ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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 予定以上に筆が進んだので早めにもう一話。勢いがある内にどんどん書き進めたいところ、ではどうぞ


第26話 極めろ咸卦法! 目指せアスナ頂点へ

「はぁー、はぁー……やっばいかも、これは」

 

 吐き出される息は、回数も量も規則性がなく荒い

 

 頭部から出た汗はこめかみから頬へと滑り落ち、柱に両手でしがみついてる現状では拭うことも出来ずそのまま首筋まで向かったところで服の生地に吸われ消える

 

 全身からも流れ、高度が上がるにつれ初めは体温ほどあった汗も次第に本人の身を震わせる冷や水へと変貌

 

 咸卦法を発動さえしていれば簡易的な防寒・防熱作用が働くため本来ならさして問題はないのだが、アスナの全身からは咸卦の気が消えていた

 

 天津飯との修行で実力を高めていたアスナだったが、実力の向上がそのまま咸卦法の継続時間の増加には繋がっていない

 

 咸卦法とは気と魔力の合成によるものであり、この世界へ来る以前からアスナは魔力より気の絶対量の方が上

 

 するとどうなるか、これまでの修行の中で魔力増加に繋がるものはなく増えたのは気

 

 魔力の絶対量が変わらぬ以上、生み出すことの出来る咸卦の気の量に変化は無い

 

 その持続時間は、いつもどおりだだ漏れ状態ではもって三十分

 

 無論アスナも成すがままにだだ漏れのまま登っていたわけではない

 

 三十分で登りきれるなんて甘い見通しは端から無く、咸卦の気の放出量のコントロールを自分なりにしようと努める

 

 しかし登り始めてからの土壇場ではそうそう上手くいくものではなく、出力を半分ほど減らすので精いっぱい

 

 それでも本来抑えるべき目標とは程遠く、さらに量を減らそうとすると勢い余って完全に切ってしまう、もしくはそうなりそうなところから慌てて少し増やそうとして結局全力放出になるかという両極端

 

 しかも咸卦法発動には両手を合わせる必要があり、切れた際の再発動には気を込めた足のみで一時的に身体を支える必要がありとにかく困難を極めた

 

 そういったこともあり現在アスナがとっている手段は、『とりあえず咸卦法を使わずいける範囲まで登り、限界が来たら咸卦法で登る』というもの

 

 咸卦法を使わない間に魔力の回復を図り、出来る限り登り続けつつ咸卦法の使用時間を伸ばそうという考え方

 

 その結果はどうだったかというと、冒頭の彼女の台詞に集約されていると言えよう

 

 気のみでの身体強化は、咸卦の気のそれと比べれば遥かに劣る

 

 当然登る速さも、身体への負担も、消耗する体力もそれに伴い変わるのは明白

 

 魔力が全快するまでは持つだろうというのはとんだ計算違い、手足・身体は上空で柱にしがみついたまま動きを止めていた

 

「甘く見てたわけじゃ、ないけど……はあっ、やっぱり長すぎでしょこの塔」

 

 地上を見下ろすといった真似はあえてしないが、相当の距離を今まで登ってきたのは容易にイメージできる

 

 では逆に見上げてみるとどうか、その先はひたすら雲

 

 カリン塔の頂上、一足先に天津飯が上がっていった仙猫カリンの住処は未だ見えない

 

 こうやって暫く動きを止めていると、体力の回復はともかく呼吸はとりあえず安定し始めた

 

 今のまま、気のみでの登頂はもう無理と判断したアスナは再び咸卦法を発動する

 

 もとはと言えば咸卦法で登りきることが今回の修行なのだからと胸の内で復唱し、再度咸卦の気の調節に努め始めた

 

「出し過ぎても駄目、出さな過ぎても駄目……」

 

 アスナの全身から出る咸卦の気が不安定に増加減少を繰り返す

 

 登り初めに挑戦した時と比べ魔力の量は少ない、吹き出す咸卦の気の勢いもそれに伴い落ちていた

 

「ああもう、全然回復してな……あれ、でもさっきより」

 

 咸卦の気を纏う間は身体の負担も減るため、止まっていては勿体ないと少しづつ登りながら調整を行っているアスナ

 

 そこでふと、気を増減させている自身の両腕を見てアスナは最初との相違点を見つけた

 

「……小さく抑えられてる?」

 

 前述の通り、出力を全開時と比べて減らすこと自体は既に彼女は可能である

 

 しかしそれは全体の半分、元々の持続時間が三十分なのだから倍になっても一時間が関の山

 

 だが今アスナがひとまず安定させて抑えている咸卦の気の出力はどれ程なのか

 

 半分どころではない、三分の一ないしは四分の一にまで減っているのが大きさから見てとれた

 

「あ、そっか。『今の気と魔力から出せる咸卦の気の最大出力』の半分の大きさがこれなんだ……」

 

 疲弊状態から全快を待たず再開したことによって生まれたこの事態

 

 アスナはこれを吉と捉える、そして身体に叩き込みながら登る

 

 登る際の負担は、体力消費の疲労を差し引けば序盤とさして変わりない

 

 咸卦法の出力が、カリン塔を登る現在の状況に適したそれに着実と近づいていることを示す

 

「この状態を、魔力が全回復した後でも出来れば……いけるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、少々じゃが持ち直したようじゃな」

 

「そのようですね」

 

「……にしても、じゃ。あの娘は何故あそこまでして自身を鍛えようとしておるんじゃ?いくらお主に恩義を感じとるからといって、一切拒まずカリン塔に挑戦するというのはちと疑問を覚えるぞわしは」

 

 カリン塔の最上部から、カリンはアスナの様子を見下ろす

 

 隣には天津飯、雲に隠れて姿こそ確認出来ないが気と魔力の増減具合から今の状態を大まかにであるが把握しつつカリンの言葉を耳に入れて補足していた

 

 そこへカリンから飛んでくる一つの疑問、天津飯は数秒言葉を濁した後それを返す

 

 アスナが修行を開始した大まかな経緯は、来訪直後にまき絵と説明した際に話していた

 

 命の危険に晒されたまき絵を救出したこと、加えて当面の間の衣食住の手配をしてくれたこと

 

 その恩に少しでも応えるべく、天津飯の修行を手伝おうと考えたのが始まり

 

 加えて、大会のことを知り自分も参加しようと意気込んだというのは先に語った通りである

 

「以前、修行の終わりにアスナがこうこぼしたのを耳にしたことがあります……『今のままじゃ駄目なんです、もっと強くならなきゃ』と」

 

 天津飯が記憶を遡った先は数日前、修行の終わりにアスナと話していた時のこと

 

 彼女とまき絵がこの世界へ来る直前までいた、麻帆良学園での学園祭についてが話題

 

 クラスメイトの一人超鈴音が起こした、秘匿の存在『魔法』を全世界に知らしめようとする大規模テロ

 

 それに対し、阻止せんと動いたアスナ含めたネギ一行(パーティ)

 

 特に少年ネギ・スプリングフィールドによる縦横無尽の活躍は、首謀者超を打ち破り彼女の計画を止めるに直接繋がったものである

 

 そんな彼についてや、他にも共に協力して戦ったクラスメイト達についてもアスナは話していた

 

 しかし途中で天津飯ははてどうしたと気付く、アスナは自身のことについてはまるで話そうとしないではないか

 

 指摘するとアスナはこう言った、私はネギや千雨ちゃんみたいな大それた活躍は出来てませんと

 

 戦力として買われ戦場に立って幾らか貢献こそしたが、自身の力は同じ仲間である刹那や楓と比べれば遥かに劣る

 

 二人との一番の違いは魔法無効化(マジックキャンセル)能力だが、本来それによりなるべきネギの盾という役割は決戦時与えられることはなかった

 

 幻術とはいえネギ救出時偽高畑相手に、そして刹那及び高畑と共同戦線を張りながら超一人相手に手も足も出なかったこと

 

 これらのような、自身の力不足を痛感させられた出来事ばかりが思い返される

 

 その時こぼれた言葉が、『今のままじゃ駄目なんです、もっと強くならなきゃ』

 

「とにかく、アスナは本気なんです。自身を強くしようとするあの意志は間違いなく」

 

「ふむ……しかし流石にもう限界じゃぞあの子は」

 

 全身から溢れる咸卦の気に落ち着きが見え始めた、これについては彼女にとって大きな進歩だろう

 

 あの出力を維持し登り続ければ、この場所まで辿り着くことも本来なら不可能ではない話だ

 

 しかしアスナの場合、そこに至るまでに失ったものがあまりにも多すぎた

 

「見た限りでは既にかなりの体力を消耗しておる、あれでは気や魔力より先に身体のほうがまいってしまうぞ」

 

「アスナは既に舞空術を使えます、登るのはもう無理と判断してここまで飛んでくるのは……いえ、ないでしょうねおそらく」

 

「お主の話を聞く限りではな、頃合を見て迎えに行ってやったほうがよいぞこれは」

 

 二人の予想は当たっていた

 

 

 

 

 

「てっ、天津飯さん……」

 

「ここまでだ、初めてにしてはよくやったと言いたいが……無茶が過ぎる」

 

 この後一時間以上に渡りアスナはカリン塔を登り続けたが、途中で明らかな魔力および気および体力の枯渇状態に陥った

 

 カリン塔の挑戦をギブアップして上まで舞空術で飛んでくるには、タイミングとして完全に遅すぎる

 

 幸いその様子を観察していた天津飯がすぐさま下へおり、我が身が落ちるまでやらんとする気概まで見えた彼女をいい加減にしろと叱責し回収した

 

 伸ばされた右腕にアスナは体重を預けると、落ちんと踏ん張っていた四肢は途端に脱力

 

 天津飯に抱えられる彼女の表情はどこか悔しそうで、またどこか今回得られた成果に幾らか満足しているようにも見える

 

 

 

 

 

「天津飯さん……私、全快したらもう一回登りますから!今度こそは絶対いけます!」

 

「……そう言うと思ってたさ。カリン様から仙豆をいただければ着いてすぐにでも全快するんだが、ひとまず今日はもうやめておけ」

 

「仙豆?」

 

 

 

 

 

 有言実行、アスナはそれをして見せた

 

 その日の晩はカリン塔の頂上で夜を明かし、翌朝再び聖地カリンまで降り立ち始めから登頂のやり直し

 

 とはいっても咸卦法のコツをまだ完全に掴めたわけではなく、前回より距離こそ伸びたがまた失敗、今度は自ら限界を見極めギブアップを選択

 

「もう一回です!大分いけたんで次こそは!」

 

 この修行の中で確実に得られているものがあると実感したアスナは、挑戦そのものを諦める気は既に無し

 

「ん?まあ構わんじゃろう、武の道をひたすらにゆく者を拒むなんて邪推なことはせんよ」

 

「おいおい、四人も増えたら俺の寝ぇ場所が狭くなぁじゃにーか」

 

「何もせんと一日中ゴロゴロしとるお主にそんなことを言う筋合いは無い!」

 

「あだっ、杖で殴りゃーでもええだろ!」

 

 カリンもまたそんな彼女の姿勢に好意的で、元いた山に当分戻りづらいこともあってヤジロベー同様ここに暫く置かせてくれることにもなった

 

 環境は整った、ひたむきにアスナは修行に励む

 

 カリン塔を登り切り、天津飯と更に『上』のステージでの修行を行うのはもう数日ほど後の出来事である




 文字数と内容的に前の話とまとめて一本でも良かったんじゃないか、と一個前を投稿してから思ってしまったり。

 次回分も既に書き終えてるので、次々回以降の進行具合を見たり修正諸々で週末には投稿出来たらなと思います。ではでは

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