幕間②開始の前に、注意書きをば。
・幕間②は、「幕間」との呼び名に名実共に相応しい内容となっております。ノリは変わりませんが、色々と実験的な部分もあるので、ご容赦ください。
(実験的な部分はともかく、読み辛さなどあれば、遠慮なく御指摘を)
・幕間②は全4部を予定しております(プロローグ全3話を除く)。が、文章量にはばらつきがありますので、ご容赦ください(2回目
・更新は部が書きあがり次第更新します。人物登場の速さや多さ等々、構成的に「あら」の目立つ内容かとは思いますが、あくまで幕間ということで、何卒ご容赦くだされば(3回目
主要人物については、後々に人物紹介を書かせていただきます。
・最後に、最も大切な部分を。
『この話に登場する主要人物に、ショウおよびミィの主人公両名以外のオリジナルキャラクターは登場いたしません』
……ただし、性格の捏造はあります(ぉぃ
では、では。
幕間②を開始させていただきます。
1995/3月 プロローグ①
Θ―― タマムシシティ/トレーナーズスクール
ここは玉虫……虹色との色名を冠する街、タマムシシティ。
カントー地方の中心近くにあるその街の南西。海と森との間に、施設はあった。
「おおーっ! コレが、念願の!」
目の前に建ち、四方を囲む建物 ―― タマムシシティのトレーナーズスクールを見やる。オレは今日から、本決まりでこのスクールに通う事になっていた。
こうして額に手をかざして太陽を遮りながら脚を進めていると、建物の概観がよくよくわかる。春の太陽光を映したレンガ様の外壁は実に美しく、足元に敷かれた半人工飼育モノだという芝生が心地よい。
オレは今年で11才。一応、トレーナーとしての基礎教育は去年で終えていて、普通のトレーナー資格に関しては持ち合わせている。
そんなオレがここへと通う理由が1つ。タマムシのスクールは、カントー地方の中でもこことヤマブキにしかない「上級学科」を募集しているのだ。
その名も、『トレーナー専攻コース』。
通称:エリートトレーナー養成所。
世界に誇るタマムシ大学と併設され、各種施設も充実。他校……というか隣の地方の片田舎のトレーナーズスクール出身の身としては、友人達と共に頑張ってみた甲斐があるというものだ。
そんな感慨に浸っていると、しかし、隣を歩く幼馴染はオレの感慨を見事に切り捨てる。
「なにをボーっとしてるの。呆けてないで歩きましょう、
「待ってくれ。もう少し感動の余韻を味あわせてくれてもいいだろ、
トレーナー専攻コースの赤い制服に身を包んだナツホが、いつものツンとした態度でケツをまくって来ていた。
……ただし、エロスな意味は含まない。というかこれでエロスとか、どんだけ欲求不満だよ。ケツって言っただけだし。いや、まくるっても言ったけど。
「言葉って不思議だな」
「ちょっと、シュン。感動もいいけど、入寮の時間がもうすぐなの! 早く行くわよ!」
「あ、わかった。……しっかし、ワクワクするな」
「当たり前じゃない。……わたしだって、……そうなんだもん」
「出ました、ツンデレ!」
「―― もうっ! 知らないからっっ!」
幼馴染は黒い髪を束ねた尻尾を揺らし、怒りの歩調でズンズンと前進していく。優秀な幼馴染の先導だ。どうやらオレ達が寮の手続きをする為に目的地としている生徒科は、あっちの方向にあったらしい。今知った。
頭の中で幼馴染をどうなだめようかと思案しつつ、ジョウト出身のオレ達からすれば異郷の地……ポケモン学の最先端、カントー地方の空を見上げる。
隣の地方たる我が地元と大差は無いが、ここに居るオレ自身の気持ちが違うのだろう。軽快な青空が、心を弾ませてくれている。
「うん。行こうか」
右手にナツホや友人達と一緒に買った、同じ型のキャリーバッグを引きずって。
オレは新天地であるトレーナーズスクール、その寮へと……「ポケモントレーナーとしても」最初の1歩を踏み出すべく、歩き始めた。
Θ―― 学生寮(男)
寮は校舎の両脇にあった。西に女子寮、東に男子寮。
あと、校舎から見て北側に国が作った大図書館があるため、勤勉な学生達はそこにもよく集まるらしい。
……という説明を、寮長から受けたのだが。
「きみは、どこから?」
前を歩き案内をしてくれている寮長が、季節はずれな紫のマフラーをなびかせながら振り返って、質問してきた。……どこから、って。説明するのはいいけど、知ってるかな?
「オレはキキョウシティ出身の、同スクール出ですね。知ってます?」
「うん。観光地として有名だ。……という事は、僕と同じくジョウト地方出身なのか」
「寮長もなんですか?」
「ああ。僕はエンジュシティ出身さ。ジムリーダー資格を取る為にタマムシのスクールへ来ているんだよ」
「お。つまり寮長は、上級生様だったワケですね。これは失礼しました」
「そうだ。……でも、ひとつだけ。様付けはちょっと嫌だな」
「了解です、りょーちょー」
「うん、それで良い!」
嫌味の無い笑みを浮かべる寮長、マツバさん。
ちなみに、只今のオレの推理は、ネタがわかれば簡単である。この学校にはただトレーナー資格を取りに来るだけの「一般組」を除けば、オレやナツホみたいに資格を取った後にエリトレを目指して入る「専攻組」が多い。しかし、更に1年かかって上級資格である「ジムリーダー資格」を取りにかかる人や、「レンジャー」「ジュンサー」「ポケモン医学」等々を修めるために努力する人々も存在するのだ。
「一般組」で1年。
その卒業後に「専攻組」で、更に1年。
エリトレ資格がなくては上級資格を取れないので、ジムリ専攻であるマツバさんは必然的にオレよりも先輩である、という事になる。
「同じジョウト出身同士、今年1年よろしく頼むよ。シュン君」
「こちらこそ」
いきなり同郷の先輩と知り合えるとは、これ以上ない上々な滑り出しであろう。
そのまま幾つか話をしながら歩いて行くと、フロアー全体が絨毯敷きである3階の端に到着。……「325」号室。どうやらオレの部屋に着いたらしい。
「ここがキミの部屋で、はい、コレが鍵だ」
「ども」
「ちょっとだけ寮について説明しようか。……5階にある部屋番号500台の部屋は、一般組の人たちのための部屋。4階は全て事務フロアー。専攻組はみんな3階の部屋に集まっていて、2人1部屋。僕達最上級生は2階だ。あとは、そうだね。専攻組の人はキミの他にも、既に数人入寮している。プレイルームなどで交流してみると良いと思うよ」
「ありがとうございます。因みにプレイルーム、と言うのは?」
「ああ。うーん、基本的には娯楽空間かな。テレビとかソファーとか、雑誌とか、給湯器とか。あ、1階にあるんだ。食堂の隣だし、僕も食後は大体その辺にいるよ。もし見かけたら遠慮なく話しかけてね。あとの細かい部分は、プレイルームにある掲示板や学内サイトを閲覧してくれてもいいし、また僕に聞いてくれても良いからさ」
「はい、何から何までありがとうございました!」
「うん。荷物の片付けは手伝わなくても良いかい?」
「はは、先輩にそこまで手伝わせるわけにはいけません。それに、友人がもう来ている筈なので」
「あはは! それなら心配ないね。それじゃあ!」
手を挙げ、寮長・マツバさんがエレベーターのある方向へと歩いていく。影があるのに爽やかな先輩だな。影は主にあの紫のマフラーが原因ではあるが。
さて、と考えて、オレは早速友人達へメールを送る事にする。『ついた。荷解きを手伝ってくれ、報酬は昼飯で』。
「送信、っと」
これでいいだろう。あとはあいつらが来る前に、自分でも最低限は片付けておくか。
オレは袖をまくりつつ、とりあえずダンボールを開封しておく事にした。……最低限なっ!
Θ―― 寮部屋/325号室
約1時間後。
人手と言うものは偉大だな、なんて思う程には部屋が片付いていた。後は細々としたものだけだ。
オレは伸びをし、片付いた部屋を見渡す。
「ん~、はぁ! 片付いたな!」
「これでか? 最低限過ぎるだろう。ベッドとテーブルと本棚しかないぞ」
「ゴウと違って、シュンだからねー。これでいいんじゃなーい?」
「……ケイスケ。その、相変わらず間延びした話し方は何とかならないのか」
「じぶん、ゆるーく行くって決めてますんでー」
「ははは! ゴウもケイスケもサンキューな! おかげで寝ることは出来るよ。本棚なんかは後でオレが自分で埋めるし、同室の人とも話し合って決めるからさ。……と」
ふと時間が気になり、壁にかけたモンスターボール型の時計を見る。すると、とうにお昼は周っていた。手伝ってくれた友人達を労う為にも、まずは腹ごしらえをするべきだろう。
「もう昼だし、食堂に行こうぜ。おごるからさ!」
「うむ、悪いな」
「ありがとーぅ」
生真面目な性格が現れたゴウの返事と、いつも通りに気の抜けるケイスケの声。オレのジョウトからのスクール同級生は、別の地方へ来ても通常進行らしい。これはこれで安心するよな。
よし。では、友人2人を引き連れて食堂へ向かう事にしますか。
エレベーターで1階まで降り、寮のエントランスを横切る。途中で寮長の教えてくれたプレイルームを横目に見てみると、1階のスペースを大分使っているのだと思われる空間だった。その端には、よくよく見かける箱型の線が引かれた非常に大きなスペースが取られている。もしかして、
「ああ、アレか。僕も来た時は気になったからな」
「もしかして、バトルスペース?」
「あたーりーぃ」
「そうだ。『プレイルーム』の名に恥じない空間にするため、だそうだな。偶に上級生とかがバトルしてるのを見るのは、実に勉強になる」
「あんまり近くで観てるとあぶないけどね~」
「ふーん……あ、それより食堂だ、食堂。腹が減っては戦も出来ない」
「食堂はすぐそこだ。ほら」
ゴウが指差したその先に、食堂の看板が下がっていた。
のれんを潜り中に入ると、休日の昼間だというのに、結構な人数の生徒達がそこかしこに座っている。
「……おおー、流石はタマムシのスクール。広いなぁ」
「平日だと、昼時には席が埋まっちゃうんだー」
「ああ。校舎にも食堂はあるが、此方のほうが安いからな。寮生はここまで帰ってきて食べることが多いらしいと、マツバさんが言っていた」
「そうか。お前らはどうする予定?」
「僕は、時と場合によるかな。自分で作ることもあるだろうし」
「んー……ボク、昼休みは寝ようかなー。どうせ早弁するもーん」
「いや、相変わらずだな。そこは昼に食べろよ」
「……言っても聞かんさ。シュンも知っているだろう? コイツのポケモンバトルの実力は確かなんだ。だというに、態度がいかん。僕が何度注意した事か……」
ああ、そういえば。ゴウとケイスケのあれは、既に漫才の域だった。ナツホやノゾミも諦めてたし。
オレ達はジョウトのスクールの昔話をしながら食券を買い、手近な席にトレーナーバッグを置いて席取りを完了させる。
今日は休日の昼間だからだろうか。ケイスケが言うよりは、大分席も空いているように見えている。
で、カウンターまで歩いていって食券をおばちゃんに渡すことに。
「オレは焼きそば。全部ましまし」
「僕は中華定食をお願いします」
「はーい、オムライスお願いしまーす」
「あいよ。……見ない顔がいるね。初めてかい?」
「あ、はい。オレは今日から入寮しました。よろしくお願いします」
「ああ、
「はい。わかりました」
気の良いおばちゃんだ。席に戻りながら振り返って確認すると、確かに、カウンターの上辺りに電光掲示板がある。
ついでに、そのまま食堂の光景を見渡してみる。全体的に白からクリーム、明るい木材の色で統一された空間が目に優しい。ジムリーダーの意向で花の多いタマムシシティだからか、色とりどりの植物も飾られている。ハイセンス、というよりは安定感のある装飾だ。どうやらそのジムリーダー自身がデザインを担当しているらしい……とは、目の前でだれているケイスケの談。
「―― ほら、麦茶」
「さーすがー、ゴウー」
「お、ごめんな。ありがと」
辺りを見ている内に、ゴウがコップを3つ持って来てくれていた。こういう気配りの出来るやつだよなー、ゴウって。
……ケイスケはだらーんと机に手を突いており、これは変わらないが。
ゴウはそれぞれの位置にコップを置くと、丸テーブルの向かいに腰掛けた。一息ついて麦茶を飲むと、さて、と仕切りなおした。
「それじゃあ、少し先の話をするか。シュン、お前は何のポケモンを貰うか決めてきたのか?」
「いいや。まだ白紙。というか、どんなのが選べるかは年によって違うんだし……紹介と実際を見てからでも遅くは無いだろ」
「僕はー、やっぱりドラゴンかなー」
「ケイスケ……それは流石に、現実味が無いぞ。逆に、シュンは現実ばかりを見すぎだ」
溜息をつきながら、「それでは人気のポケモンは取られてしまうぞ」なんてゴウは続ける。
……ゴウが言っているのは、この『専攻組』に入ってから選ぶパートナーポケモンの事だ。
専攻組では年の初めに1~3匹のポケモンを選び、譲り受ける。年間通してそのポケモン達で実習を行い、定期レポートを提出。経過とトレーナーとしての出来を見るらしい。
勿論、エリートトレーナーなんてものを目指すからには元から手持ちポケモンを持っている奴等も多い。だが、だからこそ、学園に入ってから初めて持ったポケモンを育てる、という事に意味があるんだそうだ。
ああ。因みにオレ達キキョウスクール出の一団は、ヒトミを除いてポケモンを持っていない。今年の初めにトレーナー資格を取って、そのまま現役進学だ。ヒトミは家族同然のポケモンが居たから兎も角、他の皆はそろって、ここに入ってから『初めて』のポケモンを貰おうと決めていた。
……でもなぁ、オレ、欲しいポケモンがある訳じゃあないしな。
なんて風に考えていると、目の前に腰掛けたゴウが俺を見て呆れ顔を浮べていた。まさかのまさか、ケイスケまでだるっとしたままでこちらを見つめているではないか。
「……あの、オレ、何かした?」
「シュン。お前はやっぱり面白いな。……それでも強くはなりたいというのだから、何と言うか、大物だ」
「だよねー」
「……そっかね」
「そうだ」
えーと。オレは今、褒められてるのか?
「……まぁいい。でもどうせ、どんなポケモンを貰おうと厳しい戦いにはなるさ。周りは全員、エリートトレーナーやその候補なんだぜ?」
軽口を叩きながら話題を変え、オレは周囲へと視線を向ける。
広くて優しい雰囲気の食堂だ。利用者はまばらではあるが、こいつ等も殆どは「上を目指そう」と言うトレーナーのはず。
……オレ達と同じく、な。
ゴウとケイスケが頷き、視線を交わらす。どうやら2人も、やる気は十分みたいだ。
「なら、まずは飯を取りに行こうぜ」
「ん? ああ、もう番号が表示されているな。……いつからだ?」
「ついさっきー。だからー、おばちゃんに怒られはしないと思うよー」
「げ、怒るのか。もしかして、残しても怒る?」
「ああ。無言でこう、返却された器を凝視されてだな ――」
無駄な話をしながら、3人してカウンターまで歩き出す。
その後、食事中は各自これまでの休みの事を話して終わった。