戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
ネフィリムを倒し、弦十郎から伝えられたネフィリムの心臓の暴走をその眼で確認しながら、奏者六人はフロンティアから離脱。成層圏からネフィリムの心臓の暴走に呑み込まれるフロンティアの最期を見届けていた。
弦十郎ら二課メンバーは弦十郎の帰還を以てフロンティアから脱出したと連絡を受けている。
ならば問題はネフィリムのみだが、
「司令、そちらに鏡華はいないんですか!?」
『ああ。本部には戻ってきてない。反応も上手く探れん』
「……奏」
「駄目だ、念話も反応しない」
『鏡華の探査はこちらで行う。奏者達は——』
「あのデカブツをなんとかすんのは任せな、おっさん!」
通信をしている間にフロンティアを呑み込み形を固定したネフィリム。或いは別物としてネフィリム・ノヴァと呼称するべきか。
赤く染まった異形の姿の奥で、更に紅いマグマが煮えたぎって今にも爆発を起こしてしまいそうだった。
「さて、と。ヴァン、あのマグマどうにかなんない?」
「無茶を言うなクリス。無理に決まってるだろうが」
いくら炎を操れるからと云っても、今のヴァンにはまだできない。
否定しながらも物は試しと先陣を切る。
「切ちゃん」
「あたし達も行くデス!」
続いて調と切歌も飛び出す。
——終Ω式 ディストピア——
腕と足のユニットを分離させ、変形、巨大化、そして合体したユニットに乗り込む調。
どこからどう見ても、小さな武具ユニットがロボットに変形した。
「……アニメ好きなら嬉しがるだろうな」
場違いな一言を漏らしながら、ガラティーンを一閃する。
——
―煌ッ!
―閃ッ!
極大の光刃が放たれる。
大抵の敵は防御の上からでも灼き斬れるが、ネフィリム・ノヴァは大抵には入らなかったようだ。
ダメージは入ったのだろうが、それ以上に光刃から何かを吸い取っている。
「やぁああッ!!」
「デェェェスッ!!」
——終虐 Ne破aァ乱怒——
―斬ッ!
光刃が消える前に調が操るロボットの手先である鋸と、切歌のかぎ爪に変化した大鎌がネフィリム・ノヴァを切り裂く。
ダメージは入ったはず。しかし光刃と同様に、今度は調と切歌の身体から何かを吸い取っていく。
「ちっ……下がれ、お前等!」
―弾ッ!
剣群を射出しネフィリムを阻害しながら切歌を掴み調が乗るコクピットらしき場所に乗せ、ロボットごと引っ張る。
「切歌ッ! 調ッ!」
「問題ない。だが、少しばかり吸われたみたいだ」
「くっ、聖遺物を喰らうばかりか、エネルギーだけでも呑み込む悪食……ッ!」
なまじネフィリムの知識を持つが故に、すぐにどういう理屈か理解する。目の前の化物は生半可な攻撃は受けてもそれ以上にエネルギーを吸い取る事も。
だがこのまま手をこまねいてはいられない。ネフィリム・ノヴァが臨界に達したら——確実に地上は蒸発する。
「どけッ、ヴァンッ!」
「——? ッ、そうか」
クリスの言葉に、ヴァンは意図を察しすぐにマリア達と共にクリスとネフィリム・ノヴァの間から離脱する。
飛び出したクリスが格納しており、取り出したのはソロモンの杖。
「人を殺すだけがッ! お前の
かつて自分の歌で覚醒させたソロモンの杖。
使い方はフィーネから叩き込まれた。
ノイズの出現方法。操作方法。自壊方法——そのほとんどを。
その中にはバビロニアへの入り口を開ける方法もあった。
ネフィリム・ノヴァの背後に入り口が作られる。
「そうか! XDの出力でソロモンの杖を機能拡張したのかッ!」
「バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納できればッ!」
開かれていく入り口。奥に見える光景は現代では摩訶不思議なもので、普通ではないとはっきりと感じられる。
それをネフィリム・ノヴァも感じ取ったのか。ヴァンと切歌、調が攻撃した時はまったく動かさなかった腕を振るう。巨体に反して素早い動きに、クリスは気付くも回避する暇もなく吹き飛ばされる。
クリスはすぐにヴァンが抱きとめたが吹き飛ばされた際にソロモンの杖を手放してしまった。
どこかへ紛失する前にマリアが掴み操作する。
「明日を——ッ!!」
発動自体はクリスが行っていたので、マリアは出力を調節する。ネフィリム・ノヴァを格納できるサイズまで入り口を広げ固定する。
成功した事に、ほっと一瞬だけ気を抜いてしまう。そこをネフィリム・ノヴァは狙った。
腕から生み出した触手でマリアを拘束しようと伸ばす。マリアはすぐに回避行動に移るが一瞬の隙は大きく、触手に掴まってしまう。
「「マリアッ!」」
「ッ、問題ないッ! 格納後、私が内部よりゲートを閉じるッ! ネフィリムは私がッ!」
「自分を犠牲にする気デスかッ!?」
切歌と調の叫びにマリアは不思議と穏やかな笑みを浮かべる。
自分を犠牲にする事に迷いはなかった。F.I.S.からの決起によってこれまで散らしてしまった多くの命は数知れない。
米国兵士、スカイタワーの客と敵味方関係なく何人、何十人といる。
こんな事で罪が消えるはずはない。
それでも、マリアは護ってみせると誓った。今ある世界を、今を生きる全ての命を。
「それじゃあ、マリアさんの命は私達が護ってみせます」
拘束されながらネフィリム・ノヴァと落ちていくマリアに響が伝えた。
英雄でもない自分達が護れるものは数えるしかない。けど、仲間を助ける事ならできると。一人じゃできなくても一人じゃないなら。
「できない事もできる。それは絶対に絶対です」
「——」
「それに約束しましたから。全部終わってからひゅー君の事聞かせてもらうって」
「立花響……」
周りの仲間も頷く。
まったく甘いと思う。それ以上に嬉しいと云う気持ちが込み上げる。
縛られながら気を引き締め直し落ちゆく入り口に眼を向けた。——まず眼を疑い、驚き、叫ぶ。
「風鳴翼ッ! 天羽奏ッ! 先にバビロニアへ行けッ!!」
自分の見たものを伝えるために。
「オッシア……遠見鏡華が——バビロニアへ落ちたッ!!」
翼と奏が息を呑み即座に入り口を見回す。だが、鏡華の姿は見えない。
「一瞬だが間違いない! 早くしないと見失うわよッ!」
「ッ、すまない! すぐに戻るッ!」
マリアの叫びに、翼と奏は先行してバビロニアの宝物庫内に飛び込む。
端が見えない摩訶不思議な空間。内部に浮かぶ建造物。そして、そこかしこに存在するノイズ。恐らく万とか億では足りない数だ。
「くっ……どこだ鏡華ッ!」
宝物庫に侵入した時間差はほとんどゼロに等しい。
しかし鏡華の姿は見えない。むしろノイズがわらわらと近付いてくる。
「邪魔だぁッ!」
——LAST∞METEOR——
―轟ッ!
寄ってくるノイズを塵と化え、辺りを見回す奏。
何度もノイズを暴風で吹き飛ばし視界を一カ所にとどめずに探し、
「——翼ッ、あそこッ!」
「ッ!」
半ば確信を持った声音で指差す。
翼は疑問を持つ事なく指差された方へ翔る。
ノイズを斬り捨てながら進み、ある建造物にノイズが積み重なっているのが見えた。
「はッ!」
横薙ぎに振るい、積み重なるノイズを慎重に、かつ迅速に斬り払う。
数秒で全てのノイズが塵と消えると、そこに確かに鏡華が倒れていた。
「ッ、傷口が……ッ!」
大量の血で汚れる事を気にも止めず抱き起こす。血自体は止まっているが傷口は開いたままで塞がっていない。意識がないが息はしているので死んではいないだろう。
手荒だが脇に抱え奏と合流する。
「鏡華は回収できたッ! 露払いは任せた!」
「任されたッ!」
槍を構え一直線にノイズの群れを突破する奏。槍の突撃から逃れ翼と鏡華を襲うノイズだけを斬り捨て奏の後ろを翔ていく。
すぐに響達の許に辿り着く。
切歌がダメージ覚悟でネフィリム・ノヴァの気を引き、調がマリアを拘束している触手を切断しようとしている。響、クリス、ヴァンの三人は二人の邪魔をさせまいと周囲のノイズを狩っていた。
奏は響達の許へ向かい、翼は鏡華を背負い、切断に難航している調の許へ向かう。
「調ッ! まだデスかッ!」
「もう少し……!」
「半分請け負う! 残りに全ての鋸を集中させろ月読!」
「ッ!? ——はいッ!」
調が鋸をひいた触手に接近し、腰溜めに構え、
「——破れよ、怒濤なる閃きは烈火の如く」
―閃ッ!
ただ一度、天ノ羽々斬を振るった。
それだけで容易く触手は両断された。——否、“両断ではなかった”。細切れにされたのだ。
「くっ……流石は防人」
「半分以上月読が削っていたがな」
悔しがりながら、調もロボットの鋸で残り半分の触手を削り切り、マリアを触手から救い出す。
「助かったわ」
「礼は後だ。マリアはソロモンの杖で再度開いてくれ。その間の露払いは私達でする」
解放されたマリアに翼は告げると答えを聞かずにノイズに向かった。
敵であるはずなのに全面で信頼を置かれている事に、マリアは苦笑いを浮かべると共にソロモンの杖を掲げる事で応えた。
「——ッ!」
叫びと共にノイズがいない場所に向かってソロモンの杖を起動させる。放たれた光線は空間に地球へゲートを開く。ゲートの奥には場所は不明だが砂浜と海が見えた。
「——マリアッ!」
「ッ!?」
後は固定するだけ、と云ったところで切歌の声。
その声音でマリアはその場から離れた。瞬間、通り抜けるネフィリム・ノヴァの触手。
知能を持っているのかと思わせるほど執拗にマリアを狙う。
「くっ……これではゲートの固定が……ッ!」
どうにか回避しながらゲートの座標を固定しようとするが、上手くいかない。
切歌と調が割って入ってくれているが、それでも追いかけてくる。
こうなったらまた——と考えた時だった。
「——仕方ないわね、本当にもう」