ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第65話 親玉登場 その名はボージャック

「くっ、このっ!」

 

 長剣が止まることなく振るわれ続け、空気を切り裂く音が鳴り続ける

 しかし切り裂けているのはあくまで空気のみ、狙いの先にいる人物に刃はまだ一度も触れていない

 

(これが、剣の間合いというやつか。段々とだが、掴めてきたぞ)

 

 トランクスは場所を花畑から湖上へと移し、剣を振るうこの男と交戦を続けていた

 彼自身が剣を振るわれた経験はこれまで殆どなく、強いて挙げたとしても地球に襲来したフリーザの父コルドの時くらい

 ただ避けた後攻撃を当てて倒せるならともかく、今いる敵は生半可な一撃で沈められる保障はない

 耐え切られてすかさず返しの一閃を貰ってしまうことを考えれば、迂闊に動くのは危険

 そのため始めはこうして、敵の攻撃を見切ることに全力を割いていた

 

(こっちも剣があれば、また違ったんだろうけどな)

 

 剣vs拳、初めての体験をトランクスは瞬時に経験として積み上げていく

 

(とにかく、この場を切り抜けて悟飯さん達と……)

 

 既に他の箇所でも戦闘が起きているのは、気の動きから把握済み

 となればトランクスとしては勝つのは勿論のこと、なおかつ援軍に向かえるだけの余力を残しておきたかった、それが彼の望む真の勝利

 ゆえに間合いを、太刀筋を、見極めんとする

 反撃を許さず、五体満足のまま悟飯らを助けに行けるように

 

「そらどうした!お前の方からもかかってこい!」

(まだだ、まだ攻め入るタイミングじゃない……)

 

 攻めの姿勢を見せずにいるトランクスに男は声を張り上げるが、トランクスは平静を保ち続ける

 剣の動きを注視し避けることに特化させれば、現状かわし続けることは難しくない

 このままもう少しトランクスに時間が与えられ、そして機が訪れれば、真の勝利は決して遠くはない

 

(こいつ……ただ逃げてるだけじゃないな)

 

 しかし、そう簡単にはいかず

 攻撃していく内にこの男、トランクスの狙いに気付き始めていた

 避ける以外何もしてこないことに不審さを覚えたのもそうだが、より確信に至らせた理由がもう一つ

 

(俺と、同じか。なら……)

 

 この男もまた、万全な状態での仲間との合流を考えていたからだ

 今目の前で繰り広げられる戦いだけでなく、その先をも見据えた動き

 自身と近いものがあると、感じ取った

 

「……はああああっ!」

「!」

 

 そして男は痺れを切らし、隠していた力を先に開放する

 生半可な覚悟で戦える相手ではないことを、トランクスと同じように認識したのだ

 一度下がって間合いを取り、一気に全身へ気を込めて膨らませる

 

(変身、だって!?こいつ、まだそんな力を……)

 

 変化は気の大きさだけでなく、容姿にも目に見えて現れていた

 緑に近い青な色合いだった肌は、青みが抜け黄緑色へ

 オレンジの髪も、深紅へ染まる

 両腕と背を包んでいた上の服も勢いで弾け飛び、より隆々とした胸板が露になっていた

 

「そぉらっ!」

「しまっ……」

 

 そこから繰り出してきたのは、トランクスの予想外の一撃

 腰ほどの高さからの、蹴りだった

 

「ぐあぁっ!」

 

 突き刺すように真っすぐ放たれたそれは、トランクスを捉えた

 これまで見てきた剣技とは、当然間合いも軌道もまるで違う

 太刀筋を見切ることを一番に動いていたトランクスは、反応が僅かに遅れてしまった

 

「俺が剣しか使えないとでも思ったか?」

 

 そう言うと、次は両手がトランクスへと伸ばされる

 剣を一旦鞘に納め、攻撃に怯んだトランクスの両腕をがっちりと掴む

 第二撃として顔面にヘッドバットを見舞い、そこから右腕を拘束したまま後ろを取った

 

「ぐっ、この、放……」

「おらあああああっっ!」

 

 背中に回され右腕が極まってしまったトランクスは、即座に背後を取り返せない

 そこへすかさず、トランクスの左腕を掴んでいた右手で後頭部を鷲掴み

 上空から一気に急降下を始めた

 花畑があった場所から湖を挟んだ反対側には、廃墟が幾つも立ち並ぶ市街地エリア

 その末端には石造りの橋が架かっており、急降下の先はそこ

 

 砕け散る橋、大きく上がる水飛沫、橋の破砕音の中に紛れるトランクスの叫び声

 短時間かつあの体勢からでは逆転も困難だったようで、抵抗も空しくトランクスは叩きつけられた

 

(これくらいじゃ、足りないよなぁ?)

「ぐあぁっ!ぐぐぅ、がああっ!」

 

 更にその後はトランクスを捕らえたまま、水面を滑るように移動して市街地エリアに突入

 トランクスを何棟も建物に叩きつけながら突き破って直進、念入りに痛めつける

 次の建物まで距離がある少し広めの所へ出ると、ようやくトランクスを解放

 ここまで来た勢いそのままに床へ投げ落とし、一度軽く跳ねたあとトランクスは男の目の前で背を向けたまま蹲る

 

(くそっ、油断し……まずい、来る!)

 

 起き上がろうとしたトランクスは、振り返るより先に背後の彼の行動を察知する

 より鋭くなった殺気、カチャリと金属の何かが触れる音

 

 そう、今のこの状況はまさに男の望んでいたそれ

 充分に痛めつけ体勢を崩させ背を向けさせ、先程までのようには避けさせない

 すかさず男は剣を抜く、変身によってパワーは増大

 

(くっ、間に合え!)

(死ねえっ!)

 

 男は剣を勢いよく、この一撃で決めんと振り下ろす

 トランクスは身を反転させ、右腕を伸ばす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、だとぉっ!」

 

 トランクスの黄金の右腕が、攻撃を止めた

 刃に当たっている箇所は、斬られるどころか殆ど食い込んですらいない

 ぶつかる瞬間にした音も肉と金属のそれではなく、まるで金属と金属のそれ

 これを成したのはトランクスの強靭な肉体、そして今しがたから噴き上がっている金色の気

 

 敵に遅れを取る形になったが、トランクスもまた自身の隠していた力を解放

 超サイヤ人への変身でもって、迎え撃った

 

「うおおおおおおぉぉっ!」

 

 全力ではないと予測はしていたが、想像を遥かに超える気の増幅

 そしてなにより、己の剣を止められたこと

 男の動揺は目に見えて表れ、そこにつけ込んでトランクスは一気に攻め立てた

 

 両膝と左手を地につけた体勢から、全力で押し返しながら立ち上がろうとする

 左手は既に拳が握られており、あとは叩き込める期を待つのみ

 そうはさせるかと男はより一層力を込め、抑え込みを図る

 しかしその直後、男の顔面が爆ぜた

 

「こっ、のおおおおぉぉっ!ぐあぁっ!?」

(今だ!)

 

 トランクスが防御に使ったのはあくまで右『腕』、右手は空いていた

 気を込め、顔へ射出

 押し返してくるトランクス自身にしか目が行っていなかったのか、この奇襲は見事成功

 すぐ撃つことを優先したため威力はたかが知れているが、効果は絶大

 

 集中が切れ、刀身に注いでいた気が抜け出る

 それと同時にトランクスは、右腕へ更に気を注いで押し出す

 ただでさえ斬ることが叶わなかったところへ、この事態

 たちまち剣は悲鳴を上げ、刀身の真ん中から折れた

 

「ばか、なあああっ!」

 

 形勢は、完全に逆転した

 押さえ込んでいたものがなくなり、トランクスは一気に起立

 後は拳を叩き込み、一撃で仕留めるのみ

 弓を引き絞るかのように左腕を引き、突き出すための準備が整う

 そしてトランクスは、男へ拳を振るった

 

「でやああああ――――――」

 

 振るったが、届かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命拾いしたな、ゴクア」

 

 剣を折られた男、ゴクアは拳を振るわれるその刹那、死を覚悟していた

 しかし拳は食らわず、今こうして生きている

 

「た、助かりました!まさか、こんな近くにまでいらしてるとは……」

 

 その理由は、彼の前に立つ人物にあった

 ゴクアと同じ青い肌にオレンジの髪、髪の長さはザンギャと同じくらいに長い

 頭には黒いバンダナを巻き、前開きの青い袖付きマントという恰好

 眉間を跨いで斜めの傷が刻まれたその顔は厳つく、ゴクアより歳も経験も重ねていると感じさせる凄味があった

 

 気を抑え潜伏していたこの男は、トランクスが攻撃するその瞬間に戦いへ乱入

 横から気功波を浴びせ、続いて回し蹴りを側頭部に一撃

 第三者の介入を予想していなかったトランクスはこの二つをまともに食らい、昏倒した

 

「……どうやら、勘違いしてるようだな」

「え?」

 

 話し方からして、どうやらこの男はゴクアの上に立つ人物のようだ

 助けに入ってくれたこと、その結果命を失わずに済んだことにゴクアは歓喜

 しかし男は眉間に皺を寄せ、元々厳つい顔を険しくしながらゴクアを睨んだ

 

「お前まさか、自分が死ななかったのは『俺が近くにいたから』と思ってるんじゃないか?」

「そ、それはどういう……」

「確かに俺は、すぐ助けに入れるくらい近くにいた。だが、『敢えて助けに入らない』という選択肢もあった、ということだ」

「!」

「途中からだが、お前の戦いは見させてもらっていた。なんだ、あの体たらくは」

 

 あと一歩まで追い込んだのは良かったが、最後の最後に見せた詰めの甘さ

 敵のパワーアップに動揺し、斬れもしない剣でただ押し込むだけという愚行

 目眩ましの気功波も予想できず、まともに食らう

 やりようはまだあっただろうに、それが出来ずに死にかける

 

 『あの体たらく』としか言われなかったが、何を指しているかは言われずとも分かった

 ゴクアは顔を俯かせ、戦いでの悔しさを思い出し奥歯を噛む

 

「お前が殺され、奴が気を抜いて変身を解いた直後。この方がさっきより楽に仕留められたろうな」

「そ、そんな……」

 

 自身が忠誠を誓った目の前の男が、失望し見捨てようとしていた

 その事実を語られ、ゴクアの表情がより一層曇る

 

「で、では何故、こうして俺のことを……」

「事情が変わったのさ。どうやらこの地球は俺が思っていたより、敵の数が多そうでな」

 

 男は地上の方を一度向くと、再びゴクアへ視線を合わす

 口元は笑っていたが、目つきは怒りを残したそれ

 

「全員仕留めるのは流石に俺達でも骨が折れる、こちらの数も残しておくのに越したことはない」

(俺が生かされたのは、そんな理由で……)

「じきにブージン達も、敵を連れて戻ってくる。最後のチャンスだゴクア、お前にもう次は無い」

(最後の、チャンス……そう、だ。まだ、俺はやれる!)

 

 ゴクアは男の言葉にショックを受けるが、すぐさま己を鼓舞する

 こちらへ接近する複数の気、戦いの時は近い

 

「俺をこれ以上、失望させるなよ?」

「……はい!この身、そしてこの命、最後までボージャック様のために!」

 




 一つ前の話から始めた行詰め、これまでのと比べてどっちが読みやすいでしょうか?
 そういったのも感想で意見くださると嬉しいです

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