戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
また期間が空いてしまって申し訳ありません。
不定期ですが投稿していきます。AXZ始まるまでには完結……(めそらし
――非常Σ式 禁月輪――
―駆ッ!
――双斬・死nデRぇラ――
―斬ッ!
―戟ッ!
日向の視線の先で、調と切歌の得物がぶつかり嫌な音が辺りに響く。車輪の形状にした鋸の一撃を持ち手を二つにした、さながら巨大な鋏のような大鎌で防ぎながら鋸の軌道を逸らす。軌道を逸らされ地面に着地した調は、鋸を元に戻して小型の鋸を撃ち放つ。大鎌だけでは捌けない量の鋸を、切歌は肩のユニットの切っ先全てを鋭利な鎌の刃に変え捌き飛ばす。
「――」
言い争いと共に繰り広げられる過去含めて最大の“喧嘩”を前に、日向は何もせずに傍観していた。
響は既にこの場にいない。調と切歌の戦闘が始まる前に先に行かせたのだ。日向と違い、ギアを喪った響に戦う術はないし、戦わせる気は更々なかった。
今頃はこの一件の中心点であるマリアのいる(であろう)場所に向かって走っているはず。何をする気かはあまり予想できないが。
(それよりも、かな)
響の事は一旦脇に置いとくとして、日向が今対応すべきと考えているのは目の前で喧嘩する二人。
現時点で分かっている事を纏めると、
一つ、争う原因は意見の相違。
一つ、自分でいられる内にナニかを遺したいという、切歌の言葉。
大雑把に二つ。この場での遣り取りからの纏めなので、他の事は含めてないが。
(一つ目は、まあ仕方ない。意見が合わないなんてよくある事だし、互いに“間違っていない”)
ウェルの考えがどんな方法かは聞いていないが、ある程度の予想はできていた。月の落下阻止は最初から放棄し、フロンティアにいる自分と従う人間だけを救う案。ウェルの救済方法は人道的ではないにしろ、やり方としては一つの手段だと日向は考えている。無論、賛成も賛同もしないが。
切歌がLinkerを調に投げ、自分にも投与するのを眺めながら二つ目について考える。ちなみに二人を止めると云う考えは既に無く、本当に危なくなった時のために眼だけは二人を追っていたりする。
(さっきの切歌ちゃんの言葉。真正面から受け取れば、自分と云う存在の証を遺したいって事。それはつまり、切歌ちゃんがフィーネの魂を引き継いでいるって云う可能性。どこかでそれを証明するナニかを見てしまったから、今の状態を作った……?)
これに関しては、情報も少なく疑問系で終わらせるしかなかった。ただ、マリアがフィーネの魂を継いでいない事は分かっていたので、可能性は高いと云えるだろう。
一方、日向が考えを巡らせている間に、切歌と調は絶唱を歌い終えた。切歌の身の丈以上の大鎌は更に巨大になり、宙に浮いたそれに切歌は跨がる。調のギアは四肢のユニットが巨大化し四肢の先に大鋸を付けた姿は、さながらアニメに出てくるロボットのようなものだった。
そろそろかな、と日向は身体を動かした。絶唱までして自分の想いをぶつけるのは構わないが、大怪我をしてまでするものではない。
ぶつかり合う大鎌と大鋸。数合は拮抗して火花を散らしていたが、競り勝ったのは――
「――ッ、ぁ」
切歌の大鎌だった。
右腕の大鋸を鍔迫り合いの末に砕き、一回転しての一閃で左腕の大鋸を破壊した。
いくらLinkerを使用していても絶唱の発動で他の事はできない。慣れない巨体に加え、両腕の武具が破壊されては調に防御の手段は失われたに等しい。
そんな無防備の調に切歌はとどめの一撃を与えようと大鎌を振りかぶっていた。当然ながら殺しなどしないだろうが、それでも防御の手段のない調にはかなりのダメージが入るだろう。
日向は駆け出すが、すぐに急ブレーキをかけることになった。
「――え?」
その声は一体誰のものだったか。切歌か調、はたまた一番冷静な日向だったかもしれない。もしかしたら三人全員と云う事もあり得る。
何故なら――
「何、これ……?」
調の目の前に広がる網のような障壁。困惑する調をよそに、大鎌を振り上げていた切歌と走り出した日向を止めていた。
調と日向は見た事のない物だったが、切歌には見覚えがあった。
「《ASGARD》……そんな、本当は調だったんデスか?」
呆然と大鎌から地上に降りた切歌が呟く。
だが、切歌が《ASGARD》を見た時、調と共にオッシアに覆いかぶさられていた。そんな時に見た光景では自分がフィーネの魂を継いでいるのだと勘違いしてもおかしくない。
その事を教えられる人物は――ここにはいなかった。
「あは、あはは……」
「切ちゃん?」
「フィーネの器になったのは調なのに、私は調を……調に悲しい想いをして欲しくなかったのに、できたのは調を泣かすことだけデス……私、何やってるんだろ」
馬鹿にするような笑いを浮かべる調。その眼には滂沱の涙を溜め、こぼしていた。
ゆっくりと腕を挙げて、力なく振り下ろす。
その動作に放り出していた大鎌が宙に飛び上がり、回転を加えながら落ちてくる。
落ちてくる先には、
「今すぐ消えてなくなりたいデス」
「切ちゃん!?」
大鎌の向かう先に気付いた調が慌てて駆け出す。しかし、LiNKERと戦闘の影響か、躓いて膝から崩れ落ちてしまう。切歌の名前を叫ぶが、切歌は受け入れるかのように眼を閉じている。
「ッ……、日向ァッ!!」
自分では間に合わないと悟った調は立ち上がりながら日向の名前を叫ぶ。
呼ばれた本人は当然の如く切歌の前に立っていた。
「――憤ッ!!」
高速回転する大鎌の刃を両の掌で挟み込むように止める。止められた大鎌は意思があるかのように更にブーストして日向の手から離れようとするが、日向の手は震えるだけで捉えた刃を逃がそうとはしない。
「っとと、流石にギア無しで捉え続けるのは痛いな……」
「……日向? ッ、素手で何やってるんデスか!」
「そう思うなら止めてくれないかな?」
遅れて気付いた切歌が慌てて大鎌を止める。完全に沈黙したのを確認してから日向は大鎌を脇に投げ捨てた。
「切ちゃん!」
「し、しら――」
切歌の許に辿り着いた調。切歌の声を聞く前に彼女は呆然としている切歌の頬を叩いた。
「切ちゃんの馬鹿!」
「調……」
「でも、大好きだから!」
ギュウッと抱き締める。しばらく動けなかった切歌も両手を調の背中に回して抱き締めた。
「私も……調の事が大好きデス」
「うん。でも、大好きだからすれ違っちゃった」
「
「私達は独りじゃ何もできない。今だって、私一人じゃ切ちゃんを助けられなかった。皆に助けてもらってる」
切歌から離れて周りを見る。
だがどれだけ見渡しても、さっきまでいた日向の姿はない。
きっと、もう助けにいったのだろう。
「だから、今度は二人でマリアを助けよう? 切ちゃん」
「うん……うん! 今度こそ、今度こそ皆を助けるデス。調と一緒に!」
誓いを互いの胸に。
そうして、調と切歌はもう一度抱き締め合うのだった。