ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第53話 男子三日会わざれば…… コタローvs悟飯

『準決勝第一試合は犬上小太郎選手と、孫悟飯選手との戦いです!』

 

 予選終了から一時間、その時はついにやって来た

 

 会場内に音声が流れ、そこで名前が出た二人は既にバトルステージに立っていた

 

 刹那が破壊したステージH以外は健在であり、その中で中央に位置するステージDが二人の戦いの舞台

 

 あとは、開始の合図を待つのみである

 

「悟飯!」

 

 そんな中で、コタローは学ランの上を脱ぎ捨てながら悟飯へと叫ぶ

 

 身体こそ木乃香に治して貰った後で傷一つ無いが、下のシャツやズボンのズタボロ具合は予選での激闘を物語っている

 

「予選でピッコロさんが刹那姉ちゃんにしたような……もしもあんな真似してみい、承知せえへんからな!」

 

「……うん!」

 

(とはいえ獣化と、狗神使うたあの技……どっちもヤムチャさんとの試合で出してもうとる。あれだけ大騒ぎしたんや、おそらく悟飯も見てたやろ)

 

 先程悟飯に言ったのは、紛れも無い本心

 

 だがその一方で、それに応えられるだけの戦いが自分に出来るのかという不安も内包していた

 

(予選でヤムチャさんと当たらなければ、か……いや、ちゃう!あれがあってこその今の俺や!)

 

 ふと、予選での組み合わせ次第では隠し玉を持ったまま臨めたのではという考えが浮かぶ

 

 しかしそれは一瞬で否定された、ヤムチャの戦いを通してより強くなった自分が今ここにいるという確信があったからだ

 

(なら、あれ以上の俺を……この戦いで、更に強くなってそれを悟飯に、見せたろやないか!)

 

 拳を強く握り締め、構えを取る

 

 右拳からまだじんじんとヤムチャに握られた際の感触、ひいては激励が感じ取れた気がした

 

 

『試合開始!』

 

 

「行くで!悟飯!」

 

 天下一大武道会、準決勝

 

 激闘四連戦の一戦目が、幕を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、いきなり悟飯さんと当たってしまうとは」

 

「けどコタ君、組み合わせが決まった瞬間めっちゃ嬉しそうやったやん」

 

 試合開始の合図よりも、少々前に遡る

 

 屋外観客席より上、更にはバトルステージにやや近い位置の空に四人の少女が浮かんでいた

 

 正確には三人が浮かび、内一人が残る一人を抱きかかえている、と言う方が正しいだろうか

 

「とにかく御覧なさいアスナさん。100%勝てないとわたくしが言った意味が、これで多少は分かるのではなくて?」

 

「うるっさいわね……まあ、一緒に観ようって木乃香と決めた手前、観ないわけにもいかないけど」

 

 上から順に刹那、木乃香、あやか、アスナ

 

 唯一飛べない木乃香を抱えているのは、刹那である

 

 選手控え室を出てネギ達と合流した四人は、ネギに認識阻害の魔法を施されていた

 

 四人揃っての観戦を良く見える場所でしたい、しかし元いた観客席では厳しい、その結果木乃香が考えた方法である

 

 本来なら四人のいるこの位置は観客席から丸見えなのだが、認識阻害の魔法によって一般人に認識されることはまず無い

 

 変に騒がれることもなく、心置きなく特等席での観戦が楽しめるというわけだ

 

「そういやこの中ではアスナだけやな、悟飯君のことよく知らへんの」

 

「一応天津飯さんから聞いてるわよ?天津飯さんより、ずっと強いって」

 

「それに加えて、ピッコロさんと互角以上の腕前です」

 

 ここで初めて、木乃香が四人の内訳について言及

 

 アスナを除く三人は悟飯あるいはピッコロのもとへ飛ばされ、大会一週間前には合流

 

 一方のアスナは、大会直前まで誰とも合流せず

 

 つまりは第一試合を戦う両選手についての情報量に、無視できない大きな差があると言えた

 

「うぇ!?あんな無茶苦茶やったあの人より下手したら強いってわけ!?」

 

「それでいて桜咲さんに見せた実力は、ほんの片鱗でしかありませんわ。直接拳を交わすレベルに届かず仕舞いのわたくしが言うのもなんですけれど」

 

 天津飯での伝聞でしか知らないアスナに、実際の戦いぶりを既に見せているピッコロと比較する形でその実力を示すと、当然ながら驚愕を露にする

 

 水没後に選手控え室へ移動していたアスナも、刹那とピッコロの激戦は中盤から終盤に掛けて室内モニターで観戦していた

 

「えぇ……じゃあコタローのやつ勝ち目ないんじゃ、って速!?」

 

 その間に試合開始が告げられ、バトルステージの両端に位置していた両者が動く

 

 姿は瞬く間に消え、文字通り目にも止まらぬ攻防が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明文化していなかったが、準決勝のルールも予選の時と殆ど変わらない

 

 武器の使用・急所攻撃・対戦相手の殺害の禁止

 

 決着は海に落ちての場外負けか、気絶か本人のギブアップ

 

 となると、このルールはこう捉えることも出来る

 

 海に落ちさえしなければ、会場内のどこで戦ってもいい。と

 

 それこそ、予選のコタローや刹那のように上空でも良し

 

 そして今現在のように、別のバトルステージ上でも、良し

 

(やっぱりだ……コタロー君、最後に手合わせした時と比べてスピードが格段に上がっている!)

 

(これでもまだ、後ろどころか横すら取れへんか……なら、もっと飛ばすで!)

 

 会場内にある八つのバトルステージは、どれもが同じ高さにあるわけではない

 

 倍近くの高さのものもあれば、ほぼ隣同士密着したものもある

 

 広い視点から見れば、八つのバトルステージ全てを合わせて起伏の激しい一つの武舞台と捉えられなくも無い

 

 予選時は同時進行でそれぞれが戦っていたため半ば不文律のような形で不可侵領域と化していたが、この準決勝では満を持してそれが解かれた

 

 開始早々からステージDを飛び出し、仕掛け合い

 

 お互い大きな攻撃はまだ繰り出さず、徐々にスピードを上げて相手の出方を伺う

 

 特に積極的なのはコタローで、牽制の攻撃を次々と放ちつつ、好位置からの攻撃を決めんとギアをヤムチャ戦以上の速度で上げていった

 

(っ、コタロー君、ここにきて一番気を集中させて……来るっ!)

 

「「だあああああっっ!」」

 

 ここで悟飯は、コタローの気の流れの僅かな変化を敏感に捉える

 

 予測どおり今までとは違った攻撃、影分身との手数二倍の同時攻撃が真下から迫ってきた

 

(攻撃の重さも、前よりうんと……だけど!)

 

 それを悟飯は両腕を交差させ、舞空術で上昇しながら受け止める

 

 コタローと影分身も負けずと上昇してくるため、両者の間の距離は縮まりも離れもしない

 

 ……ただし、それはほんの数撃の間だけの話

 

「なっ……ぐがぁっ!」

 

(今みたいな単調な攻撃なら、あれだけで充分!)

 

 突如悟飯は、両腕のガードを解除

 

 そこからコタローと影分身の連撃を全て、一発も掠らせる事無く回避

 

 ガードした数撃だけで、以降飛んでくるであろうコタローの攻撃の軌道を見切る

 

 僅かに空いた攻撃の切れ目の一瞬でコタローの真横に付き、横蹴りで影分身共々吹っ飛ばした

 

(影分身をもう一体出せば……いや、あれはそういう問題ちゃう!もっと、俺自身にもっと力が無いことには話にならへん!)

 

 咄嗟に立てた右腕のガードごと蹴り抜かれたコタローは、飛ばされながら今しがたの攻撃の甘さを認識

 

(今のは効いたで悟飯……けど影分身、ただで消さすかいな!)

 

 同時に、たった一撃ながらも悟飯の攻撃が中々にダメージを与えてきたことも全身に走った痛みから把握

 

 その威力は、直接食らっていない影分身すら消えそうなほど

 

 影分身というのは、ヤムチャ戦でもそうだったように多大なダメージを受けると消失してしまう

 

 文字通りポンと呆気なく、作り出すため懸命に込めた気も一緒に霧散するという代物だ

 

 だがそれをコタローは、舞空術でブレーキを掛けながら抗う

 

 右手は悟飯の迎撃に備えて前方に構える一方で、残る左手は影分身の頭を掴む

 

 実際のところ、試したことは殆ど無い

 

 というか、『まさに消えそうな瞬間の影分身と、手を伸ばせば掴める距離にいる』という状況があまりにも特殊すぎて、試そうにも今まで試したことが無かった

 

「うおおおおおおおっ!」

 

「!?」

 

 そんな中で、コタローは成功してみせる

 

 予想通り影分身は消えてしまったのだが、それを生成する気も同様に虚空へ消えてしまったのか、答えは否である

 

 コタローの左掌にそれは納まり、巨大な気弾となって目の前に一瞬のうちに現れた

 

「食ら、えぇぇっっ!」

 

 自身が宙で静止する前に、それを投擲

 

 通常、大きな気弾を撃ち出すにあたっては多かれ少なかれタイムラグが生じる

 

 それを半ば無視したこの攻撃に、悟飯も思わず面食らい足を止める

 

 ゆえに回避でなく、その場でこのまま迎え撃つという選択肢を取った

 

(無理な体勢で放ったせいで、さして速くはない。これなら……)

 

(……ここや!)

 

 そして結果、予想だにしない攻撃を悟飯はもう一発受けることとなる

 

 

 

 

「犬上流・空牙八連弾!」

 

(!?二種類の攻撃を、ほぼ時間差0で同時に!?)

 

 

 

 

 弾き飛ばそうとした直前で、第一撃である巨大気弾が目の前で爆ぜた

 

 続けざまにコタローが放った、空牙という技

 

 気を爪のような形に変えて放つ気弾の一種で、元の世界にいた時は勿論この世界での修行でも何回か使ったことがある

 

 それを計八発撃ち、内最初の一発が巨大気弾に追い付き突き刺さったのだ

 

 悟飯は爆発に飲み込まれ、空牙の残る七発がそこへ追撃

 

(ここで……畳み掛ける!)

 

 空牙を放つ頃には宙で体勢を整えきっていたコタローは、命中の確認の間など一切置かず一瞬で距離を詰めにかかる

 

 その一瞬の間に己の姿を再び変貌させ、拳に黒狼達を宿しながら

 

「狗音……爆砕拳!」

 

 悟飯を覆い隠す煙を拳速で吹き飛ばしつつ、全力の一撃を、放つ

 

 煙が晴れて、姿を見せるまでほんの数秒

 

 悟飯は、避けることなくコタローの全力を迎え撃っていた

 

(やっぱり……見とったんやな、その顔は)

 

 姿が変わったことに対する反応が、悟飯の表情からは見られない

 

 コタローの推察通り、悟飯は予選中敵を倒していく中でヤムチャと戦うコタローの様子を少なからず視認

 

 ゆえに獣化による強化で一層速く一層重い一撃が飛んでくることは、爆発の中すぐに予想出来ていた

 

 狗音爆砕拳を左掌一つで、平然と受け止めている

 

 そこから悟飯の顔まで約三十センチ、『力』で押し切ろうとも届かなかった、明らかな実力差が生み出した距離

 

(けどな……これは、まだ見てへんやろ!)

 

「!」

 

 その距離を、今からコタローは『力』以外で詰めに掛かる

 

 突き出された黒拳が、突如融解

 

 正確には拳を覆う黒の部分、狗神が離散し新たな目標へと迫っていった

 

 左掌から左腕と伝っていき、悟飯本体へ

 

 ヤムチャ戦では予め忍ばせた狗神を拳へ集めたが、これはその逆

 

(まずい!気を奪われ……)

 

 楓ほどヤムチャ戦を注視出来たわけではないが、悟飯は狗神の効果をおおよそ理解していた

 

 突如気が減少したヤムチャと、逆に増大したコタロー、その時点で突如姿を見せた黒い影

 

 少なからず関係があることは想像に難くなく、自身へ伸びていく狗神に警戒を向けてしまう

 

 しかしそれはこの戦いで悟飯が見せた、唯一かつ最大の隙

 

 

 

 

 

「……らぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

(……やっと入れたで、俺の一発!)

 

 

 

 

 

 視線・意識共に向けられていた左側と正反対、右側からコタローの拳が飛び悟飯の右頬を抉った

 

 狗神を纏っていた右拳とは対照的に、自らの純粋な気のみを乗せた左拳

 

 振り抜くことこそ叶わなかったが、コタローの口角は自然と釣り上がる

 

 一方の悟飯も拳で顔を横に向けられたままだが笑みを見せ、その体勢でコタローと目を合わせた

 

 次の瞬間、両者は気を放出させお互いを弾き飛ばす

 

「……悟飯!俺は今、最高に楽しいで!」

 

「僕もだよ!コタロー君!」

 

 気と気がぶつかって起きた気流が、二人の黒髪を揺らした

 

 だが二人の心は、信念は決して揺れない

 

 強くなった自分を見せんとするコタローと、それに応えんとする悟飯、そのどちらも

 

 風が止むよりも早く両者は動き、拳を振るい合った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コタローが悟飯の蹴りで更に上空へ打ち上げられたのは、それからほんの数秒後のことである

 

 各秒それぞれの内に両手では到底数えられぬほどの拳が飛び交ったが、有効打を貰ったのはコタローだけであった

 

 正面からの殴り合い、それぞれが相当数の拳を受けたが悟飯はものともせず

 

 コタローも負けじと食らいついていたが、限界が訪れ次なる拳が明らかに遅れたところを一蹴り

 

「空牙ぁっ!」

 

 それでも、コタローは悟飯への視線は切らさず

 

 手数でなく威力を重視した空牙を一発、全力で悟飯へ放つ

 

 こちらへ攻撃に向かってくる悟飯へ、空牙は正面から着弾

 

 以上ここまで

 

 試合中コタローが、悟飯を視界で捉えられたのはここまでで終わり

 

(……あ)

 

 背中に衝撃が走り、振り返る間もなく海面が急接近で迫る

 

 さっきまで悟飯が映っていた目の前は、一瞬でアクアブルーに染められた

 

『孫悟飯選手の勝ちー!』

 

 悟飯は一瞬でコタローの背後まで回り、左上から右下へ一気に右腕を振り抜いていた

 

 試合終了をアナウンスを聞くと、握っていた右拳の力を抜いて降下する

 

 降り立った先は、コタローが着水した地点のすぐ傍にある岩礁

 

 程なくして、コタローが息を乱しながらも上がってきた

 

「えほっ、えほっ、はぁっ……はぁっ……あっ」

 

 悟飯は片膝を曲げ、右手を差し出す

 

 表情は先程と変わらず、穏やかに笑ったまま

 

 それに気付くと、コタローは激しい消耗で険しかった表情を笑みに戻しこちらも右手を伸ばす

 

 がっしと掴み、掴まれる両者の右手

 

 そこに、言葉はもう必要なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次は俺の番だな」

 

 控え室のモニターで試合の行方を見届けると、クリリンは帯をギュッと締め直し立ち上がる

 

 準決勝は試合ごとに数分のインターバルが置かれることになっている

 

 前の試合の選手が退場するための時間であり、次の試合の選手が入場するための時間でもある

 

 クリリンにとっては、後者の時間

 

 控え室からなら急がずとも充分に間に合うが、早いに越したことは無いなと早速向かおうとする

 

「クリリン」

 

 そんな彼を、控え室にいるもう一人の男が呼び止めた

 

 準決勝に進出した八人は、それぞれ予選時に使っていた控え室を改めて使っている

 

「ん?どうした、天津飯」

 

 つまりもう一人の男というのは、天津飯

 

 出入り口近くの壁に背を付け、両腕を組んだまま三つの目全てでクリリンを見据える

 

 先述の通り急を要するわけではないので、クリリンは天津飯の呼び止めに素直に応じた

 

「お前が今から戦うネギという少年……用心した方が良い」

 

「え?そりゃあ、ヤムチャさんをまがりなりにも倒したあの子の仲間だってんだから、油断するつもりは無いさ」

 

「……餃子のこと、お前は知っているのか?」

 

「ん?餃子?」

 

「その様子だと、知らんようだな」

 

 話を聞いてみると、対戦相手のネギから急に餃子へと話題が変えられる

 

 名前が出たため思い返してみると、予選開始直前にここを出てから彼を見た記憶が無い

 

 予選を勝ち抜いた八人の中にいないということは、誰かしらに敗れたということ

 

 しかし、クリリンは餃子が負けたその瞬間を目にしていなかった

 

 餃子を倒したのは、誰か

 

「おい、まさか今の話の流れからして……」

 

「そうだ」

 

 予選前に確認出来ただけでも、天津飯・餃子・アスナ・古・ヤムチャと自らを合わせた六人は皆バトルステージの振り分けはバラバラだった

 

 そしてアスナのところは悟飯が、古のところはトランクスが、ヤムチャのところはコタローが勝ち上がっており、当然ながら彼らではない

 

 つまり三択にまで絞られるのだが、そもそもこの話になった大元を辿ればそこまで考えなくても答えは容易に想像がつくわけで

 

「……餃子を予選で倒したのは、ネギ・スプリングフィールド。お前が今から戦う、あの少年だ」

 

「っ…………」

 

 天津飯から肯定の言葉を受け取り、クリリンは咄嗟に言葉を出せなかった

 

 準決勝激闘四連戦、更なる激闘の開始まであと数分


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