戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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 やっと更新できました。
 忙しくてほとんど時間が取れませんね。誰だ、三期終わる前に二期終わらせたいって言っていた奴は。はい、紛う事なく私です。
 三期終了までに本作を完結するのは無理になりそうです、申し訳ありません。

 それではどうぞ。


Fine9 未来、日向に立つ花よⅥ

「——何故、止めた?」

 

 静かな海上。先ほどまで斬撃の嵐が吹き荒れていた場所は、今はそんな痕跡を一切残さずに元の静寂を取り戻していた。もちろん、周りからは未だ戦闘音が聞こえてくる。

 

「何故、止めた?」

 

 再度、アーサーが身動きせず問い掛けた。

 海面に立つアーサーと翼。全身から血を流し荒い息を吐きながら立つ翼。反面、既に呼吸を整えて平然と立つアーサー。

 

「……、……、……」

 

 血涙を拭おうとせず、翼は荒い息のまま答える。

 

「……、愛する者を斬り捨てる事など、できるものか」

 

 彼女が握る天ノ羽々斬。その刃は首元でピタリと止められていた。彼女の身体は痛みで震えていたが、天ノ羽々斬だけは固定されているかのように動かない——動かさない。

 

「この身体が果てる事はない。それを知っていてもか」

「知っていても、です」

「……私には分からないな。愛と云うものは」

「……。誓約(うけい)——彼の心清く明し。故れ、彼の生める子は、手弱女を得つ」

 

 穏やかな口調で呟いたアーサー。その眼が自分を映していないと、翼は気付いた。

 天ノ羽々斬を引き、詠唱を歌い再び天ノ羽々斬のロックを閉じていく。身体中の痛みと徐々に治っていく感覚を覚えながら、翼は以前書物で見たアーサーの記録を思い出していた。

 アーサー・ペンドラゴンには妻がいた。妻の名前はギネヴィア。アーサーがまだ王に即位し後ろ盾が必要だった若い頃に婚約したらしい。

 だが、彼らの間に愛情が芽生えたのかは分からない。もしかしたら、そんな感情はなかったのかもしれない。

 何故ならギネヴィアはその後、偶然に出会った円卓の騎士の一人に一目惚れしてしまったのだ。騎士も彼女を愛し、二人はすぐに不倫関係になってしまった。

 そしてその関係が、アーサーを、騎士国を滅びに至らせてしまう。

 当時は他国との関係を結んだり強固にすると云った理由で政略結婚させていたのは知っている。だけど、いくら政略結婚だったとしても愛を育む事はできるはずだ。

 

「……くっ……そろそろ限界、だな」

 

 身体を襲う痛みが回復より強くなり、立っていられなくなる翼。よろけ、ギアが解除されながら倒れていく。その手に持つ刀は具現化したまま。

 アーサーがその身体を抱きとめる。

 

「慢心していたとは云え、よくぞ私を超えた。今はもう休め」

「……」

「眼が覚めた時には鏡華が戻っているだろう。そこで自慢してやれ、騎士王に勝ったと」

「あな、たは……」

「私は鞘に戻る。が、こうして私と云う記憶が表に出る事はもう二度とないだろう。なに、未練はない。数日であったが、様々な事を見て、聞いて、味わう事ができたのだ。満足だ」

「……なら、私から……ひとつ」

 

 今にも眠りそうな眼を閉じてしまわないよう、全力で身体に抵抗しながら翼は言葉を紡ぐ。

 

「あなたは愛を知らないんじゃない。“愛し方”を知らなかっただけだ」

「……!」

 

 戦いに明け暮れていた。

 婚約も後ろ盾を得るためのもの。

 教養も武芸も秀でていた。

 だけど、愛し方は知らなかった。

 誰にも教わらなかったし、誰も教えてくれなかった。

 翼の言葉に、アーサーはわずかに眼を開き、そして優しく、悔しそうに微笑んだ。

 

「そうかもしれぬな。そうか、私は愛し方を知らないだけだったのか。ハハッ、本当に時代は変わった。同じ騎士でも、高名な先達でもない、どこにでもいる娘に指摘されるとは……否、心は、感情は、どんなに時が移ろいでも変わるものではない」

「……」

「娘よ、どうしてくれる。未練ができてしまったではないか。……いつもそうだ、私はいつも大事な事に気付くのが遅い」

 

 翼はもう何も答えない。

 そこに響くのはアーサーの乾いた笑い声のみ。

 いつしかそれも聞こえなくなり、次に聞こえたのは、

 

「————ああ、分かってるよ。俺の手が届くなら護ってみせるさ」

 

 彼の声。

 抱きとめた腕に力が込められる。

 

「ありがとう、さよならだ——■■■■」

 

 意識を手放した翼を抱き上げ、彼は海を走り出す。彼が最後に呟いた言葉を掻き消して。

 向かう先は——助けを求める彼女の許。小さく聞こえる悲鳴の声は、“奴の記憶で理解していた”。

 彼と、自分と交わした約束のために——遠見鏡華は再びその足で駆ける。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

  —撃ッ!

 

 一歩早かった日向の拳を、拳で迎撃し弾いて、未来の扇の一閃を紙一重で躱す。

 段々と熱く、痛み出してくる胸の痛みに顔を顰めるが、響は苦しんでられなかった。未来だけでなく日向まで乱入してきて戦いを始めるなんて予想外もいい所だ。

 

「ひゅー君! 身体はもう平気なのッ!?」

「ご覧のッ、通りさッ!」

 

 言葉を交わしながら放たれる拳や蹴り。そのどれもが疾くて重い。完治したかどうかは分からないが、だいぶ良くなっているのは確かだ。だが、翼でさえ完治まで一月近く掛かったのだ、完治だけはしていないだろう。

 

「日向だけを見ていると危ないよ、響ッ!」

 

  ——閃光——

 

  —煌ッ!

  —閃ッ!

 

 扇から放たれるレーザーを躱す。日向も身体を右へ半歩移動して避ける。

 飛び上がり空中に浮かび上がる未来を追って日向も跳ぶ。頂点まで到達した瞬間に空中を“蹴った”。何もないはずなのに日向の身体は、地面を蹴ったかのように更に跳び上がった。そのまま未来に辿り着き拳打を叩き込む。

 

  —撃ッ!

 

 振るった扇で拳を弾き、至近距離から《閃光》を放つ。

 未来もLiNKERで無理矢理仕立てられた急拵えの奏者だとオッシアから聞いた。なら身体に掛かる負担がないわけではないはず。

 ただ——

 

「日向、そこ邪魔! 響が躱せちゃったじゃない!」

「未来ちゃんこそ素人なんだから引っ込んでてよ!」

「そっちが勝手に奏者にしたんでしょ!」

「勝手にウェルに乗ったのは君じゃないか!」

「日向の馬鹿!」

「未来ちゃんのアホッ!」

 

  —撃ッ!

  —轟ッ!

 

 どう考えても、自分よりも他に対する攻撃が苛烈なような気がしてならない響。

 と云うか、未来も日向も怒鳴って悪口言うなんて初めて見たような。

 

(この隙に……ってのは無理だけど、どうにか未来を抱き締める事ができればッ!)

 

 甲板で二人の戦いを見ていた響は片足を後ろへ引く。腰を落とし膝を屈めながらパワージャッキを限界まで引き伸ばし、

 

  —撃ッ!

 

 パワージャッキの撃鉄に合わせて跳び上がる。空中を疾駆している間に両腕のアームユニットもオーバースライドさせて、二人との距離が手が届くまで近付くと同時に、

 

「私も——混ぜろぉオオッ!!」

 

  —撃ッ!

 

 未来と日向を引き離すように拳を二人に打ち込み吹き飛ばす。

 体勢を整えられる前にインパクトハイクで日向を置き去りに未来を追い掛けた。身体の内側から何かが食い破って出てきそうな痛みに叫びそうになるのを、腕を振りかぶりながら吠える事で代用する。

 

  —撃ッ!

  —轟ッ!

 

 反撃させない怒濤のラッシュ。

 防がれるのを前提で打ち込んでいく。扇で防ぐのが間に合わず身体に当たる一撃は、打ち込む直前に掌底に切り替えてダメージを減らす。

 

「このままッ!」

「ぁうっ——……響にも嫉妬の気持ちがある、みたいッ」

「何のっ、話ッ!?」

「さぁて……後ろからくるよ響ッ」

「ッ——ごめん未来ッ!」

 

  —蹴ッ!

 

 未来の言葉に謝罪を返して、インパクトハイクで加速させた蹴りを叩き込む。

 防いだかどうか確認する暇もなく、響は蹴りに使った足でそのままインパクトハイクを使用。その場で前転するかのように身体全体で回り、踵を振り落ろした。

 

  —撃ッ!

  —轟ッ!

  —震ッ!

 

 放たれた拳撃とぶつかり合い、すさまじい音と共に空気を震わせる。

 互いに振り抜けずに一歩下がり、引いた足で空気を蹴り飛ばす。

 

  —打ッ!

  —打・打・打・打・打打打打打打ッ!

 

 拳と拳の応酬。

 攻撃の一撃が防御となり、防御の一手が攻撃へと目紛しく変化していく。

 防がなかった拳を身体に受けるが、日向は当然の事響も一歩も退かずに——むしろ前へと進んでいく。

 そして、数秒の、されど数えきれない拳打の末——

 

「うぐっ——うぁあがあああぁああッッ!!!」

 

 この連撃を制したのは誰でもなかった。

 振りかぶった一撃を響が放とうとした瞬間、響の全身から黄金の結晶のような物が飛び出してきたのだ。

 流石の日向も想像していなかった事態に拳が止まる。

 

『響ちゃんのタイムリミット、まもなく危険域に突入しますッ!』

「ああぁあああッ——ァァあアアぁアあああッ!!」

 

 これまでとは比較にならない痛みに響は絶叫を上げる。

 いつもであれば、ここで気を失ってもおかしくない。それでも今は、今だけは気を失うわけにいかない。

 動きを止めた日向の懐に入り、全身全霊で拳をぶちこむ!

 

  —撃ッ!

 

「ごぼっ!?」

 

 一切の防御行動を取らなかった日向はなす術無く吹き飛ばされる。

 響は膝が折れそうになるのを必死に押し殺し、脚部のパワージャッキを引き絞り両腕もオーバースライドさせ、打ち放つ。

 その速度は日向を追い抜き、蹴り飛ばした未来を身体全体で掴まえた。

 

「掴まえた! もう離さないッ!」

「……うん、掴まった。私も離さない」

「こうなる事、予想してたでしょ? 未来」

「日向が出てくる以外は」

「ぐっ……たはは、未来には敵わないなぁ」

「色んな人に協力してもらったからね。それと……」

 

 抱き締められた未来は響の脇の下から両腕を突き出し、腕に付いた帯を伸ばした。

 帯が伸びた先には響に吹き飛ばされていた日向が。帯は日向を拘束すると縮んでいき、

 

「先に言っておくね。響は日向の事、男の子として好きなんだよ?」

「……うぐっ?」

「こっから先は自分で判断」

 

 引っぱりこんだ日向を、未来と響で抱きとめる。

 

「はい、これで昔の私達」

「……はは、本当に二人には敵わないな」

「でしょ。流石、私のお日様ッ!」

 

 自分の痛みなんか放り出し、三人は素直に笑い合う。

 くるくると抱き締め合いながら少しずつ落下していき、そして——

 

  —輝ッ!

 

 最後まで笑いながら、三人は閃光に呑み込まれた。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

  —輝ッ!

 

 一点に収束されていくレーザーが一つになって撃ち放たれたのを、ヴァンは切歌と相対しながら見ていた。

 切歌も攻撃の手を止めて、同じように見ている。

 そして、空中を飛んでいたレーザーは急に角度を九十度曲げて海へ落ちていく。遮蔽物も立ち塞がる者もいない状況で、レーザーは真っ直ぐに海へ吸い込まれていき、強烈な閃光と衝撃を生み出した。

 閃光が消えると同時に何かが海の中から浮上してくる。岩石かと思ったが、建造物のようでその規模はかなり巨大だった。

 一体何なのか、と推理しているヴァン。

 

  —パン

 

 そんな乾いた音と共に鈍い痛みが背中を伝う。

 何が、と呟く前に身体が硬直し、甲板に倒れ込む。

 切歌の驚く声が聞こえるが、そんな事にヴァンは構ってられなかった。痛みを無視して倒れたまま背後を見た。

 見て——眼を見開く。

 

「クリ、ス……?」

「……さよならだ」

 

 無表情で拳銃をヴァンへ向けるクリス。

 何かを言う前に、パンと乾いた音がヴァンの耳にやけに強く響いた。

 それ以上何も言えず、応える事ができず、ヴァンの意識は闇に沈んでいった。

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

  —鈴ッ

 

「……——ぅぁ?」

 

 

 響いてくる音に、未来はゆっくりと眼を開いた。

 鈍い痛みが身体中から感じられる。ふらつく頭を振りながら、うつ伏せだった上体を起こす。

 

「……気付いたみたいだね、未来ちゃん」

「ひゅう、が……?」

 

 下から日向の声が聞こえ、見下ろす。

 日向は仰向けで未来の真下に倒れていた。どうやら気を失っている間、日向をクッション代わりにしていたようだ。視線をズラせば、ギアが解除された響も日向の腕を枕に気を失っている。一番疲労しているのは響だ、しばらくは目覚めないだろう。日向は持ち前の耐久力で耐えたが、未来自身は二人がレーザーとの壁になったので気付くのが早かっただけだ。

 

「ここは……」

「米国の哨戒艦艇。海に落ちなかったのは不幸中の幸い——または不幸中の不幸なのか」

「……どう云う事?」

「周り見てみなよ」

 

 日向の言葉に視線を周りへと移す。

 自分達の周りには——十や二十では済まされないノイズの群れが、ぐるりと囲んでいた。

 朦朧としていた意識が一気に覚醒する。

 

「ッ——!」

「どうやら、ウェルが発生させたみたいだ。相も変わらず、奴のこうした行動は早くて腹が立つよ」

「……敢えて聞くけど、突破する策はある?」

 

 響を起こさないように身体を起こし、立ち上がる日向。

 笑いながら「あるわけないよ」と言いながら、見回していく。

 

「ざっと見て五十じゃ数えたりないな。……僕らのシンフォギアは神獣鏡(シェンショウジン)の力で消滅した。ノイズに対して生身で対抗なんてできるわけがない——邪魔はできるけど」

 

 じりじりと囲いを狭めてくるノイズ。

 日向は臆する事なく構えを取った。

 

「僕が時間を稼ぐ。未来ちゃんはどんな方法でもいい、二課に連絡して」

「……」

「万が一、僕が倒れても諦めないで。死んでも二人は助けるから」

「うぅん、それは駄目」

 

 日向の意見を否定した未来は立ち上がり、日向よりも前に立つ。

 

「未来ちゃん……?」

「守るのは私の役目。日向は響のそばにいて」

「何を言ってッ!?」

 

 驚きの声を上げる日向に、未来は何も言わずに胸ポケットからずっと入れていたある物を取り出す。

 それは以前、クィーンオブミュージックで鏡華が彼女に渡したお守りだった。着ている服は煤などで汚れているだけなのに、お守りだけは所々が焦げている。

 

「響はいつも傷付きながら戦ってくれている。私はそんな響を守りたい。響が戦うなら——私は護るんだ!」

 

 F.I.S.で未来はオッシアに毎晩教えてもらった。

 目的を聞いたり、行動を命令されたり、大事な事を教えられた。

 そしてそれには、このお守りの事も教えられた。

 袋から中身を取り出す。取り出したのは、シンフォギアのペンダント。

 

「それは——!」

「——halten schützen Ochain tron」

 

  —輝ッ!

 

 ——ようやく理解した。

 輝きに包まれた未来は装いを新たに輝きから現れた。

 軽鎧に身を包み、その手に持つのは未来の身の丈よりも巨大な盾。四本の黄金角と四つの黄金の覆いが特徴の盾で、それ以外の武装はない。

 ——私の願い。護るためにどうしたいのか。このギアは初めから私の本当の気持ちに気付いて応えてくれていた。

 聖遺物のエネルギーに引き寄せられ、一気に飛び出すノイズ。先頭辺りは駆け出し、後方のノイズは槍へと変化して襲い掛かってくる。

 

「——〜♪」

 

  —叫ッ!

 

 未来が歌い始める。途端に手に持っていた盾が金切り声で叫び出し、四つに分裂して宙を疾る。滑るように盾は、未来を貫こうとするノイズの進行を妨げる。残り三つの盾も同様にノイズの前に立ち塞がるように空を舞う。

 それでもノイズは恐れを知らず、次々と襲い掛かる。

 

  —叫ッ!

 

 また盾が叫ぶ。

 一つだけでない、全ての盾が一斉に叫ぶ。

 

「ッ、分かってるッ!」

 

 未来は盾の叫びに応えるかのように更に強く歌う。

 共鳴していく叫びに盾が分裂していく。八つ、十六——更に増える!

 分裂していくごとに盾は小さくなっていき、最終的に大人の掌ぐらいのサイズになった時、盾の数は五十を軽く超えた。

 

  ——Fortissimo Shout——

 

 五十以上の盾による叫びの合唱。

 大音量の金切り声に日向は耳を塞ぎ、ノイズも無意識に何かを感じ取ったのか後ろへ下がっていく。

 

(このまま時間を稼げば……でも)

 

 ノイズは盾の発する叫び声に積極的に襲い掛かってこない。だが、未来は歌いながら、語尾に胸の内で「でも」と付けた。

 この叫びは敵だけでなく味方にも被害を及ぼしている。かく言う未来自身も耳が痛い。加えて、神獣鏡(シェンショウジン)を纏って戦場に出る前に打たれたLiNKERの効能がいつまで続くか分からないのだ。確かに適合率は正規適合者より低いものの多少高い数値を示していたのは知っている。だが、奏者となれるほどの適合率は出していない。故にシンフォギアを未来が纏うにはLiNKERが必要だった。

 ——ドクン、と。

 身体の中で何かが鼓動した。

 同時に全身を電流のような痛みが走る。思わず歌を中断して胸を抑える。

 

「制限時間……でも、まだッ」

 

 助けは来る。未来はそう信じていた。だから痛みを我慢して歌を奏でる。

 しかし、確実に盾の叫びと防御は弱くなっていた。後退していたノイズが再び攻め始めたのがその証拠。

 ノイズの攻撃を全て盾で防いでいくが、次第に崩されていく。

 盾が砕かれる前に少しずつ数を減らし大きさを元に戻していくが、出力が落ちていき完全に防ぐのが難しくなってきている。

 

「未来ちゃん!」

 

 甲板を《震脚》で砕き、蹴りや拳で吹き飛ばしノイズの行動を阻害する日向。未来のサポートに入るが、それでもそれは焼け石に水のものだった。

 痛みが限界を超え、とうとうギアが解除される。

 まだ助けはこない。

 未来は血涙を流す眼を閉じて叫んだ。

 

「助けて——私達を助けてくださいッ、鏡華さんッ!」

「ああ、任せろ」

 

  —斬ッ!

 

 短い返答と風を斬る音。

 それだけで未来は眼を開いた。

 目の前に立つのは、半透明の赫い何かを纏い、気を失った翼を横抱きに抱える——

 そして、未来が響と同じくらい好きな、大事な人。

 

「遅いですよ……鏡華さん」

「これでも急いだんだけどな、でも間に合って良かった」

 

 いつもと変わらない口調で笑う鏡華。

 それを聞いて、未来は響の方へ倒れ込むように意識を手放した。

 最後に鏡華の声を聞いて。

 

「二人を頼むぜ、音無後輩。こっからは——ただの蹂躙だ」


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