ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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 触れるのが少々遅れましたが、お気に入り登録が200件を突破しました。みなさん応援ありがとうございます。


第31話 ちう茶々地球冒険録⑤ 終戦編

(実際のところまずいですね、消耗具合から考えてこちらの方が尽きるのが恐らく先でしょう)

 

「ハハハハどうした!始めに襲ってきた時の威勢の良さはどこへ行った!」

 

 道場の中で、拳と蹴りの交わし合いが続く

 

 序盤こそ茶々丸が今にも押し切らんばかりの猛攻を見せるも、現在はかなり落ち着きを見せている

 

 一方の桃白白は自分のペースを崩さず、茶々丸が崩れた瞬間即牙を剥かんと隙の無い攻防

 

 壁の隅にいた者も今は全員道場から脱出し、中にいるのは二人きり

 

 これでひとまず、『これ以上の犠牲者を出さない』ようにと考える茶々丸の第一目的は達成したことになる

 

 すると次に成すべきことは、『目の前のこの男を退散させるないしは無力化させる』である

 

 しかしこれはかなり厳しい、茶々丸は桃白白の貫手を避けつつ改めてそう認識

 

(始めに皆さんを逃がすため、かなりのエネルギーを消耗してしまいました。まだ幾らか余裕があったからとはいえ、今朝方千雨さんから魔力供給を受けなかったのは完全に失敗でしたね)

 

 開戦当初、茶々丸は自身のエネルギーである魔力をフルパワーで開放

 

 桃白白を壁際まで無理矢理力技で押し込み、倒すとまではいかないものの釘付けすることに成功していた

 

 その目的は、当時まだ道場内にいた者を安全に外へと逃がすため

 

 同時に先程桃白白にやられた弟子達も運び出すよう拳を振るいながら指示をし、多量のエネルギーを犠牲にそれは何とか遂行された

 

 しかしそこからが問題、あの出力で猛攻をしながらも桃白白を制するには届かない

 

 戦闘時間が明らかにもたないことを計算した茶々丸は出力を落とし技巧戦に持ち込むが、それでもなお桃白白を落とす術が見つからずにいた

 

「ずあああっ!」

 

「くっ!」

 

「ほう、止めるか」

 

 飛んできた桃白白の左拳を右掌で掴み取る、押し切られることはなく拮抗状態を維持

 

 他の四肢による攻撃が無いかと注意を向けるが、その気配はない

 

「しかし貴様、わかっているだろうな?殺し屋の私の仕事をここまで邪魔しているんだ、さっきの雑魚共に対する仕打ち程度じゃ済まさん。殺される覚悟があるものとこちらは判断させてもらうぞ」

 

「……」

 

 茶々丸は無言の肯定、桃白白もそれを受け取り拳を茶々丸に向けて押すが押しきれない

 

 自分が掴み向こうが掴まれている以上、ひとまずイニシアチブはこちらにある

 

 そう判断し手を解かず策を模索する茶々丸に対し、

 

「そうか、では遠慮なく」

 

「しまっ……」

 

 桃白白は手をかける、茶々丸は完全に虚を突かれた

 

 右手にあった手応えが消失、桃白白の拳から力が抜ける

 

 いや、『力が拳から』抜けたのではない

 

 正しくは、『拳が桃白白から』外れたのだ

 

「もらったああぁぁ!」

 

 左手が外れた桃白白の手首から飛び出すは仕込み刀、狙う先は茶々丸の右脇

 

 力の押し合いから急遽解放された茶々丸は右半身から体勢を大きく崩し、かわせない

 

「くっ!」

 

「む?」

 

 最大限の抵抗としてその場で身を捻るが、それでも桃白白の刀は茶々丸の身を抉った

 

 追撃の手からは後退して逃れ、両者の間を離す

 

 そこから距離を詰めるかと思いきや、桃白白は訝しんだ顔で自身の刀を眺める

 

「……成る程、機械仕掛けかその身体は。私と同じサイボーグというわけだな、中々の動きだが一体どこまで改造した?」

 

「いえ、私はサイボーグではなくアンドロイドです。正確にはガイノイドですが」

 

 茶々丸を切った瞬間、今まで手にかけた者達とまるで違う手応えを感じた

 

 刀を見れば一目瞭然だった、血肉は一切付着せず僅かに刃こぼれまで確認できる

 

「まぁいい、そんなことは大した問題じゃない。サイボーグにしろアンドロイドにしろ人間にしろ、さっきの攻撃を受ければ途端に動きが落ちるのは明白だからな」

 

 口でも行動でも、桃白白の言葉を否定することは出来なかった

 

 彼の刀は茶々丸の右脇を深々と抉り、下半身に重心を置いて踏ん張ったり腰を捻ったりといったような動きが著しく制限されている

 

 先程までと同じ攻防は期待出来そうにない、決着は近いなと桃白白は推測しほくそ笑む

 

 すると慌ただしい足音と共に、一人の男がやってきた

 

「うおーっ!道場破りめ!このミスターサタンが成ば……げええっ!?」

 

「おっと丁度いい、探す手間が省けた」

 

 現在位置を整理すると道場の入口側に茶々丸、奥の方に桃白白が立っている

 

 そこへ意気揚々と駆け込んで一秒と経たず、ミスターサタンは足を止め腰を引いた

 

 その理由は道場にいる見覚えのある服装の男を見たからで、次に髪型を見てほぼ確信に変わる

 

 かつて自身に瀕死の重傷を負わせたあの男がここにいる、自分を殺しにやってきた

 

(こ、こりゃマズイ。ひとまず退散し……っおい!ちょっと待て!)

 

「さあサタン!早くあの女の子に代わって倒してやってください!」

 

「「サーターン!サーターン!」」

 

 下がって道場から数歩出たところで、後ろから背中を直接押す一人の弟子、言葉で背中を押してくる多数の弟子達

 

 再び戻されそうになったところで、踏ん張っていた両脚を突如折りサタンはその場でうずくまる

 

 突然の行動に弟子の一人がどうしましたと声をかけるが、それは瞬く間にサタンの声にかき消された

 

「あー痛たたたたっ!くっ、くそぉっ!こんな時に、セルと戦った時の脇腹の古傷があぁっ!」

 

「え!?」

 

 かつてセルゲームでも用いた方法で、参戦回避を試みる

 

「しかし、サタンが戦わなければあの女の子がどうなるか……」

 

「うっ……す、少し経てばマシになる!だからほんのちょっとだけ休ませろ!あの男を倒すためだ!」

 

 サタンを無理に立たせて戦場に放り込もうとする者は、一人もいなかった

 

 罪悪感が僅かに残るが、ひとまず時間は稼げるかとサタンは少しばかり安堵する

 

 しかしそれは一瞬の安堵、その場にうずくまりろくな動きが出来ない今の状態を桃白白が見逃すはずがなかった

 

「もらったあああっ!」

 

「させません」

 

 突撃する桃白白、阻止せんとする茶々丸

 

 掴んででも動きを止めようと手を伸ばすが、桃白白はその場で跳躍し飛び越えてかわす

 

 振り上げる左腕の刀、サタンに逃げる余裕は無い

 

(ひっ、ひえええええっ!)

 

 刀はサタンを頭から真っ二つに切り裂かんと真上から振り下ろされ

 

「ぬおおおっ!?」

 

「えっ」

 

 刃の切っ先が目鼻の先を通過、つまり当たらず空を切った

 

 驚きのサタンが見たものは、足を浮かし腹を地に向ける桃白白

 

「ミスターサタン、この場からすぐ逃げてください」

 

 桃白白の右足首を掴む腕があった、ただし肘よりやや先の部分までしかない腕

 

 直接移動では追いつけないと判断した茶々丸は、右腕のロケットパンチを発射していた

 

 引き戻し用のロープを伴った有線式であるため刀を持つ桃白白相手には控えたかったが、緊急事態でやむを得ず使用

 

 結果、桃白白を腹這いで地に伏せさせ、サタンは九死に一生を得る

 

(たっ助かった、しかしどうして見ず知らずの私のためにここまで……ロボット!?)

 

 飛んできた茶々丸の腕を見て、彼女がロボットであることをサタンは把握する

 

 危機から救わんと動く機械人間

 

 サタンの頭にこの言葉と、一年前に会った一人の男のことが浮かんできた

 

(逃げろとあの子が言ってるんだぞ、何でこんな時にあいつのことを……)

 

 たった数分の出来事だった

 

 もしもう少し早くあの場所から逃げていれば、会うことすら無かった

 

 なのに彼の言葉が、よりにもよって逃げたいと思うこんな時に頭から離れない

 

 

 

 

“お……お前も少しは役に立ちたいだろ?か……格闘技の世界チャンピオンらしいから……”

 

 

 

 

「くそっ、小娘め小癪な真似を……」

 

「だありゃーーっ!」

 

「何ぃっ!?」

 

 気付けばサタンは手刀を放っていた、その先にあるのはさっきまで自分を狙っていた刀

 

 自分に恐れをなしていたサタンの方から動くことはない、そう考えていた桃白白は茶々丸にばかり気が向きサタンは完全ノーマーク

 

 世界チャンピオンの一撃は、根元からその刀身を折った

 

「貴様ーー!」

 

「ひええっ、ごめんなさ……」

 

 サタンに掴みかかろうと右手を伸ばす桃白白だが、再び空を切る

 

 飛ばしていた右腕を、足首を掴んだままワイヤーを引き戻して茶々丸が回収

 

 引きずられながら、桃白白は道場内へ戻される

 

 そのまま茶々丸は後方へ投げ飛ばし、再びサタンと桃白白の間に茶々丸が入る形

 

(左手の刀は使えず、相手は実質片手。これなら充分戦えます)

 

 先程外した左手は茶々丸の近くの床に転がっていた、拾って再装着しようと近付こうものなら茶々丸の攻撃が先に決まるだろう

 

「よもや私がここまで苦戦することになるとはな……だが、それももう終わりだ!」

 

 しかし左手を取り戻そうと桃白白は考えていなかった、すっと右腕を上げ正面へ水平に伸ばす

 

 左手の時と同じ音を立てて、今度は右手が桃白白から外れた

 

「今度は何を……」

 

「一撃で決めてやる!このスーパーどどん波でな!」

 

 断面から覗くのは発射口、既に発射準備に入っており徐々に光を帯びていく

 

 桃白白の両目のスコープはそれぞれが休みなく動き、茶々丸に照準を絞る

 

「避けたければ避けるがいい、スーパーどどん波はどこまでも追っていく。その最中に後ろの奴らが巻き添えを食うとも限らんぞ?」

 

「っ!」

 

 茶々丸は完全にタイミングを逃していた、最善の手段は右手を外した瞬間接近戦で攻め込むことだった

 

 スーパーどどん波も撃てず両手も使えない状況なら、右脇の損傷のハンデを加味しても勝機はかなりあっただろう

 

 今から接近しても、上手く引きつけられたのち至近距離で撃たれてお仕舞いだ

 

 目からレーザーを撃っても向こうが撃つ前ならかわすだろうし、相殺を狙おうにも確実に威力不足

 

 すると取れる選択肢は、避けるか正面から防御するかの二つしかない

 

「はっはっは!覚悟を決めたか、いいだろう!」

 

 茶々丸は後者を選び身構え、桃白白は高らかに笑う

 

 音と光の大きさが更に増す、威力が相当のものである事は間違いない

 

 耐えきれるかどうかは分からない、完全に賭けだった

 

「スーパーどどん波ーーーー!」

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 桃白白の口から漏れる、怪訝そうな声

 

 おかしなことが起こった

 

 桃白白は技名を叫んだが、一向にその技が放たれない

 

「スーパーどどん波ー!……っ!?」

 

 チャージしたエネルギーが徐々に失われ、発射口から光が消える

 

「ど、どうしたというのだこれは!?今まで故障したことなど一度も……」

 

 予想外の出来事に困惑、左腕で叩いたり中を覗き込んだりするが改善の兆しは見えない

 

 原因を把握するのは、周りから彼らの声を耳にしてからのことだった

 

〔解析完了ですちうたまー〕

 

〔発射プログラム停止させましたー〕

 

〔すっごいギリギリでしたが間に合いましたー〕

 

〔茶々丸さんチャンスですー〕

 

「何だこいつら!?いつの間に私の近くに!」

 

「あれは……」

 

 桃白白の周囲を、黄色いネズミのような生物が四匹飛んでいた

 

 『ちうたま』というのが誰かは分かりかねるが、言葉の端々からスーパーどどん波を止めたのが彼らだと桃白白が結論づけるのはそう遅くはなかった

 

 腕を振るって叩き飛ばすが、装置に回復の兆しは見られない

 

 しかも何度倒しても蘇る、これではきりがないと桃白白は憤慨していた

 

 一方であの四匹に見覚えがあった茶々丸は後ろを振り返る、予想通り彼女がいた

 

(あのバカ、やっぱり面倒事に巻き込まれてるじゃねえか!)

 

 身体の大半を壁に隠しながら中の様子を伺う少女、長谷川千雨はしかめっ面で自身のアーティファクトを握り締める

 

 千雨のアーティファクト、力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)の能力は電子精霊の使役と電子空間への干渉

 

 サタンに少し遅れて道場に駆けつけた千雨は、茶々丸と対峙する桃白白を見てすぐに彼が機械類に何らかの恩恵を受けていることを予測

 

 何かあってからでは遅いとアーティファクトを展開し、解析及び茶々丸のサポートになる対処を電子精霊に命じ飛ばしていた

 

 桃白白のスーパーどどん波は、サイボーグへ改造したことによる科学兵器の色合いが強い

 

 エネルギーのチャージ及び発射には内部の機械を介さなければならず、そのことを解析した電子精霊達はすぐさま内部に侵入しその機能を停止させていた

 

(助かりました、ありがとうございます千雨さん)

 

 スーパーどどん波はもう撃てない、茶々丸が一転攻勢に出るには充分な理由だった

 

 再び右腕を正面に向け、出力全開で発射

 

 電子精霊を追い払おうとする桃白白は反応が遅れ、腹へ一撃を見舞われる

 

「っがあぁ!こっの……しまった!」

 

 その場で踏ん張り動かない桃白白の服をそのまま右手は掴み、先程同様ワイヤーを引き戻し回収

 

 ワイヤーを切ろうと左腕を振るが、刀は既に折られていて使えない

 

 振りかぶった茶々丸の左拳が、こちらの顔面へ飛んでくる

 

(だがそんな一撃、余裕で防御してや……!?)

 

 そこへ更なる非常事態が桃白白に襲いかかった

 

 正面に見据えていた茶々丸の姿が、突如現れたノイズに隠れて見えなくなる

 

 スコープの明らかな故障、もちろん原因は

 

〔モニタリング関係もアクセス完了ー〕

 

〔どんどん妨害しますよー〕

 

 彼ら電子精霊である

 

 茶々丸の一撃は見事顔面を抉り、インパクトの瞬間に右手を離したことで桃白白は殴り飛ばされ道場の壁を突き破った

 

「やった!倒したぞ!」

 

「いいえ、まだです」

 

 サタンが喜びの声を上げるが茶々丸は即座に否定する、あの一撃だけではまだKOには至らない

 

 右腕を嵌め直し、後を追って駆け出る

 

 破れた壁を抜けると、やはり桃白白は立ち上がっていた

 

 横には根元から折られた一本の木、幹の部分から先までは彼の腕の中に収まっていた

 

 両手共に無いため腕部分で挟む無理矢理な形だが、常人を遥かに超える腕力はそれを可能としている

 

「……それを武器として私に振るうつもりでしたら、無駄だということを予め忠告しておきます」

 

「ふん、勘違いするな。いいか、今回は不覚をとったが次はそうはいかんぞ、チャンピオン共々念仏でも唱えて待っているんだ……なっ!」

 

 桃白白は持っていた木を、茶々丸とは正反対の方へ勢いよく投げ飛ばす

 

 直後に彼の足は地を蹴り、同じ方向へと跳躍

 

 幹の上へと着地し、彼を乗せた木は遥か彼方へと飛んでいった

 

(距離を取ってようやく視界が回復したか。くそっ、よもや私が同じ奴を二回も殺し損ねるとは……これであいつが二人目だ。それに茶々丸とか言ったな……奴はいつか私の手でバラバラにしてやる!)

 

 あくまで実力では負けていない、そう自負する桃白白だったがいかんせん状況が悪すぎた

 

 戦略的撤退を決意し実行した彼の内心は決して穏やかではなく、顔面全体が強張り歯ぎしりを大きく鳴らした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミスターサタン、お怪我はありませんか」

 

「え?ああ、はい……」

 

 桃白白の姿が見えなくなると、茶々丸は引き返し道場の入口を出る

 

 見るとサタンが腰を抜かしたままその場にまだ居たため、手を差し出し立ち上がらせた

 

 横を向くと千雨が隅でアーティファクトをカードに戻しているのが見えたが、目が合うと千雨の方から逸らしてきた

 

 大騒ぎの一因を担った茶々丸の知り合いだと周囲にバレるのを恐れたためで、茶々丸も無理に話しかけるような真似はしなかった

 

 サタンが無傷であることを確認すると、次に茶々丸は自身の身の振り方について考えることとなる

 

(ひとまずこの場からは退散した方が無難でしょうか。やはり右脇の損傷具合が気になりますし、ハカセのようにはいかないでしょうが簡易的な修理を何処かで……)

 

「すっごーい!ねえねえ、あなたって凄く強いのね!」

 

「貴方は……」

 

 屋敷の出口の方に足を向けたところで、腰元に抱きつく一人の少女がいた

 

 振り返ってみれば見覚えのある顔、先程茶々丸が助けだしたサタンの一人娘ビーデルだ

 

「私ビーデル!さっきは助けてくれてありがとう!」

 

「絡繰茶々丸です、そちらも怪我一つ無いようで何よりでした」

 

「茶々丸ね!ねえ茶々丸お願い、私のコーチになって!」

 

「え!?」

 

「コーチ、ですか?」

 

 お礼の言葉に続いて、予想外の言葉が飛んできた

 

 真っ先に驚きの声をあげたのはサタン、それに少し遅れ確認も兼ねて茶々丸が訊き返す

 

「そうコーチ!私茶々丸みたいに強くなりたい!」

 

 茶々丸に助けられた後も、ビーデルは彼女の戦いを見続けていた

 

 自分と同じ女性でありながら、あの男と互角の戦いを展開した彼女にビーデルは憧れを抱かざるにはいられなかったのだ

 

 途中で茶々丸が腕を飛ばすという非人間的な動きも見ていたが、それを除いた上でも実力は本物と信じて疑わない

 

「パパは最近相手してくれないし、道場のみんなは私がパパの娘だからってどこか遠慮してるし……だから茶々丸に鍛えて欲しいの!」

 

「ですが私は部外者の身で……」

 

「……あっ、そうだ思い出したぞ!いやー私としたことがすっかり忘れていた!」

 

 茶々丸が難色を示したところで、いきなりサタンが大声をあげる

 

 弟子の一人がどういうことかと尋ねると、サタンは茶々丸の肩に手をかけ話し始めた

 

「この子はその……そう、私が遠征先でスカウトしてきた新しい弟子でな。ビーデルも最近年頃だし、気兼ねなくマンツーマンでコーチ出来るような人材を探していたんだ」

 

「あの、ミスターサタン」

 

 当然今言っていることは口から出まかせだ、茶々丸本人の口から否定することは容易い

 

 しかしサタンがボソボソと、茶々丸の口を止め彼女のみに聞こえるよう話しかける

 

「えーとその、出来たら話を合わせて頂きたいんですが」

 

「そう言われましても……」

 

 話し方はいつの間にか敬語混じり、サタンはどうしてもそういうことにしておきたいらしい

 

「ビーデルもああ言ってることだし、ここは一つ私の顔を立てて」

 

(千雨さん、この場合私はどうしたらいいんでしょうか)

 

(ええい!こっちを見るなこっちを!合・わ・せ・と・け!絶好の機会じゃねえか!)

 

(了解しました)

 

 サタンが茶々丸にこっそり話していた内容を概ね察していた千雨は、再び目を向けてきた茶々丸に目を尖らせ『合わせとけ』と口パクで返答

 

 かなりの面倒事に巻き込まれたのも事実だが、一方で相当の収穫だった

 

「……そうですね、よく考えてみれば私はミスターサタンに呼ばれた身でした。そして理由はビーデル様、貴方の専属コーチとしてです」

 

「本当!?」

 

 世界チャンピオンの娘の専属コーチ、これは専属メイドに勝るとも劣らない立ち位置

 

 大会への同伴もおそらく問題なく可能であるし、この世界の情報収集においてもかなり有利に進めることが出来るだろう

 

「ガッハッハ、本当だともビーデル!最近頑張ってるお前にパパからのご褒美だぞ(たっ助かったー……さっきの奴がまた来るみたいなことを言ってたし、この子が相手してくれなきゃ私が殺されてしまう)」

 

「今日からよろしくお願いします」

 

「うん!」

 

 周りもサタンの言葉を信じ、サタンがスカウトしてきた弟子なら強いのも納得だと茶々丸の存在を受け入れる

 

 事態を何とかまとめたサタンは、オーディションの再開を宣言し屋敷へと帰還

 

 ビーデルは茶々丸を引っ張って何処かに行ってしまい、残った千雨は一人息を漏らした

 

(ったく、今回もたまたま上手くことが運んだからいいものの……これじゃ先が思いやられるっつーの。まさか今度の大会でも変なことに巻き込まれたりしねーだろうな)

 

 その答えは数日後、本人が直接大会会場で目にすることになる

 

 夕方になるとオーディションの合格者が発表され、その中には千雨も入っていたのだ

 

 天下一大武道会、開催は刻一刻と迫っていた




 茶々丸対桃白白は元々リメイク前でも書いた話でしたが、パワーバランスの変更や『千雨が空気にならないよう介入させよう』という意図のもとストーリー構成ごと一から新しく書いてます

 連休での書き溜めが中途半端だったため次回はおそらく一週間後くらいです、ではでは。

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