ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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 再び無印キャラ登場、本作では無印キャラがちょくちょく登場しますのでご了承ください。ではどうぞ


第24話 まさかの再会 轟く銃声山中で

 時は春、場所は大自然

 

 木々が生い茂り、残雪の傍らでは草花が姿を見せ春の息吹を感じさせる

 

 空では、冬の間大人しくしていた鳥達が時折鳴き声をあげながら飛んでいた

 

 ピヨ、チュン、トントントン

 

 北エリアの、ある山から聞こえる音

 

 はて、三つ目の音は何だろう、鳥の鳴き声ではないのは確かだ

 

 ではキツツキ辺りが木をつついているのか?いや、この辺りにキツツキは生息していない

 

 そもそも、嘴で木をつついただけではこんな音は出ない

 

 ザクザクザク、グツグツグツ

 

 新たに聞こえた二つの音、これはもはや動植物が自然の中で出す音ではないのは明らかだ

 

 そこには二名の男女がいた

 

 火を起こして包丁を振るい、湯を沸かして食材を切っていた

 

 佐々木まき絵と餃子は、大自然の恩恵を受けながら本日の昼食作りに精を出していた

 

「まき絵、こっちはもう準備できた」

 

「こっちももうじき切り終わるよー、はいお待たせー」

 

 作っているのはラーメン、以前カメハウスで亀仙人達に振舞ったこともある餃子の得意料理の一つ

 

 麺や基本的な調味料こそ麓の町で購入したものだが、他の具材は殆どが山で採ったものを使っている

 

 中には餃子が個人的に栽培しているものまであり、山で自給自足の修行生活を送る上で不可欠な栄養面での配慮から餃子のキャリアの長さを感じさせた

 

 既に出汁をとった湯の中に、包丁で切ったほうれん草や人参、たけのこ等をまき絵が放る

 

 あとは具を煮つつ調味料で味を整えてスープ完成、次に麺を新しい湯で茹でて最後にそれぞれを容器に盛り付ければ完成という寸法だ

 

 ここから先は完全に台所番である餃子の領域だ、まき絵が手を出せることは殆どない

 

 調味料を片手に鍋を覗き込む餃子の背を眺めていると、することが無くなったまき絵は手でなく口を動かしていた

 

「そういえばさ餃子くん、さっきの女の人って一体何だったの?」

 

「……昔、色々あった」

 

 背中を向けたまま餃子はまき絵の言葉に応える

 

 そう、あれは今から数時間ほど前に遡る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「塩と醤油と中華麺と……これだけだっけ?今日のご飯用に買うの」

 

「そう、これで全部」

 

 あれから一週間近くも山の中

 

 やることもなく暇だ暇だと駄々をこねるまき絵を見かねた天津飯は、餃子と共に北の都へ買い物に行かせていた

 

 街一番の大型スーパーの中を、カゴを片手にまき絵は餃子と練り歩く

 

 こうするだけでも今までと違った刺激が得られたことは間違いない、まき絵の表情は今朝よりも明るい

 

「けどさー、他に買うものあるんじゃないかなー。ほら、例えば……」

 

「……お菓子なら、買わない」

 

「えー、いいじゃんけちんぼー」

 

 お菓子をカゴに入れようとしたところを餃子に阻まれ口を尖らせるが、すぐに元に戻った

 

 レジを通して会計を済ますと、二人は袋を手にスーパーを出る

 

 そこで、数年ぶりに彼女と対面する

 

「あ」

 

「?」

 

「……あああっ!見つけたぞ餃子!」

 

 大きくウェーブがかかった金髪、頭には赤い大きなリボンが結ばれている

 

 目つきは野生動物のそれにように鋭く、正面に位置する餃子に対しそれを全力で浴びせにかかる

 

「テメエがいるってことは天津飯もいんだな!?どこだどこだ!天津飯どこだー!」

 

 名はランチ、かつてのカメハウスの住人はどこからか機関銃を取り出し上空へ掃射した

 

 もちろん実弾、二人は知り合いなのかと訊こうとしたまき絵だったがこれにより言葉がひゅんと引っ込む

 

 加えて、逃げようとしても足が動かない

 

 ランチは一歩一歩と銃を構えたまま近づく、やはりまき絵は動けない

 

「あわ、あわわわわ……」

 

「まき絵、逃げる!」

 

「え!?」

 

 まき絵と対照的にすぐさま動いたのは餃子、まず買い物袋を全てまき絵に預ける

 

 そして彼女の後ろに回り、胴を抱えて一気に舞空術で飛翔しランチから逃走した

 

「わわっ!餃子君速い!速いってば!」

 

「こぉらぁああ!逃げんじゃねえ、天津飯のとこ連れてけー!」

 

 背後から聞こえる銃声、もう二人は振り返らなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、てことは随分久々に会ったんだ。あーそれにしても怖かった……」

 

「うん、後で天さんにも知らせないと」

 

 天下一武道会での邂逅や、その後惚れられての追い掛け回され続けた日々など

 

 背を向けたまま餃子は語る、まき絵は時折相槌を打ちながら聞き入った

 

 その間に大分鍋の中は煮えたようで、味も整えスープは完成

 

 おたまで掬って味を確かめる、問題ない

 

 それを見たまき絵も味見をしたいと近づいてきたので残りを渡す、美味しいと歓喜の声を上げた

 

「やっぱり餃子君料理上手ー!さっちゃんといい勝負だってこれ!」

 

 さっちゃん、まき絵のクラスメイトのことだが餃子は知らない

 

 しかし褒められて悪い気はしない、口元が思わず緩んだ

 

 さて、日はまもなく頂点にまで上がろうかというところ

 

 現在修行中の天津飯とアスナは正午までには戻ると言っていた、ならばもうそろそろだろう

 

 スープと具も出来た、残りの支度も早く済ませようと買い物袋から麺を取り出すべく手を伸ばす

 

 するとその手の動きがピタリと止まる、背後から聞こえた音によってだ

 

 ガサリガサリ、草を掻き分けこちらに向かう音

 

「あ、アスナ達帰ってきたみたい。麺が伸びずに全員で食べられて丁度良かったね」

 

 いや違う、と餃子はまき絵の言葉を声に出さず否定した

 

 天津飯達がいつもの修行場で修行しているなら、帰ってくる道はあっちじゃない

 

 すると、あの音の主は一体……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、最後にもう一本やってひとまず仕舞いにしよう」

 

「はい!」

 

 空を見上げ、もうじき正午になることを確認し天津飯はアスナにそう告げる

 

 一定のペースで落ち着いた呼吸を見せる天津飯とは対照的に、アスナの息は大分荒れていた

 

 それでもアスナは振り絞る、両足に力を

 

 左手から魔力を、右手から気を

 

(咸卦法!)

 

 自身の戦闘力を最大まで引き上げ、天津飯に襲いかかる

 

 蹴り、蹴り、蹴り

 

 手にハマノツルギの姿は無い、完全な肉弾戦

 

 それを天津飯は、腕で受けつつ避けつつといった具合で上手く捌いていた

 

(この咸卦法という技、大した技だ……アスナもこの一週間で幾らか強くなったとは言え、ただ気だけを使うよりも数倍は上の戦闘力を発揮している)

 

 無論、咸卦法を用いた今でも天津飯の敵ではない

 

 しかし彼の見立てでは、咸卦法込みで考えればアスナの戦闘力の上昇効率は常人のそれを遥かに凌駕している

 

 例えるなら常人が単純な鍛錬で10上げるのに対して、アスナは同じ鍛錬で2や3上げるだけで咸卦法と合わせて10まで高めることが可能ということ

 

(つまりは、強くなる早さが他の奴より……俺よりもうんと早いということだ、おそろしいぜまったく)

 

 修行を開始した初日とは比べ物にならない動き、これまでの成果が咸卦法により更に引き上げられ天津飯に今も牙を剥く

 

 ただまあ、と一区切りを入れ、次の言葉を最後に天津飯の独白は終了した

 

(惜しむらくは、その咸卦法をまだ完全には使いこなせていないことか。そろそろ、だな)

 

 パシュン、天津飯の予測通りそれは訪れる

 

 アスナのスピードが突如として遅くなる、蹴りのキレも格段に落ちた

 

 そしてパワーも、最後に受け止めた蹴りからして明らかに下がっているのが見て取れる

 

 アスナの表情はしまったと言わんばかりのそれ、慌てて蹴り出した足を戻し体勢を整えた

 

「す、すいません。もう少しはもつと思ったんですけど……」

 

「いや、いい。さっきから殆ど休み無しで続けていたからな、無理もない」

 

 天津飯がこの一週間で見極めた、アスナの咸卦法の弱点

 

 それは力のコントロールが上手く出来ていないことによる維持時間の短さ、ひいては持久力の無さ

 

 これは気を使って戦う戦闘にも深く通じることがあるため、把握はさほど難しくなかった

 

 通常、戦闘において常時気を全開に吹き出したまま戦うということは滅多にない

 

 その吹き出した気全てが無駄なく戦闘に反映されることは少ないからだ

 

 アスナの咸卦法もそう、傍目から見れば目を奪いかねない勢いでその力を噴き出させているが無駄があまりにも多い

 

 仮に放出量を数割抑えたとしよう、それでも戦闘内容に大きな差は出ないと天津飯は踏んでいた

 

 長期戦も想定したパワーコントロール、これがアスナの抱える大きな無視できぬ課題だった

 

「じゃあ餃子達の所に戻ろう……お、ちょうどいいところに。一粒食べるといい、疲労によく効く」

 

「ありがとうございます、っむ……んー、酸っぱぁ!」

 

 帰る道中に木の実を一粒、ちぎってアスナにやる

 

 そうしている内に、餃子達がいる地点まであと数十メートルの所まで到達

 

「そういえば今日は麓まで買い物行ってたんですよね、二人」

 

「ああ、だから多分今日の昼は……」

 

 そろそろ姿が見えるか、そんな辺りまで来たところで

 

「きゃーーー!」

 

「わああーー!」

 

「「!?」」

 

 姿より先に二人の悲鳴が飛び込んだ

 

 何事だと焦るアスナ、悲鳴がしたという一点だけでは正確な状況はわからない

 

 すると直後に機関銃のものと思しき銃声が十数発、鳥が数羽上空に逃げるのが目に入る

 

「……まさか」

 

「あ、天津飯さん!」

 

 天津飯が突如駆け出した、元々自分も現場へ向かうつもりだったアスナは慌てて後を追う

 

 到着したアスナの目の前にいたのは、一足先に着いた天津飯と

 

「あ、アスナ~!天津飯さ~ん!」

 

「わわわ……」

 

 涙目のまき絵、慌て顔の餃子そして

 

「見ーつーけーたーぞー、天津飯」

 

 山道を殆ど準備無しで登ってきたのか全身ボロボロ

 

 それでいて、鬼のような形相で機関銃を携えるランチその人

 

「ラ、ランチ……どうしてここに」

 

「餃子と北の都で会ってな、逃げてきた方を追ってここまで来たんだよ。一緒に見たことねえガキ連れてたから、嫌な予感はしてたがよぉ……」

 

 天津飯の問いに、ランチは声と肩を震わせながら答える

 

 そして天津飯の後ろにつくアスナに目をやり、より一層その震えは増した

 

「オレのこと振り切ってまで、今もずっとストイックに修行してると思ってたら……まだ乳くせえガキ二人もはべらせて、こんな山ん中で何やってんだテメエはよぉ!?」

 

「ま、待て誤解だ!これには込み入った……」

 

「うるせえ!」

 

 天津飯の言葉に耳も貸さず、先程上空に掃射した機関銃の向きをついに上から正面へと変更

 

 中身は実弾、そして撃とうと決めたら撃ってくる人物だということを天津飯は知っていた

 

「あ、あの、これは一体どういう……」

 

「そこのガキも動くんじゃねえ!風穴開けられてえのか!」

 

 ランチと天津飯の事情を唯一知らないアスナは困惑を隠せないが、そんなことお構いなしにランチは銃口を今度はアスナに向ける

 

 これはマズイ止めようがないと天津飯は悟り、自身の足元で尻餅をつくまき絵の首襟を掴み叫ぶ

 

「アスナ、餃子!飛べ!」

 

 三人は同時に、舞空術で飛翔した

 

 餃子は言わずもがな、アスナも並々ならぬ事態だということは把握でき天津飯に従う

 

「っはあ!?待てぇ天津飯!」

 

 天津飯が選択したのは、撤退だった

 

 背後から聞こえる、ランチの怒声と銃声

 

 山を下るようにして飛行したため凶弾を浴びることはなく、そのまま一行は南西へ進路を取りながら飛び続けた

 

 しばらく飛ぶともう姿は見えず、声も聞こえず、銃声だけはしぶとく聞こえていたがこれも少々経つと消える

 

 先頭を飛ぶのは天津飯、横に餃子が並び後方にアスナ

 

 掴んでいたまき絵は途中でアスナに渡し、おぶられている状態

 

 まさかここまで追いかけてくるとは、と天津飯は額を押さえそのまま冷や汗を拭った

 

「天さん、これからどうする?」

 

「……荷物を置いてきたから何時かは取りに戻る必要があるが、暫くは別の場所にいた方がいいかもしれん」

 

 取りに戻ると銃を片手に片手に待ち構えるランチ、という光景が思わず頭をよぎる

 

 しかし数日も経てば自分達を探しに別の場所へ移動するかもしれないし、『大人しいランチ』になってるかもしれない、とにかく今すぐ戻るのだけは厳禁だ

 

「……まきちゃん、一体どうなってんの?」

 

「えっとね、なんかあのランチって人天津飯さんの追っかけをずっとやってるらしくって……」

 

 蚊帳の外だったアスナへの補完はまき絵が自然に行っていた

 

 すると残る問題は、ほとぼりが冷めるまで何処に身を寄せるかである

 

 これについては、実はもう殆ど決めていた

 

 本来ならアスナ達が来た翌日には向かう筈だった、天候不良により中止してそのまま行かずにいた、あの場所

 

 進路は南西、一行はカリン塔へと向かう

 




 また暫く忙しくなりますが、出来る範囲で書き進めますのでどうぞ今後ともよろしくです、はい。

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