見れる奴だな。ベトベターが出るんだよあそこ。他にも「毒タイプ」のポケモンに関する図鑑テキストやらで、ちょっとだけ世間的な扱いの悪さが垣間見えたりもするのだけれども。

 まぁ、ホットな話題だということで論文も多かったな。たしか。幾つかは読んだハズ。

 

 

「んー、少しは。無人発電所周りと、内陸からの排水経路のいざこざとか、その辺りだけですけど」

 

「十分過ぎるじゃろ。むしろどんだけ読んどるんじゃ。そっちの道に進むのか?」

 

「いや毒タイプを選任したいわけじゃないですけどね。ほら、俺の手持ちにもニドランがいる訳ですから、知っておいて損はないかなぁと」

 

 

 オーキド博士が俺に呆れた風味の視線を向けて、息を吐き出す。ついでに腰の白モンスターボールが嬉し気にカタカタ揺れてる。

 

 

「まあ、それだけ知ってるなら十分じゃろう。察しているかとは思うが、その辺り影響が環境変化に敏感な地域に差し掛かると、ワシらの研究にも影響が出る。『カントーポケモン図鑑』の分布調査にな」

 

「でしょうね。知ってて、そもそも現段階の図鑑作成は断面研究だのもありますし……そもそもちょっと忙し過ぎるんで研究班全員で見て見ぬふりの全力スルーしてましたが。……うわ、もしや」

 

「もしや、だ。お国を介して、正式に調査しろとの通達がきおった。場所はセキチクシティ北・『サファリパーク建築予定地』――『自然保護区』。特に水質が綺麗な場所でミニリュウが釣りあげられ、一躍話題になった場所じゃの」

 

 

 わーお。まだ開園前のサファリパークの水質を調査しろと、そういう感じか。

 自然保護区。ポケモンにとっての環境が保全されなければならないと国が認め、ポケモンレンジャーと一部の資格保持者しか立ち入りを許可されていない場所だ。ゲームでテーマパークとして興されていたサファリパークは実のところその内のほんの一部で、その奥。タマムシ側に踏み入った場所に、本来の自然保護区が指定されていたりする。

 ちなみにあそこでのミニリュウの発見はカントー初の「ドラゴンタイプ」のポケモンとあって全国的に、大々的に、めいっぱい報じられた。ドラゴンタイプってそのものが神聖視されてる節があって、世間受けが良かったんだよな。

 ちなみのちなみに、それによって知り合い(友人)のポケモンマニアーとか、調査を請け負ったオーキド博士が知名度を爆上げしたという経緯があったりするらしいな。俺が生まれる前なんだけどさ。それ。

 

 

「で、それを任せようと思っておる。ワシの班からはショウ、おぬしを。ナナカマド博士の所からはプラターヌが任されるそうじゃが」

 

「……まぁ、さっさと片付けた方が良い案件ではありますねそれ。俺は確かに前準備を終えかけてるとこなんで、適任ではありますねぇ。ですんで任されましょう。あとプラターヌ兄がいるのはとってもありがたいです」

 

 

 この件に関しては、不承不承……という訳でもない。俺としてもサファリパークの「柵に囲まれていない部分」を見れるってのは、個人的に楽し気だったりするからな。忙しさはそれとして、折角だからダクマに修業の機会を作ってあげたくもあるし、渡りに船って感じ。

 ―― とかなんとか。楽観的に考えていたのがいけなかったのだろうか。

 

 

「うむ、任せよう。……それと他に、この調査に帯同する役人側のトレーナーがおってな。うむ、うむ。入ってきなさい」

 

 

 気を緩めた俺の左側で、控えめながちゃりという音。

 振り向く俺を待たずして、扉がぎぃと開いては、その人物が顔を出す。

 ……いや、貴女の立ち位置的にはこの流れで出てくるのは確かに納得なんですが……ですが!?

 

 

「あらま。昨日ぶりですわね。わたくしエリカ、不束者ですが……よろしくお願いいたしますわね、ショウさん」

 

 

 現れましたるは、タマムシ令嬢ご本家。

 本格的にご参戦である!

 




 ついったにも書いたんですが、ここにも謝辞を。
 評価投げてくださる方。誤字修正投げてくださる貴方様。呼んで下さる皆様方。本当にありがとうございます!
 いつもというか、こうしてたまにでも投稿できているのは皆さま方々貴方様のおかげなのです。感謝感謝。


・ミニリュウ
 つおい(
 伝説、まぼろしのポケモンブームが巻き起こった旨の記述がある。その火付け役。
 主人公もその波にのって資金を調達していたりするし、各地方の図鑑作成という事業そのものがブームを発端にしているという設定なので、いまいち強くは突っ込めない案件。世知辛い。


・ポケマジ
 何度か書いている気がする……?
 ゲーム中でいろいろと再放送されているので扱いやすい。
 相棒ポジションがあのポケモンなところに漢気を感じる私。


・どくタイプ
 何にとっての毒なのかというお話。
 世界観的にもバトル的にも、個人的にとても扱うのが楽しいタイプ。
 ドラテ麻痺&いかくばらまき脱皮ねむるアーボックとかいう珍種を見かけたらそれ私かもしれません(現環境不可


・草タイプ
 初代では毒の複合が漏れなくついてくる。モンジャラ以外。
 某攻略本でこき下ろされていたイメージありあり……。

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