ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第60話 大移動 向かうはバトルアイランド2

「……(キョロキョロ)」

 

 マンホールから顔を出し、辺りを見回す男が一人

 

 ここは、バトルアイランドの出口への通路である

 

 現在人影は見られない

 

(……よし!)

 

 そのことに男は心から歓喜した

 

 蓋を頭の上からどかして、縁に手をかける

 

(まったく……やってられるかっての!あいつらと戦うなんて……)

 

 黒のアフロに、カラフルなコスチュームとチャンピオンベルト

 

 この世界の格闘技チャンピオン、ミスター・サタンその人であった

 

 実はこの天下一大武道会、優勝者が得るのは賞金と世界温泉旅行だけではない

 

 このサタンへの、チャンピオンの座をかけた挑戦権も与えられるのだ

 

 つまりサタンは決勝に進んだあの四人のうち誰か一人と、どうしても戦うことになってしまうのだ

 

(あんな化け物相手にまともに戦っては、負けどころか死んでしまうじゃないか!)

 

 彼らの多くがセルゲームで見た面々であることは、予選で既に気付いていた

 

 一緒に観戦していたスポンサーのマネー氏が選手が空を飛んでいることに驚いていたが、無視

 

 続いて影分身で選手の人数がいきなり増えると、どういうわけかとついに直接尋ねられ、この際は

 

『ど、どこかに双子や三つ子の仲間が隠れてたんだろう。ちゃちなトリックだ』

 

 と冷や汗を浮かべながら、かなり無理のある説明

 

 予選後はインタビュアーに感想を求められ、こちらは『全員まだまだ修行が足りないな』とうわずった声で回答

 

 娘ビーデルの敗退に触れられなかった辺り、この時点でかなり余裕が無くなっていたことが分かる

 

 そしてとどめは、準決勝第四試合

 

 トランクスの超サイヤ人への変身、これをインタビュアーに尋ねられるとついに

 

『ト、トリックだトリック!歌舞伎の早変わりとかあるだろ!あれだあれ!』

 

 と、動揺に怒気が混ざった声を思い切り荒げる始末

 

 ここでついにサタンは決意した

 

 逃げよう、と

 

(さて、あとはこっそりここから……)

 

 そうこうする間に、全身がマンホールの中から出る

 

 忍び足で出口へ向かおうとするサタンだったが

 

「あれ?ミスターサタン」

 

「ギックウウウウウウウ!」

 

 後ろから一人の男が呼びかけた

 

 それはサタンもよく目にしていた男だった

 

「どちらへ行かれるんですか?そっちは出口です」

 

 この天下一大武道会のプロデューサ-である

 

 大会のスポンサーのマネー氏が、占いババに大金を払ってまで選んで貰った人物でその手腕は確か

 

 全世界への情報発信や有名選手の招集、大会全体の段取りまで全てを受け持っていた

 

 そんな彼は突然サタンが展望室から姿を消したのに気付き、探していたところちょうど出くわしたのだ

 

「ちょ、ちょっと腹が痛くてな……」

 

 サタンはとっさに腹を押さえ、苦しそうな声と表情になる

 

 言うまでもなく演技である

 

「そ、それは大変だ!さあ、すぐに医務室へ!」

 

 この大会を成功させると意気込むプロデューサーにとって、最重要人物サタンの体調不良となれば黙ってはいられない案件

 

 心配のあまり腕を掴む彼だが、サタンは力強く払いのけた

 

「だ、ダメだダメだ!この腹痛は、かかりつけのドクターに診てもらうのが一番いいんだ!」

 

 片手を腹に当てたまま、サタンは出口へと歩を進める

 

「しかし、それではスポンサーのマネー氏が……」

 

「知るか!とにかく私は帰る!」

 

 制止を振り切り、サタンは外へと出た

 

 逃げてしまえばこっちのもの

 

 ところが、サタンはそれが出来なかった

 

「あ、あれ?……足場が……無い!?」

 

 来た時にはあったはずの足場が、既にそこには存在していなかった

 

 残っているのはほんの数十センチ部分だけ

 

 すると

 

「おい!ミスター・サタンだ!」

 

「本当だ!」

 

「サーターン!」

 

「サーターン!」

 

「サーターン!」

 

 少し離れた場所から声援

 

「え!?え!?え!?」

 

 サタンは下に向けていた顔を上げる

 

 同時に、その顔は驚愕のそれへと変わった

 

 多くの人達が、こちらに無い方の足場の上に立っていたのだ

 

 どうも、こちらとあちらで切り離されたようである

 

 しかも、どんどんその間の距離が離れていくではないか

 

「ど、どゆこと!?」

 

「決勝戦は会場を、バトルアイランド2に移動して行うんです」

 

「へ?」

 

 このバトルアイランドは人工の島

 

 ほんの少し前から決勝会場へと移動を開始していたのだ

 

 島の一部を切り離したのはスピードを上げるため

 

 あそこにいた人々は、収容人数の関係上乗れなかったわけだ

 

 サタンが乗ってきたジェット機はあちら側

 

 こちら側は大会終了後、特別イベントを交えながらゆっくりと元の場所へ戻ることになっていた

 

 つまり、サタンを含めてこちらに残った者達は大会が終わるまで帰れない

 

「ええええええええええええええええええええええっ!?」

 

 このサタンの絶叫は、辺りに響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふええええーーーん!待ってくださーーーーい!」

 

 サタンの絶叫は響き渡ったが、彼女の絶叫が響き渡ることはなかった

 

 常人は彼女の姿を視認することも出来なければ、声を聞くことも出来ない

 

 3-A幽霊少女、相坂さよは涙目で叫びながら海上を飛んでいた

 

「なんで、なんで行っちゃうんですかー!私を置いてかないでーー!」

 

 大会前に夕映達と到着してから、これまで姿をあまり見せていなかった彼女

 

 朝倉や夕映と違い、あちこちを飛び回りながら予選及び準決勝の観戦に興じていた

 

 そして準決勝が終わると、辺りの散策をしようと思って出口の方まで移動

 

 停められていた旅客機や、賑わいを見せる出店等を回っていたところで悲劇は起きた

 

 突如聞こえてきたサタンコールに驚き、声の出所まで移動

 

 向こう側の唖然とした表情をしている男を見て、あれが皆のコールするサタンであると気付く

 

”へー、あの方がチャンピオンのサタンさんですか…………ってあれ!?もしかして皆さんあっち!?”

 

 そして自分が置いていかれたことに気付くのは、少々遅れてからのこと

 

「どうしよどうしよ!これじゃ追いつけませんー!」

 

 さよは懸命に飛ぶが、バトルアイランドの航行速度には敵わない

 

「誰かー!誰かー!!」

 

 どんどん離れていく人工島、さよの叫びでは止まらない

 

「あしゃ、朝倉さーーーーん!夕映さーーーーん!」

 

「――さん」

 

 ポロポロと流れる涙が、さよの視界をぼやかす

 

 更には自身の叫びも相まって声も聞こえず、気付くのが遅れる

 

「さよさん」

 

「置いてけぼりは、やですーーー!」

 

「こっちですよ、さよさん」

 

「ふえぇ?う、臭っ!?う゛ええぇ……」

 

 気付いたのは、鼻にとんでもない異臭が飛び込んできた時

 

 思わず呻いて動きを止めて横を向くと、箒に乗って小瓶を顔に近付ける少女が一人

 

「ゆ、夕映さん!?それ、あのドリンクじゃないですか!ひどいです!」

 

「さっきから声掛けてたのに、反応なかったじゃないですか。私さよさんに触れませんし、こうでもしないと気付かなかったでしょうに」

 

 少女の名は綾瀬夕映、持っているのは魔界ガマガエルの目玉漬け体液ドリンク

 

 驚異的な異臭を放つそれを差し向けたことをさよは咎めるが、夕映は仕方が無かったと断じる

 

「……ってあれ!?夕映さん来てくれたんですか!」

 

「何を今更。準決勝が終わっても戻ってこないですから、試しに居場所を占ってみれば……何やってるですさよさん」

 

「うぅ、ごめんなさい。まさか会場が海を移動するとは思ってなくて……迎えに来てくれて、ありがとうございます」

 

 とはいえ、このままでは戻れなかったさよを夕映が助けに来たのは事実

 

 夕映に礼を述べた後、さよは夕映の箒の後方へと跨がった

 

「そういえばこの箒、行く時もでしたけど幽霊の私でも乗れるようになってるんですよね」

 

「おそらく占いババさんが、何かしらの術をかけてくれたのではないでしょうか。後で調べてみますが、もし上手くいけば今後さよさんが扱える道具が増えるかもしれませんです」

 

「ホントですか!私、楽しみにしてますね!」

 

「まあまずは、皆のもとに戻らないとですね。スピード出すので、しっかり掴まってください」

 

「はい!」

 

 すっかり泣き止み調子を戻したクラスメイトを乗せ、夕映は高速で海上を飛行した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夕映っち、さよちゃんと無事に合流できたかな~」

 

「まあ兄貴やのどか嬢ちゃんの居場所を未来視出来たくらいなんだ、あの占いの通りに動けりゃ間違いねえさ」

 

 朝倉はカモを肩に乗せ、海を移動する会場内を歩いて回っていた

 

 決勝戦は別会場で行われ、客席もそこへ移ることになっている

 

 そのためこれまで座っていた席の場所取りをする必要がなくなり、気兼ねなくそれぞれが自由に動いていた

 

「にしても俺っちが確認しただけで、占術に箒の飛行、あとは気や魔力の感知も鋭くなってたな……大したもんだぜ」

 

「なんせ、占いババさん直伝だからね」

 

「嬢ちゃんが弟子入りしてるっていう、この世界の大魔法使いだったか?」

 

「うん、弟子入りを頼み込んだ初日の夜はほんと大変で……」

 

「なんじゃお嬢ちゃん、わしの姉ちゃんを知っとるのか?」

 

 夕映の魔法使いとしての成長に関し、話を膨らませる両者

 

 そこへ後方から老人の声、二人はそれに合わせて振り返る

 

「ん?なんだ爺さん」

 

「あっ、もしかしてあの時の……」

 

 カモは初見だが朝倉は彼を、亀仙人のことを覚えていた

 

「おっ、覚えててくれたんじゃなお嬢ちゃん。なぁに安心せい、この通り怪我無くピンピンしとるからのう」

 

 大会が始まる前、夕映がネギ達を見つけようと駆け出しそれを朝倉とさよが追っていた時

 

 慌てて周りが見えず、近くにいた亀仙人をうっかり吹っ飛ばしたことを思い出していた

 

「よ、良かった……」

 

「よう爺さん、さっき占いババのことを『姉ちゃん』って呼ばなかったか?」

 

 朝倉は安堵した様子を見せ、一方のカモは先程亀仙人が言ったことを聞き逃さなかった

 

 それに亀仙人はあっさりと、ああそうじゃよと答える

 

 魔法使い、即ち裏世界の人間を姉に持つという事実

 

 カモはすかさず、この亀仙人がただ者では無いということを見抜いていた

 

(もしかしたらこの異世界についての情報を、何か掴めるかもしれねえな)

 

 この世界に来てから、カモはあまりネギの役に立てていないという自覚があった

 

 少なくともここで、彼と接点を持つことは-にはならない

 

「爺さん、今ちょいと時間はあるかい?」

 

 カモは亀仙人に、色々と話がしたいと提案した

 

「ほう、話とな?ふむ……ちょうど知り合いとも別れて、退屈しとったところでの。いいじゃろう、ただ……」

 

「ひゃっ!?」

 

 亀仙人はそれを了承

 

 すかさず距離を詰めると、朝倉の腰に腕を回してその身を寄せた

 

「お、お爺ちゃん!?何してんの!?」

 

「このまま立ち話というのは、老人の足腰にはちときつくてのう。折角じゃ、あそこのカフェで腰を据えて話そう」

 

 朝倉は知らなかった、ぶつかったあの時亀仙人が彼女をナンパしようとして接近していたということを

 

 そのまま逃げてしまった罪悪感も相まって警戒心はなく、接近を許し密着されてしまった

 

「それになんだか、腰が痛くなってきた気がするわい。さっきぶつかったせいかのう……すまんが肩を貸してくれんか」

 

「いやいや掴んでるの私の腰だし、それにピンピンしてるってさっき自分で……ってちょっと、お尻!」

 

「ぐふふふ」

 

 軽く払い除けようとしたがそこは武天老師、びくともしない

 

 腰に回していた手は下に移動し、撫で回し始めると朝倉の声が大きくなった

 

(ほうほうほう、これは中々……ブルマと遜色ないムチムチプリンじゃ、まだ大分若いじゃろうにこれは将来有ぼ)

 

「こぉら!武天老師様!」

 

「あぎゃぱっ!」

 

 そんな朝倉を救ったのは、後方から亀仙人の頭に叩きつけられた強烈な一撃

 

 目の前に星が飛び出し、バッタリと倒れ伏す

 

 やったのは誰かと亀仙人が振り返ると、彼のよく知る女性がいた

 

「まーたスケベなことして!恥ずかしくねえだか!」

 

「チ、チチ……」

 

 孫悟飯の母、チチ

 

 両手には分厚いハードカバーの本、叩きつけた代物は間違いなくそれ

 

「ブルマと違ってお主のはしゃ、洒落にならん……わしを、殺す気かぁ」

 

「なぁに言ってるだこの爺様は。こんなんで死ぬわけないくらい、オラわかってるだぞ」

 

 頭に巨大なたんこぶを作り弱々しい声で抗議する亀仙人を、チチは怒りそのままに睨み付ける

 

 その後方から、先程朝倉達と同じ場所で観戦していた面々がぞろぞろと現れてきた

 

「武天老師様、またですか……」

 

「あちゃー、やっぱ朝倉も目を付けられてたか」

 

「うわぁ、痛そう……叩いたの私じゃないけど、ごめんなさい……」

 

「宮崎さんが謝る必要は無いのでは?まあ、提供元ではありますけど」

 

 ヤムチャ、ハルナ、のどか、葉加瀬

 

 ヤムチャは呆れ、ハルナは朝倉に同情し、のどかは亀仙人に謝り、葉加瀬はそれにツッコむ

 

 チチが手にしていたのは、のどかのアーティファクト”いどのえにっき”

 

 昼食を食べるにあたり、先に一人で行ってしまった朝倉も誘おうということになり、探すためアーティファクトを使用

 

 すると朝倉が亀仙人にセクハラを受けてることが判明し、怒ったチチが本を拝借

 

 見つけるや否や、すぐさま強烈な一撃を見舞っていた

 

「和美さん、大丈夫だか?」

 

「は、はい。ありがとうございます……あの、お爺さんホントに大丈夫なんですか?」

 

「うぅ、折角さっちゃんやウーロンと別れて、好き勝手出来ると思っとったところで……」

 

「ほれ、痛いより先にあんなこと言えるくらいだ、心配いらねえだぞ」

 

「は、はは……」

 

 チチが朝倉へ近付き、安否を確かめる

 

 最初は亀仙人への心配が勝っていた朝倉も、次第に彼の執念への呆れが見え始めていた

 

「そうそう朝倉、一緒にご飯食べましょうよ。夕映が戻ってくるまでに、夕映の分の席取りもしといてさ」

 

「お、いいねえ。あれ、けど先に全員お店入ったら、夕映っちに伝えようにも無理じゃない?」

 

「ああ、それはね……もしもしネギ君、ちょっといい?夕映に伝言を頼みたいんだけどさー、そうそうカードの念話で」

 

 朝倉を探していた目的、昼食への誘いを切り出したのはハルナ

 

 さよを迎えに行った夕映も一緒にどうかということで、朝倉は快諾

 

 しかし直後、そのことを夕映へ知らせる方法を自身が持っていないことに気付く

 

 元の世界で使っていた携帯は当然使えないわけで、そこへハルナが解決策をその場で披露する

 

 ハルナと夕映はどちらもネギと仮契約を結んでおり、カードでの念話を可能としている

 

 直接は無理だが、こうしてネギを挟んで言葉を伝えることが出来た

 

「あー、なるほどね」

 

「……うん、じゃお願いねー。これでおっけーよ朝倉、行きましょ」

 

 行く店には元々目星を付けていたらしく、着くよりも先にネギに店の名前を伝えてハルナは念話を切った

 

 朝倉はそのままハルナに着いていこうとしたが、カモが肩から飛び降りる

 

 頭に出来たこぶを押さえ、未だ蹲る亀仙人の傍まで近寄った

 

「朝倉の姉さん、先行っててくれ。俺っちはこの爺さんと、ちょい話をしてから行くぜ」

 

「はいよー、また後でね」

 

 始めに亀仙人に提案した通り、話をするため残ることにしたようだ

 

 こうして一人の老師と一匹のオコジョを残し、一行は昼食へと向かった

 

「そういやブルマさんは?いないけど」

 

「トランクスさんと一緒、あっちは木乃香達とご飯みたい」

 

 天下一大武道会決勝戦

 

 その舞台バトルアイランド2への到着まで、あと少し




 一部リメイク前の文章がそのまま使えたのもあって、早めに書けました
 もう1話使って決勝のルール説明とか出場選手の下り書いて、その次から開始になると思います。

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