ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第36話 これが修行の総仕上げ!精神と時の部屋

「いない!」

 

 ニ対ニの模擬戦をした修行場にも

 

「いない!」

 

 寝床にしているらしき洞窟にも

 

「いない!」

 

 水汲みに使いそうな川にも

 

「いない!どこにもいませんわーーー!」

 

 愛する少年の姿はどこにもなく、雪広あやかは山中で声を荒らげた

 

 愛する少年、ネギだけでなく他の者もいない

 

 コタローも木乃香も楓も刹那もピッコロもカモも、いくら探しても見つからず

 

「折角、修行に励むネギ先生へのために、差し入れを作って持ってきましたのに……」

 

 あの日ネギと分かれてから、あやかは独自に特訓を重ねていた

 

 前にコタローから話を聞いたことがあるが、この世界では元いた世界より気や魔力を大きく発現することができるようだ

 

 同サイズの惑星同士でも、密度や周囲の天体の位置関係等様々な条件次第でその星の環境は大いに変わる

 

 上記は天文部のルームメイトから聞いたことだが、ならこの世界の地球について当てはめても何ら不思議な話ではない

 

 まるで違う歩みを進めてきた歴史、太陽系を飛び出した先にも数多く存在する高度な宇宙技術

 

 麻帆良のある自分らの地球とは別物のそれが生まれうる要因は、大まかであるが幾つも考えられた

 

 話を戻すが、それによりネギ達だけでなく、あやかの気功術の上達も目を見張るペースで進行

 

 今回のパオズ山からの移動は、一切他人の手を借りず自力飛行のみでここまでたどり着いていた

 

 ただし楽々とまではいかず、到着直後から辺りを駆け回ったこともあり激しい呼吸のままその場にへたり込む

 

「あ、いたいた、あやかさーん!」

 

 そんなあやかの後ろから声が掛かる、一緒について来た悟飯だ

 

 彼女とは違いあの日からも毎日通っていた悟飯だったが、今日は家の手伝いで出発が昼過ぎまでずれ込んでしまっていた

 

「大丈夫ですか?少しここで身体を休めたほうがいいですよ」

 

「うう、ネギ先生はいずこへ……」

 

「それがどうも、この山や周辺にはいないみたいなんです」

 

 ネギを探しに飛び出したあやかの後を追いながら、悟飯も気によって他の皆の行方を探っていた

 

 しかしあやかの言うとおり、ここ近辺にネギ達の気・魔力は感じられない

 

「それでは、一体何処に?」

 

「ええっとですね、うーん……え!?」

 

「?」

 

 探知範囲を遠くまで広げることで何個かようやく捕まえられたが、それでも数が合わないのだ

 

(刹那さんと木乃香さんが……神様の神殿!? それに楓さんがここと神殿の中間辺りにいる。ピッコロさんは二人を神殿まで連れて行ってたのか!)

 

 楓・刹那・ピッコロの不在は昨日も来ていたため知っていたが、その詳細を探ろうとしたのは今日になってようやくのことである

 

(けどネギ君達は?神殿の近くにはいないみたいだし……)

 

「あの……」

 

「あ、えっと……距離も離れてる上に力を抑えているのか、どこにいるかまではちょっと分からないんです」

 

 ひとまず今日は、ここで少し休んでからパオズ山に戻ることにしましょう

 

 そう悟飯は提案し、探す力を持たず他の案も持たないあやかは渋々ながら同意した

 

 ここから神殿まで行くとなると、あやかのペースに合わせれば相当の時間がかかってしまう

 

 今の今までの行動を見る限り、手がかりらしい場所があるといえばついていくと言って聞かないだろう

 

 今日は泊まらず日帰りで帰ることを前もって母に話していたため、行動を起こすには今の時刻からでは遅すぎた

 

(まさか、ね……けど明日、あやかさんと一緒に神殿まで行ってみたほうがいいかもしれないな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すー……はー……。やっぱりや、空気めっちゃ薄いでここ」

 

「それにすごい暑さだよ。ピッコロさん、この部屋って……」

 

「これで配置は覚えたな、ついてこい」

 

 白白白白、とにかく辺り一面の白が視界を覆い尽くしていた

 

 扉を開けて飛び込んできたこの空間に、ネギとコタローは驚かずにはいられない

 

 第一に、外から見たのと比べて明らかにおかしい広さ

 

 屋根がある部分を抜けた所には(そもそも建物の中に更に屋根があるというのもおかしな話なのだが)地平線が見えるほどの平地が広がり、そこから先は天井らしき上空の仕切りが確認出来ない

 

 第二に、今二人が述べた室内の異常環境

 

 神殿自体が高所にあるため空気が薄いのは当然なのだが到着時より輪を掛けて呼吸が辛い、その上砂漠か何処かに放り込まれたと錯覚してしまうほどの暑さがこの空間を支配していた

 

 ピッコロは驚くネギ達をよそに、顔色一つ変えず二人に続いて入室

 

 今いる場所が修行の拠点となるようで、風呂や寝床といった室内の設備を簡単に説明する

 

 それが終わるとさっきと反対に、三人の中で一番最初に基本拠点から外へと歩み出た

 

「お前達が考えてる通り、ここはさっきまでいた部屋の外とは完全に別空間だ。広さは地球一個分、空気の薄さは四分の一、気温も最高最低間で百度近く変わる」

 

 そして何より、と続きを言いかけたところでピッコロの口が止まる

 

 二人があと数歩で出ようとしているところだった、何か思い出したようで言うのをやめる

 

「……まああいつらと同じく、実際に味わってみることだな」

 

 ピッコロは楓達にも、事前に教えてはいなかった

 

「ん?何やピッコロさ……っがぁぁあ!」

 

「コタローく……ぐうぅ!」

 

 二人は同時に表へ第一歩を踏み出す、それと同時に両手両膝を勢いよく打ちつけるように地へついた

 

 元々の身長差もかなりあったが、これで一層ピッコロが二人を見下ろす形になる

 

(なんやこれっ、身体が……あん時と同じや!)

 

 上から見えない力で押し付けられるような感覚、とにかく全身に途方もない重みがのしかかる

 

 コタローはこの世界へ来る前の、麻帆良祭での屈辱的なあの敗戦を嫌でも思い出した

 

「どうした、立てんか?」

 

「こっ、のぉおおおお!」

 

「戦いの……歌!」

 

 気と魔力、それぞれが二人を覆い力を与える

 

 ゆっくりであるが体勢を立て直し、手を地面から離し両足のみで全身を支えた

 

 ピッコロと目を合わせるその表情に余裕はない、この場に立つので精一杯

 

「……まあ無理もない、なんせ地球の十倍の重力だからな」

 

「十ばっ!?」

 

(やっぱ重力、か……)

 

 ネギは驚きコタローは歯噛みする、シチュエーションはまるで違うが楓達との再会時と同じだ

 

 しかし厳密にはネギの驚きはより複雑だった、この部屋の重力が十倍ということともう一つ

 

 自身がふらふらではあるものの、十倍の重力にある程度抗えているという事実

 

 この世界へ来た当初なら、間違いなく地を這ったまま碌に立つことすら出来なかっただろう

 

 コタローにやや遅れてまほら武道会のあの試合を思い起こし、当時の隣の親友の姿に自分を重ねた

 

「そして最後にもう一つ、この部屋は外の世界と時間の流れが違う。外での二十四時間、つまり一日はこちらの一年に相当する」

 

 これが十倍の重力と並び、精神と時の部屋が絶好の修行場と称される所以である

 

 一年前のセルとの戦い、ここでの修行がなければほぼ間違いなく今の地球は無かったと言っていい

 

「やっぱり師匠(マスター)の別荘と……いや、それよりもずっと」

 

「ほう、お前達の世界にも似たようなのがあるのか」

 

 ピッコロの説明を受け、ネギは元の世界で修行に使っていた魔法球を思い出さずにはいられない

 

 3-A教師としての仕事を全うする傍らエヴァに師事するという、圧倒的に時間が足りない激務

 

 それに対し一定以上の修行時間を確保するため使用されたのが、『別荘』とも呼ばれるエヴァンジェリン宅にある魔法球だ

 

 そこでは中での一日が外の一時間、つまり二十四倍

 

 一方で精神と時の部屋は中での一年が外の一日、三百六十五倍となる

 

 単純な時間効率でも十五倍、超重力といった環境の違いも含め別荘以上のポテンシャルをこの部屋が持っていることはネギも認めざるを得ない

 

「はい、でもここはそれ以上です……さっきの神様がこの部屋を?」

 

「いや違う、少なくとも先々代以前の神が作ったものだろう」

 

 一個人が魔法で作り出したのだとすれば、是非とも当人にお目にかかりたい

 

 もしやと思ってピッコロに尋ねたが、推測は外れ

 

 またその人物も含め、先代以前の神は皆地球にはもういないことも加えて説明された

 

「さて、早速修行を始めたいところだが……とりあえず、順番を決めてもらおうか」

 

「え?うわっ!?」

 

「三人一緒にするんやないんか?」

 

 ピッコロは話を切り替える、この話題についてはもう打ち切っていいという判断だろう

 

 実際これ以上の発展は難しく、いよいよ本番かと身構えたがそうではなかった

 

 『順番』の意味は何だとネギは思考をし、つい力の入れ加減を誤り再び膝をつけてしまう

 

 重力に抗うためのパワー運用はコタローの方がやや上手らしく、ネギが立ち直す間に代わりに訊いた

 

「この部屋の定員は二人だ、さっき寝床も見ただろう。まずはこの部屋での修行に耐えうるよう、俺が一対一で鍛え上げてやる」

 

 格闘素人の悟飯を一年、実質半年少々で戦えるよう育て上げたピッコロの指導力は並ではない

 

 しかしそれは、子供相手でもほとんど容赦しないスパルタによって成された側面もかなり大きかった

 

 悟飯の成長や先代の神との同化も併せてそのスパルタもなりを潜めていたのだが、弟子入りのような形で鍛えてやることになった楓達の登場は再びそれを呼び起こしていた

 

 ネギ達四人で回していた対ピッコロの組手でもそれぞれの負担はかなりあり、今まで二人で回していた楓達のことを考えて身を震わせたことはゼロじゃない

 

 そんなピッコロの相手を一人で務めなければならない、二人の喉が時を同じくして鳴った

 

「俺も同じことを考えていた……確かに時間が足りない。強くなりたいと言っているお前達に、ちゃんと一から基礎を叩き込むにはな」 

 

「まさか、楓さん達は昨日の朝からずっと……」

 

「いや、俺が鍛えたのは二ヶ月、つまり外の世界での四時間程になる。あいにく俺もずっと入りっぱなしは出来ないんでな、お前達も同じだけしごいてやるつもりだ」

 

 さあさっさと決めろ、そう言ってピッコロはコタロー達への返答を打ち切る

 

 コタローは隣に立つネギを見ると、既に体勢を立て直し同じくこちらに視線を送っていた

 

「……恨みっこなしやぞ」

 

「そっちこそ……」

 

 両者が望む順番は同じのようだ、どちらとも譲るつもりは無い

 

 ならばこれで決めるぞと強く握られる両者の拳、もちろん勝負は一回きり

 

 軽く前に引き、次の瞬間突き出した

 

「「じゃん!けん!……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

「な、なあせっちゃん、うちも流石に恥ずかしいて……たった一日会わへんかっただけやん」

 

「うっ、グスッ、お嬢さ……このちゃああああん!」

 

「……ミスターポポ、食事の支度してくる」

 

「あ、置いていかないでください!」

 

 どうやら楓が神殿から離れたのは、この光景に居合わすのを避けるためもあったようである




 ちなみに本作では精神と時の部屋の『定員二人』の解釈について
・入ること自体なら三人以上でも可
・ただし一日=一年の時間の流れは二人以下じゃないと発生しない
 としています

 次回は一週間後を予定しています、ではでは

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