ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第72話 食らえもう一撃 天津飯未だ倒れず

 

「……馬鹿、野郎。なんで来たんだ、コタロー」

「げほっ、げほっ、さっきネギにも言おうとしたけどな……一人でそんな真似、させられへんやろ」

 

 轟音と共に上がった二つの土煙

 その中から姿を見せる二人、ヤムチャとコタローだ

 

 ビドーに捕まったヤムチャを助けようと、制止を振り切って突撃したコタロー

 しかし左手一つであっさりと捌かれ、ヤムチャと纏めて地上へと投げ落とされてしまっていた

 

「第一、そっちが先に言うたやんか。『全員無事のまま、地上へ帰ろう』てな」

「……そのためには俺ら二人だけで、あいつを相手にしなきゃならないんだぞ」

「ええやないか、ヤムチャさん一人だけじゃ絶対無理なんやし」

「あのなぁ、お前一人が増えたとこで……って、負けた俺が言えるセリフじゃないか」

 

 上に被さった粉塵などを払い、悪態をつき合いながら二人は立ち上がる

 多少コタローはむせて咳払いをしたがダメージはさほど無い、ヤムチャも同様

 しかし現時点のダメージは、問題ではない

 この後待ち受ける戦い、強敵を前にしては、ダメージの大小はまるで問題にならないだろう

 そう、たとえ彼ら二人が完全無傷、万全であったとしても……

 

「にしても馬鹿野郎、な。上等やないか」

「は?」

「元々ここに来た時点で俺、大馬鹿野郎やし?もう一個二個馬鹿重ねても変わらへんやろ」

「……ほんとに、大馬鹿だよお前は」

 

 顔を見下ろすとその表情に見えたのは、僅かな強がり

 そしてそれを遥かに上回る、覚悟に満ちた目

 

「そんで、それに付き合おうとしている俺も……大馬鹿なんだろうな」

 

 コタローから視線を離し、上へ

 先程自分らを投げ飛ばした張本人、ビドーがゆっくりと地上へ降り立つ

 余裕綽々の笑みを見せつつも、その向けられた視線は鋭い

 逃走を図ればすかさず追いつき、手痛い一撃を浴びせてくることだろう

 

「……行くぞ、コタロー」

「おう!」

 

 ならばとばかりに、二人はビドーへと同時に攻撃を仕掛けた

 

「「うおおおおおおおおおっ!!」」

 

 強敵を前に未だ抜かれずにいる、狼の牙を剥き出しにして

 

「「狼牙風風拳!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あいつら相手に、二人もいらないね。どうするブージン?)

 

 絶え間なく襲い掛かる影分身達

 更には追加の魔法の射手(サギタ・マギカ)および風霊召還(ウァルキュリアールム)まで飛び出し、攻めの勢いは当初よりも上回っている

 しかしそれでもザンギャとブージンの二人は、ものともしていなかった

 躱し、気弾を見舞い、潜り抜けていく

 その中でザンギャがふと気になったことを、ブージンへと念話を介して尋ねた

 

 二人が一番の狙いとして定めているのは、自分達を散々足止めしてくれた天津飯

 真っすぐ向かって仕留められることに越したことは無いが、それを阻む数名がやはり面倒になる

 四人いた内の二人をビドーが引き受け、残り二人

 それをどちらが相手をするか、逆に言えばどちらに天津飯の相手を譲るか

 

 

 

(ならば一つ、勝負といこうか)

(勝負?)

魔法の射手(サギタマギカ) 戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!!」

 

 ブージンがネギの方を一瞥する

 新気功砲で足止めされていた時にも何度か食らった、敵を縛り付け動きを止める魔法の風矢

 それが新たにネギの高速詠唱によって、彼自身の姿が隠れるほど大量に繰り出された

 

(あの矢をより多く撃ち落とした方が……というのはどうだ?)

(シンプルでいいわね、乗ったわ)

 

「楓さん、お願いします!」

「承知したでござる」

「ラス・テル マ・スキル マギステル……」

 

 足止め用の風矢を放った後も、ネギは休まず次の詠唱に入る

 しかし自身が動かぬままでは、足止めの意味がない

 そのため楓に首襟を掴ませ、引っ張られるという格好で天津飯達の元へも急ぐ

 

 コタローとヤムチャのことが気にならないと言えば、当然嘘になる

 本音を言ってしまえば、今すぐ楓と共に二人を助けに向かいたい

 しかしネギの体は一つ、故に向かえる先も一つ

 

(ごめんコタロー君!けどすぐ!天津飯さんを安全な場所に移したらすぐ、助けに……)

 

 天津飯達か、コタロー達か

 選べるのは一つ、逆を言えば一つは見捨てる、そういうことになる

 そしてネギは自身に言い聞かせ、動いた

 自分は『見捨てた』のではない、『選んだ』のだと

 あくまで先に、消耗が激しい天津飯との合流を『選んだ』に過ぎないのだと

 

 

 

 

 

「ではザンギャ、任せたぞ」

(抜かされた!? いつの間に……)

「しょうがないわね。けどまあ、ピンピンしてるこいつら二人が相手っていうのも……それはそれで面白いかも」

 

 だが、選んだその選択が無事為されるかは、また別の話

 ネギの横をブージンが、一瞬で通り抜けた

 

 影分身や風矢が気功波と激突し視界が十分でなかったのが理由の一つだが、それ以上に彼のスピードが凄かったのもあるだろう

 

「うわっ!?か、楓さん!?どうし……っ!」

 

 さらに異変が一つ、今まで自身を引いていた楓が急ブレーキをかけたのだ

 彼女に背がぶつかり、その衝撃で詠唱は止まり発動前の魔法が無に帰してしまう

 何事かと振り返ろうとしたところで、ネギは事態の全貌に気付く

 

「い、糸!?くっ、千切れない……」

「ほらほら余所見しないの、あんた達の相手は私よ」

 

 楓と自身、二人纏めて細い糸のようなもので絡めとられていた

 糸の出所をどうにか光の反射で辿ると、ザンギャの両手のひらからだと分かる

 脱出せんとネギは両腕に力を込めるが、その細さに反して解ける気配がない

 

(僕の風矢と同じ拘束じゅ……いや違う、それだけじゃない!)

「ネギ坊主、これは……」

「分かってます、光の一矢(ウナ・ルークス)!」

 

 するとネギは何かに気付いたか、すかさず魔法攻撃に切り替えた

 右手から光の魔法の射手(サギタ・マギカ)を放ち、糸を一本両断させる

 そこから生じた綻び、そして弛みを見逃さず、ネギと楓はザンギャの糸から完全に抜け出した

 

「へぇ、やるじゃない」

(危なかった。もし気付くのがあと数秒遅れてたら、さっきの魔法を撃つ余裕さえ……)

 

 拘束され、そこから魔法を一発撃って脱出

 ただそれだけではあり得ぬ疲労感が、ネギを襲っていた

 攻撃を一つも繰り出していない楓ですら消耗した様子が見えているあたり、ただの丈夫な糸だったと考えるのは浅はかだろう

 

 一方でザンギャは、二人が抜け出したことに多少の驚きはあるようだが、半ば織り込み済みと言わんばかりの様子

 あのまま糸の中で息絶えなかったことに、ある意味での嬉しさを覚えているようだった

 

「ネギ坊主、こうなってしまったらもう……」

「……はい」

「あら、逃げないのね」

 

 新気功砲も、影分身も、魔法攻撃もない

 ネギ達とザンギャとを隔てるものは0、完全な戦闘圏内だった

 自身と相対するネギ達に白々しく尋ねるザンギャだったが、元より逃がす気は毛頭ない

 経緯こそ違うが、先程交戦を始めたヤムチャ達と同じ状況に陥っていた

 

(さっきの勝負はブージンに負けたけど、今思うとこっちの方が面白いかもね……あっちの半死半生を相手にするより、少しは楽しめそう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(敵が他にもう一人、いや、俺が知らぬうちに抜け出ていたのか……)

「天さんっ!みんなが!」

 

 気の大半を使い果たし、その上無防備のまま敵の攻撃を浴びた天津飯

 本気の攻撃でなかったことが幸いしどうにか意識は保ち浮上したままだったが、ほぼ瀕死と言っても良い

 視界はぼやけ、浮いているのも餃子に支えられてやっと、という様子

 

「……餃子、お前だけでも行け。俺を抱えたまま飛べば……共々敵に捕まるだけだぞ」

 

 それでもどうにか、周囲の状況を把握することは出来ていた

 自身の攻撃が止まり、それに代わってネギ達が魔法や影分身で必死に足止めをしようとしていること

 それを敵が次々と破り、追いつき、捕まえ、交戦に持ち込んでいること

 そして、敵の一人が自分へ迫ってきていること

 

「奴らの狙いは俺だ。今なら頭数からして、俺を放っておいてまでお前を追うことは……おそらく、無いだろう」

「置いていくなんて、そんなこと出来ない!」

「行け……楓の影分身も、そう長くは持たん。要らぬ巻き添えをお前が食らう必要は……」

 

 ネギ達を追い抜いたブージンに対し、楓の残り僅かな影分身達が交戦し足止めを試みている

 しかし実力は雲泥の差、一体一体を確実に、次々と屠られていく

 

「僕だって戦う!じゃなきゃ、天さん達と一緒に、ここまでついてこない!」

「餃、子……よせっ!」

「むむむむむむ……~~~っ!」

 

 それに加勢するように、天津飯の度重なる制止を振り切って餃子が動いた

 

「むっ?これは……」

 

「天さんは、僕が守る!!」

 

 ブージンの真下の地面が、大きく揺れる

 地は割け、砕け、複数の大岩となり浮き上がる

 餃子は念動力を用い、それらをブージン目掛けて射出した

 

「ふっ、何かと思えば」

 

 ちょうど最後の影分身を撃破したブージンは、高速で向かってくる大岩を次々と避ける

 鼻で笑ったことからも分かるが彼は動きを完全に捉えており、苦にもしていない

 それに対し、まだだと言わんばかりに餃子は次の攻撃へ移った

 

「どどん波!」

「くだらん……」

 

 指先に集まった気が、一筋の光線となり放たれる

 

 ひょい、とかわされた

 

「どどん波!どどん波!」

(駄目だ、餃子……分からんわけがあるまい。お前の攻撃では、奴には……)

 

 一発では済まさない、気を溜めては撃つを猛スピードで繰り返す

 

 ひょい、ひょい、不敵な笑みを見せたままブージンはまたもかわす

 

(攻撃をやめるんだ、餃子!!)

「どどん波!どどん……」

「もういい」

「!」

 

 五発目か、六発目あたり

 とうとう痺れを切らしたブージンは、超スピードでもって一瞬のうちに餃子の眼前へ移る

 突如消え、突如目鼻の先に現れた敵

 

「う……わあああああぁぁっ!」

「どけ」

「っ!」

 

 餃子は身をすくませたのちすぐさま拳を振るうが、文字通り一蹴

 目にもとまらぬ速さの回し蹴り、斜め下に蹴飛ばされた餃子は廃屋の一画へ叩き込まれた

 

(餃……子っ!!)

 

 これまでで、一番の近さだった

 ピッコロ大魔王に抗い、討たれたあの時

 サイヤ人ナッパに抗い、自ら命を散らしたあの時

 そのどれよりも近い、手を伸ばせば届きそうなその場所で、天津飯は餃子が倒されるのを目の当たりにした

 

「ふん、他愛もな――」

「うおおおおおおおおおおおっっ!」

「!?」

 

 脱力し垂らしていた両腕が、上がった

 両手の五指をそれぞれ伸ばし、合わせた

 乱れていた呼吸に抗い、吼えた

 

 餃子の飛んだ先を見下ろし、天津飯から目を離していたブージン

 一瞬の隙、そこへ残る力をありったけ込め、撃つ

 

 

 

 

「気功砲ーーー!!!」

「ぬぅぅぅうう、わあああああぁぁっ!!」

 

 

 

 

 新気功砲と違い、超近距離かつ一撃一点集中

 咄嗟に防御態勢をとったブージンだったが堪えられず吹き飛び、地に落ちる

 命まで絶ったかは定かではないが、少なくとも彼は天津飯のもとへは戻ってこなかった

 

(餃、子は……っ、まだ気、を……感じる!生き、てるぞ!)

 

 いよいよ残る気が限りなく0に迫るその身体で、天津飯は自身でなく餃子の身を案じた

 気を探ると僅かにポツリ、よく知る気を微小ながらも感じ取り力が戻る

 

(今行くぞ!餃――)

 

 自身を狙うブージンは、一時ではあるかもしれないが退けた

 だから大丈夫、餃子を助けに行こう、それが天津飯の頭にあった考え

 だがこの弛緩、そして油断は彼に次なる悲劇を与えた

 

 忘れては、いないだろうか

 

「せやああああぁぁっ!」

「!?」

 

 銀河戦士は、もう一人いることを

 

(まず、一匹!)

 

 超スピードで接近し、居合さながらに剣を抜き、そのまま振るう

 ゴクアの白刃が天津飯に対し、横一文字に通り抜けた




近日中に、もう一本
遅くなり、待っていた方申し訳ありませんでした

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