戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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Fine12 理想郷はこの胸にⅥ

 ネフィリムの爆炎。接近してくる業火の塊に、マリアは構う事なく聖詠を歌う。

 歌う聖詠に組み込まれた銘はアガートラーム。かつて、セレナが纏っていた聖遺物だ。

 本来、一人の歌に起動できる聖遺物は基本的に一種類とされている。マリアはガングニールを纏っていた事から、これは異例と言えた。

 だが、マリアはそう考えなかった。

 側には切歌と調がいる。

 ナスターシャとセレナも姿がなくともいてくれる。

 ならば——

 

「これぐらいの奇跡——安いものッ!!」

 

  ―煌ッ!

 

 装着時のエネルギーでバリアフィールドを展開させ、ヴァンを除く五人を包み込む。

 

「借りるぞ、カデンツァ」

 

 唯一バリアフィールドに入らなかったヴァンは、一瞬だけ手を翳し爆炎に向かって唱壁を発生させる。防ぎきる事など不可能だが、ほんの少しだけ止める事はできた。それだけでヴァンには十分だった。

 

  ―閃ッ!

 

 ガラティーンを爆炎に一閃。衝撃で固体を維持していた爆炎が爆発を起こす。爆風が襲いくるが、ガラティーンで斬り払う。

 次いで第二波が放たれる。

 

「S2CAセットッ——ヴァンさん! 形状ランスッ!!」

了解(オーライ)ッ、M2CSver.(ランス)ッ!」

 

 背後から聞こえる響の声に、ヴァンは横にズレた。

 立っていた場所に響が飛び出し、拳を振るう。腕には繋いで束ねたフォニックゲインがオーラのように纏わり付いている。

 ヴァンは響のフォニックゲインの形状を変化させて槍のように固定させる。

 

「フォニックゲインを力に変えて、ブチ抜けぇえええッ!!」

 

  ―撃ッ!

 

 打ち込まれた迎撃の一撃。爆炎を貫き、内側からフォニックゲインで破裂させる。

 第三波の爆炎はこなかった。爆炎では無理と判断したのか、ネフィリムはフロンティアの遺跡や自身と同じサイズの巨岩を投げつけてきた。

 だが——それが届く事はなかった。

 

  ―撃ッ!

 

「真打ちは最後に登場ってな!」

 

  ―斬ッ!

 

「——遅ばせながら、槍と剣も今を以て戦線復帰するッ」

 

 ネフィリムと奏者達の中間辺りの中空で、砕かれ、斬り裂かれ、弾け飛ぶ巨岩。

 それを成したのは、一瞬置いてバリアフィールド内に着地した。

 

「翼さんッ! 奏さんッ!」

「おしっ、ギリギリセーフだなッ!」

「遅刻した身の上話は後だッ。立花、あとは——」

「はいッ、任せ下さいッ!!」

「よし、奏。夜宙と共に頼むッ!」

「オーケィ、任されたッ」

 

 奏はすぐにバリアフィールドから飛び出しヴァンと並び立つ。そして、ヴァンと共にネフィリムへ突撃を始めた。

 留まった翼は調の隣に立ち、手を差し出す。

 

「共に歌ってくれるか?」

「……本当に二課の奏者は、突拍子すぎる」

「違いない。が、慣れると存外悪くないものだ」

 

 差し出された翼の手に、調は呆れながらも自分の手を重ねる。

 

「悪いな、あいつらにつける薬はないんだわ」

「お互い様デスよ。普段のあたし達も多分変わんないはずデス」

「そうかい。んじゃま、もう一つだけ」

「なんデスか?」

「ようこそ、ツッコミ側へ」

「……よろしくしたくなくなったデスよ」

 

 苦笑いを共に浮かべて、クリスと切歌も手を重ねる。

 

「切歌ちゃん! 調ちゃん!」

 

 中央にいた響が切歌と調の手を重ね、握り締める。

 敵対や誤解、すれ違いを続けていた二課とF.I.S.の奏者が遂に手を取り合う。

 そして重なる——歌。

 

「あなたの行為が偽善かどうか、私にはまだわからない」

 

 歌う響に調は自分の気持ちを伝える。

 

「だから、近くで見せて、そして信じさせて。あなたの人助けする姿を、私達に」

「——」

 

 歌を歌っている響は、調の言葉に頷き握る手に力を込める。

 それが答えになったのか、調も歌を奏で、フォニックゲインを高めてゆく。

 

  ―煌ッ!

 

 大ダメージになるであろう攻撃はヴァンと奏が抑えてくれているが、腕や胴体から放たれる光線がバリアフィールドを浸食しようとしていた。奏者自身にダメージは入ってないが、バリアフィールドの減少と共に奏者が纏う防護服が溶けていき形のないエネルギー体に戻っていく。

 

 ——ああ、これが。

 目の前の調と響の言葉に、マリアは納得するように呟いた。

 

「繋いだ手だけが、紡ぐもの——」

 

 誰かが指示したわけではない。それでも奏者達は聖詠だけでメロディを紡いで歌とする。

 ほんの少し前まで敵同士だったのに、歌は確かに続き、奏者の心が一つとなっているのがよく分かる。

 

「私が束ねて繋ぐ、この歌は皆の——七十億の絶唱——ッ!!」

 

 フォニックゲインを束ねられる響は気付いていた。

 奏者達の歌だけでなく、全世界からフォニックゲインが高められている事を。

 世界中の想い——だからこそ響は七十億と言った。

 

  ―輝ッ!

 

 束ねられたフォニックゲインが奏者の力と変わり。

 気付けば、奏者達全員のギアの形状が変化していた。ロックが解除され、エクスドライブモードへと。

 調や切歌だけでなく、マリアも白銀のギアをその身に纏っていた。

 六人の側に、ガングニールとアヴァロンを混合したような防護服を纏いプライウェンに立つ奏と、ガラティーンの刀身から噴き出す炎で浮かぶヴァンが並び立つ。

 ——さあ、反撃開始だ。


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