戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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 遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。
 まさかGX終わるまで書けないとは思っていませんでした。

 遅くなりましたが、どうぞ。



運命は命を運ぶ人の道であり、人の生き方であり、
誰かと交わるための、終わりのない道標。
二重螺旋と絡み合い、歴史は創られていく。

Fine10 定め重なる運命の柩(デスティニー・アーク)

光と影、片翼と独翼、愛し合う者達。
その胸に、ぶつかる理由があるのなら——


Fine10 定め重なる運命の柩Ⅰ

 フロンティア——正式名称は鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)

 日本神話にて登場する、天翔ける船の名前で同時に一柱の神でもある。

 そも鳥之石楠船神とは、神産みの際に伊耶那岐(いざなぎ)伊耶那美(いざなみ)の間に生まれた神であり、鳥のように空を飛べるらしい。神名にある、石は船が強固である所から、楠は船の素材が腐食しにくい楠だったからと云われている。

 武御雷神の副神として出雲に降下したと神話には記され、日本書紀の一書では大己貴命(おおなむちのみこと)——分かりやすく云えば大黒天。七福神の一柱だ——の海の遊具にこの名称が記されてもいる。また、同書には大己貴命が御子神事代主命の意見を聞くために、使者として稲背脛命(いなせはぎのみこと)を鳥之石楠船神に乗せて遣わしたともある。

 鳥と船が結びつく理由としては、船と鳥の形の相似の説や、鳥も船も死者の霊魂を運ぶものである説、 古代人は航海の際、鳥を船上に積み込んでいたとする説など複数存在する。

 

「——で。あの馬鹿でかい遺跡の実態は分かったわけだが、肝心のF.I.S.の目論みは何だ?」

「さあ? 馬鹿でかい遺跡(フロンティア)使って世界救済とかは記憶にあったけど、それ以外はさっぱり」

 

  —打ッ!

 

 とぼけた口調の鏡華の脳天に、硬く握り締められた弦十郎の拳骨が落ちる。

 頭を抱える鏡華と盛大な音に、その場にいたほとんどのメンバーがうわぁ、と一歩引く。

 

「〜ッ()ぇ……旦那の拳骨は響くなぁ」

「本来は謹慎処分ぐらいの所を拳骨一発にしたんだ、ありがたく思っとけ」

「へーへー。多大なご迷惑と寛大な配慮に痛み入りますよー、いたた」

 

 メディカルルームの床でうずくまる鏡華に、弦十郎はやれやれと云った様子で溜め息に似た吐息を漏らす。

 

「そ、それより師匠。どうしても気になっちゃうんですけど」

 

 壁際に奏やヴァンと並ぶ響が指差した先には、鏡華の隣に正座して、刀として具現化している天ノ羽々斬を膝の上に置いている翼がいた。

 頭の上に大きな大きなたんこぶを作っていたが。

 

「翼さんの頭にある、大きなたんこぶは一体……」

「自業自得だ、まったく。説明は未来君の状態を確認してからゆっくりとしてもらうからな、翼」

「了解です」

「ところで翼さんや、旦那の拳骨のお味はどう?」

 

 頭を抱えたまま鏡華が問うと、

 

「……剣に涙は無用だ」

 

 薄目を開ける翼。ちょっぴり涙眼だった。

 痛いもんなぁ、と呟く鏡華に、翼は再び眼を閉じてこくこく頷いた。閉じた拍子で涙が頬を伝ったが何も言わない事にしてあげた。

 

「さて、馬鹿二人の説教も終わった所で、未来君の件だが」

 

 弦十郎の言葉を一歩後ろで控えていた友里が引き継いだ。

 未来に注入されていたLiNKERの洗浄は無事終了。ギアを纏った事による後遺症もなく、戦闘で負った怪我も大した事がないものばかりだったと報告していく。

 その報告に、響は自分の事のように喜び、未来に抱きつく。

 

「わっ、とと……響は? もう身体は大丈夫なの?」

「うん! 未来のおかげで胸のガングニールはなくなって、元の普通の身体に戻ったよ!」

「そっか……」

 

 よかった、と思う一方、未来は内心で悩む。

 胸に宿るガングニールを除去した事で、響が苦しむ事はなくなった。しかし、その代わりに響は戦う術を失った。

 戦う事がなくなったのは嬉しいが、響の人助けの心を考えると、どうしても諸手を挙げて喜べない。

 悩んでいると、弦十郎がそして、と言い、掌を差し出す。手にはギアのペンダントが乗せられている。

 

「未来君が新たに纏ったこのギア……説明してもらえるか?」

「あ、はい。そのシンフォギア——聖遺物の名前はオハンだと、ブラック鏡華さんが教えてくれました」

「ブラック……ああ、オッシアの方だな」

 

 全員の視線が鏡華の方へ向けられる。

 聖遺物関連の説明担当になってる気がしてならない鏡華だが、その事には触れず、オハンの説明を始める。

 

「アルスター伝説に登場するアルスターの王、クルフーアの持つ盾の事。四本の黄金の角と四つの黄金の覆いが付いた盾で、持ち主に危険が迫ると金切り声で叫び出すってのが一番の特徴だな」

「そう云えば鏡華さん。シンフォギアだと気付かない頃から鈴の音みたいな音がよく聞こえていたんですけど、あれは何だったんですか? それに鳴る時は自分の危険の時だけじゃなくて、大切な人の危機を知らせる事もありましたし」

「あー……鈴の音は聖遺物としての力が弱かったからじゃね。後者については学者じゃないから分かりません」

「……その口振りからして、未来君は前からこれを持っていたみたいだが、これをどこで手に入れたんだ?」

「クィーンオブミュージックの時に、鏡華さんから貰ったお守りに入ってました」

 

 じろり、と再び弦十郎の眼が鏡華をロックオンする。

 慌てて弁解する鏡華。

 

「待った待った! 俺だって中身がギアだったなんて知らなかったんだよ! 知ってたら流石に渡さねぇって」

「なら、これをどこで手に入れた?」

「櫻井教授から俺へ宛てた贈り物。手紙と一緒だった」

「物だったのなら知らせないか!」

 

  —ズゴンッ!

 

 頭に叩き落としたとは思えない鈍い音。

 悲鳴も上げられず床をのたうち回る鏡華に、まったくと弦十郎はまた溜め息を吐いた。

 

「これは一時的にこちらで預からせてもらう。後日、未来君に返却するが……」

「本当に、それこそ命の危険にならない限り使いません。ギアのままでも十分役に立ちますし、それに……私は戦う側じゃなくて、皆の居場所を護る側ですから」

 

 そこで奏を見て微笑む未来。

 元々、この考えに至らせる切っ掛けを作ったのは奏だ。奏が話してくれた言葉を自分なりに考えた結果がこれなのだ。

 笑みを向けられた奏は一瞬、きょとんとしていたが、すぐににやりと笑みを返した。

 

「確かにオハンは守る事に重きを置いているみたいだしな。あれ、アームドギアは盾だし、見た感じ攻撃手段持ってないしな」

「そう云う意味じゃないんですけど……まあ、そうですね。オハンに攻撃手段はありません。言えて、盾の叫びが攻撃とも言えない事もないですけど」

「あー、私聞いてなかったから、さっき映像見たけど、すっごくうるさかったよ。未来、よく耳塞がなくても平気だったね」

「平気じゃなかったけどね」

 

 正直、奏者である未来もうるさかったのだが、あの時はそんな事を言っている場合じゃなかった。

 未来の話が終わり、弦十郎はオハンをしまうと、さて、と今度は翼の方へ向いた。

 

「今度はお前の番だ、翼。時間はないが、先ほどの戦闘時について話せ」

「もう少しだけ待ってください。天ノ羽々斬がそろそろなので」

 

 そう言っている間に、膝に置いていた天ノ羽々斬が粒子となって消えていく。

 完全に消えると、翼はふぅ、と身体から力を抜くように息を吐いた。

 

「お待たせしました。強制解除は再ロックも時間が掛かるので」

「……その強制解除とは何だ?」

「文字通り、聖遺物の力を抑えているギアのロックを解除する荒技です。ちなみにこの技の大元は鏡華の発案です」

「鏡華ァッ!!」

 

  —撃ィッ!!

 

「うっぎゃぁああああ!?」

 

 もう拳の一撃ではない凄まじい音と衝撃は、確かに弦十朗の拳が落とされた鏡華の頭から響き渡る。喰らってから悲鳴を上げる鏡華。戦闘時にもこんな情けない悲鳴を上げた事はないはず。

 頭蓋骨割れたんじゃないか、と響はひぃっと悲鳴を上げながら考えてしまう。

 

「と、ととっ、遠見先生ィッ!?」

「いだいっ!? 痛い通り越して痒い! 死ねないけど死ぬっ!?」

「言ってる事、全然分かりませんよ!? それより傷は深いですよ! がっかりしてくださいーっ!」

「いや、まずは響が落ち着けって。鏡華なら大丈夫だし。ほら、服が汚れっぞー」

 

 頭部から噴水のように血が吹き上がる鏡華。

 慌てて駆け寄ろうとする響。

 鏡華よりも響の服を心配して、猫のように響を摘まみ上げる奏。

 ——何だろう、外は大変なのに。いつも通り過ぎる。

 呆れながら目の前の光景を見ながらそう思った未来は、すぐに堪えきれない笑みを漏らしてしまう。そんな未来を見て、響や奏、鏡華までも笑い出してしまう。

 笑わなかったのは翼とヴァン、大人組だけ。

 閑話休題。

 ある程度、緊張が解れた所で、翼が説明に入る。

 

「分かりやすく言えば、エクスドライブを一人でやるようなものです。ギアのロックを歌で強制解除して聖遺物の力を元来まで引き上げる……引き戻す、と云った方がいいですね」

「だが、エクスドライブには大量のフォニックゲインが必要だ。それはどうやった」

「言葉では説明できません。防人としてのカンで成功させましたから」

「……」

「当然ながら正規の解除方法ではないので代償はあります。解除している間や(ウタ)を重ねるごとに身体を激痛が襲いますが、アヴァロンの治癒でよほど詩を重ねない限り問題はありません」

 

 痛みがあるのに問題ないと言う翼に、弦十郎は問題大ありだ、と一番の溜め息と共に呟く。

 鏡華や奏もそうだが、アヴァロンを身に宿している者は痛みに対する感覚が鈍ってきている。ここ最近に身体に宿し始めた翼ならまだ大丈夫かと思っていたが、手遅れに近いかもしれない。

 一連の事件が終わったら一度、そこらへんに対する意識を再認識させないといけない、と弦十郎は固く胸に刻むのだった。

 

「……そう云えばクリスは?」

 

 翼の説明が終わり、事務的な報告も済んでから、未来はこの部屋にクリスがいない事に気付く。

 それを口にした途端、全員が眼を逸らしたり口を閉ざす。

 

「問題ない」

 

 誰よりも速く口を開いたのはヴァンだった。

 今まで口を開かなかったが、未来の言葉には、否、クリスと云う単語には即座に反応して閉じていた眼を開く。未来には、ヴァンの瞳の奥が酷く冷たく感じられた。

 

「ああ、問題ない。問題などありはしない」

 

 まるで自分に言い聞かせるように呟き、ヴァンは部屋を出て行く。

 彼が出て行った後、他のメンバーを見る。誰もが視線を逸らしたり言葉を濁すばかり。

 しばらく無言が続き、ようやく鏡華があのな、と呟いた時、

 

「実はーーッ?」

 

 唐突に言葉が切られた。

 未来が首を傾げているのを見る事もせず、片目を手で覆い俯く。

 

「……マジかよ。何で率先して面倒な事を増やすかね、オレって奴は」

 

 まるで何かに語りかけるようにぶつぶつと呟き、溜め息を吐く。

 顔を上げ話を戻すのかと思ったが、鏡華はいきなり空中に黒いローブのような物を出して身に纏う。フードを被れば、大きすぎるのか頭がすっぽり入りまったく見えなくなった。

 

「わり、話はまただ。ちょっくら行ってくる」

「どこへ行く気だ、鏡華」

「外だよ、旦那。安心しな、この前のようにどっか行くわけじゃない。ただの自分の尻拭いって奴さ」

 

 そう言った途端、姿を消す鏡華。

 何が何だか分からない未来や響達が困惑していると、突然大きな揺れが部屋全体を、否、二課全体を襲うのだった。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 かつかつと海中から浮上したフロンティアの遺跡内部を歩く。

 その足音は五。それと駆動音が一。

 駆動音は当然の事、車椅子に乗るナスターシャ。足音はマリア、切歌、ウェル、オッシア、そして——

 

「本当に私達と一緒に戦うことが戦火の拡大を防げると信じているの? ——雪音クリス」

「信用されてねえんだな。ま、当たり前か。気に入らなければ鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいい」

 

 先頭を歩くクリス。隣をオッシアが歩き、後ろにマリア、ウェル、ナスターシャ。最後尾を切歌が歩き、クリスに対する警戒を示している。

 それが分かっているクリスは、肩越しに背後を見ながら薄く笑う。

 

「それにそこの緑には言ったが、あたしは周りに未来の旦那と宣言してもいい男を撃って証明代わりにしたんだ。信頼はなくても道具程度には信用が欲しい所だな」

「もちろん、そのつもりですよ。道具程度には信用はしてあげますから」

 

 ウェルの言葉に、クリスはそいつはどーも、と返す。

 しばらく歩くと、縦に広い場所に出る。ナスターシャ曰く、ここがジェネレータールームらしい。石柱にはいかにも訳ありそうな球体が設置されている。ウェルは持っていたケースからネフィリムの心臓を取り出すと、その球体へ近付ける。ネフィリムの心臓は触れた瞬間吸い付くようにくっ付き、脈動を始めた。脈動に呼応するかのように球体は輝き始め、周りの水晶も光を灯していく。

 

「うぇっ、眩しいなぁ……」

 

 すると、水晶近くからそんな嫌そうな声が聞こえてきた。マリアと切歌はナスターシャの前に立ち、声の主を警戒する。

 オッシアは溜め息を吐き、声の主へ声を掛ける。

 

「眩しいなら出てこい、フュリ」

「だってー、ここで昼寝すんの気持ちいいんだよ」

「もう昼寝なんかできねぇよ馬鹿。いいから出てこい」

 

 不満そうにブツブツ言いながら水晶の影から出てくる声の主。長い髪を掻きながら出てきたのは天羽奏——否、天羽奏の感情体(ゲフュールノイド)であるフュリの方だった。

 一応、オッシアとフュリがここを隠れ家にしていたのは説明を受けた。だが、マリアと切歌はすぐには警戒を解く事はできなかった。

 

「おっ、デカパイ仲間のマリアとデス子がいるじゃん。おいーっす」

「デカ……ッ!?」

「デス子って、あたしの事デスか……?」

「……ん? あんれ、クリスもいるじゃん。きりしらも片方いないし、もしかしてトレードでもした? とにかくおいーっす!」

「おいーっす。あんたは相変わらずの独奏っぷりだな」

 

 フュリの言葉にマリアと切歌は戸惑い、元を知ってるために諦め口調でクリスは投げ遣りに言葉を返す。

 とは云え言葉は奏と変わらなくても、身体だけはだいぶ違っていた。身体と云うより——身体に纏っている物が。私服でもガングニールの防護服でもない、どちらかと云えばアヴァロンの防護服に似ている。だけど、どうしてかボロボロなのだ。所々にヒビが入り、一度でも攻撃を受けたら崩れてしまいそうなほどに。

 

「あなたがオッシアと同じ存在の天羽奏……」

「アンタが保護者? あんま変な所に連れてくなよ? 迷ったり、アタシがキレるかもしれねぇから」

「……こことブリッジ、制御室は入らせてもらいます」

「ん、そこらへんはいいよ。——リート、アタシは広間で天羽奏(アタシ)を待つけどアンタは?」

「後一つ済ませば契約は終了する。その後は、オレも眠りの間で奴を待つさ」

「そっか。じゃあ、ここでお別れになるかね」

「ああ、そうかもな」

 

 事務的に答えるオッシアに、フュリは何も文句を言わずに背を向ける。

 

「なら、さよならだリート。この二年間、怒ってばっかだったけどさ、リートがいてくれたおかげで、悪くない二年だったぜ」

「そうか……なあフュリ。オレはお前との約束を果たせたか?」

「果たせたよ、当たり前じゃないか。アタシはもう満足だ。だから……さ」

「ああ。終わらせよう……このクソッタレな運命を」

 

 オッシアの言葉に満足したのか。フュリは一つ頷くと、振り返る事なく光のない遺跡の奥へ歩いていった。

 その姿を最後まで見届けるオッシア。フードを深く被り深く息を吐き、

 

「さあ、始めようかF.I.S.の諸君? 人類救済の最終楽章をッ!」

 

 フードを脱いでそう叫ぶのだった。


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