とある暗部の暗闘日誌   作:暮易

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どうもよろしくお願いします。処女作です。自信ないです。というかなんでこんな小説投稿してるのか理由を聞かれると恥ずかしくて死ねます。
この小説は「とある科学の超電磁砲」の二次創作と呼ぶには難しいほど原作キャラクターが出てきません。原作キャラクター目当ての方には、間違いなくブラウザバックを推奨します。
もしお時間があれば手慰みに読んで頂ければと思います。


とある孤児の後悔日誌
episode01:痛覚操作(ペインキラー)


第十二学区。そこは学園都市の中でも、とりわけ神学系の学校が多く集まる区画である。通りには各種宗教施設が立ち並び、その町並みは見る者にどこか"多国籍な雰囲気"を感じさせるという。留学生の多く住む第十四学区も同じく、多国籍な印象を受ける景観であると言われているが、この第十二学区ほどには宗教色が強くはなかった。

もっとも、余所と比べていくら宗教色が色濃く出ている学区と言おうとも、そこはやはり学園都市である。どこぞの教会のシスターさんやカミラフカをかぶった司祭さんが、道行く道を埋め尽くすわけもなく、通りは学校帰りの学生たちで溢れていた。

 

 

「なぁ?オマエほんとに痛くねえの?」

 

「便利だなー。その能力。表情変わらねー。」

 

「きもちわりー。」

 

 

この学区では珍しくもなんともない、とある教会の陰。通りから脇にそれた路地裏で、3人の小学生のグループが、彼らと同じくらいの歳の頃の少年を1人、取り囲んでいた。そのグループの中の1人、恐らくリーダー格の少年は、腕をまっすぐに伸ばし掌をその少年へと向けている。掌を向けられた少年の周辺には砂埃が緩やかに立ち昇り、何らかの、超常の力が加わっているように見えた。掌を向けられている少年は表情をピクリとも動かさず、虚空をぼんやりと見つめている。その様子に苛立ったのか、リーダー格の少年が声を荒げた。

 

「テメェ、低能力者(レベル1)のクセに調子乗ってんじゃねぇよ。レベル低いなら代わりに勉強頑張りますってか?マジであんま調子乗んなよ。」

 

その言葉の後に、リーダー格の少年が力み、腕の伸びを強くした。彼の動作と同時に、苛められている少年を取り囲む埃がより一層強く舞い上がった。それを見た残りの2人の少年は、次第に不安げな表情を浮べていった。

 

「あ、あのさ、まーくん。あんま強くしたら怪我しちゃうんじゃね?」

 

「やりすぎはまずいって。」

 

 

少年たちはこの憂さ晴らしが大人たちに発覚することを恐れ、及び腰になっている。

しかし未だにリーダー格の少年の、その鬱憤はどうにも治まらないらしい。

 

その時、突然に。少年たちのいる脇道とつながっている通りから、1人の女の子が姿を現し、この場に走って近づいて来た。

囲まれていた少年は相変わらずの無表情であったが、いつの間にか、彼の意識はその少女のほうへと向けられている。

 

 

「やめなさい!」

 

彼女もまた、その場にそろう少年達と同じ年頃のようである。いじめの状況を即座に理解したのか、直ぐさま制止の言葉を投げかけた。少女の登場とともに、3人の少年たちは顔色を悪くしていた。

それでもリーダー格の少年は能力の使用をやめずにいる。彼の対応を目にした少女は、対抗するように手のひらを上に向けた。

その刹那。空気が弾ける音と同時に、彼女の手のひら上方に真っ赤に燃え上がる火の玉が出現する。

 

 

「今すぐやめて。能力を使って人を傷つけるなんて最低よ。まだ続けるなら、ワタシも力を使うことを躊躇しないから。」

 

そう言い放ち、掲げた火の玉をいっそうめらめらと燻らせた。リーダー格の少年はその様子に大いに動揺した。そして幾許かの葛藤の後、両脇に侍る取り巻きの少年達の視線を気にしつつも、苦々しそうに能力の使用を取りやめた。

 

 

「…大げさだな。コイツに怪我なんかさせてねぇよ。ちゃんと手加減してたし。はいはい、言うとおりにするよ。あんたは怒らせたくないからね、仄暗さん。」

 

彼は横柄な態度を崩さずに、その一言だけを告げると、残りの少年たちに目配せした。間も無く、彼らと供に大通りへと足早に消えていった。

 

 

 

さて。ここで。遅ればせながら、この物語の主人公を紹介しようと思う。言い出すタイミングがいま一つわからなかった。申し訳ない。恐らくは皆さんの推察通り、この物語の主人公は案の定、少年3人に絡まれて、表情を怒らせることすらできなかったヘタレ野郎、このボクのことである。名前は雨月景朗(うげつかげろう)。

 

さきほどアイツらが言ったように、僕の能力はあまり役に立たない低能力(レベル1)の「痛覚操作(ペインキラー)」というものだ。名前の通り、何のひねりもなくただ単純に、自身の肉体に生じる"痛み", 要するに刺激を操作できる。もちろん、痛みをまったく感じないように消し去ることもできるし、何のメリットがあるのか知らないが、逆に痛みを増幅できたりもする。

 

この能力は一見、色んな場面で役立ちそうに見えるかもしれない。だけど、使えるようになってわかったんだけど、案外そうでもなかった。怪我の痛みを消すと、いつもの調子で体を動かしてしまい返って悪化させたりするし、風邪の症状を消した時なんかは、具合が良くなっているのか悪くなっているのかイマイチわからなってしまった。役に立つのは、テーブルの角に小指をぶつけた時とか、予防注射が痛くないとか、今みたいに苛めっ子に能力を使われても、痛みに苦しむ顔を晒さずに済むってことくらいかな。

 

 

っと。話が脱線してしまった。ボクのしょぼい能力の説明なんてしてなんになるんだ。これぐらいにしよう。とりあえず、ボクが何者なのか説明するために、ボクの生い立ちを簡単に説明させてもらいたい。

 

物心つく頃には、ボクはこの第十二学区にある、聖マリア園っていう、置き去り(チャイルドエラー)を預かる児童養護施設で暮らしていた。現在小学五年生。ほら、これで終わりさ。簡単だっただろ。ついでにいうと、絶賛いじめられ中だったりする。

 

 

「景朗!どうしていつも反抗せずに、あいつらに従うのよ!?」

 

ボクのことを助けてくれた少女が、苛立った様子を隠すことなく詰問してきた。

 

 

「どうせすぐに飽きて帰ってくよ。アイツらの能力なんてオレは痛くも痒くもないし。イチイチ相手をするのは時間のムダなんだ…そりゃ、火澄に助けてもらってありがたく思ってるけど。」

 

「時間の無駄――ね。ああやっていじめられている時点でそうとうな時間を無駄にしてると思うけど。」

 

「ぬぐ。」

 

その発言には反論できなかった。上手い言い訳が出ずに、思わず閉口した。彼女はいかにも心配だ、という表情でボクにたたみかけた。

 

「それに、何も反抗しないのは問題だわ。あいつら、景朗の能力を知ってる上に、あなたが一切抵抗しないから、日に日にやることがエスカレートしてる。今日なんか、ついに能力を使ったじゃない。」

 

「それは…火澄の言うとおりかも。さすがにケガするような能力の使い方をするわけはないって、オレが勝手に高を括ってただけかもしれない。」

 

 

こうやって会話をする少女は、見ず知らずの正義の味方、というわけではなく、よく知っている人物だ。彼女は仄暗火澄(ほのぐらかすみ)。齢9にして発火能力(パイロキネシス)強能力者(レベル3)となった優等生だ。

能力開発(カリキュラム)に関することだけじゃなくて、スポーツや勉強、あと料理とか、だいたい何でもそつなくこなしてしまう。おまけにけっこう可愛い(と、ボクは思うんだが。この件に関してはよく意見が分かれる。攻撃的な能力を持っているせいもあって、気が強すぎる、と敬遠するヤツもいるみたいだ)。

 

ボクみたいな、特に派手な能力を持っているわけでもなく、どっちかというといじめられっ子で情けないヤツが、どうして彼女みたいな娘と親しくしているのか(小学校高学年になると、ぼちぼち異能力者(レベル2)になるヤツが増えてきて、なかには既に強能力(レベル3)にレベルアップしてる人もちらほら出てくる。ボクみたいに低能力(レベル1)で、パッとしない能力だったりすると、逆に無能力者や異能力者からの反感を買うようだ)。残念ながらボクが超絶カッコいいから、なんて理由じゃない。

 

実は、彼女も僕と同じ"置き去り"で、同じ孤児院に住んでいるからだった。火澄との付き合いは長くて、いわゆる幼馴染ってやつだと思う。気がつけば、小さなころから一緒にいた。同い年だし、同じ学校に通っている。

 

 

「もう。わかった?何度も言ってるけど、次からはちゃんとアイツ等に抵抗しなさいよ…?」

 

彼女はそれだけ言うと、ボクらの住む孤児院の方向へ歩きだした。ボクは彼女の言葉に返事をせず、無言で彼女と同じ方向に歩きだす。しばらくして、目の前を歩く火澄がポツリと話しだした。

 

「今日も私が料理当番なんだけどさ、早く晩御飯が食べたかったら、準備、手伝いなさいよ?」

 

その話を聞いて嬉しくなった。彼女は謙遜してばっかりだが、とても料理が上手なんだ。

 

「うん。わかった。やるよ。いつもと同じように、煮たり焼いたりは任せていいんだろ?今日は何を作るの?」

 

「んー。ふつーの野菜炒めだけど、頑張っておいしく作るから。野菜、残さず食べてね。」

 

さっきも言ったけど、彼女は料理がうまい。レベル3の発火能力を持つせいなのか、彼女の作る料理は特に焼き加減、火の通りが絶妙で、材料を生焼けにしたり、焦がしたりしたことなんか1度もない。

ボクらの住む孤児院には、シスターさんを含めて10人ちょっとしかいないけど、1人でご飯の準備をするとなると大変だ。ボクたちが小学五年生に上がるころに、中学生だった兄貴,姉貴分が抜けて行ったから、今じゃボクたちが最年長だったりする。五年生になってからは、家事やら掃除やらで前より忙しくなった。

 

 

 

 

ほどなくしてボクらの住む家、聖マリア園に帰ってきた。

この聖マリア園は、民営の児童養護施設であり、十字教(キリスト)系運営母団体、要するにこの第十二学区に乱立する十字教系の神学校からの寄付によって運営が為されている、らしい。一般的な学園都市の孤児院、それも置き去りを預かるようなところは、主に学園都市の行政が経済的な支援を行っている。つまり、うちの院は学園都市からの直接的な経済的援助はもらっていない様で、それ故にほかの孤児院と比べると、著しく経営状況が悪い。

 

 

「かすみねえ、かげにい、おかえりぃー!」

 

ちょうどボクたちが玄関で靴を履き替えている時に、幼い少女がこちらへと転び出て、笑顔を浮かべながらボクらへと近寄ってきた。

 

「かすみねえ、お料理の当番だったっけ?」

 

「うん。そうよ。今から急いで作るから待っててね。」

 

火澄はそう答えた後、まっすぐに調理場へと向かっていった。

 

「わかったぁー!そんじゃぁ、かげにい、宿題教えてー?」

 

「いいよ。教えてやるけど、その前に晩飯の準備手伝ってからでいいか?」

 

「うん。いーよぉー。」

 

明るく元気ハツラツ、のようでいてところどころ間延びした喋り方をする、この妹分の名前は花籠花華(はなかごはなはな)という。……待ってくれ、みなまで言わずともわかっている。この娘の名前が少々…なんとうか…その…アレだというのは重々理解しているとも。

 

ボクたち"置き去り"に名前を付ける親なんていうのは、そもそも捨て子をするような奴らなんだ。そこに多くを求めるのが間違いだ。実のところ、ボクら"置き去り"の業界では、この程度のD〇Nネーム、まだまだ甘っちょろいものさ。

 

閑話休題。えーと、何の話だっけ。花華の話だったか。そうそう、幼い、といったけどこの花華はまだ小学二年生で、僕もそうだったけど、自身の置かれている境遇をいまいちピンと理解していない。

 

ボクらの住む聖マリア園は、民営であるから、一般的な他の孤児院とはちょっと雰囲気が違う。他の所をよく知らないから、これは完全に僕個人の持つイメージの話になってしまうんだけど、うちの院は、他の院より、アットホームで、ゆるゆるなカンジだと思う。

 

そのかわり、他と比べるとやっぱり貧乏なんだけどね。でも、率直に、他の所の"置き去り"の子たちよりは窮屈な思いをしてないと感じるし、ボクはうちの園の余所よりほんわかしたところが気に入っているよ。

 

 

 

花華と分かれた後、とりあえず鞄を自分の部屋へ置きに行った。途中、廊下で流れるようなウェーブした栗色の髪の毛を発見した。我らが聖マリア園の園長、シスター・ホルストンことクレア・ホルストン(27歳独身)が正面に顔を見せたのだ。

 

「あら、かげろう君、おかえりなさい。」

 

「ただいま。クレア先生。今から料理をちょっと手伝った後、花華に宿題教えて、その後にちゃんとシャワー室の掃除をするから大丈夫ですよ。」

 

「いつもありがとう、かげろう君。今日の料理当番、かすみちゃんだったわよね。手伝いに行こうかしら。」

 

なッ、なんてことを言い出すんだ、クレア先生!先生は料理なんてする必要ないんですよ!いつもニコニコしていてくれればいいんです、と、心の中で必死に訴えながら、黙ってクレア先生を見送った。ボクにはクレア先生をどうこうしようなんて難易度が高すぎる。

 

この園の七不思議のひとつに、「料理当番の表に園長の名前を書くと呪いが降りかかる」というものがある。小学二年生の時に、当時の兄貴分に唆され、実際にやったことがあるが、その日は晩飯から後の記憶が無く、気がついたら次の日の朝だった。

 

まぁ要するに、クレア先生はあまりお料理がお上手ではない。加えて、皆が先生に料理をさせたがらないのに気づいていて、料理を手伝うのをやめさせようとすると、時たま、むくれて強行手段に出ることがあるのだ。頼むぞ、火澄。君にすべてを任せる…

 

 

 

 

花華に約束通り宿題を教えた後、シャワー室を掃除した。少々もたついたが、掃除が終わると同時に、ちょうど晩飯ができたようだった。晩御飯は予定通りの、ふつーのおいしい野菜炒めだった。本当によかった。うまくやったね、火澄。不用意にクレア先生の前で"料理"という単語を口にしたボクの注意不足を責めないでおくれよ。

 

 

 

晩飯の後は、自分の部屋で勉強の時間だ。学校の宿題や能力開発(カリキュラム)でいい成績をたたき出すための、予備知識の獲得など、やることはたくさんある。生憎と能力開発(カリキュラム)のほうはさっぱりだけどね。小学三年生の時に"痛覚操作"が発現して以来、能力の目立った向上はみられない。どうやら、ボクの能力は脳ミソの細胞や神経を直接変化させているらしくて、それはけっこうレアな能力なんだそうだ。

 

まあ、そのために効果的なトレーニング方法なども見つかってないんだけど。だから、こうやって暇な時に、たとえば「図解!脳科学」という何が書いてあるのかよくわからない本を眺めたりして、何か役に立ちそうな情報はないかと調べている。

 

本を眺めるのにも飽きてきた。ちょいとばかしノドが渇いたな、牛乳でも飲もうかな、と思い立ったボクは手にしていた本を片付け、部屋をでる。冷蔵庫が置いてある調理場へ向かう途中に、応接室に明かりがついてるのが見えた。クレア先生と誰かが話しているようで、こっそり中をのぞいてみた。

 

クレア先生の話相手は、よく園に顔を見せる先生の上役の司祭さんだった。ドアの隙間から見える先生の顔は、普段と違って真剣でいつもと印象が全く違った。あの顔を見れば、何を話しているかなんてわざわざ聞かなくともわかる。園の経営状況が悪化しているのにちがいない。

きっと、ボクらの兄貴分たちが中学校に上がる時に、軒並み全寮制の学校に行ったのと無関係じゃないはずだ。ボクたちに対してクレア先生は、こういったことを普段の生活の中では1ミリグラム、いや、1ピコグラムだってみせやしないんだ。

 

ボクがこの事実に気づいたのは一昨年ぐらいからで、そのきっかけは火澄だった。彼女はわずか9歳という年齢で、発火能力(パイロキネシス)強能力者(レベル3)へと達した。ボクと火澄は同い年だけど、その能力の強度(レベル)にはずいぶんと大きな違いがある。

火澄は能力開発を受け始めた時から、すでに同学年の他の誰よりも能力を使いこなしていた。その後も彼女は能力開発に心血を注ぎ、メキメキと目に見える速さで力を付けていった。そんな彼女は開発が始まってわずか1年で異能力者(レベル2)になった。

 

当然、まわりの彼女を見る目は他の人と違っていて、先生たちは期待の目を、同学年の子たちは持て囃し、上の学年の子たちは彼女を恐れていた。ボクは、そんな彼女の身近に居て、身体検査(システムスキャン)の成績が毎年ほとんど変わらない自分と比べ、彼女に対し一方的な劣等感を感じていた。

 

 

彼女がついに強能力を手にしたその時、ボクは耐えきれずに、彼女に「どうしてそんなに頑張るの?」と問い詰めた。そしてその時、彼女の返した言葉がボクを変えた。「園のみんなのために、自分がやれることは一生懸命やりたい」、と。

園にこれ以上迷惑を掛けないように、多額の奨学金が貰えるような、能力開発に力を注ぐ有名校に進みたいという、今まで聞いたことの無かった彼女の本心。決して表に出さずに、内に秘めていた彼女の本音を無理やり暴き出した後悔が生まれ、同時に、ボクの中に存在していた彼女に対する劣等感が消えていった。

 

彼女に負けれてられないと思った。同じ土俵にすら上がれていないのに、劣等感を抱き、羨む。なんて無意味なことをしていたんだろう、と自分を恥じた。その時から、ボクは我武者羅に勉強を始めた。心苦しいことに、能力開発の面ではそれからも進展はない。しかし、勉学に関しては、勉強した分だけ成果はでているみたいで、なんと最近では、テストの成績は火澄に勝ち越すほどになっている。

 

ドアの隙間を閉めて、廊下の暗闇へと進んだ。今夜ももうすこし頑張るか。

 

 

 

 

 

なんやかんやで。料理の準備を手伝ったり、花華に勉強を教えたり、皆で晩御飯を食べたり。ボクたちに隠れて、困った表情でため息をつく我らがクレア・ホルストン園長(28歳独身), シスターホルストンをのぞき見て、一層勉強に奮起したり。

 

今思い返せば、とてもとても、幸せだった日々。この時の"俺"は、それなりに未来に対して希望を抱いていた。学園都市はその名に全くもって恥じぬほど、学生に対する奨学金の制度が充実していたから、頑張って能力開発(カリキュラム)や勉学に励んでいれば、それなりの未来が待っていたはずだったんだ。

 

残念ながら、"俺"がこれから語るであろう物語は、今までつらつらと述べてきた、幸せだった日々の記憶とは全く持って無関係なものとなる。今でもはっきりと覚えている。これから、"俺"の安寧の日々は終焉を告げられる。

 

"終わりの始まり"は、一人の怪しい科学者の、夢のような甘言から始まった。絶望は、希望の皮を被ってやって来た。

 

 

 

 

 

次の日。いつもと同じような日だった。昨日張り切って夜更かししたせいで、いつもより少しだけ眠かったけど、その他はなんにも変ったことが無かった。学校で嫌な感じの奴らに絡まれるのも、いつもと同じ。

 

 

今日はツイてたな。いつも絡んでくるいじめっ子メンバーを撒いて、うまく逃げ出してこれた。ボクは機嫌よく、小走りに我らが聖マリア園へと帰ってきた。火澄は委員長の仕事が有るみたいで、学校にまだ残っている。

玄関の前で遊んでいた花華と出くわした。いつもみたいにはしゃぎ過ぎて転んだみたいで、膝小僧をすりむいている。これは、いつものヤツがくるかな、とボクはこの先の花華のセリフを予想した。

 

「あ!かげにい、おかえりぃー。ねぇねぇ、いつもみたいに、いたいのいたいのとんでけぇーってしてー。ころんだとこがいたいのー。」

 

花華の言う「いたいのいたいのとんでけぇー」とは、よく知られているところの「痛いの痛いの飛んでけ」と同じものであり、転んだガキんちょどもをあやすおまじないのことだ。

ボクは、園の年下の子たちが転んでケガをしたときなんかに、昔からよくやってあげている。花華は特に、はしゃいで走り回って、すぐに転んでケガをするので、もう何回やってあげたか覚えていない。

花華曰く「かげにいのいたいのいたいのとんでけぇーはよぉーくきくんだよー」というらしいのだが、本気でそう言っているのかどうかわからない。確かに、この件に関しては、人気者の火澄ではなく、ボクの所にガキんちょどもが寄ってくるので、信憑性が無いわけでもないんだろうか。

花華がせがむ通りに、ケガをしたところを撫でてやると、「いたくなくなったー」と言って嬉しそうに笑っていた。ホントかよ。

 

 

「かげにい。今、なんかへんな人がうちに来てるよぉー?みたことない人だよー。」

 

花華はその一言を告げると、さっそく走り出して、庭の中央にある遊具で遊び始めた。

この孤児院に来客なんて珍しいな。花華が知らないとなると、たまにやってくるクレア先生の上役さんや教会の関係者じゃないってことか。ボランティアの人かな?だとしたら、ちょっとめんどくさいな。自分たちを引き取りに来た足長おじさんかもしれない、なんて可能性は端から考えない。なぜなら、幸運にも里親に拾われていったお仲間の話なんて今までに一度も聞いたことが無かったからだ。

 

そんな風に、いったいどんな人なんだろう、と予想しながらボクは室内に足を運んでいった。

 

 

 

玄関を越え、自分の部屋に向かう途中に、応接室の前を通る。その応接室のドアは開きっぱなしになっていて、部屋の中で話し込んでいたクレア先生と、白衣を着た、ザ・科学者、みたいな恰好をした中年のオジサンが、同時にこちらに気づいて、ボクを呼び止めた。

 

「かげろう君。ちょっとこっちに来てくれるかしら。」

 

心なしか、クレア先生の表情がいつもより険しく見える。ボクが2人に近づいていくと、待っていましたと言わんばかりに、科学者さんが口を開いた。

 

「はじめましテ。こんにちは。君が景朗クンですね。私は木原導体というものデス。今日は、君に用があってきたんデスよ。」

 

科学者さんはそう言って、ボクに名刺を渡し、握手を求めてきた。名刺には、高崎大学の研究員と書いてあった。ここから一番近い大学じゃないか。ちょっと雰囲気が怪しい人だったけれど、礼儀正しい態度だったので、特に不信感を持たずに握手を返した。

 

そのあとは、クレア先生がソファに掛けるように勧めてくれたので、黙ってクレア先生の横に座った。ボクが木原導体氏の名刺をポケットに入れると、クレア先生が話しかけてきた。

 

「かげろう君。さっきも言っておられたけど、今日はかげろう君に話したいことがあって、木原さんはうちにいらっしゃったらしいの。今から少しだけ、木原さんのお話を聞いてもらえないかしら。」

 

最初から断る気なんてなかったけど、クレア先生の頼みならなおさら断れませんな。ボクはこちらをじっと見つめる木原さんと視線を合わせながら、ふと疑問に思ったことを口にした。

 

「今日はわざわざお越しいただいてありがとうございます。僕が雨月景朗です。あの、どうして今日はボクなんかにのために会いにきて下さったんでしょうか?他の子達にもお話があるなら、もう少し待ってもらえれば、皆帰ってくると思いますよ。」

 

ボクがそこまで話したところで、木原さんが途中から割り込んで喋り出した。

 

「イイエ。違いマスよ。今日、私がここに来た理由は純粋に、景朗クン、君にある提案を聞いてもらうためなんデスよ。」

 

木原さんのその答えに、更に疑問符が浮かぶものの、とりあえずおとなしく彼の話の続きを聞くことにした。

 

「景朗クンはおりこうサンみたいデスね。受け答えがしっかりとしていマス。そうデスね。率直に用件をお伝えしマショう。私たちは今、筋ジストロフィーという難病の研究をしていマス。

この筋ジストロフィーという病気を発症すると、体中の筋肉が加齢ととも縮小し、徐々に正常に機能しなくなって行きマス。ほとんどの発症者は十代で自分で歩くことすらできなくなり、そして二十代でほぼ全ての人が、心不全や呼吸障害を併発させて死亡してしまいマス。

 

最近、この病気の治療法の研究に、景朗クンの能力が有用なのではないかという意見がでてきましテね。本格的に検証シたところ、たしかに、景朗クン。君の能力をもっと詳しく研究し、応用していけバ、もしかしたら、今まで以上に効果的な、筋ジストロフィーの治療法を開発できるかもシれないのデス。」

 

木原さんは一口で一気に、ボクに会いにきた動機を語ってくれた。次に彼が何を言い出すか、誰にでも容易に予想できるだろう。

 

「景朗クン。すデにキミも私の言いたいことが予想できると思いマス。どうデしょうか?私たちの研究に協力していただけないデしょうか?」

 

確かに、彼の話の流れから、次はきっとこうやって、ボクに協力を要請するだろうと推測できていた。しかし、協力といったって何をすればいいんだろう?ボクの能力がなにかのやくに立つのなら、正直ちょっと嬉しいけれども。

 

「きょ…協力と言われても…。具体的に、ボクはいったい何をすればいいんでしょうか?もちろん、その難病の治療法の開発に協力できるなら…自分にできる範囲で…やってみたいと思いますが…」

 

さすがに、協力と言いつつ何をさせられるのか全く分からない状態では、ボクの返事の歯切れも悪くなる。木原さんはボクの返答を予想していたようで、すぐさまその答えを返してくれた。

 

「その言葉を聞いて安心シました。恐らくキミの能力の調査は、一朝一夕ではデきません。ですから、今の所ハ、我々の研究機関にも付属の養護施設がありマスので、とりあえずはソコに住居を移していただいテ、逐一、研究のための実験の協力をシていただけれバと思っていマス。」

 

一瞬、思考が止まった。それは…要するに、この施設、聖マリア園から出ていかなくてはならないってことじゃないのか?

隣に座るクレア先生も驚いて硬直している。ボクが放心していることに気付かず、木原さんは淀みなく喋り続けた。

 

「キミの能力はこの学園都市でも非常に希少なモノなのです。今現在、書庫(バンク)に登録されている肉体変化能力者(メタモルフォーゼ)の総数は、たったの2名デス。そのうちの1人が、実はキミなのデスよ。驚くかもしれマセンが、キミは学園都市でもたった2人しかいない肉体変化能力者(メタモルフォーゼ)の片割れなのデス。」

 

予想外の新情報だった。ボクがこの学園都市にたった2人しかいない肉体変化能力者(メタモルフォーゼ)……だって…?

 

「もちろん、私たちに協力していただけれバ、コレからの生活についてハも何も心配要りマセんよ。住居、授業料、生活費、我々がすべて補償シマす。キミにとっても非常にヨい話だと思いマすよ。」

 

ボクは、木原さんの話を聞いて気分を落ち込ませずにはいられなかった。この上なく素晴らしい提案だった。しかし、渡りに船の話のはずなのに、苦しい気持ちになる。彼等は、役に立たないと思っていたボクの能力の活用法を知っている。そのおかげで、ボクはこれから、この施設に頼らずに生きていけるようになるだろう。だが、それは今までずっと一緒に暮らしてきた、この施設の仲間との別れを意味している。

 

家族のように育ったクレア先生や火澄や、花華たちとの別れ。ボクは…ボクは…これ以上迷惑をかけないように、15歳になったらこの施設を出て行こうと心に決めていたはずじゃないか。それが3年ほど早まるだけ。それなのに、嫌だった。こうやっていざ、この施設から出ていけるとなると、みんなとまだ一緒に居たい、そういう気持ちでいっぱいになった。どうして。いきなりすぎる。

気がつくとクレア先生がボクの顔を気遣うように見つめていた。

 

「か、かげろう君。急いで決めなくていいのよ。じっくり考えて、かげろう君の思うとおりにしていいからね。もし、みんなと離れ離れになるのがいやなら、ここにずっと居ていいんだからね。」

 

クレア先生のその言葉に、木原さんも同意の言葉を放った。

 

「大丈夫デスよ。景朗クン。シスター・ホルストンのおっしゃるように、時間をかけテ考えテくださって結構デス。」

 

 

大人2人の顔を見ずに、ボクは下を向いたまま考え続けた。一般的には。ごく普通の"置き去り(チャイルドエラー)"の立場から判断すれば。きっと木原さんの提案を二つ返事に受け入れるべきなのだろう。だけどボクは。全然、嬉しい気分に成れずにいた。この施設の人たちと離れ離れになるのは寂しくて、とてつもなく嫌だった。……しかし、クレア先生はそんな僕を、情けのないヤツだと思って失望するだろうか。ボクは不安な気持ちでクレア先生の顔色をうかがった。

 

先生は、ひたすらボクを心配そうに見つめていた。今までに見たこともないくらい寂しそうな顔付きをして。ずいぶんと長い間、一緒に暮らしてきたから分かる。きっと、先生の立場からは言えないのだろう。自立できる可能性を不意にして、ここ聖マリア園に残ってくれとは。だって、ここの生活は、けっして裕福だとは言えないのだから。

 

先生の顔を見て、ボクは決心した。ボクはここに残りたい。たとえ迷惑をかけることになっても、先生がいいと言ってくれる限り、みんなと一緒に居たい。ボクは木原さんに向き直ると、はっきりとした意思をもって自身の思いを伝えた。

 

 

「す、すみません!あの…今回の話はすごく良い話で…本当にありがたいお話だったんですけど、ボクは、まだこの施設の人たちと一緒に居たくて、もう少しだけここでお世話になりたいんです。ですから、今回のお話は…その病気で苦しむ人たちには合わせる顔がないんですけど……お受けすることはできません。」

 

ボクの言葉を聞いた木原さんに、期待が外れて残念そうな表情はまったくといっていいほど出てこなかった。それどころか答えに納得したような表情をして、つづけてボクに返事を返した。

 

「フム。そうですか。わかりまシた。イエ、そう言うことなら、今回の話ハ、まったくお気になサらないでクダさい。もともと、可能性の話をシていただけなので、景朗クンが病気の患者サンのことを気にする必要もナイのデスよ。ただ、キミの能力には、我々が十分期待するだけの高いポテンシャルがある、そのことを忘れナイでクダさい。もシ気が向いたら、いつでも私に連絡を入れてクダさい。連絡先ハさっき渡した名刺の方に記載してありマスから。」

 

その言葉を聞いたボクはほっとした。クレア先生の方を見ると、さっきとは打って変わった、安堵に包まれた表情をしている。視線に気づいたのか、クレア先生はこちらを見ると、ボクに退席を促した。

 

「お話も済んだことだし、かげろう君、時間をとらせて悪かったわね。ごめんなさいね。」

 

クレア先生の声を耳にしながら、ボクは木原さんに挨拶をしたあと、応接室から退室した。みんなと離れるのが嫌で、その一心で思わず木原さんの提案を蹴ってしまった。

 

 

 

 

ほどなくして自分の部屋に着き、鞄を机に置いて、椅子に座って一息つく。落ち着いた今なら、先ほどの木原さんの話をもう一度冷静になって考え直すことができる。ボクは今更ながら、先の木原さんの提案をあの場で即座に断って、本当によかったのだろうか、と後悔の念が湧きあがってくるのを感じていた。

 

冷静に考えてみれば、このさきボクたち"置き去り"に、ああも簡単に自立の道が降って湧いてくるのだろうかと。ここ、聖マリア園の経営状況は年々悪化しているし、いつまでも世話になるわけにはいかない。ゆくゆくは中学の卒業とともに出て行こうかと思っていたものの、今すぐだと言われたら、まだこの場所に残りたいという気持ちで一杯になった。それは本当だ。あの場で受け入れる覚悟はなかった。

 

しかし、木原さんが僕の能力には高い可能性があると言っていたとはいえ、いつまでも悠長に彼等が僕の能力を必要としてくれる保証はない。それに、木原さんは気にしなくていいと言ったが、もし、役に立たないと思っていた、低能力(レベル1)の僕の能力が、本当に筋ジストロフィーの患者さんを救えるのなら…あんな風に、実験に協力できないと即断したのは、愚かなことだったんじゃないか、と、ボクの良心みたいなものがじくじくと痛んだ。

 

 

 

気分転換に、園の外回りを掃除することにした。いつの間にか夕暮れ時になっており、日もだいぶ落ち、綺麗な夕焼けが眩しかった。箒を片手に庭先を掃除していると、玄関から木原さんが歩いてくるのが見えた。

木原さんの姿を目にしたら、先ほど自分の部屋で一人考えていた案をこの場で彼に伝えてみよう、という気になっていた。後で木原さんに貰った名刺の連絡先に連絡しようかと思っていたが、もうこの機会に話してみよう。

 

彼がこちらに近づいてきたので、ボクは会釈をする。

 

「先ほどはすみません。木原さん。」

 

ボクがそう言うと、木原さんは不思議そうな顔をした。

 

「イエイエ。キミが謝る必要なんてどこにもありマセんよ。今日は時間を取らせてシまい、こちらこそすみませんデシた。」

 

「あの、木原さん。ボク、さっきは実験に協力できないと言いましたけど、あとから自分でよく考えて、それで…。この施設を出ていくことはできないんですけど、ボクの空いている時間に木原さんたちの実験に協力するってのは不可能でしょうか?」

 

ボクのその発言に、木原さんは興味を示したようだった。

 

「そうデスか。もしかして景朗クンハ、我々の実験に協力すること自体ハ嫌ではないんデスね?」

 

木原さんのその答えに、ボクは肯定の言葉を返した。

 

 

「そうデスね。フム…。我々としても、キミの能力ハ、筋ジストロフィーの治療以外にも他の分野で役に立つと考えていマシたからね。……それデシたら、こうシマしょう。景朗クン。今週末、キミの都合のヨい時間デかまわないのデ、私の所属スる鎚原病院の木原研究所という部署に顔を出シてもらえナイデしょうか?住所は渡シた名刺に載っテいマスから。そこデ、とりあえずキミの能力の検査をサセてクダさい。後のことハ、それから考えテも遅くはナイデしょう。」

 

「は、はい。わかりました。」

 

「それでは、景朗クン。週末にマタお会いシマしょう。」

 

木原さんはそう別れを告げた後、大通りの方へと消えていった。こうやって、実験に協力して、病気で苦しむ人たちの力になれる。それはそれで良いことじゃないか、とボクは後悔の気持ちが薄れていくのを感じた。

 

いろいろと悩みを吹っ切ったボクが、手早く掃除を終わらせようと、箒を強く握りしめたその時、いきなり後ろから声をかけられた。

 

「さっきの人、誰?うちにお客さんだったの?」

 

正体は火澄だった。ちょうど今、委員会の仕事を終えて帰ってきたらしい。先ほどの木原さんとの会話を見られていたようだ。火澄の機嫌がすこしだけ悪そうに見えたので、ボクはあわてて質問に答えた。

 

「いや、うちの園のお客さんってわけじゃなくて、ボク個人に用があってきた人だったんだ。うちの園に関する話は何もなかったよ。」

 

ボクがそう答えると、火澄は驚いて、再び詰問してきた。

 

「景朗個人に要件?それで、いったい何の用件だったの?まさか、あなたを引き取りたいとかいう話じゃ…!」

 

「うーん。そんな感じの話になるのかな?実際は、あの人は病院の研究者さんか何かで、ボクの能力を病気の研究に使いたいって話だったんだ。実験に協力したら、その研究所の施設にお世話になることができたんだけど、ボクはまだうちに居たいからすぐに断っちゃった。」

 

ボクの返答に少し落ち着いた火澄は、鞄を持ち直しながら、まだ確認するよう続きを促してくる。

 

「じゃ、じゃあ、もう断ったってことは、結局あんたはこれからもうちに居続けるのよね?」

 

「そ、そうだよ。なんでそんな慌ててんのさ。ビックリした?」

 

ボクの言葉に一瞬言い淀んだ火澄は、憤慨した様子でくるりと後ろを向くと、ボクを置いてけぼりにして、園の方に歩いて行った。

 

「バッ……。な、なんでそうなるのよ!…あんたこそ、本当にそれでよかったの?勿体なかったんじゃない?」

 

掃除なんてどうでもよくなったボクは火澄を追いかけた。そしてその背に向かって喋りかける。

 

「もうちょっとだけこの施設に世話になりたいんだよ。みんなと会えなくなるのはつまらないんだ。」

 

「正直に言いなさいよ。つまらないんじゃなくて寂しいんでしょ?」

 

「それももちろんあるさ。」

 

「ふーん。よかったね。」

 

彼女は早歩きでずっとボクの前を歩いた。ボクが火澄の真っ赤になった耳を見てニヤニヤしていると、突然火澄が振り返る。

 

「さっきからなにずっとニヤニヤしてんのよ。いい加減にしないと燃やすからね!」

 

まさしくマッチを擦り合わせるような音がして、彼女の周りにいくつかの小さな火の玉が燃え上がった。ボクは咄嗟に距離を取ってなんでもないと手を出して、誤魔化さざるを得なかった。

 

 

 

 

 

木原さんがボクらの孤児院に来た週の週末、ボクは早速、彼の指定した病院、鎚原病院へと来ていた。聖マリア園のある第十二学区は学園都市の東の端に位置している。この鎚原病院は第五学区の南の端にあるから、自分1人で行った場所としては一番遠いところになるかも知れない。

行きがけは第二十三学区をぶち抜いてきたけど、あまり面白いものは見れなかった。

やっぱり第二十三学区はみんなが言うように、産業スパイ対策が厳重だってことなんだろう。帰りは第五、第六学区ルートで帰ろうかな。そうだ、帰る前に第七学区や第十八学区に行って、目星を付けてある中学校の見学をするのもアリだな。

 

ボクは伸びをしてから、今までぼうっと眺めていた、正面の病院に向き合う。この鎚原病院は、少々サイズは大きいものの、見た目はごく普通の病院といった感じであり、あまり最先端の研究をやっているようには見えない。建物の外見と中でやっている研究はまったく関係が無いってことだろうか。しかし、あぽいんととか全然取ってないんだけど大丈夫かな。やっぱり事前に電話の一本でも入れておくべきだっかもしれない。

 

ここに来て少々不安になってきた。まぁいいか。木原さんたちが忙しくて相手にしてもらえなかったら、さっそく第七学区に行って丸一日、中学校の見学をしていこう。この前友達に教えてもらったゲームセンターも気になるけど、お小遣いが…。

 

 

やはり大きな病院だからだろうか、病院のエントランスには忙しそうに行き交う看護婦さんやお医者さん、患者衣を着た人、車イスを転がしている人たちで混雑していた。ボクはまっすぐ受付まで歩いて行った。外来対応のお姉さんに名刺を渡して、木原さんに呼ばれてきたことを話すと、すぐ横のベンチで待っているように言われた。言われたとおりに大人しくベンチに座る。

改めて辺りを見渡して、その大きさ、人の多さに驚いた。ここまで大きな病院に来たことは今までなかったからだろうか。患者さんには学生が多いけど、その他の人たちはみな大人ばっかりだ、当り前か。

 

 

しばらくすると、メガネをかけた、少し冷たい印象を受ける女医さんが、ボクを迎えに来てくれた。冷たい印象と言ったが、態度も冷たかった。必要最低限の言葉で、ボクについてくるように言うと、ボクのことなどまるで気にも留めていないかのように、どんどん先へと歩いて行った。

慌てて後ろについて行く。廊下にでて、十字路を左に曲がると、大きなエレベーターが鎮座する、ピュロティに行き当たった。彼女がエレベーターに入ると、すぐにドアが閉まりそうになったので、急いで走って行って突っ込んだ。なんとかドアが閉まる前に滑り込めたものの、女医さんはこのことにすら興味がわかないのか、こちらを一瞥もせずに、手に持っていた書類を眺めている。

 

とても会話ができるような空気じゃなく、ボクは手持無沙汰になって、ぼんやりとエレベーターのボタンを眺めた。そこで驚いた。地下だ。このエレベーターは上階じゃなくて、地下へと向かっていた。おまけに、この病院はなんと地下20階近くもあるようで、他に1人、エレベーターに乗っていた人も、地下3階で降りてしまったのでこの女医さんと2人っきりになってしまった。

どこまで降りるんだろうか。居づらい、沈黙が辛い。見たところ、クレア先生とそう年は変わらなそうだ。それなのに、この態度の違い。ああ、クレア先生が恋しい。今日はまだ何もしてないのに、ちょっとだけ帰りたくなった。

 

 

地下12階でやっと止まった。女医さんが出て行ったので、その後ろにひっついて行く。エレベーターを出て、部屋の様子を見て納得した。確かに、これは病院じゃなくて研究所だ。地下12階を見渡せば、高い天井に無骨な内装で、窓越しに除けば、なんにつかうかわからないマシンとコンピューターだらけの部屋。女医さんはコチラを気にせずどんどん進んでいくので、じっくり見れないのがもどかしい。

 

室内なのにだいぶ歩いた。5,6分かかっただろうか。とある一室についた。扉の前で女医さんが立ち止まり、「ペインキラーの少年をお連れしました。」と言っている。ヲイヲイ、人をペインキラー呼ばわりかよ…あれ、でもなんかちょっとカッコイイかも。実はボク、自分の能力のペインキラーって名前、気に入ってるんだよね。ダメかなぁ。

 

ドアの向こうから、御苦労さまと聞こえると、女医さんはボクに中に入るように促した。とはいっても、ドア、開いてないんですけど。これ、なんか高度なセキュリティっぽいのあるし。大丈夫かな、と思ってドアに触れようとすると、目の前のドアが素早く、音も無く開いた。部屋に入っても女医さんはついてこなかった。どうやらここでお別れみたいだ。

 

部屋の奥に進むと、そこは研究室というよりは個人の書斎により近い内装だった。奥の机に、禿げあがった六十歳かそこいら、もっと上かも知れないが、その位の年ごろのお爺さんが座っていた。お爺さんはボクが机の前に向かおうとすると、途中で話しかけてきた

 

「こんにちは、雨月景朗クン。私は木原幻生という者で、ここの所長をしていてね。この間、君と話をした木原導体は私の部下なんだよ。はは、そうだな。この研究室には、少々"木原"と姓の付く者が多くてね。私のことは幻生と呼んでくれて構わないよ。」

 

木原幻生と名乗ったお爺さんは、うちに来た木原さんと同じ名字で、尚且つ、そのどこか怪しい雰囲気を醸し出すところも一緒だった。そんなに木原ってつく人が多いのかな、この研究所。気になるから、さっきの女医さんの名前も聞いてみようかな。あの人も案外木原なにがしさんだったりして。

 

「ご存じかとは思いますが、ボクが雨月景朗です。改めて、今日はよろしくお願いします。えーと…幻生先生。もしかして、今日はこの間来てくれた木原導体さんには会えないんでしょうか?」

 

幻生さんはボクの言葉にうなずくと、机の上の書類に視線を移しながら返答を返した。

 

「キミの言うとおり、今日は彼は留守でね。残念だが会うことはできないだろう。それより、景朗クン。さっそくで悪いが、キミの能力を試験させてくれんかね。私はキミの能力が気になって気になって仕方がないのだよ。なんせ、学園都市に2人、超の付く稀少素材だ。」

 

そういうと、幻生さんは壁に備え付けてあった端末を操作し始めた。これから実験室に行くんだろうか。しかし、"素材"ってなぁ。さっきの女医さんといい、幻生さんといい、なんというか…これが科学者、研究者ってことなんだろうか。

 

端末の操作を終えた幻生さんは、部屋の棚からティーカップやらクッキーやらを出してトレイの上に乗せていた。お茶の一杯でも頂けるみたいだ。よかった。一応お客さんの扱いだったらしい。さっきから実験動物みたいな視線で見られている気がしていたからね。

 

「景朗クンはコーヒーと紅茶、どちらがいいかね?」

 

「ありがとうございます。コーヒーでお願いします。」

 

何を隠そう。ボクは齢11にして、コーヒーをブラックで飲めるのだ。ふふん、苦いのを我慢して大人ぶってるそこいらのガキんちょと一緒にしないでもらいたい。なんで大人はコーヒーを美味しそうに飲むんだろう?正直苦くてまずいんだけど、ボクの知らない秘密でもあるんろうか?大人だけコーヒーの美味しさを知ってるなんてズルイ、という風に思い至ったボクは、少し前にコーヒーの苦さの克服とおいしさの追求をする訓練を試みたのだ。

なんとまぁ、その後たった一日でブラックコーヒーを美味しく感じるようになったボクは、今じゃいっちょ前においしいコーヒーとそうでないものの区別にうるさくなってしまった。

 

とまあ。アホな回想をしている間にコーヒーが入ったらしく、幻生さんがカップを手渡してくれた。

 

「またせてすまないね、景朗クン。試験の準備が終わるまで、一息入れようじゃないか。」

 

「いえ。コーヒーありがとうございます。…ん。おいしいですよ、コレ。」

 

「おや。景朗クンはブラック派のようだね。実は、私はコレに目が無くてね。仕事がら頭を使うからかな、と言い訳をさせて貰おう。」

 

そういって、幻生さんはソーサーの上に乗せた大量の角砂糖とミルクを手に取った。いや、ボクだってミルクは捨てがたいですとも。

 

お互いにコーヒーで一息入れた後、幻生さんが試験の前にいろいろ聞いておきたいことがあると言い出して、ボクの能力についていろいろと根掘り葉掘り聞いてきた。さすが現役の研究者さんだ、今まで聞いたことが無いような質問やよく理解できなかった質問が目白押しだった。

 

「……ほう。それは興味深い。なまじキミの能力が能力である分に。痛いの痛いの飛んで行け…キミは、その時に能力を意識的に使っていたのかね?」

 

いろいろな話に幻生さんは喰い付いて来たが、この「痛いの痛いの飛んで行け」の話にはとりわけ興味を惹かれたようだった。

 

「いえ、能力を使おうだなんて発想はありませんでした。他人の痛みをどうこうできるなんて…そう考えたことがあってやってみたことがあったんですけど、できませんでした。昔怪我をした友達に試したことがあるんですけど、効いている風ではありませんでした。」

 

ボクの言葉を耳にしてすぐ、幻生さんはすぐさま机の引出しを開けゴソゴソと何かを探し始めた。やがて、警備員(アンチスキル)の持つ警棒のようなものを取り出すと、ゴトンと音を立てさせてそれを机の上に乗せた。

 

「簡単な実験をしてもよいかね?景朗クン。これは自衛用のテーザーで、棒の側面から高圧電流が流れるのだが、電圧を自由に調整で来てね。この電圧の出力を最も低く設定すれば、触れた部分にビリビリと小さな痛みを与える程度に加減できる。今からこれを私の手に使ってみるから、先ほどの"痛いの痛いの飛んで行け"とやらを、私にもやってみてくれんかね?」

 

そういうと幻生さんは、ボクの確認も取らずにパチパチと光るその棒を自分の腕に押し付けた。何回か同じ箇所に押し付けると、その箇所は赤く腫れていた。

ここまでされて、いいえできません、と断る訳にもいかず、ボクは少々恥ずかしながらも、幻生さんに恒例の「痛いの痛いの飛んで行け」をやってあげた。すると、幻生さんは驚いた顔をして、

 

「ほう!確かに、痛みが和らいだように感じるな。これは…面白い。」

 

幻生さんは、興味深そうに腫れた箇所をさすりながら、しばらくぶつぶつと独り言を言い始める。すぐに考えがまとまったのか、手を動かすのをやめて、ボクに向き直ってこう言い放った。

 

「単純な推測だがね。もしかしたら、キミの能力には、恐らく他人の痛みにも干渉する力がある。これも、推測になってしまうが、キミの怪我をした友人の話は、単にキミの能力の出力が足らなかったせいではないかと思うよ。

身体検査(システムスキャン)では、低能力(レベル1)と判断されているからね。ちなみに、その時のキミの友達の怪我とは何だったのかね?」

 

「その時はわからなかったんですけど、あとから骨折してたって聞きました。」

 

そうか。さすがに骨折の痛みは和らげることができなかったのか。というか、それくらい気づけよ、ボク。

幻生さんがつづけて何かを言うとしたが、ちょうどその時に、彼の携帯が振動した。すぐさま携帯を開くと、幻生さんは立ち上がり、ボクを部屋の外へと促した。

 

「試験の準備が終わったようだ。すまないが、もう少しお付き合い願うよ。景朗クン。」

 

 

 

 

 

その後、色々あって、ボクの能力の調査がやっと終わった。一言。疲れた。基本は、でっかいマシンに繋がった椅子に座って、注射を打って、変なコードの着いた電極だらけのヘルメットをかぶる。これだけだった。色々と痛みを感じる試験もあったのかも知れないが、基本的に能力を使用していたのでどれがそうなのか分からなかった。視覚的に痛そうな実験はやってなかったように思えたが。

 

そうそう、注射する時に、「痛みを感じないように能力を使うので、そこのところは配慮しなくて大丈夫ですよ。」って言ったんだが、試験に付き合ってくれた、あの女医さん、そこで初めて僕の"痛みに配慮すべき"ということに気がついたみたいだった。勘弁してくれよ。

 

 

 

 

 

最初に幻生さんと一緒にコーヒーを飲んだ書斎に戻ってきた。幻生さんは、目に見えて興奮していた。嬉しそうだったとも言い換えられるかな。幻生さんがソファを進めてくれたので、トレイに置いてあったクッキーを片手に座った。幻生さんは、机ではなく、僕の対面のソファに座ると、嬉しそうな表情を崩さずに、ボクに再びコーヒーをすすめてくれた。

 

ボクが一息入れた後に、幻生さんは大事な話がある、と前置きをした。真剣な表情だった。やはり、コレからも実験に協力してほしいというお願いだろうか。けっこうな喜びようだったし、と、幻生さんの話を聞く前はボクはどこか気が緩んでいた。そして幻生さんが口を開いた。

 

「景朗クン。私は今日、キミの能力を直に検査して、一つ、確信を得られたよ。断定的な表現は避けたいが、私は疑い無く、キミの力が我々に有用なものになると考えている。君の力は是非とも科学の発展に寄与させるべきだ。此れからも私たちの実験に協力してはくれないかね。キミの能力からは、ひょっとしたら、我々の想像以上の成果が得られるかもしれん。」

 

「そ…そうなんですか。それは良かったです。ホントはちょっと、不安でした。ボクの能力がホントに役に立つのかなって。でも、しっかりと確証が取れて、安心しました。幻生先生、ボクも出来うる限り幻生先生たちに協力したいと思っています。」

 

彼の言葉に、ボクはすっかり照れてしまっていた。こんなに他人に、しかも大の大人に褒められた経験はそれまでに無かったから。しかし、その喜びも、彼が放った次のセリフで台無しになった。

 

「色良い返事が聞けて私も嬉しいよ。…ただ、私の考えている"協力"は、恐らくキミが想像しているものとは違い、キミにとって遥かに負担の大きいものとなるだろう。だからね、此方の実験をキミに押し付ける代わりに、此方からもそれに見合った"見返り"を提供する。そういう風にして、中途半端な協力体制ではなく、きちんとした取引の形にさせては貰えないだろうか?」

 

負担が大きいとは、どういう意味だろう?だけど、この時ボクは、こんな大きな研究所の所長さんに、自身の能力の、価値が認められている、要求されているという事実に、喜びと、自尊心の様なものを感じ、冷静さを失っていたんだと思う。

 

「み、"見返り"って…一体…。ボクは、ボクの能力が役に立つのなら、最大限協力しようと考えています。しかし、この間、導体さんにもお答えしたとおり、ボクは…今住んでいる孤児院から、出て行きたくないんです、今はまだ…。あの施設の人たちと離れ離れになりたくないんです。ですから、ボクの空いた時間にできることだけじゃないと…」

 

ボクがそこまで口を開くと、幻生さんは途中で割り込み、話を続けた。

 

「キミが、今の施設から離れたくないと思っていることは、私も部下から聞いているよ。だからだね、景朗クン。これでも私は、この木原研究室の所長であるし、他にも、先進教育局で所長を、胤河製薬では特別顧問を兼任していてね。キミが今の施設を離れたくないと考えているのは重々承知だ。そこでだね、私の個人的な伝手を使って、キミの孤児院に経済的な援助を行おうかと考えているんだよ。」

 

驚いた。彼が言い出したことを理解するのに、時間がかかった。うちの園に対する経済的な援助…二つ返事で、いやむしろこちらから土下座してでもお願いしたい”見返り”だった。

そんなこと本当にできるのかな。……いや、きっとこの人ならできる。ボクはまだ小学生で、世の中のことなんてほとんど知らないが、今日見たこの研究所での出来事、幻生さんの振る舞い、研究所の人たちの振る舞いが、物語っていた。この人、幻生さんは、学園都市でも強大な"権力"を持つ側だと…。

 

「無粋な話だがね、キミの孤児院の経営状況は非常に良くないと聞いている。それに、キミの能力の研究を行う中では、時にあまり表沙汰に出来ないような実験も必要になる可能性がある。

これは、キミの能力を研究に活かすには、時に少々危険な実験をしなくてはならないという意味でもあるのだが、そういう訳でもね、やはり、キミの空き時間に、キミの善意で協力を願い出るという、中途半端な方法は合理的ではないし、不可能なのだよ。

そこでね、景朗クン。私と契約をしてほしい。まだ世間を知らぬ小学生のキミに、このような話をするのは私としても気が咎めるが、キミはその生い立ち故か、非常に利発で、大人びた考え方をしている。一対一、対等な1人の人間として、改めて私とギブアンドテイクの、対等な取引をしてくれんかね。」

 

いったいどうなっているんだ…。ボクは…ボクの…ボクの能力を実験に使えば…施設の困窮した状況を変えることができるのか…。まるで夢物語だ。そんなこと…火澄にだって出来っこないだろう。

危険な研究っていうのも…それだけ大きな金額が動くというのだから、必要なリスクなのだろう。それは理解できる。けれど…

 

「ほ…本当に…そんなことができるんですか…?それ以前に、ボ、ボクの能力、ちょっとは役に立つかも知れないけど、そこまでの価値があるわけないですよ…。そんな保障、どこにもないでしょう!?」

 

ほとんど悲鳴に近い否定だった。しかし、幻生さんは、落ち着いた声で反論してきた。

 

「いや、何度でも言うが、キミの能力にはそれほどの素養(ポテンシャル)があるはずだよ。前々から、キミの身体検査のデータで予想はしていたんだが、今日の計測でそれが確信できた。キミの能力は、我々の想定する研究でかならず成果を挙げる。それに、そもそも、途中でキミの能力が使えないと判断が下されたとしても、その時にキミの孤児院への、我が病院からの支援が無くなるだけで、今まで以上にデメリットが増える状況にはならないと思うのだがね。」

 

それは…そうだ。幻生さんの言うとおりだった。現状ではボクがうまく実験に協力できれば、孤児院が救われ、それが出来なければ今までどおり。何もデメリットはない。きっと、ボクの体に後遺症が残るような実験が為されない限りは…。みんなを…助けられる。今まで、何度夢見てきたと思ってるんだ。誰かが、ボクらの孤児院に多額の寄付をしてくれて、みんなでワイワイ楽しく暮らす…それが叶うかもしれない。

 

「わかりました。…その、もう一度、確認したいんですけど…。契約って…どんな…」

 

「おお!受け入れてくれるか。その様子だと取引は成立みたいだね。"契約"といった言い方をしたのは、私なりの誠意の証だと思ってくれたまえ。もう一度、取引を確認しよう。詳細は後からまた話し合うが、大まかな取引の条件はだね――――――

 

 

 

その後、ボクは木原幻生先生と"契約"をした。ボクの能力を研究に活かすためには、それなりに危険な実験をする必要もあるため、実験に協力していること、実験の内容に関すること、ほとんどすべてを外部に漏らさないようにと徹底された。所謂守秘義務ってやつらしい。そのかわり、ボクがきちんと実験に、従順に協力している限り、ボクの孤児院に幻生先生が経済的な援助を行うというものだった。

 


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