ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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 今回書くにあたってネギまの単行本を引っ張り出したんですが、まき絵のあの格好はやっぱりとんでもないと思うんですよ、はい。持ってない方は17巻の表紙をアマゾンとかで探していただければわかります。ではどうぞ


第13話 突如山での大遭難 佐々木まき絵危機一髪

「アスナー、何か見えたー?」

 

「んー、ちょっと待ってもうすぐてっぺんだからー」

 

 ここは、雪国とまではいかないがかなり北寄りに位置する地区

 

 この世界はおおまかに東西南北の4つのエリアに区分けされ、それぞれに首都的な役割を持つ大きな都が置かれている

 

 その内の一つである北の都から南西に数十キロ、そこにそびえ立つ山が現在彼女達のいる場所だった

 

 現在神楽坂明日菜は佐々木まき絵に急かされながら、一本の大木を登っている

 

 先に目を覚ましたのはまき絵、次に彼女に起こされる形でアスナ

 

 ところどころ雪が残る山中で吹いた風は、麻帆良祭の時のままのまき絵の服はあまりにも寒すぎた

 

 当然ながら、今自分達が何処にいるかなど分かるわけもない

 

 何とかアスナだけはこれが魔法関係によるものであることを推測することが出来たが、それ以上考察を進めることは不可能だった

 

 そこで、とりあえず高いところから辺りの様子を見ようと考えたわけだ

 

「ん、しょっと……あ、見えた見えた!ずーっと向こうに街がある!」

 

「ホント!?」

 

 登り終えたアスナは周囲を見渡し、視線の先にかなり大きいであろう都市を発見する

 

 そのことを下にいるまき絵に伝え、スルスルと登るよりも速く木を降りていく

 

 最後は地面から二mほどの地点で飛び降り、綺麗に着地した

 

「おおー、凄い!何か前よりも速くなってない?」

 

「なんかいつもより身体が軽いというか、やけに楽に動けるのよ」

 

「ふーん、まあいっか。とにかく下山しなきゃ、この格好のままじゃ風邪引いちゃうよ……」

 

 さっきまで動きっぱなしだったアスナと違い、さっきからずっと立ちっぱなしで動かなかったまき絵は肌寒いこの山の気候に身を震わせる

 

 アスナもその意見に賛成し、二人はひとまずはこの山の下山を目標に歩き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、降りる道が何処にも無かった……」

 

「うぅ……疲れたよぉ」

 

 しかし、二人を待ち受けていたのはこの山の膨大な自然

 

 歩く先歩く先で崖や急すぎる傾斜、進んでいくには枝木があまりにも多すぎる樹林等が行く手を阻む

 

 そもそも二人の今格好自体、山を登るには余りにも不向きすぎる

 

 アスナは首回りと両腕、加えて両膝からつま先にかけて西洋式の鎧を装備

 

 こちらはまだ本格的なものと比べ幾分か軽量化がなされており、なおかつアスナの馬鹿力もあいまって行動に支障はないからまだいい、問題はまき絵

 

 生地こそ違えどはたから見れば所謂セーラースク水であり、あとはブーツと膝まであるソックスだけ

 

 上はノースリーブで腕は丸出し、下は太ももから膝上数センチまで露出しているという有様だ

 

 当然体力の消耗も早く、3―Aの面子では運動能力が上位に位置する彼女も疲れが如実に見えてきた

 

 とりあえず元いた場所に戻ろうということになり、現在位置は先程アスナが登っていた大木の前

 

(こっそりカードで念話してみたけど通じないし……こんな非常事態に何やってんのよバカネギ!)

 

「どうしようアスナ……なんか太陽沈み始めてるし、もう夕方前だよ?」

 

「げ、マズいじゃないそれ……」

 

 今の状態で山の中の夜を迎えるのは、もはや自殺行為と言っていい

 

 最低でも寝る場所の確保が必要なのだが、今まで下りていった道を思い出すもそんな場所は無かった筈だ

 

「しかもさっきいっぱい歩いて汗かいちゃったし……へくちっ!うぅ」

 

 残された時間はあまり無い

 

「……あーもうこうなったら下山中止!登ってどこか休める場所探すわよまきちゃん!」

 

「ええ!?」

 

 意を決してアスナは再び歩き始めた、ただし今までとは正反対の向き

 

 今立っている場所の傾斜からして完全に『登り』の方向であり、まき絵は困惑しながらもアスナの後を追う

 

 だが、このアスナの判断は正解だろう

 

 夜になって視界が利かなくなれば、下山どころではない

 

 しかもあの大木の上から見えた景色からして、現在位置での標高も相当なもの

 

 元々、今日中に下山することは不可能だったのだ

 

 そうやって登り続けて十分程、アスナの耳にある音が聞こえてきた

 

「……滝?」

 

 高い所から激しく下へ打ちつけられたような水音

 

 断続的に聞こえてくるそれは、近くに滝が流れていることを二人に示す

 

 喉も乾いてきていたまき絵は音のする方へ行ってみようと提案し、その方向へと進んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滝、あったけど……反対側だったわね」

 

「うん、反対側」

 

 音を幾らか遮っていた木々の間を抜け、二人の耳には精細な滝の音が流れ込む

 

 正面に見えたのは水の落下開始場所である、滝口

 

 そこから視線を下に落とすと、激しく水しぶきをあげる滝壺が見えた

 

 二人がたどり着いた先は、滝が流れる崖とは反対側に位置する崖

 

 高さは向こうの滝口の地点とほぼ同じで、滝口から滝壺まではゆうに70m以上はある

 

 見つけはしたが、その水を飲むことは現状では叶いそうにない

 

「うぅー、お腹空いた喉乾いた足痛いー、ネギくーん……」

 

 とうとうその場でまき絵は膝を折り、次に全身を地に預けて弱弱しい声を吐いた

 

「ちょっ、まきちゃんこんなところで何やっ……ん?」

 

「どしたのアスナー?」

 

 視点が極端に低くなったまき絵と違い、まだ立ったままのアスナの視界には滝壺が入っている

 

「人……」

 

「え?」

 

「人よ!下の方に人がいるのよそれも二人!」

 

 その辺りへふと目をやった彼女は、滝壺に躊躇いなく近づく二人の存在を捉えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、始めるか」

 

 滝壺から先を流れる川の中を、一人の男が歩いていく

 

 目の前の滝を見据えながら、彼は上に着ていた修行着を脱いで隣にいたもう一人に手渡す

 

 筋肉隆々とした上半身が顔を見せ、その厚い胸板には古い刀傷が薄く一本

 

 だが一番の特徴は額にあるもう一つの目だろう、滝を見据えていた彼の目は全部で三つ

 

「……っ、ずあああああっ!」

 

 手を伸ばせば届く場所にまで移動するとその男、天津飯は己の右腕を見つめながら力を込めた

 

 直後、彼の右肩から先が激しく吹き出した白い気で包まれる

 

 それを正面の滝へめがけ、拳を作って打ち出した

 

 吹き出した気は滝の水圧を押しのけ、腕に水がかかることはない

 

 次に天津飯は、右腕をそのままに全身からも気を放出

 

 素早く滝壺の中へと身をすべり込ませ、右腕同様に上から降りかかる水を弾き返していた

 

「はああああああああああ……」

 

 ここから更に、天津飯は気を練り上げ放出量を増していく

 

 初めは天津飯から数センチ先で弾かれていた水は、次第にその距離を離していった

 

 そしてその距離が20センチに届こうとした、ちょうどその時

 

「な、何あれー!?」

 

「!?」

 

「天さん、あそこ!」

 

 遠くから天津飯の耳に入る、甲高い少女の声

 

 彼の弟分である餃子(チャオズ)が指差した方を見ると、そこにいたのは二人の少女

 

 自分らがいる場所とは反対の崖の上で、一人は立ったまま、もう一人はさらに崖の近くで四つん這いになって自分達のことを見下ろしている

 

「な、何故こんな山奥に……いや、それよりも」

 

 天津飯と餃子の二人が、修行のためにこの山へ籠ってもうじき一年

 

 山の中の大まかな地理は把握しており、少女達がいる地点にも何度か立ち寄ったことがある

 

「おい聞こえるか!今すぐそこから離れろ!そこは崩れやす……」

 

「きゃあああああっ!」

 

「遅かったか!」

 

 土質的に他より比較的脆いあの場所で、ああも崖の端まで近づけばいつ崩れてもおかしくない

 

 それを知っていた天津飯は警告するが、彼が言うようにもう遅かった

 

 前触れもなく突如として陥落、より手前にいた少女はそれに巻き込まれる

 

 もう一人が慌てて手を伸ばしていたが届かず、土砂と共に少女は落下

 

「天さん!」

 

「分かっている!」

 

 既に天津飯は滝から身を出しており、すぐにその場から舞空術で飛び立った

 

 一秒もかからず追いついた彼は土砂を掻い潜り掻い潜り、手を伸ばす

 

「たっ、助けてー!ネギく……あれ?」

 

 腕の中に納まった少女は、一瞬何が起きたのか理解出来なかった

 

 それに数秒遅れ、彼女と一緒に落ちた土砂が下の川に着水

 

 音を聞いて下を向き、再び元の位置に顔を戻す

 

「私……た、助かっちゃった?」

 

 目が合った天津飯に対し、そう佐々木まき絵は間の抜けたような声を漏らした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まきちゃん大丈夫だった!?」

 

「怖かったに決まってるじゃんー!」

 

 危険だと改めて警告され、一行は崖から十メートル少々の距離を開ける

 

 アスナの目の前には、天津飯から降ろされたまき絵が涙目になって飛びつく姿があった

 

 天津飯はというと、大事に至らなかったことにとりあえず安堵

 

 すると餃子が彼と同じく舞空術で追いつき、服を受け取ってそのまま着る

 

 まき絵が少し落ち着いたところで、天津飯は二人に近づいて話しかけた

 

「ところでお前達、どうやってこんな山奥まで入り込んだ?ここはめったに登山者も来ない山だ、それに……とてもその格好で荷物も無しに登ってきたとは考えられんのだが」

 

「えっと……なんて言ったらいいか、その……」

 

「わ、私達だって分かんないだもん!さっきまで学校にいたのに何か突然パーッと光って、気が付いたら山の中にいて!」

 

 言葉を選ぼうとモゴつくアスナをよそに、天津飯の問いに答えたのはまき絵

 

 彼女はありのまま、山中で目を覚ますまでの出来事を天津飯へと伝えた

 

 しかし当然ながら、今のまき絵の言葉だけで事態を知ることは出来ない

 

「……分かった、詳しく話を聞こう。だがひとまずここから移動した方がいい、もうすぐ日が落ちる」

 

「え?あ、はい」

 

「近くに俺達が夜寝るのに使っている洞窟がある、話はそこでだ」

 

 空は赤く染まり、既に夕方も終わりに差し掛かっていた

 

 


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