ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

46 / 74
第45話 見せろ意地!放った倒れざまの一矢

 天下一大武道会、その予選がついに始まった

 

 開始の合図と同時に選手達は交戦を開始し、客席では止まることのない歓声が飛び交い続ける

 

 今大会に参加した選手は全部で二百人超

 

 八つのバトルステージで各二十五名近くが、準決勝の椅子を巡って激しい戦いを展開していた

 

 しかしこうも数が多いと、全ての戦いに目を向けることはやはり出来ない

 

「アスナー!天津飯さーん!みんな頑張ってー!」

 

「うっへぇ、こりゃ全部は無理だぜ。どうする爺さん?」

 

 バトルステージを囲むように設置された屋外席だけではなく、会場内では屋内からモニターで試合を観ることもできる

 

 その一画では亀仙人と五月のカメハウス組にウーロン、そしてついさっき偶然にも合流したまき絵が一緒に予選を観戦していた

 

 まき絵も全部は無理と初めから分かっていたのか、観戦対象をあらかじめアスナ達だけに絞り込んでいるようだ

 

「うーむ……」

 

 ウーロンは亀仙人に意見を仰ぐが、当の本人は声を唸らせ返事もしない

 

 サングラスによってその表情は隠されているが、何やら悩ましい状態であると推測するのは簡単だった

 

「おい、爺さん。せめて返事くらいしろよな」

 

「確かに、どの子もいいのう……古ちゃんのクラスメイトは」

 

「はぁ?」

 

 しかしウーロンの悩みと亀仙人の悩み、二つがまるで別物だったと判明するのにそう時間はかからず

 

 やや鼻を鳴らしつつ答えた亀仙人に、ウーロンは呆れ顔で声を漏らした

 

 亀仙人の視線の先は古のクラスメイト達、アスナ・楓・あやかの三名

 

 目の前の相手を倒すべく身を躍らせる彼女達に、亀仙人は強く惹きつけられていた

 

 無論、武道的な意味ではない

 

「あの金髪のお嬢ちゃんは腰周りがキュッとしててたまらんし、忍者の格好しとる子は背もじゃが他もグンバツにデカい。古ちゃんの世界の十四、十五は発育が進んどるのう……将来有望じゃわい」

 

「だーかーらー!俺達が観に来たのは武道大会だっつーの!ったくこのスケベ爺さんは……」

 

 ウーロンはたまらず、予選開始前と同じことを亀仙人に対し訴えた

 

 一方亀仙人はウーロンのいる方の耳に指を突っ込んで防音

 

 顔を若干しかめつつ、これまた先程と同じ言い分を述べる

 

「そうは言っても悟飯やトランクスが出とる以上、優勝はどっちかじゃろ。予選だって二人共突破するに決まってるんじゃから、他の者のを観た方がじゃな……」

 

「さっきから観てんの試合じゃなくて女の乳尻じゃんかよ!」

 

(お二人共、やっぱり仲がよろしいんですね)

 

 こんな二人の掛け合いを横から見て、五月はフフと思わず笑う

 

 ウーロンは言葉を荒げてはいたが、本気で亀仙人のことを貶める気が無いことは何となくだがわかる

 

 彼らより喧騒の度合いがかなり強いアスナ&あやかの組み合わせに見慣れていることもあってか、五月は片方を宥めるといった介入も特にせず試合に目をやった

 

 観戦対象の基準はまき絵とほぼ同じで、二週間共に暮らしてきた古とクリリン

 

(クリリンさんは順調、古菲さんは……あっ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、悟飯が出てるのかよ。あいつは超サイヤ人じゃないか……」

 

 次々襲いかかる相手を、クリリンは難なく倒していく

 

 このままいけば予選突破は容易いだろう、しかし表情は喜ばしいそれとは遠かった

 

 目を向けているのはAブロック、そこでクリリン同様敵無し状態で予選を勝ち進む少年が一人

 

 悟飯はクリリンとは対照的に、笑顔を表に出して戦っていた

 

「ヤムチャさんや天津飯だけなら何とかなると思ったのに……」

 

 予選開始前に聞こえたチチからの声援

 

 それによって悟飯の存在に気付き、同時にあの時ヤムチャが落ち込んでいたわけも理解した

 

 そして、クリリンの受難はこれだけでは終わらない

 

「だだだだだだあ!」

 

「うぇ!?」

 

 上の方から聞き覚えのある声

 

 八つのバトルステージは高さがそれぞれ異なり、声の正体を確かめるためクリリンは上を向く

 

 更にはそれとほぼ同時に選手が数名、こちらのバトルステージまで落下してきたではないか

 

「ひょっとして……げ!」

 

 クリリンは恐る恐る見上げた先には、予想通りの人物

 

 いつもの白いマントをたなびかせ、敵を次々と倒しているピッコロの姿があった

 

「ピッコロまで……」

 

 クリリンはさらに落胆する

 

 ここまでくると、一瞬でも頭をよぎった嫌な予感が全て現実になりそうな気がしてならなかった

 

 それでも、いやいやまさかと自身に言い聞かせながら、他のバトルステージも見渡してみる

 

「まさか、トランクスは来てないよな……ああっ!いた!」

 

 しかしながら、嫌な予感は的中

 

 今いるステージCとほぼ同じ高さで隣に位置するステージD、そこに彼は立っていた

 

 言うまでもなく相手選手は彼の前に次々と倒れていき、残すは彼を含めて二名

 

 八つのバトルステージの中では、あそこが一番進行が早かった

 

「ん?もしかしてトランクスがいるのって……あああっ!やっぱりDだ!」

 

 トランクスと戦う最後の一人、その人物へクリリンは視線を向ける

 

 各バトルステージに表記はなく、どれがAでどれがBか等は見ただけでは分からない

 

 現在トランクスが戦っているのはステージD

 

 これをクリリンが把握したのは、ステージDに振り分けられた者の姿をそこで見たからにほかならなかった

 

「古!」

 

 クリリンは思わず、彼女の名を叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これであとは一人だけ、なんだけど……)

 

 予選通過まで、相手はあと一人を残すのみ

 

 その最後の一人を前にして、トランクスは少々ながら動揺を表に出していた

 

 バトルロイヤル形式でここまで勝ち残ってきた以上、幾らか彼の戦いぶりは目にしているはずだ

 

 どんな相手でも、更には数人がかりで襲いかかられても、攻撃は一度も当たらず逆に殆ど一撃でノックアウト

 

 残り数名の時点では、トランクスに恐れをなして逃げ腰になった者も少なくない

 

 しかし自身と対峙する残りの一人は、そんな素振りを微塵として見せず

 

 澄んだ目で正面を真っ直ぐと見据え、準備万端とばかりに構えを取る

 

 加えて少々興奮気味なのか、フンスと鼻から息を漏らす様がやや離れたここからでも確認出来た

 

(一般人離れした気の大きさ……まさか、こんな女の子が出ているとは思わなかったな。それにあの道着、もしかすると……)

 

「さあ!残るは私達だけアルね!」

 

 見覚えのある服装ということもあり、何か話を切り出そうかとも考えていたトランクス

 

 しかしそれより先に向こう側、古からの声がかかり意識はそちらへ向けられた

 

「あ、ああ……そうみたいだね」

 

「相当な達人とお見受けしたアル。私の名は……」

 

 やはり古は、トランクスの戦いぶりを目にしていた

 

 予選開始数秒でトランクスの飛び抜けた強さを把握した古は、トランクスとは反対側に回って他の敵を倒しにかかった

 

 最後の最後で、他の者の邪魔もなく一対一での勝負をすることを望んだからだ

 

 古が今トランクスに対し抱いているのは、圧倒的強者への尊敬の念

 

 故にこの勝負前、古は自分から彼へ名乗りを挙げる

 

「……亀仙流、古菲!」

 

 道着を受け取ったあの夜から、この世界ではそう名乗ることを彼女は決めていた

 

 この名乗りにトランクスは驚きつつも、彼女があの道着である以上納得もする

 

(やっぱり!それに古菲という名前は、以前ハルナちゃんから聞いたことがある。ヤムチャさんや悟飯さんじゃないなら……クリリンさん?)

 

 ハルナから聞いた話も思い出し、向こうの世界からやって来た者であることも把握

 

 また、亀仙流の門下は少なく、この世界で彼女を鍛え道着を与えた者も消去法で簡単に絞り込めた

 

(だとすれば、色々話が聞きたいな。もしかしたら他のハルナちゃん達の仲間について、何か情報を……)

 

「いざ、尋常に……勝負!」

 

「!?」

 

 だが、ここで古に対するトランクスの考察は一旦打ち切り

 

 トランクスが考えをまとめるより先に、古は開戦の合図を自身の内で鳴らし一瞬で間合いを詰めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何アルか何アルか!?このピリピリと感じる凄まじい気は!)

 

 鉄拳を次々と放ちながら、古は戦慄する

 

 自分は当然として、元の世界の師や先程顔を合わせた刹那に楓

 

 その誰よりも遥かに上の巨大な気を、肉薄した距離での交戦を通じて感じ取っていた

 

 とにかく、実力の底らしきものがまるで見えない

 

 自身の攻撃を全て避け、そして受け流し、有効打の一つも与えられない

 

(ひょっとして、いやひょっとしなくても、この人はクリリンより……)

 

 こうした攻撃の捌かれ方は初めてではない

 

 大会前の修行、クリリンとの組手でも何度か体験してはいる

 

 しかしそれを踏まえた上でも、古はトランクスの底が見えない実力に対しこうした推測が頭をよぎってしまった

 

 既に遥か上に位置づけていたクリリンを、さらに突き抜けて上方に立たんとするトランクスの存在

 

 これに古は僅かだが動揺してしまい、身体の動きとも連動する

 

 何十発放ったか分からない右拳を引き、次の攻撃へ移るタイミングが前よりも明らかに遅れた

 

(なっ!?消え……っ!)

 

 途端に状況は一変した

 

 前方に見据えていたトランクスの姿は消え、再び放とうとした拳は手元に留まる

 

(くっ、間に合わ……)

 

 超スピードで移動したことは、クリリンとの時もあったため反射的に分かった

 

 どこへ移動したか、そちら次にとってくる行動は何か

 

 直後に両方とも気付いたが、それに全身が対応するよりもトランクスの動きの方が格段に速かった

 

「ぐぅっ!ぬ……」

 

 首筋に、瞬きするよりも速く衝撃が叩き込まれる

 

 『叩き込まれる瞬間』は殆ど認知できず、『叩き込まれていた』感覚が古の全身を駆け抜けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか、女の子を海へ叩き落とすわけにもいかないからな)

 

 当て身が決まった手応えを右手刀から感じ、トランクスは強く結んでいた口から息を漏らす

 

 降参か場外か気絶、そのいずれかが当てはまれば予選での敗退となる

 

 開戦前の張り切りっぷりからして降参はまずしないだろうと踏んでおり、海へ落とすことにも抵抗があったことも併せ、トランクスは古を気絶させることを選択した

 

(さて……)

 

 身を沈ませる古に背を向け、トランクスはステージCに目をやった

 

 古との交戦中にクリリンの居場所は気で探知しており、自分の戦いなどお構いなしといった様子でこちらを凝視する彼の姿が見える

 

 あの驚きっぷりからして自分がこの時代にいることだけが原因ではあるまい、つまり予想が当たったということか

 

 そうトランクスは読みとった

 

(クリリンさんのところも残り人数は少ない、両方の勝ち抜けが決まり次第話を……ん?どうしたんだクリリンさんは)

 

 しかし、直後にクリリンの異変に気付く

 

 現在に至るまで見せ続けていた驚きの表情が、更に大きなものに変わったのだ

 

 【トランクスが古に当て身を食らわせ気絶させた】

 

 これ以降に驚く要素が何かあるというのだろうか

 

 トランクスはクリリンの意図が分からずにいたが

 

(まさ、か……っ!?)

 

 背後から感じた気配を受け、途端に氷解した

 

「アイッ、ヤアァァァァッ!」

 

 振り返り始めたのと同時に、古の拳が顔面へと飛んできた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(見せたアル、な……ようやく隙を!)

 

 焦点が定まらず、視界がぼやける

 

 それでも、古の意識は保たれたままだった

 

 本来、あの当て身を完璧に食らえば即気絶だろう

 

 実際トランクスも確かな手応えを感じたこともあり、それを信じて疑わなかった

 

 ただ、彼にとっての誤算が二つ

 

 一つは、『トランクスが当て身を仕掛けたこと』を古が直前になって認知したこと

 

 もう一つは、古が回避とは別の行動で当て身に対し抵抗を試みていたこと

 

(もって、あと数秒……これが最後の攻撃アル!)

 

 過去に古は、全力でないにしろクリリンの放ったかめはめ波を受け止めたことがある

 

 背中に気を集中させて防御力を高めたことによるもので、これと同様のことを古は実行した

 

 箇所的には初めての試みであったが、当て身が飛んでくるであろう首筋に気を集中

 

 トランクスが想定していた防御力をほんの僅かだが上回り、即気絶という事態を回避していた

 

 とはいえダメージによって食らい初めは体勢を崩し、更にはあくまで即気絶を免れただけでダウンするのも時間の問題

 

 残された時間に対し、より多くの気を拳に込める時間と、それを叩き込む時間

 

 一撃に賭けるという点において咄嗟に絶妙な配分を施し、ふらつく全身に鞭を打って古は飛び出した

 

 振り返り際にトランクスが見せた表情は、声にこそ出してないが「まさか」と今にも言わんばかりのそれ

 

 当て身を食らう直前の古と同じく、動揺が明らか

 

 回避という選択をとり、実行に移すまでの時間が確実に遅れてしまった

 

「くっ……」

 

 直撃とはいかなかったまでも、古の拳はトランクスの頬を掠った

 

(やた……アル……)

 

 ダメージは与えられなかったものの、初めての命中である

 

 一矢報いたことに古は歓喜し、確かに当てた自身の右拳を愛おしく見つめた

 

 しかし、古の反撃もここまで

 

「ぐっ、ぐぅぬ……」

 

 直撃にまで至らなかったのは、トランクスがギリギリで体軸をずらしたため

 

 よってトランクスの横を拳ごと、古は勢いよく通り抜ける

 

 このままでは腹なり顔なりを床に打ちつけん勢いだったため、たたらを踏みながら何とか阻止

 

 ちょうどそこで、時間が来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トランクス選手、予選通過!』

 

 この放送は、気を失った古の耳には届かなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリリン選手、通過!』

 

「おい古!大丈夫か!」

 

 トランクスの予選通過から、一分足らず

 

 さっきとはうって変わって、クリリンは急ピッチで残りの選手達を撃破

 

 すぐさま予選通過を決め、放送と同時にステージDに飛び移った

 

「あ、クリリンさん。すみません、一応加減したつもりなんですが……」

 

「気絶してるだけ、だな……ったく、お前と古を見た途端びっくりしちまったよ」

 

 クリリンがこちらへ来るだろうと予測していたトランクスは、古を横に寝かせて待機していた

 

 そこへクリリンは駆け寄り、古の状態を確認する

 

 特に大きな怪我も無いことを確かめると安心し、トランクスとの会話へと移行した

 

「何でお前まで大会に出てくるかなー、俺一応優勝するつもりでこの大会出たんだぜ?」

 

「未来の人造人間を倒した報告に来たんですが、その時にこの大会のことを聞いたんです。えっと、この子はハルナちゃんの……いや、うーん、なんて言ったらいいのかな」

 

「……ネギ、って名前は分かるか?」

 

「あ、はい。さっき控え室で直接会って、色々話もしました」

 

「自慢の弟子ってことで、古が何度かそいつの名前を出してたよ。ってことは、今言ったハルナってのも……」

 

 トランクスはこの時代に来た経緯を話すと共に、古の素性について確認をとる

 

 やはりトランクスの思った通りで、ネギという共通項によってお互いに事情を把握できた

 

 そこから少々の情報交換を通して、現状を掘り下げる

 

「ということは、クリリンさんの所にはこの子を含めて二人いると」

 

「ああ、それと天津飯の所にも二人いる。その内一人は天津飯と一緒に大会出てるぜ」

 

「そうですか……すると相当な数になりますね。今言ったネギ君も、元の世界の仲間数人と一緒にこの大会に出ていると聞きました」

 

「おいおい、ってことはお前と古みたいに予選でかち合うのが他にも数組……ああっ!」

 

 そこで、予選開始前の自分の認識が誤りだったとクリリンは気付く

 

 これでは完全にバラけたところで、予選での潰し合いは不可避

 

 辺りを見渡し他のバトルステージの状況を確認すると、やはり起こっていた

 

「おいトランクス、今ヤムチャさんとやり合ってるのって……」

 

「はい……ネギ君の仲間の一人です」

 

 天下一大武道会、白熱の予選はまだ始まったばかり




 暫くはこのくらいのペースになりそうです。
 大会編開始前は後書きコーナーの開設も考えてましたが、ちょっと余裕がないのでこちらも当分やりそうにないです。
 もう少しで投稿開始から丸二年になるので、それまでに少しでも進めたいところです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。