ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

60 / 74
第59話 準決勝終幕 戦士トランクスの覚醒

「ベジータちゃ~~~ん、いるかしら~~?」

 

 西の都にある巨大邸宅、ブルマ達が住んでいる自宅のとある一室

 

 外からコンコンとノックがされたのち、まるで年若き乙女のようにウキウキした様子の声が響いてきた

 

「デザート作ったの~、アップルパイよ~。リビングまで来て一緒に食べましょ~」

 

 この女性、ほかでもないブルマの母親である

 

 今回の大会は夫ブリーフ博士と共に残り、ブルマ達に同行せず

 

 そんな彼女がドアを鳴らした部屋は、朝食が済んでから一度も出てきていないベジータの部屋だった

 

「それに~、今トランクスちゃんの試合してるのよ~?折角だしこっちの大きいテレビで……」

 

 孫悟空の死後塞ぎ込んだベジータに、以前と変わらぬ様子で誘いかける

 

 しかし返ってきたのは、ベッドを激しく叩きつける音

 

 ブルマの母の言葉を遮るように飛び出したそれは、ドア越しでも強く響いた

 

「……あらごめんなさいね~、お取り込み中だったかしら?」

 

 ブルマの母はそれに怯えることなく、やはりいつもと変わらぬ様子

 

「ベジータちゃんの分のアップルパイ、とっておくから後で食べてね~」

 

 とはいえ、無理に部屋へ入ろうとまでは思わなかったようで、この場から退散

 

「……ちっ、やっと行ったか」

 

 それを待たずして、ベジータはベッドの上で舌打ちを鳴らした

 

 ここに居候してから四年以上経つベジータだが、どうにも彼女の相手は苦手で未だ慣れずにいる

 

 そんな彼は現在、ベッドの上で寝そべりながらあるものに目を向けていた

 

 部屋に備え付けられている小型テレビ、そこに映る二人の戦い

 

(トランクスの、やつめ……)

 

 大会が始まった当初、まるで興味は無かった

 

 時折激しく高まる気を感じたが、それでも一年前に自分がいた場所には遠く及ばないレベル

 

 ところが数分前、ベジータはテレビのリモコンを手に取っていた

 

 遠く離れたこの場所でも文句なしに感じ取れた、今日一番の大きな二つの気

 

 トランクスとピッコロのそれと気付くのに一秒と掛からず、途端にトランクスのあの時の言葉を思い出した

 

 

”母さんがチチさんに確認を取りました……今度の大会、悟飯さんとピッコロさんも出場するそうです”

 

”優勝してみせます。その時はどうか、もう一度俺のよく知る父さんの姿を見せてください……お願いします”

 

 

 

 気付けばベジータは、テレビを点けていた

 

 そうしなければいつまでも、あのトランクスの言葉がもやもやと頭に残り続けるような気がして

 

(くそっ、これじゃわけが分からん)

 

 しかし、それでもなおベジータの頭は晴れず

 

 大会を中継するカメラが、高速で動く二人の姿を碌に捉えられないのだ

 

 テレビに映るのは、誰もいないバトルステージ及び虚空

 

(気に大きな変化が感じられない以上、どちらかの明確な優勢とはなっていまい。トランクスめ、ピッコロなんぞに負けてやがったら……)

 

 感じられる二人の気だけでは、細かい戦況までは読み取れない

 

 リモコンを持つ手に力が入りメキリと、ひしゃげる一歩手前の軋み音が鳴った

 

( ! 今、俺は……)

 

 その予期せぬ音はベジータの意識をテレビから引き戻し、今しがたの自らの振る舞いを顧みさせた

 

 明らかに、さっきの自分は熱くそして……

 

(……滾っていた、のか!?トランクスとピッコロ、二人の戦いで!)

 

 直後、頭を振る

 

(ち、違う!俺は、俺はもう……)

 

 

”もう一度、相手をさせてくれませんか”

 

 

(俺は、もう……)

 

 

”少しの間だけでも、父さんの修行の手伝いを……”

 

 

(……戦うのを、やめたんだ!!)

 

 右手はついに、リモコンを粉々に砕いた

 

(だからこんな試合なんぞ、くだらん!くだらん!……くだらん)

 

 リモコンは壊れたが、テレビは点いたまま

 

 ベジータの視線は再び、そこへ吸い込まれる

 

(……トラン、クス)

 

 直後、どうにかカメラは二人の戦いを捕捉

 

 ピッコロの放った無数の気弾が一斉にトランクスへ襲い掛かり、爆発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ!」

 

 手応えはあった

 

 瞬時に展開した包囲網、抜け出した様子はない

 

 上空の爆発の規模は、その包囲した気弾すべてが余すことなく炸裂したことを示している

 

 落ちてくる様子こそ無いが、相当のダメージを与えられたはず

 

 そう思ったピッコロは次の攻撃に備えて気を高めつつ、爆発が晴れるのを待った

 

「!?なん、だと……」

 

 だが爆発は、待たずして晴れた

 

 トランクスから発せられる気で起きた風が、すぐさま吹き飛ばす

 

 そしてそのトランクスは、ほぼ無傷だった

 

 多少息が乱れ、服が幾らか破けたことを除けば、攻撃を食らう前のトランクスとほぼ変わっていない

 

「ただの防御ではあそこまでは……まさかあいつ!」

 

(危なかったが、なんとか上手くいった)

 

 先程敢行した賭け、その成功の喜びをこっそりと噛みしめる

 

 囲まれた直後、トランクスには二つの選択肢があった

 

 一つは、防御に専念し出来るだけダメージを減らすこと

 

 そしてもう一つは、全身から気を爆発させ防ぐこと

 

 トランクスが選択したのは後者

 

 成功すればダメージをほぼ無くせる反面、失敗すれば相当のダメージを受けるリスクの大きい選択

 

(あの試合が無ければ、これが瞬時に出来たかどうか……迂闊でしたね、ピッコロさん)

 

 そう、この時ピッコロは僅かに読み違えていた

 

 トランクスはこの技を見るのは、初めてではない

 

 正確にはこの技を下地にした派生技だが、ほんの少し前に目にしたばかりだった

 

 

 

 この試合の一つ前、長瀬楓と天津飯の激闘

 

 瞬く間に包囲され、球状に押し固められ、場外へ蹴り出された天津飯の姿

 

 実力で勝る彼が敗れた衝撃は相当で、思わずその時トランクスは考えていた

 

 自分ならば、あの状況からどう返す?と

 

 そこで考えついたのが、あの方法だ

 

 初見の攻撃、かつ予想外の動きによる驚愕で思考時間を奪われた天津飯と違い、トランクスにはこうして猶予があった

 

 

 

(ピッコロさん、俺は……負けませんよ)

 

(こいつ、更に気がでかく……)

 

 大技も出始め、戦いの激しさはより一層増してきた

 

 それに伴い戦闘民族サイヤ人の血ゆえか、トランクスの気は更に滾る

 

 息の乱れもいつしか収まり、爆発を晴らした後もなお風は吹き荒び彼の髪を激しく揺らす

 

(……いいだろう、やってやる)

 

 対してピッコロは、とっておきの技を防がれた驚きこそあったが、闘志の炎は決して消えず

 

((勝つのは、俺だ!))

 

 両者、気を全身に纏い再び飛び出した

 

 数撃、高速での移動を繰り返しながら交錯

 

 そして、次の一撃

 

「ずああああああっっ!」

 

 首筋目掛け、ピッコロの右手刀

 

「うおおおおおおっっ!」

 

 鳩尾目掛け、トランクスの右拳

 

 互いの攻撃は、ぶつかり合うことはない

 

 向こうより早く攻撃を叩き込むこと、それが叩き込まれぬための一番の防御

 

 早かったのは

 

「ぐああああああっっ!」

 

(今度は足止めなんて食らわない、このまま攻め切る!)

 

(ぐっ、まだだ!まだ終わらん!)

 

 先程魔空包囲弾を見事凌ぎ、勢いを残したままのトランクスであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネギ、気付いとるか?」

 

「うん、魔力を使う僕でも分かるよ。トランクスさん、どんどん気が高まってる……」

 

 あわや決着かと思えるほどの優勢から、一転しての劣勢

 

 ピッコロより先に叩き込んだあの攻撃を皮切りに、トランクスの猛攻が始まっていた

 

 気弾による牽制を始め、トランクスの勢いを止めんとピッコロも抗うが止まらない

 

 攻めきると豪語したとおり、ダメージ覚悟で弾幕を突き破っては更に一撃

 

 双方拳を振るっての肉弾戦でも、ピッコロに手痛い一撃は打たせない

 

「さっきまで拮抗してたのが、完全にトランクスに傾きやがった!」

 

「うむむ。まだ力を隠してたってことアルか?もしくは、何かをきっかけに急なパワーアップを……」

 

「急なパワーアップ?」

 

 この急激な戦況の変化、原因は何だろうと古は唸る

 

 考えられそうな二つを言葉に出すと、そのうちの一つをクリリンが拾った

 

「パワーアップ、成長……戦いの中で……そういう、ことか」

 

「?」

 

「トランクスのやつ、この戦いの中で成長してるんだ。ここに来るまでの三年間、未来で修行してた分一気に!」

 

「??」

 

 発言した当の本人はそのままに、クリリンは真相に辿り着く

 

 古が置いてけぼりだというのは少しして気付き、慌てて話した

 

「あいつは三年間、未来の世界でずっと修行してきた。けど戦う敵はおろか、修行相手もいなくてずっと一人でだ」

 

「一人で、アルか?」

 

「ああ、だからその成果を発揮しようにも振るう相手が誰もいない。あいつが全力で戦うのは三年ぶりで、ピッコロがその最初の相手ってことになる」

 

 ベジータが大会に出場していないことから、彼が前のように戻ってトランクスの修行に付き合っていたとは考えにくい

 

 予選の戦いでも、古相手ではやはり引き出すまでに至らず

 

「そしてピッコロとの戦いを通して少しずつ、三年間で上がった力の引き出し方が分かってきた。これなら、あのトランクスの逆転も頷けないか?」

 

「なるほどアル、確かに……」

 

「クリリンさん、それだけじゃないかもしれません」

 

「え?」

 

 そこへ会話に加わる者が一人、孫悟飯

 

 彼はクリリンとは別の視点で、トランクスの様子を見て、感じ取っていた

 

「トランクスさん、修行でのパワーアップとは別になんかこう……並々ならない気迫を感じるんです」

 

「気迫だって?」

 

「『絶対勝つんだ』っていう気持ちが、何だか僕には見ていて伝わってきたんです。それも……」

 

「それも?」

 

 悟飯がこの大会に、悟空と同じ道着を着て出場を決めた理由

 

 幼き頃武道大会を通して腕を磨いた、尊敬する父を想ってのこと

 

 出たがっているであろうあの世の父に自分の戦う姿、そして優勝するところを見せたかった

 

「……僕とどこか、同じような」

 

 父を想うトランクスと悟飯、この二人は似ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあああーーっっ!」

 

「ぬがぅぁっ!」

 

 これで何度目になるか、トランクスからピッコロへの強烈な一撃

 

 しばし粘ったピッコロの防御をかいくぐり、斜め下方向に蹴りを食らわせ吹っ飛ばす

 

 更には牽制や舞空術のブレーキをさせるよりも先に、空いた手で生成していた気功波を放った

 

「食らえーーーーーっ!」

 

 ピッコロが蹴り飛ばされた先は、ちょうどバトルステージ上

 

 気功波も狙い通りに着弾し、ピッコロを丸々覆い尽くす爆発がバトルステージで巻き起こる

 

「よしっ、だがまだだ……」

 

 二連攻撃の成功に喜ぶトランクスだが、勿論これでは終わらない

 

 ピッコロほどの戦士、これだけではまだ倒すには至っていないだろう

 

 更なる攻撃をせねば、そう思いトランクスはバトルステージまで下り立とうと動く

 

「もう一ぱ……!?」

 

 爆発に包まれ、ピッコロの姿はまだ見えない

 

 しかし気は感じられるため、そこにいることは間違いない

 

 そんな中から、一本の腕が伸びてきた

 

 比喩でなく、トランクスを掴まんと文字通り腕が『伸びてきた』

 

 緑色の肌、間違いなくピッコロのもの

 

「……このくらいじゃ、俺は止まらない!」

 

 速度はそのままに軌道を僅かに変え、掴みかかりを回避

 

 時間差でもう一本の腕も現れ迫るが、トランクスはそれもかわしていく

 

「これも、だ!」

 

 更には、ギュンと唸るような強力な気功波も一発放たれてきた

 

 両腕がこうして使われている以上、先程も見せた口からの攻撃だろう

 

 それも食らうには至らない、かわしてトランクスは突き進む

 

 爆発に紛れての不意打ち攻撃、両腕に口も合わせた三つ全てを打ち破った

 

(それにこれで、ピッコロさんの場所もわかる!)

 

 そして、トランクスはこの攻撃そのものに好機を見出した

 

 未だ爆発に身を隠したままのピッコロだが、伸びた両腕を辿れば間違いなく当人に行き着く

 

 加えて攻撃のために両手は上空、懐に潜り込まれればピッコロはまともにトランクスの攻撃を捌けない

 

「これで、どうだああああっ!」

 

 目の前に飛び込んだ好機に、拳は震え気が満ち溢れる

 

 かわした腕の腹を滑り沿うようにトランクスは地上へ、バトルステージへ吸い込まれていった

 

 見えぬ爆発の中へ突き出される拳、これまでで一番の威力

 

「ぐぅおぐうぅぅぅっ!」

 

(手応え、ありだ!)

 

 その先に、ピッコロはいた

 

 腹のど真ん中を抉る、文句なしの一撃

 

 視界の利かぬトランクスの耳へ、情報を伝えるべく四つの音が飛び込む

 

 一つ、メリリとピッコロの身体が軋む音

 

 二つ、ピッコロの口から洩れる苦悶の声

 

 

 

 

 

「残念だったな」

 

 三つ、その更に後方から聞こえるこれまたピッコロの声

 

「!」

 

 

 

 

 

 ボンッ!

 

 四つ、拳を入れたピッコロがこのように鳴って消える音

 

「!?」

 

 

 

 

 

 ちょうどこのあたりで、視認出来るほどに爆発が薄まっていた

 

 いや、今となっては目で見ずとも、その身をもって現状を充分承知している

 

「ぐっ、ぐぅぅうううぅぅっ!」

 

 目の前に、ピッコロが四人

 

 その内の三人が伸ばす腕に巻き取られ、トランクスは身動きを封じられていた

 

(なにも楓だけじゃないのさ、修行相手の技をこうして利用させてもらってるのはな)

 

 予選と本戦でコタローが、そしてつい先程の試合で楓が

 

 この大会で使われるのを幾度となく目にしていたのだが、トランクスの完全な不覚

 

 

 

   『影分身』

 

 

 

 ピッコロの隠し玉が、トランクスを文字通り捉えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘!?あれって楓さんの……」

 

「刹那さん。あなたはこのこと、ご存知でしたの?」

 

「いえ、私の知る限り修行中見せたことは一度もありません。しかしこれで……」

 

「ピッコロさん、逆転や!」

 

 この四人は知らなかったが、ピッコロは影分身を扱うにあたっての素養があった

 

 自身を完全に二分する、原理としては天津飯の四身の拳に近いような技を元々使えていたのだ

 

 そこへ楓の扱う影分身を目にし、触発

 

 彼女に教えを乞うような真似はせず、修行で扱く過程の中で少しずつ掴んでいく

 

 そして最後は精神と時の部屋、四人を鍛え上げる傍らでどうにか時間を作り密かに仕上げていた

 

「楓からも話は聞いていないので、恐らく我流なのでしょうが……数は楓より少ないながら、同密度の分身体をちゃんと生成出来ています。これならああして、トランクスさんの動きを止めることも難しくない」

 

「ていうか、ピッコロさんが分身で数を増やしてたのに、トランクスさんはそのまま向かっていったのよね?これって……」

 

 ここで、アスナがあることに気付く

 

 トランクスが殴ったピッコロが消えたということは、腕を伸ばしてきたピッコロは本体でなく影分身

 

 つまり腕が伸びてきたあの時点で、バトルステージ上には分身含めて最低二人以上のピッコロがいたことになる

 

 にもかかわらず、気の感知によってそれを見抜くことが出来なかったトランクス

 

 それだけでなくこの場にいる四人、彼女らもまた気付かず

 

 これが意味することとは、つまり

 

「爆発に隠れながら、他の影分身共々気を抑えて欺いていた。ということになりますわね」

 

「それって楓さんが、さっきの試合でやってたことやんな?」

 

「はい、影分身を扱う上での高等技術の一つです。出してる分身の数が少ないので、楓の時より難易度は低いですが……だとしてもそれを、この短期間でとは」

 

 あやかと刹那が言うように、ピッコロが影分身をただの頭数増やしだけに留めていないということだ

 

 楓ほどではないが、確実に影分身を自分のものとしていたピッコロ

 

 そうしている間にも、勝負は決着へと近づいていた

 

「トランクスさん、全然動けてへん。これなら当たるで!」

 

 影分身達がトランクスの動きを止めている間に、ピッコロは自らの気をこの試合の中で最大にまで高めている

 

 この影分身戦法、既に見られた以上二度目が決まる可能性は確実に下がる

 

 ならばピッコロはこのチャンスを活かし、出来ることなら一撃で勝負を決めておきたい

 

 故に、時間を多少掛けてでも強力な攻撃を食らわせたかった

 

「倒しきれずとも、海まで押し込めるだけの攻撃が撃てれば勝ちですわね」

 

「はい、これならピッコロさんの……っ!?」

 

 そして勝負は、最終局面へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんて、ことだ……ピッコロさんの術中に、完全に嵌った!)

 

 ピッコロ達の腕に捕われたまま、トランクスは悔いていた

 

(もっと注意していれば、向こうが気を抑えていても感じ取れていたかもしれない。いやそれ以上に……腕を伸ばしてきた時、懐へ潜り込んで来るのを誘ってると何故気付けなかった俺は!)

 

 己の未熟さ、そして迂闊さを

 

(ピッコロさんの攻撃、このままじゃ確実に耐えきれない!抜け出さなきゃ、ならないのに……くそおおぉぉっ!!)

 

 力を懸命に込めるが三人の影分身による拘束は固く、三年に渡る修行でパワーアップしたトランクスでも抜け出すには至らない

 

 魔空包囲弾の時と同じく、気を爆発させれば影分身ごと吹き飛ばすことも可能かもしれない

 

 しかしそれでは爆発を終えた直後、瞬間的に気が少なくなったタイミングでピッコロの一撃を貰ってしまう

 

 二人の間にある距離はトランクスの爆発波を当てるには足らず、爆発波直後にすぐさま殴るには充分という絶妙な距離

 

 つまりここから敗北を避けるには、気をその身に残したまま影分身達の拘束を抜けなければならないのだ

 

 だが今のトランクスの力では、叶わない

 

(間に、合わない!もっと、もっとパワーを上げないと!)

 

(もう少しだ。あと数秒……これなら)

 

 ピッコロの気は、順調に高まる

 

 このままではトランクスが気を高めて抜け出すよりも、ピッコロが溜めきって攻撃を撃つのが間違いなく早い

 

(負けられない、負けられないんだ!)

 

 トランクスの全身を覆う気が、炎のように激しく吹き上がる

 

 影分身達の腕が僅かに動くが、まだ充分に抑え込まれている

 

(なのに……なのに!)

 

 先程あった後悔の念は既になく、彼の中にあるのはまた別の感情

 

(何故俺は、動けない!何をしているんだ俺は!)

 

 己に対する激しい『怒り』

 

 目鼻の先に会った勝利をつかめず、今の戦況も返せず負けを待つのみの無力さに、感情が爆発した

 

(もう、あんな父さんの姿は見たくない!だから!俺は!)

 

(な、なんだ!?様子がおかしいぞ!)

 

 否、爆発したのは感情のみではなかった

 

 

 

 

「うわあああああぁぁぁぁーーーっ!!!」

 

「!?」

 

 

 

 

 間近にいたピッコロは当然気付く、トランクスの気の跳ね上がり方の異常さに

 

 獣が如き咆吼と共に、吹き上がっていた気は爆発し勢いは更に増す

 

「俺は、勝つんだあああああぁぁーーーっ!!!」

 

 超サイヤ人の髪の色と同じ黄金色の気は、炎と形容するにはあまりにも神々しく

 

 最期にはバチリと、その色に見合う稲妻がスパークした

 

「あ、あれは!くっ!」

 

 次の瞬間戦況は一変、影分身達の腕が弾けた

 

 トランクスの圧倒的なパワーが、内から無理矢理に引きちぎって脱出

 

 拘束から抜け出し、トランクスは自由を得た

 

 間も置かず、拳が握られピッコロへと向けられる

 

(まだだ!この一撃を、当てれば!)

 

 しかしピッコロも時は満ち、最高の一撃を放つ準備は完了

 

 五指を合わせ両手の間に出来た空間に、強力な気弾が生成されていた

 

 こうなれば両者とも、やることは一つ

 

「うおおおおおぉぉぉっ!!」

 

「激烈光弾!!」

 

 これがこの試合、互いの最後の一撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トランクス選手の、勝ちーーー!!』

 

 決着は、一瞬のうちに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはりあれは、あの時の悟飯と同じか?」

 

「そう、みたいですね」

 

 空は、綺麗な青だった

 

 海上にその身を浮かべながらピッコロは、近くまで様子を伺いに来たトランクスに尋ねる

 

「『そうみたい』ということは、さっきのが初めてということか」

 

「はい。実は今でもあまり、何が起きたかハッキリとは……」

 

 覗き込むトランクスの髪の色は、金でなく元々のそれ

 

 一撃を持ってピッコロを海へ叩き込んだ直後、トランクスは変身を解いていた

 

 セルを倒した一年前の孫悟飯と同じ、真の意味で超サイヤ人を超えたあの変身を

 

「……ただ負けたくないという一心で、気がついたら力が溢れ出してきたんです。そしてあそこから脱出して、ピッコロさんに攻撃を仕掛けていました」

 

「……お前はやはり、ベジータの息子だな」

 

「え?」

 

 述懐するトランクスに対しピッコロは微笑しながら、彼の父ベジータの名をいきなり出した

 

 トランクスが今しがた覚醒した切欠、『怒り』

 

 それがどういう『怒り』だったかをピッコロは見抜き、ベジータと重ねていた

 

 トランクスは悟飯以上に、やはり父ベジータとよく似ていた

 

(倒すべき相手を倒せないという、己の無力さに対する『怒り』。あいつが前に話したのと、そっくり同じじゃないか)

 

 三年間に渡る修行で、なれるだけの地力は充分についていた

 

 あと必要だったは、ほんの少しの切欠のみ

 

 その切欠が、トランクスにとってはこの戦いだった

 

「あの、それはどういう……」

 

「さてな。帰ったらベジータに、何をどうして変身出来たか土産話でもしてやればいいさ……いや、流石にあいつは素直に話さんか」

 

「?」

 

 ピッコロは、多くは語らず

 

 暗にベジータ本人から聞いてみろという提案をしたが、ペラペラ話す彼の様子が上手く浮かばず苦笑した

 

「それよりトランクス、やった俺が言うのもなんだがボロボロじゃないか」

 

「いや、俺以上にピッコロさんの方が!」

 

「あそこで飛んでる四人組が見えるか?あの中にデンデと同じ治癒術の使い手がいる、決勝が始まるまでに治してもらえ」

 

 ようやくピッコロはその身を起こし、舞空術で海面から離れる

 

 勝ったとはいえ疲弊が明らかに見て取れるトランクスを一瞥し、木乃香に治してもらうよう指示した

 

 しかしトランクスが指摘するように、ダメージはピッコロの方が甚大

 

「決勝戦の相手は悟飯なんだ、万全の状態で相手をしてもらわんとな」

 

「……分かりました、ではピッコロさんも一緒に」

 

「俺はいい、両方に術を使っては木乃香の負担も大きいだろう。幸い飛んで動けるだけの余力はある、大会の後にでもデンデの所へ行くとするさ」

 

「あ、ピッコロさん!」

 

 全身の傷を隠すように、魔術でターバンとマントを生成し身に纏う

 

 トランクスからの提案を断ると、ピッコロはその場から飛び去っていった

 

「ピッコロさん、ありがとうございます。そして、父さん……」

 

 ピッコロが飛んだ先をしばし目で追った後、トランクスが向いた方向は西

 

「……見て、くれましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これにて、準決勝は全て終了いたしました。お昼の休憩を挟んだ後、決勝戦を開始致します』

 

 準決勝激闘四連戦、これにて終幕




 当初の予定より大きく遅れましたが、これにて準決勝終了です
 今年もなるべく沢山投稿したいです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。