戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
「——仕方ないわね、本当にもう」
唐突に聞こえた声。
声から調だとすぐに分かった。だが、その声音はマリアの知っている調のものではなかった。
乗っていたロボットをネフィリム・ノヴァへ特攻させ、自分はすぐに降りてマリアの許へ近付く。
「誰の魂も塗り潰す事なく傍観してるつもりだったけど……放っておけなくて思わず出てきてしまったわ」
「出てきてって……まさか、あなたは……ッ!?」
「どうだっていいじゃない、そんな事は。それより貸しなさい」
マリアの想像を言葉で両断して、ソロモンの杖を手から奪い取る。
使った事のないソロモンの杖を、調は迷い躊躇う事なく扱う。ゲートの固定化をやめ、閉じるよりも早く別の命令を下す。
何の命令を発したのか分からないまま、調はゲートの固定化も終わらせた。
同時に周りからノイズが狙いを奏者からネフィリム・ノヴァへと変更して攻撃を始めた。
「はい、おしまい。後は頑張りなさい」
「待ちなさい。調は……本来の魂はどうなったの!?」
「安心なさいな。今回は一時的な憑依だけ、すぐに引っ込むわ」
「やはり……フィーネ。まさか調に宿っていたなんて……」
マリアの言葉はノイズとの戦闘から集まっていた奏者全員に聞こえた。
「了子さん……?」
「……二度と出てくるつもりはないけど、それでも邪魔だと思うならイガリマでこの身体を突き刺しなさい。魂を両断する一撃持つ鎌なら亡霊の私でも両断できるわ」
「ちょっ、待って——」
「——まったく」
響の制止を聞かず、調——フィーネは調の手で翼に背負われている鏡華の頬に触れた。数回、上下させて口角を上げる。
「いつかの時代、どこかの場所で今更正義の味方を気取ることなんてできないわ」
「……あ」
「だって数千年も悪者やってたのよ。いつか未来に、人が繋がれるなんてことは亡霊が語るものではないわ」
それはいつか語った願いへの答え。
頬へ添えた手はそのままに。フィーネは調の瞳で響を見つめた。
「未来の事なんて、今日を生きるあなた達でなんとかなさい」
響を中心に奏者達を見据え、眼を閉じた。同時にカクッと調の身体から力が抜け、切歌が慌てて支える。
すぐに調の眼は開かれ、
「……あれ? 私、どうして……?」
「よかったデス! 調ぇ……」
「切ちゃん?」
何が何だか分からない調は、切歌に抱き締められながら首を傾げる。
「説明は後よ。今は——」
脱出が先。そう言おうとしたマリアの声は最後まで続かなかった。
ノイズの総攻撃を受けていたネフィリム・ノヴァが奏者達とゲートの間に割り込んできたのだ。
「迂回路はなさそうだ」
「ならば往く道は一つッ!」
「手を繋ごうッ!」
迷う事も恐れる事もない。
響、クリス、そして鏡華を背負ったまま翼が手を繋ぎ合う。
「マリア」
「マリアッ!」
手を繋ぎ合った調と切歌はマリアに手を差し伸べる。
マリアは頷き、ギアから銀の剣を引き抜く。
「奏さんッ!」
「それじゃあ、お手を拝借」
そう言って奏がマリアと響の手をそれぞれ手で繋ぐ。
響は笑って。マリアは真面目な顔で、
「この手——簡単には離さないッ!!」
握り締めた手を強く、更に強く握った。
七人が手を繋ぎ合う後ろでヴァンがガラティーンに集中しながら目の前の光景に微笑を浮かべる。
誰もが初めは敵対していた。それが今はどうだ、敵味方の垣根など超えて繋ぎ合っている。
たった七人。然れど七人。それがヴァンには太陽以上に眩しく見えた。
「さあ行くぜッ! ——最速でッ!!」
奏が。
「「最短でッ!!」」
響とマリアが。
「「「「真っ直ぐにッ!!」」」」
翼とクリス、調と切歌が。
叫びながらネフィリム・ノヴァへと飛翔する。
同時に響とマリアの防護服からアーマーが分離していき、巨大な手に変化していく。
響のアーマーは黄金の手に。
マリアのアーマーは白銀の手に。
そして、奏が、自身のシンフォギアを混ぜた時のように防護服のアーマーで二つの手を繋ぎ合わせる。
更に後ろに控えていたヴァンが繋ぎ合い拳となった両手の上に乗り手を添える。そこから太陽を思わせる熱と焔が拳を覆う。
『 一 直 線 に ィ ィ イ イ イ ッ ! ! ! 』
——Vi†aliza†ion——
―煌ッ!
―爆ッ!
―轟ッ!
『うぉおおおおぉおおおおぉぉおおッッ!!!!』
奏者全員の力と心が一つとなった拳がネフィリム・ノヴァの腹部に減り込む。
徐々に押していくが、それでもネフィリム・ノヴァの身体を貫く事ができない。
奏者達は気付かなかったが、ネフィリム・ノヴァはノイズの力も呑み込んで力を増大させていた。しかも接触しているので拳のエネルギーも呑み込もうとしていたのだ。
それでも全員諦めてなどいない。だからこそ少しずつ減り込んでいる。
だが、後一手。それだけ足らない。
そして、唯一状況を分析できたものがいた。何もできず、“背負われて”いたからこそ動けた者が。
——我が終焉、黄昏より遥か彼方——
轟音だけが響く奏者達の耳に届いた声。
翼は気付いた。背中にいた人物がいなくなっている事に。
——然れども、
誰もが気付く。握り締めた拳に双翼がある事を。
「理想郷はこのッ、胸にぃいいいぃいいいぃいッ!!」
―輝ッ!!
一層輝く巨大な双翼が
減り込む速度が上がる。
好機はもうここしかない。全員の思考が揃い、咆哮を上げる。
痛みを感じているのか、ネフィリム・ノヴァが身体を捩る。拳の位置がズレ、拳がネフィリム・ノヴァから離れる。
瞬間、覆っていた双翼が広がり流星の如く後ろへ飛ぶ。煌めきの尾を引き、翻った拳は更に速度を上げて再度ネフィリム・ノヴァに突撃する。
「これが」
誰かが言った。
「想いの強さだ」
―轟ッ!!
今度こそ、ネフィリム・ノヴァの身体を突き破り一直線にゲートに飛び込むのだった。