戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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 本当に、本当に遅くなりました。
 本当に申し訳ありませんでした。心から遅くなった事をお詫び致します。
 自分でもまさかほぼ一年近く投稿できなくなるとは思ってもいませんでした。ですが、やっと(ほそぼそとですが)再開する事ができます。
 言い訳にしか聞こえませんが、就職活動や卒業論文があまりにも難航し、また、時間が空いて書こうにも筆が止まってしまい、ここまで放置しまいました。
 また、再開してもかなりゆっくりですし、一話が短くなっています。そこはどうかご了承下さい。

 それでは、どうぞ。


Fine11 遥か彼方の理想郷Ⅱ

 奏は灯りのない地下を“迷う事なく”進みながら、自分と云う存在を振り返っていた。

 ——天羽奏。

 現在十九歳。数年前より、ツインボーカルユニット「ツヴァイウィング」の一人として活動中。その裏では五年前のノイズ襲撃より、憎しみを抱いてシンフォギア奏者になった。二年のブランクはあるものの、実力は奏者の中で一、二を争うと自他共に認められている。

 所有聖遺物は撃槍・ガングニール。加えて借り物ではあるが聖鞘・アヴァロンの二種。アヴァロンは完全聖遺物と云う事もありすぐに使う事ができたが、欠片であるガングニールは違った。

 そもそも自分は適合者としては不採用だった。それを薬で無理矢理合わせて、かつ自身のノイズに対する憎しみと云う感情を使って適合させた。

 ——そう、憎しみと云う感情。

 今はそんな感情で戦場に出る気など更々ないが結局の所、天羽奏の原点は「憎しみ」なのだ。

 家族を殺したノイズを憎み、力のない自分を憎み——その純粋な想いに聖遺物(ガングニール)は応えた。

 自分にとってきっと一番大事な感情を、奏はここ最近ほとんど表情どころか感じる事さえなかった。

 その理由が——目の前にいた。

 

「流石に想像できるわけないよなぁ……こんな事」

 

 かなり広い場所に出たと、慣れてきた眼と空気で感じながら奏は見る。

 暗闇の中でさえはっきりいると見えた。露出の多い防護服で腕を組みながら仁王立ちをしている。眼を閉じたその雰囲気は二度会った頃と比べ、ひどく重い。

 

「——来たか」

「おう、来たぜ」

「待たせんじゃねぇよ、クソッタレ」

 

 空気が更に重くなる。口が悪くなり、フュリの態度が悪いだけなのに、周りの空気は彼女に呼応するかのように重圧を増していく。

 

「言っとくが今のアタシをさっきまでと同じだと思うな」

「……具体的には」

「感情を抑えない。感情の赴くまま——蹂躙する」

 

 感情の籠らない声音で淡々と告げる。

 

「さっきの事は教えてくれないんだな」

「アタシから攻めればアイツは抱いてくれる。感覚共有してるから、アタシでも感情の限界。以上だ」

「なんつーレベルの高い事を……あんた、本当にあたしなのか?」

「黙れ、さっさと構えろ。本当に本気で限界なんだ。アタシが構える前に準備しやがれ」

 

 段々と怒気を籠めていくフュリに、奏もこれ以上の言葉は無理と判断しガングニールを構える。

 構え終わった瞬間、フュリの瞼が開き、同時に暗闇に光が灯る。突然の光に眼が慣れてくると、ここがドーム状の広間だと分かった。ライブ会場に比べれば小さいが、いるのが二人だけだと十分に広い。

 

「あたしは戦いを望んでるわけじゃねぇんだけどな」

 

 自分の髪を掻きながら呟き、ガングニールを構えた。

 

「アタシが望んだ。それだけで()り合うには十分だ」

 

 奏とは思えない低い声で呟き、ロンを構える。

 

「本物にして偽物。感情体(ゲフュールノイド)、フュリ・アフェッティ——八つ当たりに付き合ってもらう」

「……ったくよ。ツヴァイウィングが片翼、天羽奏——デュエットの申し込み、受けてやる」

 

 先に動いたのはフュリ。その場から跳躍してロンを振りかぶる。

 奏は動かない。その場でガングニールを引く。

 

「アタシの感情、怒り妬み恨み悲しみ憎しみ全部——受けやがれぇぇエエエエエッッ!!!」

 

  —撃ッッ!!

 

 想いを込めた絶叫と共にロンは振り下ろされる。

 その一撃を躱す事なく奏は真正面からガングニールを振り上げる。

 

  —戟ッ!

  —轟ッ!

  —震ッ!

 

 槍同士の衝撃は、全方位へと木霊する。

 救われた者と救われなかった者の戦いが三度目の邂逅で遂に始まった。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

「——始めたか」

 

 遠くから聞こえてくる戦闘音を聞きながら、オッシアはコートを脱ぐ。上半身をインナーだけで隠し、防護服は手甲のみで他に何も付けていない。下半身も防護服のみで鎧の類いは纏っていない。他に挙げる点があるとすれば口許をマフラーで、眼を小さな面のような物で隠しているぐらいか。

 彼がいる大広間はフュリと奏が戦っている広間よりも一回り広く、光源がないのに周りを見渡せるほど明るい。ドーム状の壁には埋め尽くすように正方形の穴が空いており、そこには長方形の石が全ての穴に鎮座していた。

 

「オレ自身の拙い調査によれば、フロンティアはカストディアンの星間航行船だったらしい。今は遺跡と化しているが、生活できるように造られていたようで、所々に居住区跡が見つかった。まあ、ウェルやナスターシャ達は機能等に意識が向いて気付いていなかったみたいだが」

 

 ところで、とオッシアは続ける。

 

「この大広間は何に使われたと思う? ヒントは壁にある」

 

 分からない。無言を貫き、オッシアの答えを待つ。

 

「ま、分からんだろうな。ここはな——墓だ。だがただの墓じゃない。英雄や神と云った聖遺物の担い手だけの墓だ」

「——」

「オレも理由は知らない。だが、聖遺物を使ったオレやフュリが目覚めたのはここだ。あの子も——いや、この話は必要ない。貴様もこの大広間に入った時から感じているだろう? オレ達と同等、それ以上のナニかを」

 

 もう一度全体を見渡す。

 確かに言われるまでもなく、ここは空気が違っていた。神聖でいて、しかしどこか悲しげな空気。正直、今すぐにでもこの部屋を壊したかった。

 

「だが壊す事はほぼ不可能。可能なのは何も入っていない墓と入れられたばかりの墓だけだった」

 

 言葉と共に一振りの槍が壁に向かって放たれる。棺桶だろう石に直撃した途端に響くのは甲高い金属音のような音。細かい傷は分からないが、棺桶には傷一つ付いていなかった。

 

「……さて。何故こんな事を話したのか。——貴様のしたがっていた会話をしてやっただけだ。これでもう満足だろう?」

 

 そう言って白い短剣を出して構える。

 

「アイツが我慢の限界だったように、オレ自身も我慢の限界なんだ。いい加減——終わらせようぜ、遠見鏡華(オレ)

「会話って、お前が一人で喋ってただけじゃねぇか……ったくよ」

 

 ずっと話を聞くだけだった鏡華は、溜め息と共に構える。

 その手には何も持っていない。

 

「ま、お前の提案には賛成だ。終わらせようぜ——あの日からの事、全部」

 

 二年前、全てが始まった。

 終わらせたと思っていた。だけど終わっていなかった。

 鞘の真実を知らなかった。今もまだ全ては分かっていない。

 それでも、この呪いにも等しい奇跡は——そろそろ幕引き(カーテンコール)の時間だ。


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