戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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Fine11 遥か彼方の理想郷Ⅶ

 息も絶え絶えに昇降機に辿り着いたウェルはネフィリムの腕で昇降機を動かし、そこでようやく一息をつけた。余裕が戻ってくると、ウェルの思考は一瞬で怒りに染め上げられた。

 

「くそッ! ソロモンの杖を手放すハメになるとはッ!」

 

 初めからF.I.S.、ひいてはウェルの持ち得た戦力の大半はソロモンの杖によるノイズだったのだ。残りの戦力はシンフォギア奏者のみだが、そのほとんども使い物にはならない。唯一残されているのはマリアとネフィリムだけ。オッシアも恐らく契約を終えているためアテにはできないだろう。

 

「こうなったらマリアをぶつけてやる……!」

 

 マリアが他の奏者に勝てる可能性は限りなく低いが、それならそう考えて動けば問題はない。そう考えて昇降機の速度を上げ、ブリッジへと急ぐ。

 ブリッジに着くと、ギアを纏ったマリアが蹲っていた。通信越しに聞こえるナスターシャの声から何かやっていたのだろう。

 怒りの収まっていないウェルは、自分の思い通りに動かないマリアに臨界点を超えた。簡単に言えばプッツンしたのだ。

 

「――――ッ!!」

 

 早足でマリアに近付き言葉にならない早口で罵倒しながら、マリアを殴り飛ばした。まったくの無抵抗だった彼女は受け身も取らないまま床に倒れ伏した。

 

「誰も彼も僕の言う通り動かない! 痒い所に届かない肩叩き以下の役立たずがぁっ!!」

『マリア!?』

「あん? ……やっぱりオバハンの仕業か」

『お聞きなさいDr.ウェル! フロンティアの機能に向かって――』

 

 ナスターシャが事態を収拾できる案を説明していくが、ウェルは取り合う事なく手元のスフィアを操作する。

 

「だいたいなぁ、月が落っこちなきゃ好き勝手できないだろうがっ!」

『Dr.ウェルッ!!』

「遺跡を動かす〜? そんならあんたが月に行って好き勝手動かせばいいだろう! 小五月蝿い姑がッ!!」

 

 ドンとネフィリムの腕を叩き付けるようにスフィアに押し付ける。何をしたのか、マリアには分からない。しかし、外から噴射音が聞こえると最悪の想像をしてしまった。

 

「マムッ!?」

「有史以来、数多の英雄が人類支配を為し得なかったのは人の数がその手に余るからだッ! だったら支配可能なまでに減らせばいいッ! 僕だからこそ気付いた必勝法ッ! 英雄に憧れる僕が英雄を越えてみせるッ!」

 

 ウェルが自分の計画を口にしているが、マリアはほとんど聞こえていなかった。

 宇宙へ行く事など計画のどこにもない。対Gスーツなんて上等な物なんて用意していない。しかも乗り物は航行船と呼ばれる物とは云えその一部だけ。一瞬で大気圏を突破するのにどれだけの推力で射出されたのか。また射出された制御室に圧し掛かるG――加速度はどれだけものか。

 その加速度に制御室が――生身のナスターシャが“耐えきれるのか”?

 

「あ、あぁあああッッ!! マムをッ! よくもマムをぉおおッ!!」

 

 誰が考えても耐えきれる訳がない。

 その答えを即座に導き出し絶叫するマリアは、その手にガングニールを槍として握り締める。

 

「手に掛けるのか!? 英雄たるこの僕を! この僕を殺す事は全人類の――」

「殺すッ!」

 

 英雄? 全人類の?

 

 ――だ か ら ど う し た

 

  ―斬ッ!

 

「うひぃっ!?」

 

 振り下ろしの一閃をウェルはギリギリで躱す。

 もうウェルの言葉は聞き飽きた。奴の話す全ての言葉が耳障りだ。

 殺す、ころす、コロす――奴さえ殺せれば、後の事なんて知るか。

 確実に殺せるために槍本来の突く構えを取る。

 

「――しね」

 

 一歩を踏み出す。

 

 

「駄目ですッ!!」

 

 

 その一歩を止めたのは。

 同じガングニールの聖遺物を使っていた融合症例の少女。

 そして、日向のかつての幼馴染み。

 立花響がウェルの前に立ち、マリアの前に立ち塞がった。

 

「そこをどけ! 融合症例第一号!」

「違う! 私は立花響、十六歳! 融合症例なんかじゃない!」

「なにをッ!」

「ただの立花響がマリアさんと色々お話したくてここに来たッ!」

 

 この場に似合わない自己紹介から始める響のお話。

 それはかつてクリスにもした、響の人助けの第一歩。

 

「お前と話す必要はない! マムがこの男に殺されたのだ! ならば、私もこいつを殺すッ! 世界を守れないのなら私も生きる意味なんてないッ!!」

「あります! 私はマリアさんとたくさんお話したい事があるッ!」

「知るかぁッ!!」

 

 我慢しきれずマリアが槍を振り抜いた。

 響はその鋭い穂先が自分に当たる前に横へ半身動かす。これでウェルに当たる。そう思っていた。

 

「お前……ッ」

 

 避けたと思っていた響は、素手で槍の穂先を掴まえ握り締めていた。

 掌から血を流し痛みで手が震えているのに、響は槍を離そうとしない。

 

「意味なんて後から考えればいいじゃないですか。聞きたいんです、マリアさんの事とか、私の知らない、マリアさんの知ってるひゅー君の事を」

「ッ……」

「まだ告白とか大事な事終わってないんですよ? だから――生きる事を諦めないでッ!!」

 

 叫ぶと同時に、真逆の静かな声で聖詠を唱う。

 

「聖詠!? 何のつもり!?」

 

 その意味はすぐに現れた。

 叫ぶように唱いきると共に槍が光と消え、マリアの纏うガングニールも同様に光となり辺りに膨大な粒子として散っていく。

 纏う物がなくなり裸体を晒す響とマリア。

 

「何が起きているッ!」

 

 訳の分からない現象にマリアは戸惑いを見せる。

 

「こんなことってあり得ないッ! 融合者は適合者ではないはずッ! これはあなたの歌? 胸の歌がして見せたこと? あなたの歌って何ッ!? 何なのッ!!?」

 

 響が何かしたのは明らかだ。

 狼狽が言葉と共に吐き出される。

 

「マリア。響ちゃん……」

 

 遅れて日向が到着するが、二人とも気付かない。

 次第に光が響の元に集まっていき、そして告げる。

 

「撃槍!! ガングニールだぁあああッッ!!!」

 

 光が消えた時、響はガングニールのギアを纏っていた。

 その姿は紛れもなく適合者としての姿だった。


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