ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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 にじファン版にはない完全書き下ろしとはいえ、流石に遅すぎましたすみません。その分中身を普通より増量しましたのでご勘弁を。ではどうぞ


第18話 誕生新ゴーレム!? 王子ベジータは何を思う

 西の都にある、カプセルコーポレーション研究所

 

 社長であるブリーフ一家の住居も兼ねたその建物の廊下を、一人の男が黙々と歩いていた

 

 異世界からやって来たハルナ達を保護し、居候することを許してくれたカプセルコーポレーション令嬢のブルマ

 

 そんな彼女の夫である、ベジータだ

 

 地球においては悟飯の父、孫悟空とかつて地球の運命をかけた戦いを繰り広げ、その後は幾度となく地球宇宙と場所を問わず共に戦ってきたほどの実力者

 

 地球での最初の一戦以降は悟空と戦う機会をことごとく逃しているのだが、ベジータは正真正銘の決着をつけるべく五年以上に渡って厳しい修行を自らに課せ続けていた

 

 しかしそれも、ちょうど一年前にピタリと終わりを告げる

 

 自身との実力差を示したまま、好敵手カカロットこと孫悟空はこの世を去った

 

 ドラゴンボールによって生き返ることもなく、息子悟飯に地球を任せ自分はあの世で修行することを選んだのだ

 

 かつて下剋上することを誓ったフリーザも、自身の細胞を取り込んだ忌々しい人造人間セルも既にいない

 

 ベジータが戦う相手は、もうこの地球にはいなかった

 

 そんなベジータはいつものように朝食をとるべく、自室を出ると決して軽くない足取りで廊下を進む

 

 目的地まで半分ほど差し掛かった頃か、ある個室のドアの前を通ったところでちょうどそのドアが開く

 

 横にスライドするタイプのそれから出てきた一人の少女が、危うくベジータとぶつかりかけ足を慌てて止めた

 

「きゃっ、ごっ、ごめんなさい……」

 

 宮崎のどかはベジータの顔を確認、ややおびえた様子を見せる

 

「……ふん」

 

 数日前から、ブルマが居候を許しここに住み始めた少女達の一人

 

 初日の夕食時にブルマから話を聞かされたが、ベジータはさほど興味を持たなかった

 

 今回も彼女のことは意に関せず、再び歩き始めた

 

 のどかは足を止めたまま、自身から離れていく彼の背中を見送る

 

(ううっ、やっぱり、話せないな……)

 

 担任ネギとの交流を通して、かなり改善されたのどかの男性恐怖症だが(現にヤムチャ相手にはこれまで何度か会話を交わせている)、ベジータ相手にはまだ一度もまともに出来ていない

 

 ベジータ自身に会話する意思が無いのもあるが、加えて普段からの彼の雰囲気に臆している面もある

 

 のどかはまだ、ベジータが怖かった

 

(けど、ベジータさん……)

 

 そして「怖い」の他に、のどかがベジータに対して思ったことがもう一つ

 

(やっぱり今日も、元気なさそうだったな……)

 

 「哀しそう」、だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?今日は相手しなくていいんですか?」

 

「ああ、今日は重力室でいっちょ自主トレでもしようと思ってな」

 

 朝食の時間も終わると、お馴染みといった様子でヤムチャが訪ねてきた

 

 最近は早乙女ハルナのゴーレム相手に実戦形式の修行を重ねていたが、今日の目的はそれにあらず

 

 いや、正確にはここに来る直前まではゴーレムを相手にするつもりだったのだが

 

(まさかクリリンが重力装置をブルマに頼むなんてな……何倍までやるかは知らないが、こっちもやっておくに越したことはない)

 

 到着直後研究室を訪ねると、何やら作業中のブルマを発見

 

 何してんだ訊くと、クリリンが昨日「重力装置をホイポイカプセルにして送ってくれ」と電話してきたらしい

 

 クリリンも大会優勝を狙って本腰を入れてきたなと焦ったヤムチャは、自分もやるかと決めたそうだ

 

「ハルナも毎日俺の相手で大変だろ?たまには休めって、な?」

 

 そういうわけで暇になったハルナは、何か面白いものはないかとブルマの許可を得て書庫の中に入り物色を開始していた

 

 いつもはのどかもいて本を色々読み漁っているのだが、今日は本を数冊持ち出して庭園まで足を運びそこで読んでいる

 

 ゆえに今はハルナ一人、本棚を一段一段丁寧に見て回る

 

 この世界にハルナが知る作家は一人としていない、本そのものもまた然り

 

「うーん、どれから手を付けるべきか……情報皆無だからなぁ、表紙とタイトルくらいしか判断材料が……お?」

 

 どれにするかと決めかねていると、現在物色している本棚の隣にある棚に気が付いた

 

 サイズはほぼ同じだが、観音開きのガラス戸がついており他よりも上等であることが分かる

 

 何が入っているのかとハルナが戸を開けてみると、中にあったのは数冊のアルバムだった

 

 表紙を見ると年代別に分けられており、そこらの本よりも真っ先に興味をハルナは持つ

 

 まずは最初に手に取った一冊を開く、目に入ったのは若かりし頃のブルマとヤムチャ

 

「うっわ、二人とも今と全然違う。ヤムチャさんすんごい長髪……二人って昔付き合ったりしてたのかしら」

 

 ハルナのページをめくる手、他のアルバムを取り出す手は止まらない

 

 左から順に読んでいったアルバムはちょうど年代順に整理されており、最後の一ページには赤ん坊を抱いているブルマの写真が数枚、これで終了

 

「ベジータさんあんまり写ってないわね……まあ多分取られるの基本嫌がったんでしょうけどね、あの人不愛想だし」

 

 アルバムを見る限り、どうもブルマのベジータとの付き合いはヤムチャとのそれより大分短いようで、写真に写っている年代の広さからもそれが窺がえる

 

 加えてハルナは、写真の男性陣を見てある感想を抱かずにはいられなかった

 

「にしても、武道家の知り合い多いのねブルマさん。ヤムチャさんとベジータさんはともかくとして、他の人もみんな凄い筋肉……あ」

 

 と、ここでハルナ突如閃く

 

 ちょっとした好奇心、そしてヤムチャ達を驚かそうという悪戯心が彼女を動かした

 

「……アデアット」

 

 ハルナは書庫にて、アルバムを数冊広げながらペンを走らせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルマ宅の庭園には、父ブリーフが動物好きなこともありペット達が多数いる

 

 犬、猫、鳥、さらには恐竜までいるというカオス空間を形成していた

 

 恐竜の存在は初日にハルナがゴーレムを披露してすぐ後に判明していて、のどかは当初庭に入ることにかなりの躊躇いを見せていた

 

 しかしブルマから話を聞いてみたり実際様子を観察してみると、長い間飼われて人間慣れしているのか大人しいし、基本庭園内に入ってきた人間を怖がらせぬよう自分から近づいて直接干渉しようとしない行動理念を持っているように感じられた

 

 現にのどかは庭園の芝生に腰を下ろして本を読んでいるが、恐竜は端の方に移動している

 

(なんか、私が邪魔しに入ってきちゃったみたいで悪かったかな……あれ?)

 

 一旦本から目を離して恐竜が移動した方向へ目をやる、木々に隠れていてよく姿は見えないがどうも寝そべって日向ぼっこに興じているようだった

 

 するとその手前、のどかと恐竜の中間にいる犬猫達がのどかのいる方向を一斉に向いて移動を開始する

 

 ワン、ニャー、バウ、ナーとそれぞれ可愛らしい鳴き声を発しながら、計十数匹が迫る

 

「え!?え!?」

 

「ははっ、あなたじゃなくて私よのどか」

 

「あっ、ブルマさん」

 

 背後からの声を受け、振り返るとそこにいたのはブルマ

 

 両手にはそれぞれ動物達のエサと容器、時刻は正午に近付こうとしていた

 

「作業の息抜きも兼ねて、餌やりにね。のどかもあげてみる?」

 

「じゃあ折角ですし、やってみます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、たまったもんじゃねえぜ……ベジータの奴これ以上の修行を三年間も続けてたのか」

 

「お、ヤムチャ君お疲れ。はいこれ」

 

「すみません、んぐ、んぐ……」

 

 重力室の扉が開き、一人の男が顔を出す

 

 呼吸は荒く全身汗だく、ヤムチャは出るや否やドリンクを受け取り流し込む

 

 ベジータが修行をやめて以来久々の稼働だったため、万一に備えブルマの父ブリーフが外で待機していた

 

「しかしまぁ、無事に動いてくれて良かった良かった。調子を確認しようにも、わしやブルマが中に入って動かすわけにはいかないからねえ。そうだ、そろそろお昼だけど、食べてくかね?」

 

「それじゃあお言葉に甘え……ん?」

 

 続いて予め用意していたタオルで汗を拭う、するとあることに気付きヤムチャの動きが止まる

 

 ブリーフは気付いていないが、こちらへ近づく複数の気配

 

 一つはハルナ、他にも彼女の使役するゴーレムの魔力を察知した

 

「どうしたんだい?」

 

「いえ、ハルナがこっちに向かってるみたいで……」

 

 どうやらゴーレムの数は複数、どれも微妙にだが違いが感じられる

 

(それにどれも覚えがない……新作のゴーレムでも作ったのか?)

 

「やっほー、ヤムチャさんいますー?あ、いたいた」

 

 来訪と共にドアが開き、頭頂の触覚二本を揺らしながらハルナはうきうきとした様子で入室した

 

 どうしたとヤムチャが訊くと、彼の予想通りつい先刻新しいゴーレムを作ったので見てほしいとのことだった

 

 廊下に待機させていたゴーレムにハルナは手招きし、中へと入れる

 

「さっきブルマさん達のアルバムを見つけちゃいまして。写真見ただけの粗削りですけど、どうです似てます?」

 

「うおっ!?」

 

「ほー、こりゃ凄いね」

 

 一体、一体、一体、計三体のゴーレムが入ってくる

 

 山吹色の道着を着た者が二体、内一体はそこそこの背丈で、もう一体はハルナより低身長でスキンヘッド

 

 最後の一体は他の二体よりも長身だが、それ以上に特徴的だったのは額にある第三の目

 

 そう、そこにいたのはヤムチャと昔からの付き合いである三人の武道家

 

 悟空、クリリン、天津飯を模したゴーレム達であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は戻り庭園内、ブルマはのどかの隣に腰掛け会話を交わす

 

 いや、一方的にブルマがのどかへ説明するように話しているという方が正しいか

 

「まあ、こんな感じかしらね」

 

「そんなことが……」

 

 エサやりをしている最中、のどかは今朝方のベジータのことを思い出す

 

 今まで殆どベジータについての話は聞いたことが無く、気になっていたのどかはブルマに尋ねたのだ

 

 初めはホイホイ話していいものかと考えたブルマだったが、のどかが真剣にベジータのことを案じていることを察したのか、大まかにであるが話した

 

 現在に至るまでの戦い、孫悟空と切磋琢磨してきた日々、そしてその悟空の死

 

 死線を共に戦いもした、彼らのライバル以上とも言える関係

 

 女であるのどかが完全に把握しきるのは難しいものであったが、ベジータの気持ちを幾らか察することは可能だ

 

 自身が修行し続けてきた、自身が生きる上での根幹に近い、最大の目標を目の前で失った

 

 その喪失感は彼の中では、この一年という短い間では到底消しきれないものなのだろう

 

 いや、もしかしたらこのままずっと、続くのかもしれない

 

 今までのどかが読んできた本の中でもそんな終わり方をする話は数知れず、それらの最後の一ページの像が幾つも彼女の頭の中でふとよぎった

 

「けどね……私は信じてるの」

 

「ブルマ……さん?」

 

 しかし、ブルマは違う

 

 力強く、言葉を続ける

 

「働きもせず、延々重力室に籠る修行馬鹿でもこの際いいの。今みたいなんじゃなくて、昔みたいなベジータに戻ってくれるのをね。五年位前かしら……孫君が死んだんじゃないかって時に、これで宇宙最強は俺だとか言ってたくらいなのよ?」

 

「そう、ですね……私も、そうなったらいいと思います」

 

 ブルマは、強かった

 

「ブルマさんにとっても、それに何よりベジータさん本人にとっ……ひゃあああいっ!?じ、地震!?」

 

「え!?」

 

 感銘を受けたのどかも同意の言葉を紡ごうとするが、言い終わるよりも先にそれは途中で止められる

 

 突如として庭園全体を、地震のような揺れが襲った

 

 ブルマも少なからず動揺を見せ、辺りにいた犬猫達も一目散に草陰や木陰へと逃げていく、決して気のせいでは済まされない

 

 するとブルマが、まさかといった表情で建物の壁部の方へと顔を向ける

 

 合わせてのどかも向くと次の瞬間

 

「ば、爆はっ……人が、落ちっ……」

 

「ちょっ、何よこれ!」

 

 壁が爆発音と共に大破、それと共に吹っ飛ばされ落ちてくる人影が一つ

 

 着ている服の色を遠目に見るとヤムチャと同じであり、よくよく見ると髪の長さが違う

 

 顔を確認するよりも先に、それはボワンと音を立て消滅

 

「消えた、ってことはハルナのゴーレムですね。まさか、ヤムチャさんがあんなことを……」

 

「違う……いくらヤムチャでも、人様の家をぶっ壊すなんて真似はしないわ」

 

「じゃあ誰が……」

 

「一人しか、いないわね」

 

「ブルマさん!?」

 

 ブルマは腰を上げ、庭園の出口へと走り出した

 

 意図を理解するのが遅れたのどかはその場で数秒硬直したが、気付くや否や慌てて彼女の後を追う

 

 行くべき部屋は、修行用の重力室を置いているそれ

 

 爆発した場所がその部屋だと把握するのは昔から住んでいるブルマにとって難しくなく、屋内に入ると最短ルートを即座に選択

 

 場所からここより二階上

 

 エレベーターは現在最上階まで上がっており、降りてくるのを待つよりはと階段を駆け上がる

 

「あの……馬鹿!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はやや遡る

 

 ハルナが新たに用意した新作ゴーレムにヤムチャとブリーフ、特に前者が興味津々であった

 

 肩や上腕、胸板に手をやりその再現度を実感する

 

「っはー、写真だけにしてはよく出来てるじゃないか。俺みたいに直接スケッチしたわけじゃないんだろ?」

 

「ですねー、ただ年代にかなり幅あったんで体格どうするかは結構悩みましたよ?一番近そうな写真だけだと情報量足りませんし」

 

「ああ……クリリンと、特に悟空な」

 

「変わりすぎなんですもんこの二人……あ、で、どうしますこれ?今度から使います?」

 

 思わず苦言を漏らしたハルナだったが、ここに来た本来の目的を思い出す

 

 現在ヤムチャの修行相手を務めているのは炎の魔人とヤムチャゴーレムの二体

 

 いい加減数を増やそうと思っていたのだが、この二体を超えるゴーレムが中々生まれずなし崩し的にこの二体だけとなっていた

 

 ハルナのゴーレムの強さの源は彼女自身の画力や絵の精度、そしてイメージ力によって付加される特性や技といった能力

 

 前者はこちらへ来てからも毎日スケッチ等をして磨いている最中だが、後者がなかなか上手くいかない

 

 何でも思うが儘に設定できるわけではなく、あくまで魔力・気の使用の延長線上によるものしか搭載は不可能、ゴーレムを行使しているのがその魔力なのだから無理もないが

 

 そうなると彼女の想像だけでは限界があり、ある程度元の力を知ることによるリアリティが必要となる

 

 その結果生まれたのが、ヤムチャ本人からかめはめ波や狼牙風風拳を伝承させたヤムチャゴーレムだ

 

「どんな技使ってたかーってのをヤムチャさんから教えてもらえれば、ヤムチャゴーレムほどじゃないですけど一応修行相手になるんじゃないかと」

 

「うーん、教えるって言っても気功砲や界王拳は伝聞だけで再現するのは……そういやこいつら、今の状態でも戦えるんだよな?」

 

「まあ戦闘用のゴーレムとして召喚してますから、いつもの二体より大分弱くなりますけど一応は」

 

 ヤムチャが天津飯ゴーレム、悟空ゴーレムと順に目をやった時、彼らの姿を見てふとある考えが浮かぶ

 

 炎の魔人やヤムチャゴーレムより弱いということは、このゴーレム達の弱さは相当なのだろう

 

 それこそ自身も大した力を使わず、例えば奥にある重力室の中でもどこも壊さずに捌けるくらいには

 

「ちょっとこいつら二体で、俺に攻撃させてみてくれないか?俺はこの場で全部避けるからさ」

 

「え、危なくないですかそれ。屋内ですよここ」

 

「いいからいいから、今スイッチ切ってあるからこの中でやろう。気功波系使わなきゃ問題ないって」

 

 かくして、ヤムチャ対ゴーレム二体の簡易組手が突如開始

 

 よほど早くやってみたかったか、四方に壁上方に天井がある重力室の中でだ

 

 ブリーフは『ベジータ君みたく派手に暴れて壊さないように』と念を押し、中に入った二人と二体を外から眺める

 

「弱いまんまですけど、本当にいいんですか?」

 

「いいからいいから、二体まとめてかかってきなさい」

 

 ハルナの指示を受け、二体は同時に襲い掛かった

 

 技も何も一切なし、ただただ殴る蹴るの単純な攻撃を戦略性もなしに繰り出すだけのもの

 

 ヤムチャにはそれらが過去の戦いからすればまるで止まっているようにも見え、余裕綽々の笑みを浮かべながら次々とかわしていく

 

「そらそらー!どうした悟空、それに天津飯!お前らの力はそんなものかー?」

 

「随分楽しそうじゃのー、ヤムチャ君」

 

 素人目でもわかる圧倒的実力差の戦いを見ながら、ブリーフが零した発言は正にその通りであった

 

 現在に至るまで実力ではとても及ばず、かつて戦いにおいて苦汁を舐めさせられもした目の前の二人

 

 それにそっくりなゴーレムを相手に、ヤムチャはまるで本人そのものと相手をしているような振る舞いで組み手を続行している

 

 かわし続けかわし続けなお満足げな表情、その笑顔は消えない

 

「カカ……ロット?」

 

「ん?あっ」

 

 彼の来訪、その時までは

 

 ハルナが召喚したゴーレムはもう一体いた、そうクリリンのゴーレム

 

 ヤムチャから指名も受けず、ハルナから指示も受けずで部屋の入り口近くに棒立ちでいたのだが、それをたまたま発見される

 

 しかしどこか本人との差異を感じ、部屋の奥まで覗いて見た結果がこれである

 

 べジータはブリーフの横まで歩み寄り、重力室の中の様子を信じられないという表情で見つめていた

 

 カカロットもとい悟空がヤムチャ相手に子供扱い、ヤムチャは笑みまで浮かべている

 

 調子に乗ったヤムチャが軽く足払いをかけてその場で転ばせたところで、ついに辛抱たまらず自ら動く

 

 拳を強く握り締め、重力室のドアを殴り飛ばし入室

 

「ヤムチャーーーーッッ!」

 

「うえぇ!?ベ、ベジータ!」

 

「これは一体どういうことだ……」

 

 ヤムチャの笑みは消え、ゴーレム二体の足は止まりハルナは両目を見開きべジータを見る

 

 疑念疑問怒り諸々をどういうことだの一言でまとめ、ヤムチャの方へ一歩一歩と近づく

 

 流石にヤムチャも、さっきまでの行動がべジータを怒らせるには充分すぎるものだと認識したか動揺を隠せず、返す言葉を見つけられず言いよどむ

 

 べジータはそんな彼をよそに、一番の目的である彼の隣の人物へと次は目をやった

 

 姿かたち、それは間違いなくべジータの宿命のライバルのそれ

 

「……違う」

 

 だがべジータは納得がいかない、いや納得してはいけないと再認識をする

 

 一年ぶりに振るった二発目の拳は、この場の誰もが捉えられない速度で悟空ゴーレムを殴り飛ばしていた

 

 殴り飛ばされた悟空ゴーレムは重力室の壁に直撃

 

 そのまま壁を突き破り、ダメージに耐え切れず少ししてゴーレムは消滅する

 

「あんなのが……あんなのがカカロットであってたまるかーーっ!」

 

「いだああああいっ!」

 

「……ん?」

 

 べジータの怒りの咆哮に続いて重力室に響いたのは、ハルナの絶叫だった

 

 ハルナのゴーレムは完全独立体ではなく、術者ハルナにダメージがフェードバックする形でリンクしている

 

 返ってくる割合は微々たるものなのだが、壁を突き破るほど吹っ飛ばされる一撃では彼女も到底耐え切れなかった

 

 消滅した悟空ゴーレムは再びアーティファクトにイラストとして戻り、その際魔力によって僅かに光を灯す

 

 この瞬間をベジータを見逃さなかった

 

(……まさか)

 

 確かめようとべジータは新たにターゲットを定める、天津飯ゴーレムだ

 

 ハルナに指示を受ける暇もアーティファクト内に戻る暇も与えず、一瞬で接近

 

 胸倉をつかみ、背中から床に力強く投げて叩きつける

 

「あぎゃっ!」

 

 さっきほどではないがまたハルナにダメージ、ゴーレムも消滅する

 

 そしてまたアーティファクトに光が灯る、これでベジータは確信した

 

「貴様かあああぁっ!」

 

「ひいっ!」

 

「ちょっとベジータ!」

 

 ハルナに詰め寄り、襟をつかんで引き込む

 

 涙目になってハルナが声を漏らすと、ほぼ同時にブルマが姿を現した

 

「離しなさい!ハルナに何やってんの!」

 

「黙れ!」

 

 止めようとするブルマを一喝し、改めてハルナに向き合い怒りに満ちた形相で睨みつける

 

「いいか、俺が言いたいことは一つだけだよく聞け」

 

「は、はひ……」

 

「他の奴のはどうでもいい、だがな……あんなふざけた紛い物のカカロットを次また出してみろ、今度は容赦しないことを覚悟しておけ!いいな!」

 

 バランスを崩して尻餅をつく程度にハルナを突き飛ばし、ベジータは踵を返して重力室を出る

 

 ハルナ、ヤムチャ、ブリーフはその場から動けず、唯一ブルマだけがベジータに食って掛かっていたが、それを無視して部屋を出る

 

「あ、ベジータさ……」

 

「……どけ」

 

「は、はいっ……」

 

 部屋を出るとブルマの後を追ってきていたのどかとちょうど鉢合わせるが、ただ一言で彼女を廊下の隅へと追いやった

 

「……くそったれが」

 

 今ある感情のやり場が無いことに憤慨したまま、ベジータは自室へ向け足を進める

 

 その足取りはかつての彼を思わせるそれに見えたが、それでもまだ、ベジータは「哀しそう」なままであった




 新作書き下ろしシリーズは一応あと2~3話ほど続く予定です、出来れば今月中に2本くらいは投稿したいですね。ではでは

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