戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
「怒り、猛り、狂い――狭い世界の中で」
それはきっとワタシの心。
「恋い焦がれた、優しい日々は消え去り」
ただ感じるしか、見ている事しか出来なかった。
初めは仕方ないと思った。彼の行動に間違いはない。もし自分が逆の立場でも同じ事をする。
「手を伸ばしても、そこに私はいなくて」
眼が覚めてからずっと見ていた。
だけどいつしか――見ているだけが辛くなった。
あの子に触れたかった。声を届けたかった。
でも、届くのはいつも
「失った日常が、貴いモノだと気付いた」
我慢できなくなった時、自分の中から抑えの効かない怒りが湧き上がっていった。
自分の事に気付かずに平穏な日常を送っている
行動に間違いはなかったと自分が認め、共に生き、私だけを愛すると言った彼に。
人が手を出すべきではなかった過去の遺物たる鞘に。
そして何より――こんな事を考えてしまっている
かつて家族を殺され、復讐すると誓ったあの時と変わらないーー否、それ以上の怒りを感じてしまっていた。
抑えきれずフロンティアの一部を無意識に具現化した槍で壊した。海水が入ってこなかったのは奇跡だろう。
彼がいる時は、彼に八つ当たりのように思いの丈をぶつけた。ぶつけるのが言葉や武器だけでなくなるのに、然して時間は掛からなかった。
気力で抑え付けても、感情自体が実体を持つかのように怒りの炎で内から焦がすかのような痛みを与えてくる。
我慢する事は可能だが、その分反動は大きい。
「アアアアァアアッ――!!」
――
―閃ッ!
―轟ッ!
咆哮と共に放たれる一本の槍が、空間を切り裂いて走る。
自身へと到達する前に奏はその場から駆け出す。ワンテンポ遅れて立っていた場所に、投擲された槍が着弾し爆裂する。足を止めようとした奏は、しかし、すぐに回避するために跳んだ。
―爆ッ!
爆風が回避行動に移り宙に浮いていた奏の身体を吹き飛ばす。空中で体勢を整えつつ奏は、手にした槍を構え、
「遅ェッ」
「んぐっ!」
目の前にいたフュリに殴られた。地面をバウンドし壁に着地する。ガングニールのブーストと共に壁を蹴り、フュリへ接近し、
「おらあッ!」
ガングニールによる一閃。
フュリはまだ空中におり、回避は難しいと踏んでいた。しかし、フュリはあっさりと躱し、蹴りを放つ。それを槍で弾き飛ばし距離を取る。
「だから、遅ェんだよォオッ!!」
フュリが吼える。同時に宙へ弾き飛んだ彼女が正反対――つまり、奏のいる地面へと飛び込んできている。
驚く奏の視界に、フュリの後方に一瞬だけ映った物によって理由が判明した。
「プライウェンを足場にして……!」
だが驚いているだけの時間はない。刺突を躱し、槍を横薙ぎに一閃する。本来回避できない一撃だが、フュリの足下には既にプライウェンが具現化していた。回避する事なく前へと踏み込み、槍を回す。奏の一閃を柄で防ぎながら更にもう一度回転。ガングニールを弾き飛ばしながら穂先が奏に向かって襲い掛かった。
―閃ッ!
流れるような動作に奏は息を呑みながら後ろへ下がる。が、ワンテンポだけ“ズレた”。
穂先は阻む物のない奏の顔の右側を切り裂いた。
「ッ、がっ!?」
一閃によって、一瞬の冷たい感覚と共に真っ暗闇に染まる視界の右半分。わずかに遅れてじくじくと熱を帯び痛みが呼び寄せられる。痛みを噛み殺し、フュリを片目で見据え、奏は言葉を失った。
――
奏が見たのは、フュリが炎の旋風を宿した槍を振り下ろしていた姿。
槍が叩き込まれたのは奏の足下。だが、攻撃を誤ったのではない。直感でそう気付いた奏は後退しながら盾を具現化し、更に両腕を顔の前でクロスさせた。
―轟ッ!
はたして――奏の直感は正しかった。
吹き荒れる炎の嵐は、容易く奏を盾ごと呑み込んだ。あまりの熱量に声にならない悲鳴を喉の奥から上げながら必死に耐える。
何秒経過したか、奏は分からない。
「……、……、……」
炎の嵐から解放された奏はその場で膝から崩れ落ちた。回復は始まってるが、痛みは収まらない。
(くっそ……ワンテンポ遅れただけでこのザマか。はは、流石に笑うしかないなぁ)
それにしても、と、奏は荒い息のままサッと身体を見回す。
回復はまだ継続中だが、傷の中に火傷の痕が見当たらない。既にそれだけ治った、と云うわけでもないだろう。しかし、内側から身を焦がす痛みはまだ残っている。
――何故?
「さっきの炎はアタシの感情のによる概念精装。だから肉体にダメージはない」
そう、奏の疑問を分かっているかのように話し出すフュリ。
「これを受けたのが
「つまり早い話が、対自己に特化してるって事か。やってくれる」
悪態を吐きながら手をかざし、弾かれたガングニールを呼び寄せる。槍を杖代わりに立ち上がる。概念精装のダメージはまだ残っているが、続行不可能と云うほどではない。
「そうだ、立ち向かってこいよ。その悉くをブチ壊して、今までの怒りを全て教えてやるッ!!」
「受けてやるのはや、やぶ……やさぶか? じゃないんだけど、なッ!」
―撃ッ!
―轟ッ!
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
調と切歌の戦闘をモニター越しからマリアは見ていた。
「どうして……仲の良かった調と切歌までが……」
モニターから二人へ声を伝える事は出来ない。この場所にウェルはいなくなっていたが、未だシステムの操作等はウェルが握っていた。
この場からでは何もできない自分にマリアは悔しそうに顔を歪める。
「私の選択はこんなものを見たいがためではなかったのに……ッ!」
世界はおろか大切な人すら護れないと感じたから、マリアはウェルに賛同し、調や切歌、日向やナスターシャを抑えて行動したのに。なのに何故こう裏目に出るのだ。
膝から崩れ涙がこぼれる。
『……リア。……マリア』
ナスターシャの声が聞こえたのは、そんな時だった。
「マム!?」
『フロンティアの情報を解析して月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました。最後に残された希望――それにはあなたの歌が必要です!』
「私の……歌?」
立ち上がったマリアにナスターシャが説明を始める。
曰く、これらの一件のそもそもの原因は、数ヶ月前のルナアタックによって月機能の一部が機能不全に陥ったからであると。月は
その月を――敢えて再起動させる。
機能が不全で人類の危機となるなら、もう一度起動させる事によって人類を危機から救うのだ。
ナスターシャの見解では、月の機能は歌によって再起動させる事ができると云う。
『かはっ……マリア、あなたの歌で世界を救いなさい……!』
吐血と共に告げられる言葉。
信頼の籠められた言葉に、マリアは胸のペンダントを握り締め。そして――