戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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解き放たれる想いは、願いを象り映し出す。
二人で奏でる童歌。世界へ届け、独奏の歌。
繋いで紡ぐ絆は、世界を包む歌に成らん。

Fine12 理想郷はこの胸に

彼方の果てに在りし小さな一欠片。
それは誰の胸にもある、何時かに夢見た儚き幻想。
小さく小さく——収斂されたちっぽけな光の、ああ、なんと眩しき事か。
さあ往こう。理想郷はこの胸に——確かにあるのだから。


Fine12 理想郷はこの胸にⅠ

『継承者——暫定的に私が勝手に名付けた呼び方だが——そなた等の文献に残された聖遺物の持ち主以降の担い手の事を私はそう呼んでいる。ただし、条件として完全聖遺物の所有者である事。そして、聖遺物に認められた者だけがそう呼ばれる』

 

 以前、鞘の中で騎士竜と交わされた会話。鏡華は息を整えながら聞いていた。

 

『現代において希少な存在である完全聖遺物は個人の物ではなく国所有になる事が多い。しかし、危険・解析不可・未覚醒の三拍子のせいで所有者がとんと現れない。加えてヒトとしての劣化、堕落によって更に担い手は生まれなかった。故にそなたと夜宙ヴァンは第一段階は越えたと言っていい。そなたは父から鞘を命を救われる形で託された。夜宙ヴァンはエクスカリバーへの宣言と……ふふ、かつての担い手と似ているから、かもしれないな』

 

『性格ではなく在り方がな。ああ、あと好みの女の姿形もか。——っと、脱線したな。第二段階、聖遺物に認められる事については、そなたは既に越えている。夜宙ヴァンもある程度は認められているはずだ』

 

『なに? そんな簡単に認められるのか、だと? 本来はありえんよ。しかし、そなたの聖遺物は(わたし)だ。記憶されたモノとは云え、いや、鞘に記憶されたからこそ稀有に存在する意思持つ聖遺物であると言うべきか。故に私が認めた以上、それは鞘が認めたも同じ事。夜宙ヴァンについては先程と同じ、ガウェイン卿に似ているからであろう。流石に他の聖遺物までは知らぬ』

 

『ん? ああ言ってなかったか? 夜宙ヴァンの持つエクスカリバーは兄弟剣ガラティーンの方だ。——さて、条件を全て越えた者に最後の条件が発生する。それは聖詠の獲得だ』

 

『そうではない。奏者が口にする聖詠は多少の違いはあれど、あくまで“聖遺物の聖詠”だ。獲得するのはそなた“だけ”の、遠見鏡華“だけ”に許された聖詠だ』

 

『そも、聖詠とは、適合性を有するヒトが抱く強い想いに聖遺物が共鳴・共振し、想いの送り主の胸に起動言語(コマンドワード)——つまり聖詠を反響させる。その聖詠を口にする事で適合者にギアと云う形で纏わせる。これが聖遺物の聖詠』

 

『ヒトとしての聖詠とは、己の在り方を示すモノであり心象を表現する、謂わば、自己暗示の詠唱言語(スペルワード)だ。故に一つとして同じ聖詠は存在せず、他者の聖詠を唱えた所で意味の無い言葉になる』

 

『元々、力は聖遺物(ぶき)から“借りる”ものではない。担い手が“引き出す”ものだ。だからこそ聖遺物(よそ)聖詠(うた)ではなく、己の聖詠(うた)が必要なのだ。同時に己を護るためでもある。そなたら現代の者の肉体は、過去の英雄、ヒトと比べても数段脆弱に劣化してる故、己が聖詠によって限界値を決めておくのだ』

 

『だが決して軽く考えるでないぞ。聖詠は考えて浮かぶものではない。そなたの聖詠(うた)はそなただけのもの。別のそなた(オッシア)が獲得していようとも、既に存在は大きく違えている。ふむ……そなたは一度聞いた事がある言葉を贈ろうか』

 

『——胸の(うた)を信じなさい』

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

  ——我が終焉、黄昏より遥か彼方——

 

 先程までの叫んでいた言葉とは真逆の静謐な言葉。どこまでも、静かに、滑らかに響いていく。

 それはオッシアが発したあの言葉とひどく似ていて、しかし、まったく異なる言葉。

 

  ——然れども理想郷はこの胸に——

 

 鏡華の口から流れるように紡がれた言葉。響く言葉はまさしく鏡華“だけ”の聖詠。

 彼を取り巻く圧が風へと変わり、弾け飛んだ先に、オッシアは見た。

 全身を覆い隠していたローブは消え去り、全身を見せた遠見鏡華の姿を。

 今までの防護服の上に着けていた鎧は一切纏われてなく、見ようによっては私服と捉えられてもおかしくないライダースーツ。その上には黒のフレアコート。服にはどちらにも幾何学な紋様が描かれている。

 開かれた眼。眼前の敵を見据える眼に、オッシアは一歩後退していた。

 

(これが……これが真に継承された鞘。同じ存在だとしても、もどきでしかないオレとは違う完全な継承者)

 

 過去に英雄と呼ばれた者が使用していた聖遺物。起動させただけで今の人類には十分な力を持っているのに、十全の力を引き出す事の出来る所有者の手に渡ればどうなるのか?

 その問いの結果が目の前に存在している。

 かつてフィーネがシンフォギアを玩具と称したが、まさしくその通りである。敢えて付け足すのであれば、継承者のいない完全聖遺物は戦車や爆撃機と云った所か。

 では継承者を得た完全聖遺物は? ——単体で国を滅ぼす事の出来る核兵器以上だ。

 

「——さあ」

 

 ややあって、鏡華は口を開いた。

 

「幕を下ろそう。二年前から続く俺達の物語(のろい)に」

「ッ——!」

 

 オッシアは弾かれたようにその場から飛び出す。真っ直ぐ鏡華に突き進み、

 

「終わらせてみろッ! 終わらせられなかったオレを超えてッ!!」

 

 デュランダルを振りかぶり、一気に振り下ろした。

 首筋へ吸い込まれる刃は鏡華に叩き込まれ、

 

  ―撃ッ!

 

「——がはぁッ!?」

 

 “殴り飛ばされた”。

 地面を二、三回バウンドして体勢を整え着地する。

 ——今、何をされた?

 オッシアは分かりきっていても問わずにはいられなかった。

 鏡華がしたのは実に単純だ。デュランダルの刃が触れる前に時止めで回避し一撃入れただけ。

 そう、一撃“入れた”だけなのだ。だが、疑問が枠には十分だ。

 

「どうして内包結界が解除されない……!」

「単純な事だ、オッシア」

 

 オッシアの問いに鏡華はあっさりと返答した。

 

「内包結界で攻撃が禁じられているのは騎士王の鞘だったからだ。だけど、そんな制約は継承した時点でなくなった。この鞘は——俺の鞘だ」

「ッ……!」

「外せる不利な条件なんて取っ払って当たり前だろ? 俺は騎士じゃないんだから」

 

 にやり、と笑う。悪戯が成功した少年のような笑みだった。その笑みを見て、オッシアの見えない口角は僅かに釣り上がった。

 笑みを消して構える。オッシアは仮面とマフラーで表情を隠したまま構える。

 

「……それでも、オレのやる事は変わらん」

「今度こそ、超える。それは絶対に絶対だ」

 

 二人の膨れ上がる気配に空間が――広間が軋みを上げた。先程まで傷一つ付く事のなかったのに、空間が悲鳴を上げている。

 

「アヴァロンが継承者、遠見鏡華」

「遠見鏡華の感情体(ゲフュールノイド)、オッシ——否、リード・アフェッティ」

 

 名乗りを上げる。

 

「我が理想郷へ辿り着くため」

「我が望み、我が愛、すべからく彼女のため」

 

 そして、同時に告げた。

 

「推して参る」「押し通す」


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