Θ―― 研究棟6階/マサキの部屋
《 ボウンッ!! 》
マサキさんはぐちゃぐちゃにした白衣を丸ままソファへと放った後、両の手からモンスターボールを投げた。割れたボールの中からポケモンが姿を現す。
「ブイ、ブイーッ♪」
「……ブイッ!?」
机の上に座ってる。多分、2匹とも同じポケモンだ。四足歩行で、首の周りと尻尾と……いや。全体的にモフモフしているか。頭上の耳をピンとたてて揺らす様が、可愛らしい印象。
うん。身体構造的に……同じポケモンだ、よな?
疑問が浮かんでしまったのには理由がある。一方はボールから出るなり辺りを嬉しそうに飛び回り、もう一方は怯えてソファーの後ろに隠れて。そんな性格の違いも、理由ではあるのだが。
マサキさんを見ると、腰に手を当て、ドヤ顔のまま。解説を期待したのだが……しょうがない。頼りになる友人の方をあてにしよう。
「ショウ。これ、同じポケモンだよな?」
「あー……確かに。両方イーブイだな。片方が色違いだけど。つっても、このくらいの色違いならまだありえるほうなんだよなー……銀色なんかよりは」
ショウは怯えている方……
「ブイーッ!」
「グッ、ブクク」「ヘナッ、ヘナッ」
ふーむ。こっちの、ボールからでるなりオレのポケモン達と遊んでいる、フレンドリーな方……茶色が本来の色という事か。
ショウが簡潔に説明をくれた所で、マサキさんが話し始める。
「どや? 珍しいやろ! ショウんとこの嬢ちゃんと通信研究しとったらな、何の手違いかこいつらが数匹送られてきたんや」
「数匹、って事はこの他にも?」
「ん、そやな。これは大分前やけど、オーキドの博士に良く似た悪人面の爺ちゃんに、研究のためにと頼み込まれて1匹。随分勝気なお嬢ちゃんに1匹。それと、さっきお前さんらが来る前にこの研究室に来たヤツにも……と。正確にはちゃうかな? どっちかってぇと迷い込んだってのが正確な表現やろな、あれは!」
確かに。幾らポケモンを貰う為とはいえ、こんな研究棟の端にまで足を踏み入れる人物は中々居ないであろう。個人研究室にとなると、更に勇気が必要だ。……「迷ったやつ」が「ユウキ」であったかは、さて置いて。
と。となると、既に3匹は貰われたという事か。
「それじゃあ、元々は5匹いたんですね」
「やなー。ま、この『色違い』の個体は色々特別やったんや。研究の為に、ってよりは保護のために今まで残しといたんやけど……そろそろ、トレーナーと過ごすんも悪ぅ無い思たんでな。研究員とは結局打ち解けへんかったし、ずぅっと研究ばっかさせとくんも忍びないさかい」
「そか。……さーて、どうするか」
話を聞き終えた所で、ショウは腕を組んで考え始めた。えーと、まずは。
「この子ら、貴重なのか?」
「ブイー?」「ッ!」ビクッ
オレに指差されたイーブイ達が、首を傾げたり怯えたり。ショウが頷き、
「おう。間違いなく貴重だな。色違いとなるとそらもう、確立を考えたくもなくなるぞ」
「っておいっ! 無駄思考大好きなお前さんが『考えたくなくなる』とか、世界崩壊するでっ!! きっとそれは神々の黄昏やっっ!?」
「突っ込みをあんがと、マサキ。……茶々が入ったけど、まぁ、そんな訳で貴重だな。個体数と、それに雌雄比が半端ない偏り様ぽい。どんな進化をしたらこんな比率になるのかね……てのは置いといて。元々環境変化に敏感な種だから、あんまり住処を移すわけにも行かないみたいでなぁ。……あー、逆説的に、可能性に溢れた種族と言い換えることは出来る。けどそれがこいつらにとって幸せなのかどうかは、判らないな」
……成る程。ショウの言い様から察するに、ある程度は研究が進んでいる種であるらしい。
「んで、さぁさ。どうする?」
「どうする、って……」
「どっちを貰うか、だ」
ああ。どちらをショウが、どちらをオレが貰うか、か。
考えながら、研究室に放たれた2匹をみやる。すると突然、元気な茶色の方が立ち止まり ―― ショウをじっと見つめ出す。
数秒、値踏みする様な視線の後、
《ピョインッ》
「ブイ、ブイーッ♪」
「うぉっ、と。……危ないぞー」
「ブイーィィ♪」
「そのイーブイ、♀やからな。流石はショウやで!!」
「……えぇぇ。それ、理不尽じゃないか。確率とか」
元気な方がピョンピョンと跳ね、組まれたショウの腕に飛び込んでいた。確かにな。組まれた腕は、収まるのに丁度良く見えたのだろう。
それにしても、ショウは♀ポケモン
「ブイッ!」
「……好意は嬉しいんだけどなぁ。素直に喜びたく無い気持ちも、そこはかとなく」
イーブイ(茶)はそのままショウに身体をすりつけ、御満悦で。
……さて。もう一方。
「―― ッ!? ……ブィ」
視線が合うと一旦ソファーの陰に引っ込み……それでも茜色の耳は隠れていないのだが……間を置いてから、恐る恐る顔を出す。オレらに興味はあるみたい。
ショウも腕にイーブイを抱いたまま、その様子を見て。
「色違いとか、特殊な個体は得てして臆病になるんだよなぁ。環境が環境だから ――」
「ブイーッ、ブイーッ!」
「っとと。危ない。……えーと、環境だから……何だっけ」
「醜いアヒルの子とか、そんな感じ?」
「あー、そうそう。あれは『オチ』の為にそもそも種類とかが違うって設定だから、参考にはならんかもだけどな。……托卵、おっそろしいよなー。白鳥とかスワンナは、種族的にやらないけど」
最後の方はよく判らないが、一先ず、茜色の体色は自然界においても目立つらしい。イーブイの希少さと相まって、肩身が狭いという事なのだろう。茶色と茜色では、そこまで差があるとは思えないのだが……微妙とはいえ、他と違うのは確かだし。群れというのはそういう違いに、敏感でもあるのだろう。
と、いうかさ。選ぶも何も。
「……な、ショウ。もう決まってるんじゃあないか?」
「だなぁ。うしうし」
「ブー、イーッ♪」
ショウは腕の中のイーブイを撫でながら、まぁいいか、なんて話す。そんなに懐かれてしまったのなら、決まっている様なものなのだ。なにせさっき、自分で、相性が大事だとかそんな感じの事を言っていたのだから。
イーブイを一頻り撫で、ボールの仮登録を行うと、今度は向こうへ視線を向けた。
「んじゃ、あの茜色のイーブイはシュンに任せる。……多分、色々大変だぞ?」
「それでも、だ」
オレの場合、残り2匹は「そういった部分」に注力しないで済むだろう。天下のオーキド研究班、ショウのお墨付きでもある。
「ならさ、単純にピンと来たやつを受け取っても良いだろう?」
「ほー、ピンときたんかいな? ならワイは大賛成や。そらもう運命やで。諸手を挙げて万々歳したる!」
「それは只のお手上げじゃないか? ……じゃなくて。まぁ、そんなら俺のお節介だ。何かあったら相談にのるし、どうせ同室だからな。何時でも頼ってくれ」
「頼りにしてる。……さて、と」
オレは腰をあげ、ソファーの裏へゆっくり歩み寄る。近づくと、イーブイは一瞬びくりと身を震わせたものの、その場からは動かずに居てくれた。
そっと触れて、抱き上げる。ふわりとした体毛に、グラデーションの利いた茜色が映える。腕の中にいて尚もぞもぞと、所在なさげに身体を動かしている。抱えられ慣れていないのだろうか。
「……これからお世話になるよ。オレはシュンって言うんだ。宜しくな、イーブイ。……ニックネームは、と」
「お。ニックネームつけんのん?」
「はい」
今はあくまで登録上だけど、クラブは「ベニ」。マダツボミは「ミドリ」というニックネームをつけている。愛着も沸くし、個体識別にも役立つと思うから。
となれば、このイーブイは。頭に浮かんだ候補を、そのまま口に出してみる。あとはイーブイの反応次第。
「ん。『アカネ』とか、どうだ?」
「……。……ブィ!」コクリ
イーブイ ―― アカネは、たっぷりの間を置いてから、間を打ち消すような勢いの良さで、しっかりと頷いてくれた。そのまま過ぎやしないかと心配だったが、気に入ってくれたらしい。
モンスターボールにイーブイを収めていると、壁にかけられた時計の針が、かちりと動いた。
「―― っと。時間だな。タイムアップ。今を持って、ポケモンラリーも終了だ。……んんーっ!! うっし! 部屋に戻って、アンケ集計なり貰われなかったポケモンの仕分けなりをするかな!!」
「ってか、ショウ。1匹だけで良かったのか?」
「んー、迷ったんだが、大会に出る余裕は無さそうだったからなぁ。スケジュールがカツカツでさ。その内にでも増やそうと思って」
ああ。部屋ですらいつも仕事してるからなー、ショウは。寝てるか仕事してるか、ポケモンと一緒にいるか。
「そんじゃな、マサキ。また今度遊びに来る。……それにそういや、我が班員と共同研究するんだってな?」
「そそ。夏終わりあたりな、海外まで行きそうな勢いやで」
「おかげで、その計画に俺まで巻き込まれたんだけどなー……」
「ははは! そんなら、ワイも少しは楽できそうや。……ほなら元気で! ショウと、シュンもな! イーブイの事、大切にしたってや!!」
「おう。じゃなー」
「はい。ポケモン、ありがとうございました!」
マサキさんに挨拶をして、研究棟の廊下へ出る。薄暗い廊下は鈍く赤く照らされている。既に、外から夕日が差し込む時間帯となっていた。
「さーて、と。飯でも食いに行きますかね」
「寮の食堂で良いかな? 実はオレ、ゴウ達と集合の約束してて……ショウにお願いしたい事があるんだ。仕事とかの都合がよければ、だけども」
「おっけ。飯が食えれば、万事よし!」
などと。オレとショウは、新たな仲間達と共に。装い新たに、寮の食堂へと向かうのであった。
Θ―― 男子寮/食堂
食堂の奥の方。比較的高い位置に作られた、円形の机。元々多人数が個室のような使い方をする事を目的として作られた場所に、オレ達はいた。いつもは競争率が高い場所なのだが、早めに到着したゴウとノゾミが場所を取っていてくれたらしい。
「―― では、見せ合いと行くか?」
「いえーい」
「ほーぉ? ゴウにしては珍しく、自信満々じゃねぇか」
「きっとゴウも、テンションがあがってるから」
「そういうノゾミだって、顔つきがバトルの時みたいになってるからねえ。ま、アタシだってそんなんだと思うけどさ!」
言ったヒトミは机にポケットパソコンを置き、頬杖をつきながら笑みを浮かべている。その言葉の通り、いつもは仏頂面のゴウとクール担当のノゾミも顔つきが違っていた。……この2人、バトルの時になると性格変わるんだよなぁ。面白いくらいに。
なんて、まぁ、その位皆がテンション高めなのは。やはりポケモンを手にしたから、なのであろう。
オレは周囲に座ったいつもの7人と、
「なぁミィよ。女子寮の食堂も男子は出入り自由なのか? それとも、」
「女子寮の場合は、入口で。例外なく弾かれるでしょうね」
「だよなー……門番いたし。まぁ、別に良いんだけど」
その近くの席に座ったショウ&ミィコンビを視界に入れつつ、話題を転がす事にする。
ここでショウが居るのには理由があるのだが……そう。オレ達は約束 ―― 各々のポケモンを、見せ合う予定としていたのだ。心境的には見せびらかす、とも言うのかも知れないが。
「そんじゃ、誰から行くか」
「別に誰からだって良いじゃない。ふふん。あたしのポケモン、自信あるし!」
「皆もそれで良いか? ―― ふむ。ならば、僕から順に行こう。では。僕の初めてのポケモンは、こいつらだ!」
ゴウが先陣を切り、食堂の円卓にモンスターボールを置いた。ここで今回のゲスト、ショウの出番だ。
ショウは机上のボールを覗き込み、
「ゴウの選んだポケモンは……」
ゴウのポケモン達の『紹介』を始めてくれた。律儀にも、解説付きで。
ショウはオレ達共通の知人であり、友人でもあり、何よりも研究者だ。しかも只の研究者ではない。今年発表された「ポケモン図鑑」。世界的権威であるオーキド博士と共にその図鑑を完成させたスタッフにおける、中心人物でもあるのだ。なんなんだそのスペックは、と、脳内で突っ込みを1つ入れておいて。
兎に角。
毎年恒例なのだが、エリトレ組で配られるポケモンは様々な地域、国々から集められて来る。そのポケモンを全て(とまでは行かないだろうが)解説してもらうに、ショウという人物は適任過ぎたのだ。
因みに、大型ドラフト選手ショウの契約金は晩飯2名分。今ショウとミィが食べている物は、オレ達のおごりなのである。これがはたして、有名な研究者を雇う代金として高いのか安いのか、判断つかない点ではあるのだが。
……一応、ルリに頼んでも良かったのかも知れないが……アイツに頼むと何を要求されるか想像もつかない。まだショウのが安全で確実かと。
「ゴウはヒトカゲ、ウリムー、コイルか。ウリムーが珍しいチョイスだなぁ」
「ウリムー。わたしも捜したけど、見つけられなかった」
「ああ。ウリムーは、僕とノゾミの実家の近くによく居たからな。1番馴染みのあるポケモンなんだ」
「成る程な。そういうのは、意外に大切だと思うぞ。……あとは……進化しないことを考えると、このメンバーは就学中のバトルでは地面対策を怠らないようにしないとな。将来性は抜群だし、先が楽しみなメンバーだと思う」
「ふむ。参考になった。恩に着る、ショウ」
ゴウが礼を言い終えると、今度は、隣に居たノゾミがボールを置く。
「じゃあ、わたしの」
「次はノゾミか。どれどれ……おー。メリープとナゾノクサ? 2匹なのか」
「うん。わたし自身は、バトル大会にでる気は無い。けれどね、2匹は居ないと。ゴウ達の練習相手になれないもの」
「友人思いだなー、ノゾミは。……ポケモンのチョイス的には、バトルが難しいかな? メリープにしろナゾノクサにしろ、補助技の使い方が肝になるだろうし。トレーナーの腕が試されるだろーな」
「うん。頑張る」
ノゾミはその顔に判り辛い何かを浮かべ、ぐっと拳を握った。やる気は満々らしい。
そのままの流れで、ショウが逆時計回りにポケモン紹介を続ける。
ヒトミのポケモンはポニータ、フワンテ、ヤジロン。ショウ曰く「曲者ぞろい」だそうだ。ヒトミはその他に、家族同然に育ったメタングも居るし。曲者だとて、彼女にかかれば使いこなせるに違いない。戦略やらデータ分析は、ヒトミの十八番でもある。
ナツホのポケモンはガーディ、ニドラン♀、ヒトデマン。手堅く、カントー&ジョウトの周辺に住んでいる……オレ達にも馴染みのあるポケモン達で固めてきた。ショウは「戦闘のバランスは良いし、比較的馴染みのある面子だから、知識面で優遇されるだろうなー……ただし、どいつも最終進化に苦労しそうだけど」との評を下している。どういうことだろう。後で聞いてみようと思う。
続いてオレ、シュンのポケモン。クラブとマダツボミ……けど、イーブイの紹介をされた時は流石に驚かれたかな。今回みたいに紹介されない限り、色違いだなんて、まじまじと見なければ判らないと思うけど。あとバトルに関しては「レベルを上げて物理でなぐれ」だそうで。これはネタだけど。
ユウキのポケモンはパラス、コダック、イーブイ。パラスもコダックものんびりした性格で、イーブイまでそんな感じ。3匹纏めてお昼寝日和な様子を見ていると、なんともバトルに向いていない気がするが……ユウキの性格も考えると案外上手くいくのかも知れないな。ポケモンに引っ張られるトレーナー、って。ついでに言うと、イーブイはマサキさんに貰ったもので間違いなかった。流石、迷い人スキルが上限を突破しているなぁ。ユウキは。
そして、最後に1人 ――
「はーい。ボクのポケモンはー、この子らでーす」
《《ボウンッ!》》
「……えぇっ!?」
ケイスケの行動に思わず声を上げたのは、ナツホだった。食堂でいきなりポケモンを出したのである。いや、出す必要は無いのだが……別段問題が起こっていないのが幸いか。
とりあえず。ここで視線を、ボールから出たポケモンへと移す。1匹は足元
「ミーリュー♪」「コッ、コッコッ」ビチッ
「はーぁい。ミニリュウとー、コイキングでーす」
「「「……えぇっ!?」」」
今度の驚声は、ハモった。ノゾミですら口を開けたままだ。
そんな中にあって尚、のほほーんとした笑顔でポケモン達を見せ付けるケイスケと……
「ミニリュウって、アンタ!! どんなに貴重なポケモンか、判ってるの!?」
「そうだぞ、ケイスケっ! ミニリュウっていや、ドラゴンポケモンじゃねーかっ!!」
捲くし立てるナツホと、結局何を言いたいのかよく判らないユウキ。驚いているのは判るが……コイキングは視界に入らないのかな、皆は。あんなに必死に跳ねているというのに。御無体な。
暫しぽかーんとした空気が続き、咳払いをした後、思案気な顔をしたゴウが口を開く。
「む。もしや、ケイスケが始めから竜、竜と言っていたのは ――」
「……そう、ね。アテがあったのでしょう」
隣の席に居たミィの割って入った一言に、全員が向き直る。どうやら彼女なら、事情を知っていそうだと。
全員が一斉にミィの方向を向くと、溜息をつきつつ、ゴスロリ能面のままで。
「―― ミニリュウ、ね。カントーに生息している以上、全く見付からない訳じゃあないの。年に数匹は迷子の個体が保護されるわ。運よく親元に帰すことができれば、良いのだけれど……そうならなかった個体も、当然いるのよ」
「まーな。それが今回はたまたま、要請もあって ―― 1匹だけエリトレ達に配られたって流れだ」
「えぇと、要請、ですか」
「んん、要請。―― なぁ、ケイスケ。そのミニリュウ、誰から貰ったんだ?」
ショウの質問に、のんびり顔を一切崩さず。
「イブキから~」
ケイスケが答えた。……イブキ? 聞きなれない名前だ。周りを見ていると、ヒトミもナツホもユウキも、疑問符を浮べていた。唯一、疑問符を浮べていなかったゴウだけが、尋ねる。
「―― イブキ、とは。もしかして……現ジムリーダー組筆頭トレーナー、フスベシティ出身のイブキさんの事か?」
「んー、そーだよー」
「リュー♪」「コッ、……コッ」ビクッ
ゴウだけがまさか、といった顔で追求する。それよりも……ああ……コイキングの元気が無くなってきてる。なあケイスケ。ボールに戻してあげた方が……
「イブキはー、ボクの幼馴染だからねー」
「「ええっ!?」」
「ふむ。ならば確かに、昨年、エリトレ組ながらに年始大会で準優勝して見せたという……あの伝説の、イブキさんなのだな。ミニリュウをくれたのもイブキさんか?」
「そーだよー。……あ、ズルはして無いからねぇ? イブキが居そうな所なら、なんとなーくわかってたしー」
「ミィ、リュー♪」「……、」ピクピク
コイキングーッ! お前はきっと、あらいが美味しいはずでッ!!
……いや待て違う。食べはしないぞ。じゃない。これも違う。オレがおろおろしている内も、ケイスケは話し続けているから。
「―― っていう事だよー。あの意地っ張りイブキがぁ、わざわざ学園のイベントに参加するって言ってたからねー。きっとどらごーんなポケモンを配ってると思ってー」
「ふむふむ。……まぁそんな訳で、ケイスケは正統な手段でミニリュウとコイキングをゲットした、……がなぁ。コイキングがそろそろ限界だぞー」
「うーん……あぁっ、そうだねー」
ショウのフォローで、ケイスケが2匹をボールに戻した。ああ……よかった。強く生きてくれよ、コイキング。
間に、麦茶を一口。これで全員の紹介が終わった。と、このタイミングで隣の席に離れていたショウが腰を上げる。隣に居たミィも、同じく。
「そんじゃ、紹介終わり! 俺は先に部屋に行ってるな、シュン!」
「……、」
「ん、そうか。ありがとう。でもせめて、寝る前に机の上の書類の山は片付けといてくれよ?」
「善処するー」
「―― と、待てよ、ショウ。お前とミィは、どんなポケモン貰ったんだよ?」
出て行こうとするショウとミィを、ユウキが呼び止めた。
……そういやそうだな。オレも、ミィの貰ったポケモンは知らないし。
「おう、そだな。忘れてた。……つっても俺の貰ったポケモン、ユウキやシュンも貰ってるからなー。ほれ」
「―― ブイーッ♪」
「私のは、それほど。珍しくも無いわ」
「―― ビリリリリィ」
ショウの放ったボールからは、あの人懐こい♀のイーブイが。ミィのボールからは通常のモンスターボールと同配色のビリリダマが出てきて、足元をころころと転がっている。意外とでかいよな、ビリリダマ。0.5メートルとか。あれをモンスターボールと間違えるのは、大分難しいであろう。遠近法でも使用しない限りは。
ショウはイーブイを抱き上げ、ミィは、ビリリダマを……そのまま足元に転がしておいて。
「俺もミィも大会に出る気は無いし、自分のポケモンも居るんだ。今は1体で十分。研究なりサークルなりで忙しいしな」
「大会に、というよりも。名前を売る必要性が無いからかしらね」
そうか。ま、ショウといいミィといい、研究者としての道が拓けているからなぁ。そこまで差し迫った問題でもないのか。
というか、サークル?
「む、さぁくる、とは?」
「おう、サークル。学校でいう部活みたいなもんだよ。それなりに自由度は高いし、専門的なのはとことん専門的だけどな。管理棟の掲示板とかに募集がかかってるから、見てみればいいと思うぞ」
「えぇ。因みに、私はポケモンフライトサークル。ショウは園芸とコンテストよ」
「へぇ。なんだか意外だねえ。ショウとミィ、違うトコなんだ?」
驚いた声を出したのはヒトミだけだが、オレとしても驚いている。多分皆も。なんか、ショウもミィも似た雰囲気だしさ。所属しているとすれば当然同じサークルだろうと、勝手に思っていた。
そんな雰囲気を感じ取ったのか。ショウは苦笑いを浮べつつ、
「あー、そうそう。フライトサークルは女ばっかりでなー。学外からも大勢参加してるわで、居心地が悪いんd『ブイ、ブイーッ!?』……何ゆえ怒り出しましたか。……とりあえず噛まないでくれ、頼むから」
「私の、場合は。サークル長のソノコに誘われただけなのだけれどね」
「ビリリリリー」
ショウの腕をガジガジし始めたイーブイに対して、変わらず表情のわからないミィとビリリダマ。にしても、サークルね。オレは特にしたい事も無いしなぁ。皆は興味あるみたいだけども。
「まぁ、興味があったら見に来てくれればいいって。掲示板の張り物に活動場所とかも書いてるし。―― そんじゃな!」
「これで、失礼するわ」
ショウはイーブイ小脇に手を振りながら。ミィは足元にビリリダマを転がしながら、食堂を出て行った。オレ達も手を振り返しながら、姿が見えなくなるまで見送っておいて。さてと。
「それじゃあ、オレ達も解散にしようぜ」
「そうね。さっきミィが言ってたんだけど、実は今日、寮の歓迎会があるの。あたしもノゾミも、さっさと寮に戻らなくちゃいけないのよ。ね、ノゾミ」
「うん。そう」
「ヒトミは? 実家の門限は大丈夫そうか?」
「ああ、多分ね。手持ちのバトル訓練をする暇だってありそうさ」
「うげっ。お前、まだやんのかよ。変わんねぇなぁ。……おれ達はどうする? ゴウ」
「む。僕は、そうだな。男子寮の歓迎会はとうに終わっているし、ひとまずプレイルームにでも居るとするか」
それぞれが、今後の予定について話し出す。因みにケイスケは、とっくにというか、またも眠っているのだが。
オレはケイスケをどうするか考えつつ、ひとまずは、解散後の行動について思索するのであった。
やはりイーブイを貰うに、
という訳で、イーブイとフレンズが一気に数匹の御登場でした。開発の押し面の、モフモフ族です。
イーブイの愛らしさは反則に販促ですよね? 誤字ではなく。
作中、シュンのイーブイ「アカネ」の特殊性についてはその内に。色違いには展開上の都合があります。
あとは、メイン7人のポケモン達がお披露目となりました。話の都合上、スポットを当てられるポケモンは限られてくるのではないかと思いますが、それぞれ選んだ意味はありますので、なんとか頑張ってみたいと思います。
尚、彼ら彼女らが『いる場所』をご存知の方々は、メンバーを比べてみたら、今後の展開が読めるのやも知れません。
……実は、ヒトミなんかは意図して顕著に、手持ちがかき回されております次第なので、疑問に思って下さったのならば僥倖です。
ついでに。
白鳥は托卵しないはずです。確か。きっと偶然混じったのでしょう。