ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第63話 銀河戦士にあらず 謎の戦士襲来

「ここが、バトルゾーンか……」

 

 トランクスもほぼ時を同じくして、バトルゾーンへと到着していた

 

 楓やクリリンのいる場所とは打って変わって、こちらは花畑

 

 造花ではない本物の花の傍では蝶が舞い、爽やかな風がどこからか吹いてくる

 

 砂漠ステージ同様に太陽を模した照明で辺りは明るいが、肌に纏わり付くような暑さは無い

 

 更に花畑の近くでは川が流れ、その先には湖までもあった

 

 そんなのどかな風景に、トランクスは笑みを見せる

 

「僕のいる未来じゃ、もうこういう所はほとんどないからな……」

 

 人造人間襲来による壊滅的被害

 

 それは人の命だけでなく、植物のそれにも及んでいた

 

 森は焼き払われ、草原は荒野へと変貌

 

 トランクスが人造人間を倒して平和になり少しずつ戻りつつはあったが、まだまだ月日がかかる

 

 そのためこういう場所は彼にとって貴重で、思わず目を奪われてしまっていた

 

 しゃがみ込み、花の周辺を飛び回る蝶へと指を伸ばす

 

 蝶はピタリとそこにとまり、羽をパタンを閉じた

 

「ふふっ……!」

 

 そんな時、トランクスは何かを察知

 

 即座に上へと飛びあがると、今いた場所ですぐさま爆発が起こった

 

「な、何だ!?」

 

 トランクスが察知したのは巨大な気

 

 そして今しがた、背後から撃たれた強力なエネルギー弾

 

 もし少しでも反応が遅れていたら、直撃していただろう

 

「誰があんなことを……」

 

 気を感じた方へ顔を向ける

 

 そこには太い一本の木が生え、枝の上で男が寝そべりながら片腕を正面へ伸ばしていた

 

「だ、誰だお前は!」

 

「ただの銀河戦士じゃ不足か?」

 

 オレンジの髪の毛を紫のバンダナで束ね、肌はやや濃いめの青

 

 両耳と胸元には、ザンギャと同じものがあった

 

(銀河戦士、だと!?あんなやつ、大会前に見た時はいなかったぞ……)

 

「でやああっ!」

 

「!」

 

 相手が語る素性と、自身の記憶との乖離

 

 トランクスが思考を巡らせていると、またもや男は攻撃を仕掛けた

 

 さらに威力の込めたエネルギー弾を、続けざまに二つ

 

 トランクスはすぐさまそれを回避する

 

 一発は避け、もう一発は手刀で弾き飛ばした

 

「……何か勘違いしてないか?これはゲームなんだ、殺し合いじゃないんだぞ」

 

 トランクスは眉をひそめ、男を睨みつける

 

 二回の攻撃両方に、明らかな殺気が感じられていた

 

「あいにく、俺はゲームをしに来たわけじゃないんでな」

 

 トランクスの睨みをものともせず、男は木から飛び降りる

 

「さっきの雑魚よりは、楽しめそうだ」

 

「!」

 

 男の言葉を聞き、トランクスの嫌な予感は確信へと変わる

 

 本来いるはずの者がおらず、代わりに殺意に満ち溢れたこの男がいる

 

 元いた銀河戦士がどうなったかは、もはや聞くまでも無い

 

「何てことを……」

 

 トランクスは歯をギリリと鳴らし、両拳を力強く握りしめた

 

 罪のない人間が、悪の手によって殺される

 

 二度とあって欲しくないと願っていたが、目の前のこの男の手によって起きてしまった

 

「このおおおおっ!」

 

 右腕を大きく振り上げ、トランクスは男へと突進する

 

 トランクスの表情は、怒りのそれへと大きく変わっていた

 

 ストレートを顔面めがけて放つ

 

 しかし男は半歩下がって身体をずらし、攻撃を回避

 

 そのまま両腕で、トランクスの腕を絡め取る

 

「く、くそっ!」

 

「そらああっ!」

 

 男は背負い投げの要領で、トランクスを高く放り投げる

 

 このままではその身を地面へと打ち付けてしまうところだったが、そこは流石トランクス

 

 クルクルと身体を縦に回転させて体勢を戻し、足から無傷で着地した

 

「くそおおっ!」

 

 再び男を睨みつけ、勢い良くダッシュ

 

 今度は身体の中央めがけての飛び膝蹴り

 

 これならさっきのように絡め取られることはない 

 

 そう考えての攻撃だった

 

 すると男は腰に手をかけ、あるものを取り出した

 

 西洋風の長剣である

 

 柄に手をかけ、鞘から刀身を引き抜く

 

 といっても、全て抜き切ってトランクスに切りかかるほどの猶予は無い

 

 半分ほど抜き、腹の部分を盾代わりにして攻撃を防いだ

 

 剣にはヒビ一つ入らない

 

 男はそのままトランクスを押しのけると、剣を完全に抜き切り

 

「だああああっ!」

 

 脳天からトランクスに切りかかった

 

「ふんっ!」

 

 これに対しトランクスは、両手を使って完璧なタイミングで挟み込んだ

 

 俗に言う真剣白羽取りである

 

「ぬ、ぬぬぬぬぬぬぬ……」

 

 このままゴリ押しで叩き切ってやろうとする男だが、剣は動かない

 

 トランクスの気が全身から吹き出し、全開に近いパワーが発揮されていることが分かる

 

 攻撃している男が想像していた以上に、その力は強大だった

 

 トランクスはそのまま剣を横に倒し、男の脇を空けた

 

「せやああああっ!」

 

「ぐああっっ!」

 

 そこへすかさず蹴りを打ち込んだ

 

 ひるむ男を、さらに気合砲で迎撃する

 

 蹴りによるダメージで剣にかかっていた力はなくなり、片腕を用いて攻撃が出来た

 

 背中から倒れこみそうになる男だが、何とか手をついて即座に体勢を立て直した

 

「……そうこなくちゃな」

 

 男は笑いながら剣を構え直し、トランクスを見る

 

 先程の二撃だけではまだ堪えていないようで、楽に勝てる相手ではないとトランクスは認識

 

(何者なんだこいつは……っ!今一気に膨れあがった気は、悟飯さん!?)

 

 直後、馴染みのある気が急に大きくなったことを感知した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ!わ!わぁっ!」

 

 ほんの少し、時間は遡る

 

 悟飯がやってきたバトルゾーンは、他の三箇所と比べ異質な空間だった

 

 床は正方形の白と黒が交互に敷き詰められ、辺りにはおもちゃが散乱

 

 しかし大きさが並みではなく超巨大、それが一面に散らばっている

 

 まるで自分が小人になったかのようで、かなり現実離れしていると言えよう

 

 そこで悟飯は、対戦相手探しとは別の理由で跳び回っていた

 

 知育玩具でよく見られる、数字やアルファベットが書かれた立方体のブロック

 

 先程も述べたように巨大なサイズと化したそれが、悟飯目掛けて絶え間なく落ちてくるのだ

 

 小さく見積もっても一辺二メートル以上、直撃すればただでは済まない

 

「誰が、こんなことを!」

 

 それを悟飯は、次々と避けていく

 

 避けた先避けた先へピンポイントに落ちてくるが、それらも全て回避

 

 意図的に起きたことは明らかで、避けながら周囲の様子を見ていく

 

「フッフッフ、まあこのくらいは避けてもらわなければな」

 

「!」

 

 するとブロックの落下が漸くやんだ頃に、上空から聞き覚えのない声

 

 即座にそちらへ顔を向ける悟飯

 

「お前か!こんなことをしたのは!」

 

 舞空術で浮遊している男が、上下逆さまの状態でゆっくりと降下してきた

 

 トランクスと戦っている男と同じく、濃いめの青色の肌とアクセサリー

 

 悟飯と同じくらいの小柄で、紫のターバンを頭に巻いていた

 

「お次はどうしてやるかな……」

 

「や、やめろ!武道大会なんだぞ!」

 

 悟飯はターバンの男の行動を制止しようとするが、男は止める気などさらさらなかった

 

「ゲームだと言うのか?」

 

 両手を突き出し、淡い光を灯らせる

 

 それと同時に悟飯の背後からギギギと、金属が擦れる鈍い音

 

「なっ!?」

 

 振り返ると、そこにあったのは巨大な時計

 

 その短針と長針がグルグルと回り、すぐさま二本の針は本体から外れる

 

「はあっ!」

 

 ターバンの男の意思に従って悟飯へ襲いかかった

 

(こ、今度は時計の針かっ!)

 

 悟飯は何とかそれを避けていく

 

 だが、ブロックの時のように簡単にはいかない

 

 今度は垂直落下ではなく、ターバンの男の意思によって自由自在に追いかけてくる

 

 ギリギリまで目で追い、かわす必要があった

 

 その悟飯の動きを見て、ターバンの男は思わず感心の声をあげる

 

「ほう、想像以上の動きだ……地球人がここまでやるとはな」

 

 そしてこう続けた

 

「さっきの男はあっけなく死んでしまったが、お前ならなかなか楽しめそうだ」

 

「な、何だって!?」

 

 ターバンの男は顎をクイッと動かし、ある一方向を悟飯に示す

 

 そちらへほんの一瞬振り向いてみると、さっき落ちてきたのと同じようなブロックが数個

 

「!」

 

 そしてそこの下部の隙間から、血のついた人の脚が一本見えた

 

「ひ、ひどい……」

 

 おそらくあの人物が、自分の本来の対戦相手だったのだろう

 

 それを、乱入してきたこの男が弄ぶかのように命を……

 

「いつまでよそ見をしているんだ?」

 

 いつの間にか、二本の針は悟飯の両脇へ回って挟み打ちの態勢に入っていた

 

 ターバンの男が両手を外側から中央に勢いよく寄せると、それらは同時に悟飯の元へ

 

「……だあああああああああああああっ!」

 

「ほう」

 

 どうやって避けるか、あるいは痛々しい姿を晒すか

 

 そう考えていたターバンの男、ブージンの予想は大きく裏切られた

 

 悟飯は怒りとともに気を全身から爆発

 

 その爆発波は悟飯を包み込むように、針からの攻撃を防いだ

 

 針はその爆発波に触れた先から消滅

 

 気付けば二本の針は、どちらも跡形もなく消えてしまっていた

 

 トランクスがあの時感じ取った気は、この時のもの

 

 だがブージンは、驚きはしたものの動揺はしていなかった

 

(かなり強力な気、しかしあの方に比べれば……)

 

 まるで悟飯の勝利は無いと確信しているかのようだった

 

(だがこのまま一対一は、少々厳しいか……なら)

 

 そう考えるとブージンは、再び両手を前方へ向け

 

「はあっ!」

 

 先ほどと同じく淡い光を灯らせる

 

(つ、次は何をする気だ!?)

 

 悟飯は警戒し、ブージンを見据えたまま構えをとる

 

 すると

 

「な、何だ何だ!?」

 

 辺りの様子が著しく変化した

 

 ドロドロと泥水が垂れるかのように、一面が暗い色へと染まっていく

 

 気づけば風景が、ファンシーなそれから険悪なそれへと変貌を遂げていた

 

(魔術か何かの類なのか!?)

 

 悟飯がその変化に思わず動揺する

 

 その僅かな隙を突き

 

(今だっ!)

 

 ブージンはある場所へ向かって一直線に飛んだ

 

「あ、待てっ!」

 

(他の仲間と、合流させてもらおう)

 

 それに少しして気付き、悟飯も遅れて後を追う

 

(あんな危険なやつ、逃がすわけにはいくもんか!)

 

 本来のスピードなら、悟飯が上

 

 しかし時々魔術で辺りの物体を飛ばして邪魔してくるため、なかなか追いつけない

 

(そうだ、他のみんなは?トランクスさんやクリリンさん、それに……あっ、楓さん!?)

 

 それにやきもきしている折、悟飯は他の三人が気にかかった

 

 もし奴に仲間がいて、同様に襲いかかっていたとしたら

 

 その予感は、的中していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠で影分身が見つけたのは、巨漢の死体だった

 

 引っ張り上げると派手な衣装にパステルカラーのメイク、本来戦うはずだった銀河戦士とみて間違いない

 

 首にあった絞め痕も目に入り、暑さで倒れたのでなく殺されたことがすぐ分かった

 

 となれば次に気になるのは、この男を殺した下手人の居場所

 

 警戒を強める楓だったが、僅かに遅かった

 

「がっ……ぐ、ぎぃっ……」

 

「ふふふふ……」

 

 背後から突如伸びる一本の腕

 

 砂の中に身を潜めていた男が、死体の様子を見るため膝を折っていた楓の首根っこを掴んでいた

 

 大樹のように太い腕、楓は両手を使って解こうとするがびくともしない

 

 砂の中から全身が出てくると、太い腕に見合う巨大な体躯

 

 楓を楽々とつるし上げ、彼女を苦しめていった

 

(こやつ、一体何者でござるか……)

 

 体勢だけはどうにか反転したため、男の容姿を確認することが出来た

 

 オレンジ色のモヒカンヘアー、同じ色の口髭

 

 そして、楓は知らないがあの三人と同じ青い肌と同じアクセサリー

 

 自身を締め付けている人間離れした力を別にしても、明らかにただの悪漢とは異なることが分かる

 

(まずい、意識が……間に、合……)

 

 しかしこれ以上の思考を行える余裕は今の楓には無かった

 

 酸素が頭に回らず、意識が濁る

 

 死体を見つけた影分身は、捉えられた折に片腕で殴り飛ばされ既に消滅

 

 腕を振りほどこうとしていた両手の力も、徐々に抜けていく

 

(もう、そろそろかな)

 

(不、覚……)

 

 少女の死は、すぐそこまで迫っていた

 


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