ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第58話 超戦士たちの戦い ピッコロvsトランクス

死者が何処へ行くのか、考えたことはあるだろうか

 

 本来ならその答えは明確でなく、宗教観・個人の価値観に於いて大きく変わるだろう

 

 ただ現在ネギ達がいるこの世界では、明確かつ一律な答えが示されている

 

「お、なんじゃなんじゃ。いつもの場所で修行しとらんなと思ったら、ここにおったのか」

 

 現在激闘が繰り広げられているバトルアイランド、そこから物理的にも概念的にも遠く遠く離れた世界

 

 頭に白い天使の輪を浮かべ、二本の触覚を揺らしながら歩みを進める者が一人

 

 その視線の先にいたのは、胡坐を掻きテレビに張り付いている山吹色の道着の男

 

 この男も同様に、頭上には天使の輪があった

 

「おっす界王様。今日はなんたって、みんなが出場する地球の武道大会だかんな」

 

 界王なる人物の声に気付き、男は振り返る

 

 顔こそ向けているが身体の向きはそのままで、余程テレビの中身が気になるとみえる

 

「出たいか?でも駄目じゃぞ悟空、おぬしは死人じゃからな」

 

 うきうき、そわそわした様子が隠し切れず、それに気付いて意地の悪い笑みを界王は見せた

 

 そう、道着の男の名は孫悟空

 

 地球の運命を賭けた一年前の戦いで命を落とした、他でもない孫悟飯の父親である

 

 彼や界王が今いるこの場所は、比喩でもなんでもなく文字通りの『あの世』

 

「わかってるって。そういや界王様、今からすっげぇ試合が始まっけど、一緒に見ねえか?」

 

「すっげぇ試合、じゃと?」

 

 死してなお肉体を失わず、生物として必然の老いを失った彼は、修行に明け暮れる日々

 

 それでもこの大会は、存在を知った日からずっと待ちわびていた

 

「ああ!ほら、こっちこっち」

 

「どれどれ」

 

 悟空に手招きされ、界王は悟空のすぐ隣まで近付いてテレビ画面をのぞき込む

 

「異世界から来たネギ達の試合も、見たことない技や魔法で面白かったけんど……こういう試合がやっぱ一番わくわくすんなぁ」

 

「おお、これは……」

 

 そこにはもうじき試合を迎える、二人もよく知る戦士達が映っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだいたのか、楓」

 

「……少々、休憩をば」

 

 ピッコロとトランクスは、バトルステージに既に到着していた

 

 準決勝四連戦、そのこれまでの過去三戦の激闘の跡があちこちに見て取れた

 

 なかでも一番目につくのが中央の、天へ伸びる不格好な石柱

 

 先程の第三試合で用いられた技の一つ、地馬天昇で生じたものだ

 

 そこへもたれ掛かって休んでいた術者の少女の名は、長瀬楓

 

 警戒されたうえでどうにか奇襲に奇襲を重ね続け、ついには大金星を奪い取った彼女をピッコロは見下ろした

 

「勝ったくせしてやけに浮かない顔だな、もっと嬉しそうにしてるものだと思っていたが」

 

「二度と通じぬ戦法、相手の全力を受けたのは数度きり、かつ場外負けというルールありきの決着……形の上で勝ちこそすれど、己の力不足は未だ痛感したままでござるよ」

 

「ふん、贅沢な奴だ」

 

 ふらふらとした様子であったが、最低限の回復は出来たのか楓はゆっくりと立ち上がる

 

 既に戦いを終えた身、ならば彼女は次の戦いのためにこの場を去らねばならない

 

「……随分辛そうだが、少し俺の気を分けてやろうか?」

 

「申し出はありがたいでござるが、遠慮いたす。これから始まる二人の勝負……万全の状態で臨まねばならぬそれを、拙者が水を差すことになるのは御免被るでござるよ」

 

 土埃をぱんぱんとはたき落とし、疲れの残る緩慢な動作で楓は歩き出す

 

 ピッコロの横を通り、そのまま過ぎ去ろうとした瞬間

 

 ボソリと、楓の耳に声が入った

 

「悟飯と先に二人で待っていろ。修行の成果、後で俺が直接確かめてやる」

 

「……承知いたした、ご武運を」

 

 最後にこう言葉を残し、バトルステージには今度こそ二人きり

 

 そのタイミングを見計らい、アナウンスが全体に流れ始めた

 

 『準決勝第四試合はマジュニア選手と、トランクス選手の戦いです』

 

 マジュニアもといピッコロ、辺りを幾らか見廻したのち正面を向き直す

 

 その先にはトランクス、ピッコロ同様に彼も真剣な眼差し

 

 試合開始の合図まで、あと数秒

 

「あの戦いからどれほど鍛え上げたか、見せてもらおうか」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 それぞれ言葉が交わされ、直後

 

『試合開始!』

 

 準決勝最後の、そして最高の一戦が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?あれ?どないなってるん?」

 

「これ、は……」

 

 開始と同時、両者はまっすぐ飛び出した

 

 正面でぶつかり合い、そこから繰り広げられる激しい攻防

 

 両者、一歩も譲らぬ戦い

 

 だがこれを、そういうものと認識したまま見届けられている者がどれほどいたことか

 

「ま、待ってってば!速い速い速い!」

 

(さっき向けた視線は、そういうことですか……)

 

 上空で戦いを見届ける、少女四人

 

 木乃香、あやか、アスナ、刹那

 

 現在ピッコロ達の戦いをまともに目で追えているのは、刹那一人だけであった

 

 互いの力量差の不等号を明確に記せるこの四人だからこそ、目の前の戦闘の受け取り方の違いは如実に出ていた

 

 木乃香は論外として、あやかも何が起きているかよく把握出来ていない

 

 アスナは辛うじて『二人が速すぎてまともに捉えられない』を理解している状態、そして刹那は先程の通り

 

 困惑する三人の様子を受け、刹那は開始前のピッコロの行動を思い返す

 

(私達を試し……いや、篩に掛けに来ましたね)

 

 辺りを見廻していたピッコロの行動は、決して意図なくフラフラ行われたものではない

 

 上空にいる刹那達、客席の悟飯達のいる場所を見つけ、意のある視線を送っていた

 

 

”……この中で何人が、俺たちの戦いを見てられるかな”

 

 

 記憶の中に映るピッコロの姿に、この言葉が後付けで刹那の中に入ってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ネギ、見れとるか?」

 

「ギリギリだけど、何とかね」

 

 そしてこちらでも、見れる者と見れぬ者

 

 ただしこちらは逆に、見れぬ者だけが一人

 

「ぐぅ、ぬぬぬぬ……ここまで、己の無力が恨めしいと思たことはないアル」

 

 古菲は唇を噛み締め、二人を捉えようと目をカッと見開き懸命にバトルステージ上を見やる

 

 だが、まともに見届けるには至らず

 

「そう落ち込むなって。古は伸びしろがあるし、これからまだまだうんと強くなれる」

 

 隣にいたクリリンが古を慰めるような言葉を掛け、改めて二人の攻防を見た

 

 当然クリリンも動きを捉えられているわけだが、それはあくまで『外から戦いを観る者』としての話

 

 『相対する者』として、目の前であの二人の動きを捉えることは叶わないだろう

 

 一年前の戦いから、充分に承知していたこと

 

「ま、ここから先は……俺もどこまでついてけるか、怪しいけどな」

 

「……クリリン、どゆことアル?」

 

 しかしもう一段階先、即ち『観る者』としても置いて行かれるレベル

 

 これはなかなかに、それこそ先程の古のように、堪えてしまうことだろう

 

「古、あの状態のトランクスに完敗したお前に言うのは酷かもしれないが……」

 

 そして、その時はすぐそこ

 

「……トランクスは、あとおそらくピッコロもだが、まだ力を隠している。お前の想像を超えるような、もっと上の力をな」

 

「なんと!クリリン、それはどういウオォッ!?」

 

 バトルステージ中央、そこでひときわ激しい音がドンと鳴った

 

 それがトランクスとピッコロの打撃がぶつかって生じたものと分かった観客は、果たして何人いたことか

 

 客席の位置によっては、その際生じた衝撃波を肌で感じた者もいたようだ

 

 そしてようやく、古の目にも二人の姿を入れる事が出来た

 

「動きが止またアルか?ってええええええ!?」

 

「早速、いや……ようやく、か」

 

 トランクスの一撃に押し負け、片膝を突くピッコロ

 

 そして

 

 古の知るトランクスとはまるで違う、金色の戦士を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくお目見え、というわけか。随分遅かったな」

 

 油断は無かった、と言えば嘘になるかもしれない

 

 先程の一撃、両者ぶつかる寸前にトランクスは姿を変えてきた

 

 

 超サイヤ人

 

 

 逆立った金色の髪、全身を覆う同じく金色の気、緑色の目

 

 今挙げた見た目の変化だけでなく、莫大な戦闘力の増強という性能も秘めたトランクスの本気の戦闘形態

 

 それが今になって、ピッコロの前に姿を現した

 

 結果ピッコロは押し負けてしまい、両足を地に着けるトランクスと片膝を突くピッコロという構図が出来上がった

 

「ピッコロさんが本気を出していない以上、こちらも始めは様子見を。そう思っただけですよ」

 

「……お互い、考えてることは同じだったということか」

 

 先に仕掛けたのがトランクスだった、ただそれだけの違い

 

 無論次は、ピッコロの番である

 

「なら、俺も本気でいかせてもらおう」

 

(やはり、あのマントとターバンは……悟飯さんから昔聞いたとおりだ)

 

 立ち上がったピッコロは右手で頭部のターバン、左手で首周りのマントを掴む

 

 ターバン、マントの順で外していき、それらを両腕でまとめて抱えた

 

 トランクスはピッコロのその行為に対し、さほど驚きは無い

 

 彼の武術の師匠は(彼のいた時代の)孫悟飯であり、その悟飯の師匠がピッコロなのは言わずもがな

 

 悟飯の口から亡き師匠ピッコロのことは幾度と語られ、ターバンやマントを重りにして鍛えていたことも聞かされていた

 

(だが、超サイヤ人への変身と比べれば……)

 

「俺がネギ達の修行相手を、ただ何もせず付き合ってやったとでも思ったか?」

 

「?」

 

 ピッコロが両腕で重りを、ターバンとマントを真後ろに放り投げた

 

 海までは届かず、落ちる先はバトルステージの端

 

 

 

 地に着いた瞬間、そこを中心にバトルステージの一部が音を立てて崩れた

 

 

「!?」

 

 彼らが戦うバトルステージは大会のため海上に建てられた人口の建築物ながら、耐久性は相当のものを有していた

 

 刹那の気功波攻撃の雨で砕け散りこそしたが、あれは無数の攻撃の積み重ねによるもの

 

 一発二発であれば、振り返るならクリリンがネギを空から叩き落とした決着の一撃や

 

 コタローが自身諸共突っ込んだヤムチャへのタックルを、それぞれ多少の損壊こそあれ崩壊には至らなかった実績がある

 

 そのバトルステージを、耐久力の劣る端の部分ながら重りの衝撃だけで砕け飛ばした

 

 それを実現させるだけの重量は、トランクスの想定していたレベルでは到底足りないだろう

 

 だからこそ、予想を大きく裏切られたトランクスは目を奪われた

 

「ずああああああっっ!!」

 

「!」

 

 ゆえに全力を開放したピッコロの第一撃、それに対する反応が遅れるという不覚を取ってしまった

 

 鳩尾を狙った右拳、左手で受け止めこそしたが力負けし体勢を崩す

 

「だあぁぁっ!」

 

「ぐうぅんっ!」

 

 そこへピッコロの右足が上がり、トランクスの下顎を捉えた

 

(スピードも、攻撃の重みもまるで違う……)

 

 ピッコロの猛攻は続く

 

 先程阻まれた右拳、それを今度は逆にトランクスの左手首を掴んで手元に引き寄せる

 

 今しがたのダメージも引かぬ内にもう一撃、右頬に叩き込まんとピッコロの左拳が飛び出した

 

(くっ!)

 

 片腕が使えぬ不自由な体勢ながらも、上体まるごとを斜めに傾けてこれを回避

 

 しかしその間に、ピッコロが右拳を左手首から放してもう一撃

 

「ぐおぅっ!ぐっ、うおおおっ!」

 

「んっぐぅ……」

 

 これをトランクスはもろに食らい、漏れる苦悶の声

 

 だがトランクスもただでは転ばない、お返しとばかりにピッコロの空いた左脇へこちらも拳を見舞う

 

 ピッコロが二発、トランクスが一発

 

 様子見を終え仕切り直しからの攻防、まず最初はピッコロが優位に立った

 

 このままインファイトで殴り合いを続けるかと思いきや、改めて両者は弾き飛ぶように距離を取る

 

 再び飛び出して交戦に至るまで、ほんの数瞬

 

(修行相手もいない中、一人で鍛えたにしては……なかなかじゃないかトランクス、更に腕を上げたな)

 

(セルとの戦いの時より、遥かにパワーアップしている。流石ピッコロさんだ、これは俺の見立てが……甘かったということか)

 

 修行を積み、最後に会った時の自分を圧倒出来るほどの強さを、今の相手は得ている

 

 互いにそのことを、食らったダメージと共に胸の内で認めていた

 

「「うおおおおおおおおっっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゅっ、十倍の重力!?しかも一日が一年って……エヴァちゃんのとこの十五倍じゃん!」

 

「ああ、修行から戻った兄貴から話を聞いた時は俺っちもたまげたぜ」

 

「精神と時の部屋、ですか……」

 

 朝倉、カモ、夕映

 

 当然ながら、試合開始当初の攻防をまともに見ることが叶わなかった三人

 

 それでもトランクスの変身と、ピッコロの外した重りがバトルステージを破壊したところは目視が出来た

 

 朝倉も、及びアックマンから幾らか話を聞いていた夕映も驚愕

 

 カモはそれに加えてあることに気付いた、『ピッコロはあの重りを、あの部屋でも着けたままだったのか』と

 

 これについての情報を共有せんと、すぐ二人に大会直前の修行について話し始めていた

 

「そもそもおかしいと思ってたんだ。あそこまでの実力差がありながら、刹那の姉さん達を自分の修行相手に使おうとしてたこと……元々ああやって、自分の修行になるだけの負荷の調整が出来たってわけか」

 

「普段の修行で人知れずの内に慣らした上で、十倍の重力下での本格的な修行に移行……総仕上げにかかっていたのは、ネギ先生達だけでなく自分自身もだったわけですね」

 

 相手取ったのは通常時と違い一人だけだが、バトルステージを破壊したあの重量が十倍になって襲いかかっていたという事実

 

 それを一人二ヶ月ずつ、四人分を合わせて八ヶ月

 

 トランクスが知っていた頃のピッコロを大きく超えるには充分な内容と時間だった

 

「ちょっとヤムチャ、今どうなってるのよ!トランクスは優勢なの!?」

 

「ま、待てってブルマ!」

 

 現在二人とも、超スピードでの交戦を地上空中問わず再び展開中

 

 片や伝説の超サイヤ人、片や神との融合を果たした超ナメック星人(クリリン談)

 

 二人の超戦士のこの攻防をまともに見届けられる者は、更に数を減らしていた

 

 カモ達がいる観客席の一画の場合、可能なのはただ一人

 

「ほ、ほんとに凄い。刹那さんと戦った時よりもずっと速……ひぅっ!」

 

「ああ、だから俺も一挙手一投足を見るのは無理だ。正直なところ、大まかな動きを目で追うので手一杯さ」

 

 度々起きる衝撃音にたじろぐのどか、そのすぐ近くでヤムチャは表情を苦める

 

(互角、なのか?今こうして見る限りはそう思えるが……わからん、二人はどこまで手の内を残してるんだ?)

 

 見る限り互角だろう、そう言うことも出来たがヤムチャはこの言葉を引っ込めた

 

 遡ること一年前のセルゲーム、一番手として出てきた悟空をセルが相手取ったあの一戦を思い出していたのだ

 

 両者一歩も引かぬ攻防、自身では足元にも及ばぬ激闘

 

 互角と思えたその勝負は実際のところ、全力の悟空に対しセルは余力を残した状態だった

 

 実力が近く、あるいは上であれば、それこそあの時の悟飯のように戦いのさなかに見抜くことも出来ただろう

 

 だが当時のべジータやピッコロでさえ出来なかったことだ、自分では出来ない

 

 それは今繰り広げられている二人の戦いでも同じ、気軽に形勢はこうだと言える身ではない

 

(次に、二人はどう動く?)

 

「わー、何よこれ全然見えな……うわ!なんか出た!」

 

 そこへ、ハルナの驚きの声が飛んでくる

 

 ここまで拳、蹴りと肉弾戦のみで戦っていたトランクスとピッコロ

 

 ついに、気功波攻撃も交えた更なる本格的な戦いが開幕した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だああああっっ!」

 

 始めに気功波攻撃を用いたのは、トランクスだった

 

 己の肉体のみでの攻防中に、このまま均衡を保ったまま消耗戦にもつれ込むことを危惧したのだ

 

 力そのものはともかく、戦闘のキャリアでは圧倒的にピッコロの方が自分を上回る

 

 体力を減らし取れる選択肢が少なくなる中で、その差が如実に表れてくることは想像に難くない

 

 そのため、互いに余力を充分に残している現状で勝負を揺らしにかかった

 

「ぬおおおっ!ぐっ……」

 

 いつの間にか遙か上空で展開されていた空中戦

 

 互いの右の蹴りがぶつかり合い、足を戻して距離を取り直した瞬間、気功波を一発浴びせる

 

 溜める時間も少なく片手で撃った簡易的な代物だが、それでも超サイヤ人となったトランクスであれば威力は相当

 

 顔を両腕で庇い、守勢に回ったピッコロは動きを止められてしまう

 

 トランクスの狙い通り、均衡は崩れた

 

「うおおおおおおっっ!!」

 

 その一瞬の隙を突き、トランクスは攻勢に回り続ける

 

 ベジータばりの気弾の連射、つかず離れずの中距離でピッコロから目を離さずその全てを食らわせていく

 

 拳に乗せて直接殴るより気の消費は激しいが、それを躊躇いこの期を逃すほど愚かではない

 

(これだけでピッコロさんが倒せるとは思ってない、だがそれでも今の内に出来るだけダメージを与えてやる!)

 

 このままピッコロが何もしないとは思えないが、少なくとも両腕を防御に回している以上気功波を撃っての応戦は出来ない

 

 そこを見逃さなかったトランクスは更に攻撃、ピッコロがその態勢を解くまでは続ける構えだ

 

(そして勝つんだ!ピッコロさんに、そして悟飯さんにも!)

 

 この時代に来た初日、一方的にだが父ベジータに向け言い放ったあの誓い

 

 彼は決して忘れはしない、気弾を撃つ手に一層力が入った

 

 気弾を撃つ、撃つ、撃つ、撃つ

 

 ピッコロは動かない

 

 気弾を更に撃つ、撃つ、撃つ、撃つ

 

 

 

 

「かあああぁぁっっ!!」

 

 気弾は、トランクスごと光に飲まれた

 

 

 

 

 

「ぐうぅぅぃいっ……し、しまった!」 

 

 手数の多さを重視した自分のとは比べものにならぬ、高威力の攻撃

 

 それを食らい、トランクスは油断を招いた己自身に叱責する

 

(ただ防御していたんじゃない!ああしながらピッコロさんは、反撃の準備を整えていたんだ!)

 

 反撃される直前、一瞬だがトランクスには見えていた

 

 顔を覆っていた腕が僅かに動き、隠れていた口元から気の光が満ち溢れていたのを

 

 かつて栽培マン相手にも使われた攻撃、爆裂魔口砲

 

 これまで目にしたことのないトランクス相手には効果覿面であった

 

「ピ、ピッコロさんはどこに……ぐああっ!」

 

「こっちだ!」

 

 声よりも先に飛んできた、一発の肘打ち

 

 トランクスの全身を覆うほどのさっきの攻撃は彼の視界を奪い、背後にまで回り込んでいた

 

「うおおおぉぉっ!!」

 

「ぬうっ!?」

 

 手痛い一撃を貰ったが、トランクスは怯まない

 

 肘打ちに続いて放たれた裏拳を身を屈めて避けると、頭上を通る腕を掴み背負い投げに近い形で投げ下ろす

 

 超サイヤ人のパワーも合わさり、自身より一回り二回り大きいピッコロの体躯をものともせずだ

 

 飛ばしたその先にバトルステージはなく海面、着水に至ればたちまち場外で決着である

 

「させるかああああっ!」

 

 勿論そう簡単にはいかず、ピッコロは舞空術でブレーキをかけ更には気弾を何発もトランクスへ向けて放つ

 

 場外へもう一押しの攻撃、そのための接近をさせぬように弾幕を張って牽制する

 

 ピッコロの予想通りトランクスは追撃に向かおうとしていたところで、足を止めることに成功

 

「……折角だ、あいつに本物を見せてやる」

 

 いや、このピッコロという戦士は、足止めに留めなかった

 

 両手の気の光が、大きさを増す

 

「だだだだああぁっっ!」

 

 牽制の時と連射速度は変わらず、間も置かずそのまま撃つ

 

 既に落下は止まっており、気のコントロールの大半をあちらへ注ぎ込める

 

 たちまち無数の気弾が、宙で足を止めていたトランクスを包囲した

 

「っ!これは、さっきの……」

 

 数こそ楓に負けるが、一発一発の威力及び包囲速度は楓を圧倒

 

「逃げ場はもう無いぞ!」

 

 これが本家本元、オリジナルの魔空包囲弾

 

(駄目だ、抜け出せない!だが……)

 

 もちろん、覆い尽くして動けなくし場外に叩き落とす、こんな生易しい真似はピッコロはしない

 

「ずあああああああっっ!」

 

 狙いはこの高威力の気弾を全弾、確実に命中させることにある

 

 包囲してすぐ、ピッコロは気弾を一斉にトランクス目掛けて動かした

 

(……負けられない!負けられないんだ俺は!)

 

 バトルステージの遙か上空で、爆発音が大きく鳴り響いた




 随分と遅くなっちゃいました、すいません
 例によって次の話は、翌日の朝投稿予定です

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