ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第35話 もう日が無い!向かうは最高の修行場

 時は、たとえ望まなくても確実に進む

 

「っずあああ!」

 

「くっ!」

 

 体感時間という言葉があるが結局は同じだ、一時間過ぎれば一時間後がやって来る

 

 二十四時間過ぎれば二十四時間後がやって来る

 

「狗っ神ぃぃっ!」

 

「でっ、風楯(デフレクシオ)!」

 

 そして今から四十五時間後、天下一大武道会の開催はすぐそこまで迫っていた

 

 厳密に言えば開催は明後日の午前十時、現在の時刻は午後一時を回ったところ

 

 大会前日となる明日はあまり無理は出来ず、実質今日が修行の山場となる

 

 ネギとコタローは一対一の組手で総仕上げにかかっていた

 

「はぁっ、はぁっ……よー防いだなネギ、せやったらもう一本いくで」

 

「待ってコタローくん!さっきからすごい汗だよ、少し休憩を……」

 

「どアホ、もう時間が無いんやぞ。少しでも力付けんことには、大会で……」

 

 一時間近く続けているこの組手、ネギは休息すべしと提案するがコタローは聞き入れようとしない

 

 ネギに叱咤する傍ら突き出した拳を引き、構え直す

 

 しかしそこで突如身体が揺れる、コタロー視点からはネギの姿が一瞬歪んだ

 

 握られていた拳は解かれ、ネギの背後にある木の幹に手をついて体重を預ける格好に

 

 当然目の前でそんなことをやられ、慌てないネギではない

 

「コタローくん!?」

 

「あかん……ちょっと目眩してもうた」

 

「休まないとダメだって!」

 

 コタローの肩に両手をやって支える、更にそのまま下に力を入れて無理やり座らせた

 

 距離を詰めてみて分かったことだが、呼吸も荒くしっかりと聞こえる

 

 この数日間ピッコロの厳しいに厳しいを重ねた修行を遂行してきたが、それでもここまでの症状は見たことがない

 

 コタローは自身に、今まで以上の負荷をかけて今日の特訓を行っていた

 

「コタロー君、ここ最近ちょっと焦りすぎだよ」

 

「……楓姉ちゃん達は昨日の朝から、別メニュー言われてピッコロさんに連れてかれてるやろ?」

 

「それは仕方ないよ、ここに来た時点で二人とは大分離されてたんだから」

 

「それでもや!少なくとも二人に追いつかな、俺は満足できへん!」

 

 今この場にいるのは、ネギとコタローの二人のみ

 

 コタローが言うように、楓と刹那の姿は昨日から無い

 

 二人が起きた時には既におらず、ピッコロから言付けを頼まれたカモからの伝聞で別メニューのことを知った

 

 木乃香は近くの水場へ水汲みに行っており、カモもそれに付いて行っている

 

「あーーーーくそっ!時間が足りないんや根本的に!」

 

 どこからそんな気力が湧いて出たのか、コタローは天を仰ぎ叫ぶ

 

 それは仕方ないと宥めることは、ネギには出来なかった

 

 口には出さないものの、コタローと同じ不満をネギも持っていたから

 

 短い時間に追われながら修行に精を出していたことは、過去にもあった

 

 思えばそれが、『魔法戦士』という現在のスタイルに行き着く一つの切欠だったと思い返せる

 

 エヴァンジェリンの弟子入りテスト、古から教授を受けた中国拳法で茶々丸に攻撃を当てろというものだ

 

 告知から実施までの期間はたったの三日、それでもネギはがむしゃらに自らを鍛え、最後には合格出来た

 

 それと比べて今回はどうか、大会の存在を知らされたのは十日ちょっと程前、楓と刹那の実力を見せつけられピッコロと合同で修行するようになったのは五日前

 

 どちらをスタートラインと定めてもあの時より準備期間は長い、しかしゴール地点で飛び越えるべきハードルは今までの比ではない

 

 ネギもコタローと同じだ

 

「そう、だね……僕ももっと時間が欲しい。楓さんや刹那さんだけじゃない、悟飯君やピッコロさんに少しでも近づけるための時間が」

 

 大会だけではない、別れの時もほぼ決まっており迫っていた

 

 ドラゴンボールが復活するまで、残り十日前後

 

 他のみんなの安否も気になる以上、収集及び使用を遅らせることはしたくない

 

 大会が終った後でも少しづつ、と悠長なことも言ってられなかった

 

 そうしてネギも本心を吐き出し、両者の主張が出揃ったちょうどその時だ

 

「ふん、向上心はあの二人に負けてないようだな」

 

「「!?」」

 

 奥の大木の陰から聞き覚えのある声が飛んできた

 

 兆候はまるでなし、まるでこの場に瞬間移動したかのような突然の登場

 

「ピッコロさん!戻ってたんですか」

 

(あかん、全然気付かんかった……十メートルも離れてへんぞ)

 

 気配を完全に消していたことにネギは純粋に驚き、コタローは己の未熟さを再確認し歯噛みする

 

 ネギ達のすぐ前まで歩み寄ると、ピッコロは左右に軽く首を振った

 

「木乃香とカモは……もうじきここに戻ってくるな、手間が省けてちょうどいい」

 

「え、何で分かっ……」

 

「俺の耳は普通の奴とは出来が違うんだ、まあそんなことはどうでもいい」

 

 木乃香とカモの会話、そして足音を聞き取ると顔を正面に戻す

 

 その先にはまだ座ったままでいるネギ達、彼らを見下ろすような形で話を続ける

 

「俺が連れて行く前、あいつらも同じことを言っていた。時間が足りない、もっと欲しいとな」

 

「実際そうやからしゃあないやん、大会が延びるわけやないんさかい……」

 

「そこで、今あいつらには特別な修行をさせている。さっきお前達がやっていた組手より、何百倍も効率のいい修行をな」

 

「っ、何百倍……」

 

「なんやそれ!?」

 

 特別、何百倍、その言葉は二人を十二分に惹きつける

 

 予想通りの食いつきに、ピッコロは口元を釣り上げた

 

「ただし、その分苦しみも相当だぞ。断言できるがお前達の想像を遥かに超えている、ここでの修行なんぞ比にもならん。あいつらはそれを承知で俺について来た、お前達はどうだ?」

 

「上等や!ネギ、俺達もやったろうやないか!」

 

「……うん!」

 

「あれ、ピッコロさん帰ってきたんか」

 

 二人の決意と共に、草木が揺れ音を立てる

 

 先程のピッコロの予測通り、カモを肩に乗せ木乃香が帰還

 

 木乃香はピッコロの姿を確認すると、昨日一緒に連れて行った二人の行方を周囲を見回して探す

 

「……せっちゃん達は一緒と違うん?」

 

「ネギ、木乃香を背負ってやれ。流石にこいつらだけで半日以上置いておくわけにもいくまい」

 

「あ、はい」

 

 ピッコロに言われ、ネギは木乃香を背負う

 

 今から移動する先に刹那達がいる、そのことを木乃香は察し特にピッコロに追求はせず素直にネギの背へ乗った

 

 ついてこいと言い、ネギ達を先導する形でピッコロは舞空術で飛翔

 

 その後をネギとコタローが追う、進行方向は上向きでどんどんと高度が上がる

 

 さっきまでネギ達がいた場所は山中、あの時点でそこそこの高さがあったのにだ

 

「ひゃー、すっごい高いわー」

 

「落ちないようにしっかり捕まっててくださいね、木乃香さん。あの、ピッコロさん、一体今からどこへ……」

 

 杖のように落下防止の補助がかかるわけでもない、あやかのようにいざという時自力飛行出来るわけでもない

 

 当然ながら、木乃香を背負うネギは自然と慎重になっていた

 

 極力揺らさぬよう気を配り、背負られる当人にも注意を促す

 

 そんな中で尋ねてきた内容に、ピッコロは短く簡潔に答えた

 

「地球の神がいる所だ」

 

「か、神様!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、ピッコロ、他の異世界人連れてもうじき戻ってくる」

 

「そうみたいですね」

 

 聖地カリンにそびえ立つカリン塔、その頂上からさらに上へ行ったところに神殿があった

 

 曲面を下向きにした半球に近い形をしたものが宙に浮き、その平面部分のやや外側に建っている

 

 そこに住んでいるのは他でもない、言葉通りの神様である

 

 カリン塔の主であるカリンから認められた者しか入ることを許されない、一般人には不可侵の領域

 

 ロケットやジェット機で向かおうものなら周囲の結界に弾き返される、元々はそういう場所だった

 

 しかし一年前に起きた神の代替わりと前後し、結界の類は張られなくなり誰でも入ることが可能になっている

 

 とはいっても存在さえ知らなければ近づく者はおろか見かける者さえ誰一人としておらず、神の居住地としての秘匿性は一定を保ち続けていた

 

 そんな神殿に新たな来訪者が接近中、それを迎えようと表に出る二人の姿があった

 

 体色、顔つきはピッコロそっくり、一方で背丈はネギよりも小さい少年

 

 隣に立つのは肌黒でやや太めの男、格好はネギ達の世界でいうところのアラビアンな雰囲気を漂わせる

 

「気とは違う別の力が一つ……楓さん達が言っていた、ネギさんという人でしょうか」

 

「多分そう、昨日までいた天津飯達といい、最近人来るの多い」

 

 地球の神デンデが推測した通り、こちらに向かう一行の内の一人はネギ

 

 ほどなくしてピッコロ達は到着、連れてきたのは少年少女三人にオコジョが一匹

 

 その中に、話で聞いたとおりの容姿の少年の姿があった

 

「あ、えっと初めまして。ネギ・スプリングフィールドといいます」

 

「知ってる。それとあっちがコタロー、そっちが木乃香。楓達から話、聞いてる」

 

 到着早々、コタローと木乃香は宙に浮かぶ建造物に興味を示したのか辺りを見渡す

 

 残るネギは三人を代表するような形で挨拶をし、ポポがそれに応える

 

 指を差され名前を呼ばれた二人はポポの方へ向き帰り、会話に加わった

 

「あ、やっぱりせっちゃん達ここにおるんや。んーと、神様がおる言われたんやけど……」

 

「私ミスターポポ、神様の付き人。そして、こちらが神様」

 

「うおっ、ピッコロさんそっくりやん!」

 

「僕とピッコロさんは同じナメック星人ですからね」

 

「ネギ、コタロー。話はそれくらいにしてついてこい」

 

 自己紹介もそこそこに、ここに来た本来の目的にピッコロは帰着させる

 

 木乃香のことをポポに任せ、ネギとコタローを引き連れ神殿へと入っていった

 

 神殿の周囲に人影はなく、楓と刹那がいるとすればこの中ということになる

 

(……おっかしーなぁ)

 

 だがどういうことだ、そう思いコタローは首を捻る

 

 いる筈の二人の気が微塵として感じられない、中にいるのは自分達三人だけのように感じる

 

 気配を消して隠れているのかと一瞬考える、しかしさしてそうする理由が無い

 

 ネギの方を見ると、同じようなことを考えているのか少々眉をひそませていた

 

「もうじきあいつらが部屋から出てくる、そうしたら今度はお前達の番だ」

 

「部屋?」

 

「ここだ」

 

 三十秒とかからず、ピッコロは足を止める

 

 正面には一枚のドア、ここがピッコロの言った部屋か

 

 ドア越しで楓達の気を感じられないほど二人は鈍感じゃない、まずまず疑念は深まるばかりだった

 

「あの、ピッコロさん、本当に楓さん達がこの中に……っ!?」

 

(なんや、これっ……!)

 

 ピッコロの方へ一歩踏み出し、耐えかねたネギが尋ねようとしたその時だ

 

 ドアのノブが内側から音を立てて回り、開かれる

 

 その隙間から漏れ二人の背筋を痺れさせる大きな気、これが突然に出現した

 

「おっ、ネギ坊主達もやはり来たでござるか」

 

「ピッコロさん!あの、木乃香お嬢様は……」

 

 その主は他でもない楓と刹那の二人、この事実がネギ達を更に戦慄させる

 

 別れてから丸一日と少し、にもかかわらず彼女達は想像を遥かに超えるパワーアップを果たしていた

 

(まるで別人や……この世界で一週間ぶりに再会した、あの時よりも伸び幅がぶっ飛んどる!)

 

(しかも、たった一日で……)

 

「木乃香なら表だ、今はポポ達と話でもしているところだろう」

 

「失礼します!」

 

 持ち込んでいた夕凪を右手に握り締め、刹那はすぐさまこの場を離れ走り去る

 

 その後ろ姿をフフと笑いながら見送った楓は、ピッコロへと向き直った

 

「ピッコロ殿、拙者もこれで失礼致す。残りの時間は一人で調整と休息にあてさせてもらうでござる、合流は当日の朝ということで」

 

「俺に手の内を見せたくない、ということか」

 

「あいあい、では」

 

 長居は無用、楓は三人の前から一瞬で姿を消した

 

 実際のところは超スピードでこの場から移動しただけなのだが、ネギ達からすれば動きを目で追うことも叶わず瞬間移動と見なしても大して変わりがない

 

 到着時と同じく、部屋の前に三人が立つ構図に戻った

 

「……入るで、ネギ」

 

「う、うん!」

 

 この部屋の中に何が待ち受けるか、ネギ達はまだ知らされていない

 

 来る前に聞かされた『想像を遥かに超える苦痛』の存在、それに対する不安は完全に払拭されたわけではなかった

 

 しかし今の楓達の姿は、少年二人の足を扉へと更に向かわせた

 

 ピッコロを抜いたコタローが扉に手をかけ、それにネギが続く

 

「よし、いい目だ。ここがお前達の修行の総仕上げの場……」

 

 扉が再び、開かれた

 

「……精神と時の部屋だ」




 ついに遅れてしまいました、連絡もできずすみません。
 次回は一週間後を予定しています、ではでは

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