ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第52話 開始秒読み!もうじき始まる更なる激闘

(どうする……どうするアルか私……)

 

 暗闇にポツンと、少女が一人立っていた

 

 全身に気を滾らせ、長年修行を重ねてきた自慢の拳法の構えを崩さない

 

 彼女の目線の先には、ぼんやりとしたシルエットの人影が一つ

 

 亀仙流の道着を身に纏った少女、古菲はそれと対峙しているようである

 

(奴をどうにか倒さないと……私は、ここで立ち止まるわけにはいかぬアルヨ!)

 

 すると、人影がユラリと動き始めた

 

 正面からかち合うのを警戒したのか、古は瞬動で真横に飛んで再び距離を離す

 

 人影は向きを変え幾度となく接近を試みるが、それを超える速度で古は人影の横を取り続ける

 

(クリリン……私、やるアルよ!)

 

 ついには背後にまで回り込み、隙だらけの様子を確認するとこちらから仕掛けた

 

「ハイヤァーーーー!」

 

 瞬動で今度は相手との距離を詰める

 

 何故か打撃技ではなく、相手に飛び付いての裸締め

 

 両足は胴回りに絡ませ、左腕を頸部に通しその上から右腕を押し当てて全力で締め上げた

 

「さあ!どうアル!?」

 

 背後から密着した体勢のため、表情は窺い知ることが出来ない

 

 それでも腕に掴みかかってくる両手や乱れる呼吸音から、これが有効な攻撃になっていることは充分に分かった

 

「まだまだーーーーー!」

 

 余力のある古は更に力を入れて締め上げ、相手を落としに掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ、がっ……古、ちょ、もうや、め……」

 

「ムフフフフ、むにゃ……どうアルクリ、リン……私、勝てみせるアル……見届け、るヨロシ……むにゅにゃぁ」

 

「くーちゃんストップストップ!」

 

「あなたは今そのクリリンさんを攻撃してるですよ!」

 

 夢の中の相手、そして現実のクリリンを、気絶状態から目を覚まさぬままに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの起こりから、少々時間を巻き戻そう

 

 天下一大武道会、その長かった予選が終わってからすぐのこと

 

 次の準決勝まで時間が空くということで、図書館探検部の三人は会場のホール内を廻っていた

 

 ここでいう三人とは、四人いる図書館探検部メンバーの中で一番お決まりの組み合わせ

 

「え、じゃあもう箒で空飛べるようになったの?」

 

 宮崎のどか

 

「はいです、厳しい修行でしたが並程度には。のどかさえよければ、大会が終わった後にでも乗せてあげるですよ」

 

 綾瀬夕映

 

「ねえねえ夕映、私は?」

 

 早乙女ハルナ、この三人

 

「ハルナは……どうですかね。来る時朝倉さんは乗せれたので、のどかが大丈夫なのは確かなんですが」

 

「あーー!それどういう意味よ!?」

 

「冗談、ですよ。ふふっ」

 

 麻帆良では当たり前のように見られた、親友だからこその容赦の無いやりとり

 

 それがこの世界では、実に二週間ぶり

 

 いつもはそのまま流してしまうところであったが、懐かしさを覚えたか夕映は思わず続けて笑みを漏らした

 

(二週間……修行をしていたらあっという間に過ぎた時間ですが、こうして三人で話してみると、やはりうんと経っていたですね)

 

「ねえ夕映、この後のことなんだけど……」

 

「あ、そうでしたねのどか、軽食と飲み物を売店で調達するよう頼まれていたです」

 

 予選を共に観戦していたブルマや木乃香、朝倉達は観客席に残っていた

 

 全員で席を空けると戻った時に再び座れる保障がないためで、ようは席取り

 

 代わりに夕映達三人が、皆の分まで買いに出向いていたのだ

 

「始めは三人で手分けして店を回ろうと思ったですが……これは少々危険が伴いそうな」

 

「ていうか、店の前でもみくちゃよ。のどか一人でそれはマズイってば」

 

 そう、現在ホール内にいるのは観客席にいた者達だけではない

 

 席を取ることが出来ず、元々モニター越しにここで観戦していた人達が多数

 

 予選の真っ最中でもかなり込み合っていたのに加え、休憩時間ということで夕映達のような観客席からの移動組も合わせてかなりの混雑を見せていた

 

「ご、ごめんね二人とも……」

 

「いいっていいって、気にしないの。さ、行きましょ」

 

 というわけで、三人離れないことにしようという結論に至る

 

 のどかの右隣にハルナ、左隣に夕映という並びで進む

 

 そんな時だ、横から彼女達を呼ぶ声がした

 

「いたいた。おーい、ハルナちゃん、のどかちゃん」

 

「あ、トランクスさん!」

 

 雑踏の中でもよく通る声、ハルナも直ぐに気付いて首を向ける

 

 予選を勝ち抜き準決勝へ駒を進めた八人の内の一人、トランクスの帰還である

 

 こちらへ向かってくる彼の姿を確認すると、のどかの手を引いてハルナの方からも足を進めた

 

「予選お疲れさまでし……うげっ、あの時の」

 

「おおーっ、また会ったのうお嬢ちゃん」

 

 ヌッと、トランクスの背後から老人が一人

 

 腕を伸ばせば触れられる距離まで近付くと、ハルナはその老人の存在に漸く気付く

 

 老人の言う通り、会ったのは初めてではない

 

 予選前にも顔を合わせており、その際はブルマがいたため目立った行動こそしてこなかったものの、ハルナは自身に向けられていたあの視線を忘れてはいなかった

 

「おや、ちょっと顔色が悪いか?なんならわし秘伝のマッサージを全身に……」

 

「武天老師様、五月達の前なんですからやめてください」

 

 少々顔を強張らせ足を止めると、老人もとい亀仙人に追及されるハルナ

 

 亀仙人は距離を詰めようとするが、自身の後方にいた男がそれを制した

 

 背丈はハルナよりも低く童顔であったが、腕にガッチリと乗った筋肉は見る者によっては補って余りあるほどの頼もしさを覚えることだろう

 

 彼もまたトランクス同様予選を勝ち抜いた一人で、背には未だ目を覚まさぬ一人の少女を乗せていた

 

「なんじゃクリリン、ジョークじゃよジョーク。実際ほれ、まだノータッ……」

 

「くーちゃん!?」

 

 ノリが悪い奴じゃなと亀仙人がぶーたれるが、それをハルナが遮る

 

 亀仙人を止めた男、クリリンが背負っていたのは他でもない自身のクラスメイトであり、よくよく思い返せば目の前のトランクスと戦って敗れたのを先程観客席から見届けたではないか

 

 二人を連れてトランクス、トランクスの後方の亀仙人、両方の横を通り過ぎクリリンのところまで駆け寄った

 

「トランクスから聞いてるよ、古の友達なんだってな」

 

「え、えっと、あなたは……」

 

「俺はクリリン。古や五月とは、今日までずっと一緒に生活してたんだ」

 

 何故古菲をあなたが背負っているのか

 

 そう尋ねようと思っていたハルナだったが、クリリンの方から会話を切り出される

 

「で、見てたかもしれないが予選でトランクスに気絶させられて、んで今の今まで全然起きないと。けど、試合場に置いてくわけにもいかないだろ?」

 

「気絶っていうよりは、今は眠ってるっぽいけどね。ほらここ、笑いながらちょっぴりよだれ」

 

「あ、まきちゃんも!?」

 

「パル久しぶりー!それに本屋ちゃん達も!」

 

 自分と古が無関係でないことと、連れてきたわけを簡潔に話す

 

 更にはクリリンの後方から佐々木まき絵が顔をのぞかせ、安らかな表情でいる古の顔を指さした

 

 まき絵とハルナ達はここでようやくの再会と相成っており、いたことへの驚きの後はすぐ歓喜し手を取り合う

 

「私は古ちゃんとは別で、アスナと一緒にいたんだー」

 

「そうだったですか、私は朝倉さんとでした。元気そうで良かったです」

 

「うん、ほんとに……あれ、くーふぇさん?」

 

 と、ここでのどかがまき絵から視線を外す

 

 新たに向けた先は、クリリンの背にいる古だった

 

「ん……にゅむぅぁ……クリリ、ン……」

 

 もぞもぞと身を動かしながら、寝言を漏らす

 

 表情は先ほどまき絵が言った通り、口角が上がった状態の笑顔

 

(ほーほー、幸せそうにしちゃってまあ…………ん、もしや?)

 

 のどかに続いてハルナも古の顔を見やる、そして閃いた

 

「ねえねえのどか、アーティファクト使ってくーちゃんの夢の中見てみない?」

 

「え!?で、でもそれっていいのかな、勝手に、その……」

 

「えっと……ほら、もし悪夢でも見てたら私達で起こしてあげれるじゃない?」

 

「ハルナ、あれはアーティファクトで確かめるまでもなく、悪夢じゃないです。ハルナが夢を見たがる理由は別でしょうに」

 

「あはは、バレた?」

 

「頭と、鼻」

 

 そしてのどかに頼んでみるも、本人の承諾を待たずして横から夕映が止める

 

 頭頂部でピコピコ動く髪の毛と、僅かにヒクつかせた鼻の動きの両方共を彼女は見逃さなかった

 

「いやいや、だってさ、男の人に背負われてあんなだらしない顔で眠ってるくーちゃんの夢よ?見たくない?ラブ臭しない?」

 

「人の夢の中にまで干渉するのは流石に……それに、そんな匂いを嗅げるのはハルナだけです。しないです」

 

 夕映は両者の間に入り込み完全ガードの体勢だが、ハルナはなおも食い下がる

 

「けどほら!見なさいあれを!」

 

「にゃむぉぅ……はいやぁ……」

 

「足まで絡ませて!ね?ね?あんなくーちゃん見たことないでしょ!」

 

 もぞもぞしていた古が、垂らしていた足を上げた

 

 クリリンの前方に回し、交差までしながらギュッと締め付ける

 

 それを見つけたハルナは、鬼の首を取ったかのような喜びよう

 

「うぐっ」

 

「た、確かに……あれ?」

 

 そもそも『古が眠ったまま男性に背負われている』という状況自体が初見なので、そりゃあ見たことが無いのも当然なわけで

 

 しかしながらハルナの剣幕と勢いに飲まれ気味になった夕映とのどか

 

 頬にほんのり紅色を灯しながら、ハルナ同様古の方を思わずじっと見てしまう

 

 が、それも長くは続かなかった

 

 真っ先に気付いたのはのどか

 

「ん?どうした古、もう起き……がっ!?」

 

 肩辺りに回されていた両腕が、突然に輪を狭める

 

 肩の周りから、首の周りへ

 

 首に密着した左腕を右腕が上から抑え込み、絞め技の体勢に入っていた

 

 油断して、というよりおぶった相手からの首絞めなど当然想定するわけもなかったクリリンは、それを完璧に決められる

 

 これが本当の戦いなら腕を力づくで引き剥がすなり振り落とすなりを画策するが、寝ている古が相手なだけあってそれをクリリンは躊躇った

 

「おい、古……古、起きろ、く、古!」

 

 そのため声をかけて起こそうとしたのだが、結果は裏目

 

 古の力はより強まり、よりクリリンを締め上げた

 

「まだ……まだぁ……」

 

「ぐっ、がっ……古、ちょ、もうや、め……」

 

 そして、冒頭に戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、なんというかその……すまなかたアル」

 

「えほっ、まあいいよ大したことなかったし」

 

「それにしても、うえぇ、これはちょと不味すぎアルよぉ」

 

 結局、その場にいた中で一番力のあるトランクスが後ろに回って引き剥がした

 

 引き剥がした後も暫く古は寝ぼけていたが、そこは夕映が対処

 

 懐に忍ばせていた小瓶の中身、魔界ガマガエルの目玉漬け体液ドリンクを古の口の中へ一垂らし

 

 かつて夕映も味わった口内に広がる苦み渋み臭み含めた強烈な刺激が古を絶叫させ、途端に目を覚ました

 

「事態が事態でしたので」

 

「あと、力が上手く入らぬアル……毒、とは違うアルよね?」

 

 周囲の説明等で状況の把握に至ると、古はまずクリリンに謝罪した

 

 クリリンは軽く咳き込みこそしたが、ダメージが残るほどでもなく笑って許す

 

 次に古が気にしたのは、未だに尾を引く口内の不快感と自身の身体の違和感だった

 

 拳を握って気を込めようとするが、いつものように上手くいかない

 

 寝起きのせいかとも一瞬考えたが、そういう感じではないなと口に出すまでも無く胸の中で否定

 

「ああ……これ、魔力が凝縮された飲料ですので、気を扱う古菲さんとは相性が悪いかもしれないですね」

 

「ん?魔力があるとなんか駄目なのか?」

 

「えっと、気と魔力は反発し合うみたいで……」

 

 夕映が原因を推測し、クリリンが尋ね、のどかが理由を答える

 

「むぅー!なんかもやもやするアルー!」

 

「私の時と違って少量ですし、すぐ抜けるとは思うですが……」

 

「ったく、しょうがないな……ほら」

 

「ん?」

 

 不満そうに腕を振る古、それを見かねてクリリンが古の手を取った

 

 何事かと動きを止める古にお構いなしに、自身の手に光を灯らせる

 

 それは古にも伝わり、全身を通り抜けると光は消失

 

「ん?何アルかこれは」

 

「足りない分、俺の気を分けてやったんだよ。こんなもんで良かったか?」

 

 古は右手を二、三度グーパーさせ、確認

 

 先程と違い自身の中で気が満たされたことに気付くと、途端に表情が変わった

 

「おおおおおっ!これクリリンのアルか!?」

 

 さっきとは違った意味合いで腕をぶんぶんと振り回す

 

「おいおい、そんな暴れんなって」

 

「おとと、そアルな。けど、これが……」

 

 すぐクリリンに制され動きこそ止めるが、彼女が歓喜に震えたままであることは他人から見ても明らかであり、

 

「ねえ、のどかのどか」

 

「だ、駄目だよハルナぁ……」

 

「ハルナ、いい加減にするです。かけますよ?」

 

 再びハルナがいどのえにっき使いたい欲に駆られ、アワつくのどかと制する夕映という光景がもう一度

 

 ただし今度は、先程古にお見舞いしたドリンクをチラつかせ、一応制圧に成功

 

「わかった、わかったって。だから蓋閉めてってば、もうそこから臭う」

 

「まったく……」

 

「あ、そういえばさ、三人はアスナ達見てない?」

 

 そんなこんなでひとまず落ち着いたところへ、今度はまき絵が話を振ってきた

 

「アスナさんですか?予選でいいんちょさんと戦ってるのは見たですが……」

 

「その後!合流しようと思ったのに、全然見かけないんだもん。天津飯さん達も見つからないしさー」

 

 そういえば確かに、と夕映達三人は予選の時を思い出す

 

 いいんちょことあやかに水中に引きずり込まれ、喧嘩を始めたところまでは三人とも見ていたが、そこから先の記憶がどうも出てこない

 

「あの後すぐ刹那さんの試合に見入っちゃったからねー、どうしたんだろ二人とも」

 

「普通に考えるなら海から上がって、そこから何処かへ移動してる筈ですが……」

 

 その答えは、二人がずぶ濡れであることを考えれば導くことは容易

 

 そこへは現在、二人の少女が向かっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっちゃん、左手ほんまに平気?」

 

「はい、お嬢様のおかげでこの通り」

 

 誰もいない通路を、二人が歩く

 

 近衛木乃香と、桜咲刹那

 

 予選が終わってすぐ、刹那はピッコロの手によって木乃香のもとへ運ばれた

 

 すぐに木乃香は自身の治癒魔法を刹那に施し、夕映達が買い出しに行ってすぐの辺りで刹那は目を覚ます

 

 木乃香がそれに喜ぶのもつかの間、まだその場に残っていたピッコロが二人にある物を手渡した

 

 

”ん?これどしたんピッコロさん”

”選手控え室にいる二人に、持って行ってやれ”

 

 

 木乃香達が向かっている女性選手用の控え室への通路は、使用者が少ないだけあって閑散としている

 

 最低限、男性選手が入り込まないためのスタッフが途中に一人いたくらいで、そこを通り抜けると本当に無人

 

 そのためすれ違う人を気にすることなく、横に広がったまま歩く

 

「えへへ、さよか。うちも二週間頑張った甲斐があったわ……けど、せっちゃんはそれ以上に頑張ったねんな」

 

 刹那の負傷は骨折こそ無かったが、ピッコロの気弾を無理矢理弾いた左腕を始めとしてあちこちにあった

 

 それでも木乃香は短時間で治してみせ、麻帆良にいた時より腕前が上がったことを如実に示していた

 

「そ、そうでしょうか?あそこまで完敗を喫した私が、そんな……」

 

「せや。それにせっちゃん、口ではそう言うても……顔がほら、ずっとええ感じやもん」

 

「ええ感じ、ですか」

 

「ピッコロさんと戦った後から、ずっとや。それまでは、なんやせっちゃん思いつめた顔多かったさかい」

 

 木乃香は刹那の称賛を素直に受けつつ刹那にも送ると、たたたと足を速め正面から刹那の表情を見つめて笑った

 

 このように木乃香が笑顔を向けることは、この世界へ来てからも幾度となくあった

 

「これで、いつものせっちゃんや」

 

「お嬢様……」

 

 その中で、今の笑顔が一番胸の奥まで染み入ったように刹那は感じた

 

 ただ、木乃香の笑顔がいつもと違ったわけではない

 

(ピッコロさん、繰り返すようですが……ありがとうございます)

 

 彼女の笑顔を受ける自分自身が変われたのだと、刹那は確信出来ていた

 

「……と、あかんあかん、はよこれ持っていかな。行こか、せっちゃん」

 

「そうですね、参りましょう」

 

 思わず足を止めていたのは、一分か二分か

 

 先に木乃香が気付いて歩を進め直し、その後を刹那が追う

 

 スタッフがいた所から先は一本道で、刹那が先行せずとも目的地へは迷わず行ける

 

「着いたー、ここやな」

 

 ドアの前で木乃香は足を止め、一応確認

 

 プレートには選手控え室の文字、奥からはよく知る二人の騒ぎ声

 

 問題なし、木乃香はドアノブを握り、開けた

 

「アスナー、いいんちょー、着替え持ってきたでー!」

 

 ピッコロから渡された衣服を片手に、入室

 

 中にいたのは、取っ組み合い直前の雰囲気を醸し出していた下着姿の二人の少女

 

「だいたいアスナさんは……あら、木乃香さん?」

 

「木乃香!?」

 

 あやかとアスナの両名は、予期せぬ控え室への来訪者をそれぞれきょとんとビックリの表情で出迎えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん……じゃあピッコロさんって、気と魔法の両方を使えるのね」

 

「魔法に関しては私達の知るそれとは体系が異なるようですが、そのようです」

 

「ウチが今着てる服もほら、ピッコロさんに貰てん」

 

 木乃香と刹那から話を聞きながら、アスナとあやかは受け取った服に袖を通していた

 

 この時まず最初に驚いたのは、それが海に落ちてずぶ濡れになったものとほぼ同一だったことだ

 

 裏地にあったタグの有無、書かれた文字等のデザインといった若干の差異こそあったが、だとしてもこんなものをすぐに用意出来るとは到底思えない

 

 そこへ木乃香が、ピッコロが魔法でポンと出してくれたと説明した

 

「似合うとるかな?結構お気に入りやねんこれ」

 

 木乃香が現在着ているのも同様に、ピッコロが出してくれたものだ

 

 ピッコロが女性の、しかもティーンエイジャーのファッションに詳しいわけもなく

 

 過去に目にした女性の服装の記憶をもとに何着か出し、その中から木乃香が気に入って選んだのがこれである

 

「へぇ、そうなの……そういやいいんちょのは、他のみんなのとはちょっと違う感じよね。古ちゃんや超さんみたいな中華寄りというか……」

 

「わたくしのは、居候先のチチさんからいただいたものですわ」

 

(ちち)さん?」

 

「チチさん、です。なんでも昔、同じような武道大会に出場された際着ていたものだとか……」

 

 アスナが着ている服は北の都で天津飯が買ってくれたもの、というのは以前にも触れたことがあったが、対するあやかの服装はどうか

 

 全体は紺色で随所に朱色のラインが入ったノースリーブのチャイナ服

 

 チャイナ服だけならスリットから生脚が覗かせそうなところだが、そこは朱色のチャイナパンツと併せて戦闘で足技を振るう際にも支障がない様にしてある

 

 もし当時あの場にいた者がここにいればあっと声を発したかもしれないが、これはあの第23回天下一武道会にてチチが着ていたものだ

 

 修行の時から彼女のお古を修行着代わりに借りていたあやかだったが、腕試しに大会出場を決めた際、その心意気やよしということで引っ張り出されたものを受け取っていた

 

「そんな大切なものを、野蛮なお猿さんのせいで海水まみれにされ、さっきはあろうことか燃やされそうに……」

 

「だーかーら!あれは力加減をうっかり間違えちゃったんだって何度も言ってるでしょ!」

 

 ちなみに木乃香達が入室する前に二人が言い争っていたのは、濡れた服をアスナが気による放熱で乾かそうとしたかららしい

 

 自分の方が強い気を出せるから任せろとアスナがさっそく試みて、始まってすぐ黒みを帯びた煙が上がりそうになり慌ててあやかが制止

 

 今までにやったことがあるのかと聞いてみれば、無いけど何とかなると思ってた、と

 

 更にはここが室内ということもあってあやかが嫌味たっぷりにたしなめ、いつものパターンというわけ

 

「あーはいはい、アスナもいいんちょもやめやめ。けど二人とも、麻帆良にいた頃と全然変わらんなぁ……うん、ほんまに。アスナが無事で、良かった」

 

「木乃香……」

 

 アスナが無事であること事体は、神殿で刹那と合流した際聞いていた

 

 しかしこうして対面し、声を聞いたのはこれが最初

 

 着替え終えたアスナの右手を、木乃香は両手で包むように握って笑った

 

 数秒間ほど続き、満足したかパッと手を放す

 

「…………よし。いいんちょも着替えたやんな?ほなこの後は四人一緒に、ネギ君達の応援しよか」

 

「構いませんが……どちらで観戦いたしましょう?木乃香さんが元いた場所に追加で三人というのは、少々無理がある気がいたしますけれど」

 

「あ、せやな。うーん……」

 

 次に、この後始まる準決勝を共に観戦することを提案した

 

 しかしながら、予選の時のように屋外の観客席に座ってとはいかないだろう

 

 この場にいる四人のうち木乃香以外の三人は、予選時には選手としてバトルステージに上がっており自分らが座る席を確保出来ていない

 

 予選だけを見て帰る観客がいるのを期待するというのも、少々無理がある

 

 それを懸念したあやかの発言を受け、確かにそうだと気付いた木乃香は数秒思案

 

「……せや、あの観客席よりもうんと特等席で観たらええやんか。早速ネギ君に聞いてみよー」

 

 その数秒でいい案を決められたようで、にっこりと笑い懐から仮契約(パクティオー)カードを取り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて、と。ようやく抜け出せたか……)

 

 一方、こちらでも木乃香同様に仮契約(パクティオー)カードを取り出す少女が一人

 

 場所は女子トイレの個室

 

(にしてもあのおっさん、いくらなんでも取り乱しすぎだろ。それに気付かないインタビュアーもインタビュアーだけどよ……まあいい、さっさとこいつを済まさねえとな)

 

 周りの個室に誰もいないことを確かめると、便座に腰を下ろしカードを額に当てる

 

「……もしもし、私だ、聞こえるか?さっきは無理だったが、今なら会話できる。聞こえてるならさっさと返j」

 

”千雨さん!?千雨さんなんですね!?”

 

「……そうだよ、っつーかうるさい」

 

 すぐに返事は帰ってきた

 

 メイド服を着た少女、長谷川千雨は飛んできたネギの大音量に少々顔をしかめる

 

”す、すみません。さっきは返答が無かったもので、てっきり会場にはいないものとばかり……”

 

「こっちにはこっちなりの事情があんだよ、察しろ。現に私は予選が終わるまで待ってやったろ?」

 

 この両者間についての時系列を辿ると、予選開始前まで遡る

 

 更に細かく言うなら夕映やのどかと再会した後かつ、選手控え室に入る前

 

 ネギは会場に来てから仲間捜索のため仮契約(パクティオー)カードで連絡を試みており、当然千雨のカードも使用していた

 

 しかし先ほどネギが述べた通り、のどかやアスナの時のように返っては来ず、使えるカードは全部使ってしまったため捜索を一時中断していたのだ

 

”あ、予選見てたんですね”

 

「ああ。細かいことは省くが、今私は大会関係者のところで専属メイド中だ。予選が済んで幾らか落ち着いたから、主人に休憩を貰って一旦抜け出してる」

 

”そうでしたか。えっと、それは千雨さん一人で?”

 

「メイドは私一人だが、茶々丸も別んとこで働いてるな」

 

”茶々丸さんも!?”

 

 念話ゆえ視界には入ってこないが、驚きと歓喜の混ざった声色からネギの表情が容易に想像出来た

 

 千雨が茶々丸の所在をネギに伝えると、次はネギが現在無事を確認している3-Aメンバーの名を次々と挙げていく

 

(おーおー、大漁もいいとこじゃんか。この大会に狙いを定めたのは大正解だったわけだ、やるじゃねえか茶々丸)

 

 サタンのもとで働くこと、ひいては天下一大武道会に赴くことを提案したのは元を返せば茶々丸

 

 何度かボケロボ呼びし悪態をついたこともあったが、やはりなんだかんだで頼りになるなと千雨は茶々丸へと聞こえない謝辞

 

「とすると、あと見つけてないのは……周囲どんくらいまで飛ばされたかはわかんねぇが、超は確定として」

 

”龍宮さんもおそらくは……え、あ、木乃香さん?”

 

「ん、他からも念話か?結構時間経っちまったし、こっちはもう切るぞ」

 

”え、そんな……”

 

 それからもう少々話し込んだところで、千雨はネギの様子がおかしいことに気付く

 

 どうやら他の従者(パートナー)から念話が飛んできたようで、ちょうどいいやと千雨は切り上げにかかった

 

 名残惜しそうな様子のネギの声が聞こえてきたが、千雨の方も流石にそろそろ戻らないと不審がられる時間まで過ぎていたようだ

 

「茶々丸は大会が終わるまで持ち場を離れられないし、私も一般観客席まで移動してってのも厳しい。そっちも仲間の応援含めて最後まで残るんだろ?ちゃんとした合流は大会終了後、ってところか」

 

”そう、ですね……千雨さん、お仕事頑張ってくださいね”

 

「そっちこそ準決勝の健闘お祈りしてますよ、ネギ先生。なんてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はいわかりました、それでしたら簡単に出来ると思います。あと、夕映さんのアーティファクトで術式を確認出来るなら、木乃香さんもすぐに使えるようになるかと」

 

 千雨との念話を終え、ネギは木乃香と話しながら会場内を歩いていた

 

 内容は、今から合流してとある魔法をかけてくれないか、というもの

 

 ネギは了承し、比較的それが簡易的な魔法であることも伝える

 

「コタロー殿、折角でござるし木乃香殿に傷を治してもらうでござるよ。もしこの後当たるなら拙者も、消耗無しのベストなお主と戦いたい」

 

「せや……な。予選で一番消耗しとるの、間違いなく俺やわ」

 

 その両隣には、楓とコタローが並んで歩いていた

 

 これから木乃香との合流があることを察した楓は、ボロボロのコタローを気遣う

 

 歩調こそ他の二人に合わせているが、幾らか無理が伴っていることを彼女は感じ取っていた

 

 現にコタローのさっきの言葉、いつもなら「このくらいなんともない」・「俺だけそんなのフェアじゃない」と言いそうなものなのだが

 

 それだけ本人も、予選での激闘を自覚しているということなのか

 

「ところで楓姉ちゃん、今まで聞きそびれとったけど俺のやった技……」

 

「あいあい、おおむねタネは掴んだでござる。あの御仁の時のような奇襲を期待していては、拙者に勝てぬでござるよ?」

 

「あー、やっぱりか……正直俺も、あのおっちゃんともう一回やって勝てるか言われると自信無……ああっ!」

 

「ん?」

 

 ネギを挟んで左右にいた両者だが、少し歩を遅めネギの後方について近くに並ぶ

 

 そうして更に幾らか話していたところで、コタローが前方にいるなにかに気付き声をあげた

 

「よお、探したぜ」

 

「おっちゃん!」

 

「だからおっちゃんじゃなくて……そういや、名前言ってなかったんだっけか。ヤムチャだ、もうそんな風に呼ぶなよな」

 

 悟飯と同じ山吹色の道着、それ以上にあの顔をコタローは忘れる筈がない

 

 ヤムチャは三人の目の前に現れると、コタローのおっちゃん発言に苦言を呈しつつ自らの名を初めて明かした

 

「ヤムチャさん、か……で、何しに来たんや?」

 

「何しに、って……ほら」

 

「?」

 

 来た理由をコタローが尋ねると、ヤムチャは自らの右手を前に出す

 

「最初、舐めてかかったのはその……悪かった。だから、最後くらいはちゃんとしとこうって思ってさ。なのにお前、俺が気付いた時にはもう戻ってたもんだからよ」

 

 差し出された右手の意味に気付くと、コタローは笑ったまま無言でそれを握った

 

 しかも、常人なら悲鳴をあげるレベルで力をこめて、だ

 

「おいおい、ボロボロかと思ったら意外と元気じゃないか」

 

「堪忍なヤムチャさん、俺も失念しとったわ。男と男の真剣勝負、これを欠いたら台無しや」

 

「……頑張れよ、コタロー!」

 

「おう!」

 

 ヤムチャも力を込め握り返す

 

 まだ気が完全に戻ってないのか全力には遠いが、激励としては文句なしに伝わったようだ

 

 次に、ヤムチャは握手を解くと側にいたネギと楓を見やった

 

「そういや、ちゃんとは確認してないんだが……この二人も勝ち上がったのか?」

 

「は、はい!ネギ・スプリングフィールドです」

 

「同じく、長瀬楓でござる」

 

 ヤムチャが目を覚ましたのは予選が終了して少し経ってからであり、予選通過者の詳細な情報が頭に入っていなかった

 

 八人のうち目の前に三人、自然な流れで残る五人の内訳も訊いてみる

 

「えっと、悟飯君とピッコロさんとトランクスさんと……」

 

「あとは、確か名前は……クリリン殿と天津飯殿、でござったか」

 

(まあ、順当な面子か……ん?クリリンと天津飯は確か別だったよな、てことは……)

 

「そや、ヤムチャさん。俺らと一緒に、木乃香姉ちゃんのとこ行かへんか?」

 

 自分も良く知る強者達の名が順に挙げられ、五枠は瞬く間に埋まる

 

 ここでふと疑問が浮かんだのだが、突如飛んで来たコタローの提案にそれはかき消された

 

「ん?木乃香ってのもお前達の知り合いか?」

 

「いかにも。地球の神デンデ殿と同じく治癒術の心得があるでござるゆえ、コタロー殿の治療に向かうところだったでござる」

 

「さっき俺のことボロボロて言うたけど、ヤムチャさんも大概やで?」

 

 最後にコタローに叩き込まれた攻撃の分は勿論として、影分身を吹き飛ばすために放った気功波の余波による火傷や、地面激突時の左半身等

 

 実際ヤムチャもコタローに負けず劣らず満身創痍であり、治療を促される必要があるのも当然と言えた

 

「そうか?じゃあお言葉に甘……って、デンデのことも知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、俺らあそこまで行って修行してたんやで」

 

「げっ、本当かよ……」

 

 ヤムチャは了承し、三人組は四人組となって再び歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えー、準決勝まで残り二十分となりました。ここで、準決勝四試合の組み合わせを発表いたします』

 

「おっ、いよいよね」

 

「ああ、ここでの組み合わせは優勝を目指すにあたって超重要だぜ。朝倉の姉さん」

 

 一時間というのは、長いようで短い

 

 現に三分の二である四十分が既に経過し、観客席の賑わいっぷりは予選開始時に近いほど

 

 その一画にて、予選と変わらぬ様子で朝倉とカモが会話を交わしていた

 

「え?どういう意味?」

 

「準決勝で四試合あるってことは、決勝進出は四人だ。つまり、決勝戦は変則的な戦いになる可能性が高い」

 

「ってことは、何人か強い選手が潰し合う一方で決勝に進みさえすれば……」

 

「ああ、ルール如何によっては兄貴達にも勝機があるかもしれねー、ってことさ」

 

 コタローがヤムチャにしてみせた下克上、負けはしたが刹那のピッコロに対する奮戦

 

 これらを目にしたカモとしては、自然と彼らに当初以上の期待を寄せてしまっていた

 

『勝負は一対一、それぞれを勝ち抜いた計四名が決勝戦へ進出となります』

 

 アナウンスに合わせて、屋外屋内各所に設置された巨大モニターに映像が映り出す

 

 画面内は二×四で線引きされ、右から順にニマスずつ現れる選手達の姿

 

 上下に位置する者同士が、準決勝での対戦相手となる

 

『準決勝へ進出した八名の選手は、開始五分前までには選手控え室まで移動を願います』

 

「おっ、ネギ君達は三人とも別れたね。っていうか、四試合目……」

 

「ああ、さっき潰し合いをすればとは言ったが……このカードは、かなりやべえぜ」

 

 組み合わせを見た、二人の反応はこの通り

 

 では、実際に戦う八人は、如何ほどか

 

 準決勝での対戦順に、見ていこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃああっ!早速来たで!」

 

 

 

「……うん、僕も三人の誰かとは、戦ってみたかったんだ」

 

 

第一試合

犬上小太郎 vs 孫悟飯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この人は確か、前に悟飯君が言ってた……」

 

 

 

「相手は古の一番弟子、か。ヤムチャさんのこともあるし、油断しちゃ危ないかもな」

 

 

第二試合

ネギ・スプリングフィールド vs クリリン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ピッコロ殿や悟飯殿ほどではないにせよ、これは少々……厄介な相手とぶつかったでござるか)

 

 

 

「……『忍者で分身とかやっちゃう』だったか。果たして、どれほどのものかな」

 

 

第三試合

長瀬楓 vs 天津飯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、この時代へ来るまでどれほど鍛えたか……見せてもらおう」

 

 

 

(父さん、見ていますか?僕はこの試合、必ず勝って悟飯さんと戦います!)

 

 

第四試合

ピッコロ(マジュニア) vs トランクス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予選以上の激闘が、もうじき始まろうとしていた




 リメイク前と対戦カード一部変えてるんで一から書き直しの部分が多いですが、なんとか四試合分ちゃっちゃと書きたいです。

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