戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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Fine1 其れは終わりの名Ⅴ

 鏡華がノイズから逃げ回っている場面は外に設置されていたモニターで見ていた。

 会場の外へ出た未来達は、外で着々と集まって待機していた警察や一課の隊員の誘導によって少し離れた場所で一カ所に集められていた。

 会場への道は隊員が全て封鎖して入れないでいた。さっき偶然会った津山士長も警備に協力するためにそちらへ向かった。

 封鎖し立つ隊員に詰め寄る多くのテレビ局のカメラマンやアナウンサー。彼らはどうしても入れないと悟ると、その場で中継を始めたりモニターを撮っていたりした。

 ――鏡華さん。

 胸の内で彼の無事を祈る。

 その時だった。リーン、と鈴がなるような音が頭の中に届いたのは。

 

「え――?」

 

 振り返っても、いるのはごった返した人混み。聞こえるのは人混みの声。鈴の音が聞こえるわけがない。

 だけど今、確かに聞こえた。まるで、自分の大切な何かに何かが起こっていると知らせているみたいな――

 

「ヒナ!」

「ッ――!」

 

 創世の声で我に返る。

 モニターに映る鏡華に槍となったノイズの大群が襲いかかろうとしていたのだ。

 

「鏡華さん!」

 

 誰もが全員、最悪の状況を頭にイメージした。

 それが今、目の前で放送されると思った。

 だが、その予想は覆された。

 槍となったノイズが刺さる直前――モニターがブツッと切れたのだ。

 モニターの中央には『NO SIGNAL』の文字が。

 辺りはざわつく。

 だが、未来達だけは違った。

 

「これって、つまり……」

「ナイスなタイミングで会場からの中継が途絶えたって事ですね」

「アニメ的な展開きたぁー!」

 

 弓美が喜ぶと同時に、会場の方角から盛大な音が聞こえた。

 いくら映像と実際の光景にタイムラグがあるからと云って、この遅延は鏡華がノイズに襲われた音ではない。

 未来は胸の前で手を組み、わずかだが瞳を輝かせた。

 頭の中に響いた鈴の音は、もうすっかり忘れてしまっていた。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 緒川から連絡が来たのはノイズが落ちる直前だった。

 視界の端に見えたモニターに映し出された真っ黒い画面。

 ――好き放題やりやがって。くれてやる、てめぇらの鎮魂歌(レクイエム)を。

 獰猛な笑みを見せ、瞬間に鏡華は歌った。

 

「Agios, avalon eleison imas――」

 

  ―煌ッ!

 

 鏡華の内から眩い閃光が溢れ、襲うはずだったノイズを炭すら残さず消滅させた。

 光が消え、そこに残っていたのは独りの騎士。

 過去に白色だったライダースーツのような防護服は漆黒へ変わり、銀色の鎧をその上から纏っている。

 その手に握るは既に槍ではない。

 過去に王を選定する聖剣とし、とある騎士を騎士王と認めた王の剣。銘をカリバーン。

 鏡華はカリバーンを地面と平行に構え――横へ一閃。

 それだけで光の刃が飛び、ノイズの軍勢へ放たれ――

 

  ――選定す煌めきの閃光――

 

  ―煌ッ!

  ―輝ッ!

  ―爆ッ!

 

 閃光と騒音を撒き散らして、ノイズだけを両断する。

 マリアは今の一撃を目の当たりにして絶句する以外出来なかった。

 当たり前だ。今の一撃、無造作に振るったようで――完璧に制御されたものだった。ノイズがいるのは大体真ん中。当然、ブロック板が存在する。なのに、鏡華が放った一閃はそれを――否! “会場の備品”を壊していないのだ!

 ――これが、

 

「これが、アヴァロンの――完全聖遺物の力……!」

「いーや。完全聖遺物の力だけじゃないぜ」

 

 ハッと気付いた時にはもう遅かった。

 拘束するようにマリアの首筋に槍と剣を構えた奏と翼。

 その身体に纏っていたのは衣装ではなく、シンフォギアの防護服だった。

 奏はガングニールとアヴァロン。翼は天ノ羽々斬。

 

「あの力は完全聖遺物を己の得物とした、鏡華の実力だ」

「あたしみたいな紛い物や借り物と違ってな」

 

 自嘲気味に奏は呟く。

 それがマリアの琴線に触れたのか。予備動作なしでマントを伸ばす。

 間一髪で得物で防ぐ二人。だが距離は大幅に離された。

 

「おっとっとー? あたし、何か言ったか?」

「呆けないで奏!」

 

 何かを見上げて叫んだ翼に、奏は槍を回転させて盾とした。

 聞こえてきた第三者の歌。二人に小さな丸形の何かが降り注がれる。

 

  ――α式 百輪廻――

 

 翼も二刀の柄を合わせて一刀とし奏のように盾とする。

 丸鋸のような攻撃は小さく攻撃力は大した事はないが数が多い。

 防ぐだけで攻勢に回れないでいると、

 

「いくデスっ!」

 

  ――切・呪リeッTぉ――

 

 緑色の防護服、大鎌を持つシンフォギア奏者が刃を放ってきた。

 動けないでいる翼と奏の側面から刃が襲い掛かる。

 このままでは刃の一撃を喰らう。――このままであれば。

 

  ――護れと謳え聖母の加護――

 

  ―破ッ!

 

 鏡華と奏が同時に発動する。鏡華が翼を守り、奏は片手で槍を回しながら片手で盾を翳した。

 刃を防ぎ、丸鋸を防ぎきり、鏡華、翼、奏はステージから飛び地べたの観客席に着地する。

 

「危機一髪だったデスよ」

「大丈夫? マリア」

 

 マリアの近くに着地する奏者二人。

 翼は新たな奏者の存在に思わず絶句する。

 

「そんな……奏者が三人……!」

「一気に増えたなぁ」

「いや――まだ増えるぜ」

 

 鏡華の言葉と同時に全員の耳に騒音が聞こえた。

 上を見れば――ヘリが、ヘリから飛び降りる三人の姿が。

 

「上か!?」

「土砂降りな! 十億連発ッ!」

 

  ――BILLION MAIDEN――

 

  ―発ッ!

 

  ―発発発発発発ッ!

 

 土砂降りとも十億連発とも相応しい弾丸の嵐をマリア達に上空から撃ち込むクリス。

 大鎌と丸鋸の奏者は跳んで回避し、マリアはマントを盾として防ぐ。

 そこへ落ちるのは響の鉄拳。腕部のパーツをオーバースライドさせてないにしろかなりの一撃は持っている。

 もちろん、響なりに手加減と修正はして当たらないように撃ち込んだ。

 回避するマリアに追撃する事なく響とクリスは鏡華達の場所まで下がる。

 ヴァンだけはそのまま鏡華達の場所に着地した。

 

「そうか……やはり……」

 

 誰に言うわけでもなくポツリと呟くと、エクスカリバーを腰に提げた。

 対峙するシンフォギアを纏う者達。

 響が一歩前に出る。

 

「やめようよ! 今日、出会った私達が戦う理由なんてないよ!」

 

 分かり合える人間同士だからこそ拳を交える前に対話を持ち掛ける。

 以前は叱咤した翼とクリスも今は何も言わない。

 だが、表情が乏しい丸鋸の奏者――月読調は響の言葉に反応を示した。

 

「そんな綺麗事をっ!」

「綺麗事で戦う奴の言う事なんか信じられないデスッ!」

 

 大鎌の奏者――暁切歌も大鎌の刃を向けて、響の言葉を拒絶する。

 

「そんな、話せば分かり合えるよ! 戦う必要なんか――」

「偽善者」

 

 遮り、調はそう響を呼んだ。

 ――あなたみたいな偽善者がこの世界には多過ぎる。

 そう言って、頭に付いたアームから丸鋸を射出する調。

 

  ――α式 百輪廻――

 

 躱せない距離ではない。

 しかし響は避ける事なく――避ける事を忘れたかのように突っ立っていた。

 響の前に躍り出る鏡華。プライウェンを顕現して丸鋸を防ぐ。

 

「何をしている立花!」

 

 翼が叱責し飛び出す。奏も翼に続き、マリアへ向かう。クリスは援護するようにガトリングガンで牽制する。

 マリア達三人も散開し、マリアは翼と奏へ、調は響と鏡華へ、切歌は大鎌を回転して弾丸を防ぎながらクリスへ、それぞれ向かう。

 

「はぁ……」

 

 億劫そうに溜め息をついたヴァンはクリスと切歌の間に割り込むと、大鎌を篭手で防いだ。エクスカリバーは提げたまま抜いていない。

 

「クリス、下がれ。近すぎだ」

「おう」

「何で、剣を抜かないデスかっ!」

 

 ガチャガチャと不協和音を立てて大鎌を押し通そうとする切歌がヴァンに叫ぶ。

 ヴァンは防御に使ってない腕でこめかみを掻き、「抜かないんじゃなくて抜けないんだ」と呟き、

 

「貴様らに刃を向ける事はしないと“あいつら”に約束してしまったからな。――暁切歌」

「なっ、何であたしの名前を知っているデスか!?」

「さあな。教えてやってもいいが――弾丸の餌食になるならの話だ」

 

 大鎌を弾き、その場から飛び退く。同時にクリスの弾丸がその場を荒らす。

 切歌も弾丸を防ぎながら飛び退いた。

 ヴァンは自分の篭手を見る。わずかに削られた傷は見えたが、それ以外の傷は見当たらない。

 

「不死殺しはなし。――ハルペーではないか」

 

 翼と奏の方を見る。あちらは二対一と云う有利な状況下で戦っているが、マリアのマントが存外に厄介な様子だ。

 全範囲をカバー出来るマントが連携を邪魔しつつ二人の攻撃を防いでいる。

 

 一方、響と鏡華は防戦一方で調の大鋸を躱し続けていた。

 反撃に出ればいいのだが、鏡華は何故響がここまで動揺しているのが気になっていたのだ。

 

「それこそが偽善!」

 

 響が戦う理由を話せば、調が偽善と両断する。

 ……自分が空気になっているように思えたが、気にしない事にした。

 

「痛みを知らないあなたに誰かのためになんて言ってほしくない!!」

「ッ――!」

 

  ――γ式 卍火車――

 

  ―投ッ!

 

 さっきまでアームを使って振り回していた大鋸を投擲してきた。

 鏡華はいち早く回避したのだが、呆けてしまっている響は避けようとしない。

 

「馬ッ鹿野郎!」

 

 闊歩で響の前に躍り出て、盾を出す暇もなく大鋸を篭手を付けた両腕で受け止める。不協和音を目の前で奏でられる上にガリガリと篭手を削り肉を裂いてくる大鋸の一撃に顔を顰める。

 

「遠見先生!」

「痛ぅ……! おい、そこのノコギリ女!」

 

 痛みを噛み殺し、鏡華は調に向かって叫ぶ。

 

「お前、立花の何を知っている? 立花の過去を知った上でのさっきの台詞か?」

「……」

「こいつの頭ん中は毎日お花畑かもしんないがな、過去に傷付いているかもしれないんだぞ! それぐらいは考慮して言ってやれ!」

「あ、あの遠見先生……フォローになってないですよ? 先生の言葉で地味に傷付いてます……」

「つべこべ言うな! 心で真意を感じ――とりゃ!」

 

 大鋸を地面に叩き付けて壊しながら言う。

 響は思わず「言ってる意味全然分かりません!」とおなじみの言葉を返してしまった。

 鏡華と響の元に翼と奏、クリスとヴァンが戻ってくる。

 

「大丈夫? 鏡華」

「相変わらずな。もう治癒しちまってるよ」

「あんま怪我すんなよな。あたしは、鏡華と痛みを共有(リンク)してるんだから」

「あいあい。今度から善処するわ」

 

 回復し傷痕すら残ってない手を振り、カリバーンを具現する。

 あちらも集まり通信に耳を傾けているようだった。

 ――つまり、彼女達に指示を送っている黒幕がいると云う事。

 しかし、二倍の戦力差を以てしても互角の戦いを見せる彼女達を倒し黒幕を吐き出させられるかどうか。

 とは云え、状況的には有利に変わらない。後は防戦一方だった鏡華とヴァン、響が攻勢に回れば――

 思考していると、会場の真ん中に突然ノイズが現れた。

 

「わぁぁ、何あのでっかいいぼいぼ!?」

 

 今までのようなノイズではなく、所々が肥大化し響達の身の丈の数倍はありそうな巨大なノイズ。しっかりとした形を保っておらず、響が表現したでっかいいぼいぼがまさに当てはまるだろう。

 

「増殖分裂タイプ……」

「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!」

 

 切歌の言葉通りなら、このノイズの登場は彼女達の予定にもなかったようだ。

 マリアは通信で「分かった」と呟くとアームドギアを展開した。そのアームドギアは色こそ違えど形状は奏のアームドギアと同形の代物だった。

 ガングニールの穂先をノイズへ構える。穂先が形状変化しエネルギーが充填されると、

 

  ――HORIZON†SPEAR――

 

  ―煌ッ!

  ―裂ッ!

  ―波ッ!

 

 ノイズ向かってエネルギーによる光の槍が放たれた。

 これには鏡花達も驚いた。自分達で出したノイズを自ら破壊しようとする行動。

 だが、どうやらその行動はあながち間違いではなかったようだ。

 出力を抑えていたらしき一撃はノイズを消し去るには至らず、むしろ肉片を会場中にバラまいた。

 それを見る事なく撤退を始めるマリア達。

 

「ここで撤退だと!?」

 

 翼は驚愕するが、いち早く気付いた響と奏が背中合わせに構える。

 

「皆! ノイズがっ!」

「なーるほど。増殖と分裂ノイズを殿(しんがり)にした撤退だったか。こりゃ悪くねぇな。あたしらには最悪だけど!」

 

 試しに、とガングニールで《LAST∞METEOR》を放ってみる奏。バラまかれた肉片を千切り飛ばしたが、その千切り飛んだ肉片がまた別の肉片とくっつき増殖を続けていた。

 鏡華とヴァンも光の刃で消滅を試みたが、如何せん会場を壊さぬよう出力を抑え気味になってしまい、増殖のスピードが消滅させるより早く、焼け石に水のようだった。

 会場に損害を与えず、増殖と分裂のスピードを凌駕するスピードでノイズを消滅させる方法はたった一つ。

 

「絶唱――絶唱しかありません!」

「だけどあのコンビネーションはまだ未完成なんだぞ!?」

「未完成だろうとやるしかないだろう。ぶっつけ本番とは――私達らしいな」

「おいおい、マジかよ」

 

 三人で話を進める中、鏡華とヴァン、奏は既にその場から離れ、会場を三等分するように別れて立っていた。

 

『まったく。俺達置いてけぼりってのはどうよ? S2CAは今現在、三人が精一杯だから仕方ないけどさ』

『特に何も。それより、こっちも失敗(ミス)などしてくれるなよ』

『あいよ。こっちもぶっつけ本番だけど何とかしてみようぜ!』

 

 念話で話し合いつつ、自分の役割に集中する三人。

 アヴァロンを具現し、その内より飛び出る光り輝く何枚もの紙。鏡華はその中から一枚を手に取り、奏の元へ《遥か彼方の理想郷》を通じて送る。

 送られてきた紙――歌詞が書かれた譜面を奏は受け取り、滔々と歌い上げる。その歌はまるで絶唱のように力を持ち、会場全体へ拡がっていく。

 それをヴァンがただ拡がっていくのを防ぎ、手綱を操るが如く誘導し、会場を覆うようにして唱壁として固定する。

 これが響、翼、クリスの《Superb(S) Song(2) Combination(C) Arts(A)》をトレースしてアレンジを加えた鏡華、ヴァン、奏のコンビネーションスキル《Mind(M) Memory(2) Creation(C) Song(S)》である。

 

『立花響のように調律するわけではないが――くっ、やはり他者の歌を固定するのは至難の業か。遠見! 少し厚みを減らせ!』

『了解。奏、だんだん遅く(ラレンタンド)――そのまま静かに(カルマート)!』

 

 奏の歌を唱壁として操っているヴァンの指示を受け、鏡華が奏を指揮する。奏は言われた通りに歌い唱壁を改変させていく。

 準備が完了している間に響達三人の絶唱の聖詠も唱い終わっていた。

 

  ―輝ッ!

 

 三人を中心に光が混じり合い虹色の光となって膨れ上がっていく。

 だが決して唱壁の外へは漏れ出ない。漏れ出さないようにしていた。

 

「スパーブソングッ!!」

「コンビネーションアーツッ!!」

「セット! ハーモニクスッ!!」

 

 もちろん響達が唱壁の外へ出さないよう調整しているわけではない。そんな余裕は三人の誰にもない。

 出さないよう調整しているのはヴァンであり、奏であり、鏡華である。

 ノイズを跡形もなく、それこそ分子レベルまで消し飛ばしている絶唱のエネルギーを受け止めている三人にも絶唱の反動と相応のダメージが襲う。それでもなお指揮を、歌を、操作を、止める事はしない。

 

『ぐぅ……! 少し薄い! 厚く、重くしろ!』

『ッ、重々しく(グラーヴェ)! ……そこ! 五秒前の音を保持してくれ(ソステヌート)!』

『……ッ、……ッ、りょう、かいっ!』

 

 上空には二つの光が交わってオーロラのような幻想の光を醸し出しているが六人は気付かない。

 絶唱が巨大ノイズのいぼいぼを全て消し去り、本体を曝け出させる。

 瞬間、翼とヴァンが叫んだ。

 

「今だっ!」『凝縮させろ(カンデンセイション)ッ!』

「――レディッ!」

急速に(プレスト)音を結びつけろ(スラー)!』

 

 響の声に合わせ最後の指示を送る。

 あれほど会場全体を包み込んでいた絶唱のエネルギーが響の身体に、ギアに集中する。

 その上からまるで響を包み込むように奏の歌が凝縮される。

 各部位のアームを解放、加えて両腕のユニットを一つに合わせてそこへエネルギーを全て流した。

 余剰エネルギーか、腕部ユニットを囲うように虹色のリングが自然と発生する。

 ――その時だった。

 微かに響の全身を漆黒のナニかが染め上げた。

 しかし、それは一瞬の出来事で誰の眼にも映らなかった。

 

「これが私達の――絶唱だぁぁあああっ!!」

 

  ―撃ッ!

 

 腰のブーストもプラスしてノイズの本体へ迫り、響は握り締め絶唱を籠めた拳を全力で叩き込んだ。

 減り込む拳。追撃とばかりに腕部ユニットの一部がノイズに突き刺さり回転を始めた。

 

  ―轟ッ!

  ―煌ッ!

  ―波ッ!

 

 回転を始めた途端、溜め込んでいた絶唱のエネルギーがそれに合わせて解放。暴風を巻き起こして上空へと吹き荒ぶ。

 どこまでも――成層圏まで吹き荒ぶ一撃に、ノイズは耐えきれるわけがなく成層圏に届く前にその身を消滅させた。

 

 ボロボロになりながらも会場に静寂が訪れると、鏡華とヴァン、奏と響が防護服を解いてその場に膝をついた。

 同じく防護服を解いた翼とクリスが一番近くの、そして“三人分の絶唱のダメージを受けた”響へ駆け寄る。鏡華達もふらつく足を叱りつけてその三人の許へ歩いた。

 

「私のしている事って偽善なのかな……?」

 

 聞こえたのは涙を流しながら呟いた一言だった。

 誰もが問い返せない中、響は構わず呟いた。

 

「胸が痛くなる事だって知ってるのに……!」

「響……」

 

 思わずと云った様子で奏が涙を流す響を肩に手を置いたクリスごと抱き締めた。いつもであれば抵抗するクリスも空気を読んでかされるがままに、むしろ涙を目尻に溜め自分から響を抱き締めた。

 立ち尽くす翼、鏡華、ヴァン。初めて見た響の表情に言葉すら掛けられないでいた。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 会場から放たれる虹色の閃光をマリア達はしっかりと見ていた。

 だが、見なければよかったかもしれない。

 

「な、何ですか、あのトンデモは!?」

「……綺麗」

 

 切歌は絶句し、調はその威力とは裏腹の輝きに眼を奪われていた。

 マリアは絶句も眼を奪われる事もなかった。なかったが、

 

「こんな化物をこれから相手取らなきゃいけない……」

 

 目の前ではっきりと実力を魅せつけられ、歯軋りしてしまいそうになる。

 彼我の実力差は決定的だ。

 しかし、目指すべき理想を、夢を叶えるためにはいつかは越えねばならない壁。

 大きく、険しく――天より睥睨する月まで届きそうな壁だ。

 その時、後ろで物音がした。

 振り返れば、黒装飾の人間が立っていた。

 敵ではない。味方ではあるが――

 

「見事なものだな。だが、正直人間が出していい光じゃない」

 

 黒装飾によって籠った声は年齢を計り辛い。

 唯一分かる事と云えば、彼が男だと云う事。自分を代替歌詞(オッシア)と名乗った事。

 

「頑張ってレベルを上げるしかないな」

「そんな事は言われなくても分かっている事よ」

「うん」「デス」

「それは失礼。――ヘリはすぐにでも飛べる。すでに“二人”は回収し、覚醒もした。撤退するぞ」

「……分かったわ」

 

 頷き、最後にもう一度あの光を瞳に焼き付けると、

 マリア達は黒装飾の案内によって夜の帳に姿を消すのだった。


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