戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
相変わらず忙しい毎日ですが、毎週のシンフォギアを糧に更新速度を以前の週一か二週に一回できればいいなと思います。
それではどうぞ。
「な、何なんデスかあんた達は……」
呆然とした切歌の声を聞きながら、ヴァンは切歌を見張りながら目の前の光景を静観していた。
アーサーが翼の相手をすると言ったまではいい。だが、その後だ。翼が何かを言い始めた途端、彼女の空気が変わった。絶唱かと思ったが以前見たようなものではなかったし、何より歌っている歌詞が違う。絶唱の歌詞はほぼ全員が同じものを歌う。そもそも今歌っているのは、歌と云うより
歌い終わると、居合いに構えた剣が突如現れた鞘に納刀される。同時に翼を中心に風が吹き荒れる。
「エインズワース! 何なんデスか、アレは!?」
「知らん。こちらも教えてもらいたいくらいだ」
とは云え、あれが何なのか予想を立てるのは決して難しい事ではない。
あれが絶唱でないと云う事は、彼女が口にした歌詞から判断できる。それにもし絶唱を使っているのなら風鳴弦十郎から止めるように通信が入るはず。翼が無視しているならば距離的にもヴァンに止めろと云う命令を下すだろう。
考えられるとすれば、祝詞が一番近いかもしれない。
祝詞とは早い話、神に奏上して加護や利益を得ようとするための文章の事だ。ただ、あまり神職について知っているわけではないヴァンが知っている事と云えば、それぐらいなのだが。
(しかし、この場で神頼みと云うわけでもないか。可能性があるとすれば聖遺物に対しての祝詞。奴の聖遺物は天ノ羽々斬、記述がある持ち主は——)
そこまで考え、ヴァンは一歩横に移動し剣を突きつけた。
突きつけた剣の切っ先の先には、わずかに仰け反る切歌の姿。
「隙あり——ではないデスね」
「悪いな。通すわけにはいかない」
「くっ……エインズワース!」
叫ぶと同時に大鎌を振るい突きつけた剣を弾く。
振り上げた体勢からそのままヴァンに向けて振り下ろした。
—戟ッ!
その一撃を剣で防ぐヴァン。
両者の間に火花が高い音と共に舞い散る。
「ッ、その剣を振るわないのなら、そこからどけッ、デスッ!」
「……いいや。もう振るわないとは言わん。あいつらとの約束を破る事になるが、お前の希望通り、このエクスカリバーを振るおう」
宣言した途端、先ほどのお返しとばかりに大鎌を弾く。
体勢を崩した瞬間を見逃さず、ヴァンは斜め上から斬り下ろした。
だが、切歌はそれを身体を捻り躱す。
「オーサマに稽古付けてもらってなかったらヤバかったデス」
——切・呪リeッTぉ——
オーサマより遅いデスッ!
鎌の刃を放ちながら、ヴァンへ接近する。鎌の刃を避ける事はできる、しかし後ろには調がいるのだ。いくら約束を破ったとは云え、傷付ける事までは破るわけにいかない。むしろそれを分かって放っている切歌に対して驚いた。
ヴァンは剣で弾き、斬り落とし、篭手で受け止める。それは切歌の接近を許してしまうが、それぐらいは許容範囲内。大鎌の刃に合わせて剣を振るう。
「デースッ!」
「——っ!?」
嫌な予感にヴァンは、切歌の叫びに間髪入れずに背面跳びのように上体を反らしながら跳んだ。刹那、背中をギャリィと嫌な音と共に何かがこする。片手で地面に着地、腕のバネで更に一歩分後ろに跳ぶ。両足で着地してそこで何が通過したのかを知った。
「鎌を“引いたのか”……真っ二つにする気か」
流石に今のはシャレにならん、とヴァンでも焦る。
「エインズワースだったら、真っ二つになっても平気デスよねっ」
「あの
鏡華なら真っ二つになっても回復するだろう。痛いのは痛いだろうが。
そう考えながら立ち上がった時、甲板に何かが落ちてきた。更にそこへ追い打ちを掛けるミサイルが降ってくる。
軌道を予想して振り返ると、クリスが甲板に着地していた。と云う事は先に落ちてきたのは未来だろう。
「くっそ! やりづれぇ!」
「とか言いながら、撃ち放題だな」
「やりすぎだったら、後であの馬鹿の前で頭地面に擦り付けてやる!」
顔を向けずクリスは吐き捨てるように言い、壊れた甲板に倒れた未来に近付く。シンフォギアを剝がすつもりなのか。
大丈夫かと思っていると、ふと気付いた。翼とアーサーがいない。
どこに行った、と辺りを見渡した時、海上からの轟音と近くのクリスの驚く声が聞こえたのは同時だった。
「クリスッ!」
振り返れば、立ち上がった未来が円状に展開した武器からビームを放ち、クリスが紙一重で回避していた。
「まだそんなちょせいのをっ!」
武器を仕舞った未来は両手を広げ、姿勢を正す。脚部ユニットからミラーのような物が展開され、円を描く形になった。同時に未来が歌いエネルギーのチャージが始まる。
その場から躱せ、と言おうとした口が直前で止まる。
クリスの背後には調がいるのだ。回避すれば動けない調に直撃するだろう。クリスも気付いているからこそ下手に動けないでいる。
「どん詰まりにさせるかっ!」
即座にクリスの許へ走る。クリスの前に立ち、ヴァンは歌を紡ぐ。クリスもヴァンの意図を読み背中の下部に付いたユニットを起動させる。広がったユニットから金色の宝石のような物が次々と飛び出て、ヴァンの前に浮かぶ。
早口で、しっかりと歌を完成させたヴァンは宝石を纏うように唱壁を何枚も展開させた。
——流星——
—煌ッ!
—発ッ!
—轟ッ!
チャージが終わった一撃が容赦なくヴァンとクリスに放たれる。極大のレーザーは真っ直ぐにヴァンの展開した唱壁に直撃。弾かれたレーザーの一部はドーム状に拡散する。だが、弾かれていないレーザーはミシミシと唱壁を圧迫していく。
「くうっ……! 唱壁は壁とか云ってるが、実際は逸らす事の方が特化してる。月を穿つ一撃もイチイバルのリフレクターで偏向した後なら九割方逸らせた……」
「何が言いたいんだヴァン!」
「まあ要するに——そんな
叫んだ瞬間、唱壁が破られリフレクターも砕けていく。
「ヴァンの唱壁どころかリフレクターも分解されていく!?」
「無垢にして苛烈。魔を退ける輝く力の奔流。これが
「説明はいいが、まったく意味が分からんぞ、くそったれっ!」
—砕ッ!
残りの唱壁とリフレクターが破られる直前、ヴァンがその身を翻し、クリスと調の襟を掴んで思い切り投げ飛ばす。
「なっ——ヴァンッ!?」
驚きつつもクリスは空中で調を掴まえて体勢を立て直す。
ヴァンはそれを見届ける事なく腰に提げたエクスカリバーの柄に手を掛ける。
「灼き払えッ、エクスカリバー————ッ!!」
—閃ッ!
—煌ッ!
振るわれる剣が、ヴァンを呑み込もうとするレーザーよりも輝きを魅せる。
呑み込まれた、と誰もが思った瞬間、レーザーが縦にパックリと割れた。二つに分かたれたレーザーは甲板の壁を蒸発させ海上へと飛び出し霧散していく。
「あ、あのトンデモを斬り払うって、あいつもとんだトンデモデス!?」
「……くっ」
驚いている切歌に何か言ってやりたいヴァンだったが、何も返せずにその場に蹲る。
ダメージを負ったわけではない。かなり本気で斬り放ったにも関わらず、
(聖遺物の力そのものを
あの一瞬の攻防、切歌はトンデモと言ったが、ヴァンには不満の残る一撃だった。
深く息を吐き、ヴァンは立ち上がる。そこへクリスと調が近付いてくる。
「無茶すんじゃねぇよ、馬鹿ヴァン!」
「すまないな」
「敵同士だけど……ありがとう、エインズワース」
「
「うん、それはそうだね」
煙が晴れる前に調は切歌に声を発する。
ドクターのやり方では弱い人達を救えない、と。
「調……」
『ここまでくれば月読調を庇う事などできはしない。彼女は立派な裏切り者だ』
突然、砲撃を終えミラーをしまった未来からウェルの声が聞こえてきた。恐らく、彼女をスピーカー代わりにしているのだろう。
「違うデスっ! 調は仲間ッ! あたし達の大切な――」
『仲間と言い切れますか? 僕達を裏切り敵に利する彼女を、月読調を仲間と言い切れるのですか?』
「ッ……違う。あたしが打ち明けられなかったから……あたしが調を裏切ってしまったんデス……!」
俯く切歌に調は駆け寄って抱き締めたかった。
でも、今それはできない。そんな事をしても何の解決にもならない。
『シンフォギアと聖遺物に関する研究データはこちらだけの専有物ではありませんから。アドバンテージがあるとすれば——せいぜいこのソロモンの杖ッ! だけでしょうか!?』
スピーカー越しのウェルの声と共に一瞬の閃光が何隻もの艦艇や空に照射される。途端に溢れ出るノイズ、ノイズ、ノイズの大群。今まで傍観しかできなかった兵士が驚きつつも冷静に銃器をノイズに向け発砲する。だが、ノイズに対する効果は零にも等しい。ある兵士はノイズに拘束され、またある兵士は空からノイズに刺し貫かれ、共に最期は兵士ノイズ共々炭化していく。
「くそったれッ! ここは任せたぞッ!!」
すぐにクリスが跳び、全方位へとガトリングとミサイルを浴びせるように放つ。
やはりソロモンの杖がある限り、宝物庫への扉は開けられたまま、ノイズは召還し放題か。
そう判断しながら、ヴァンは横薙ぎに振るわれた大鎌を、今度は大鎌を引かれないように場所を瞬時に計算して剣で防ぐ。
「こうするしか遺せないモノだってあるんデスッ! あんたなら分かるはずデスッ、エインズワース!」
「否定はしないがな……お前と一緒にするなよ暁切歌ッ」
叫んだはいいが、反撃にも回避もできない状況にヴァンはやや手をこまねいていた。
第一の問題として、後ろで何の恐怖もなくこの状況を傍観している肝の座った
「そんな時は僕の出番です」
「はっ?」
「デス?」
いきなりの声にヴァンと切歌は揃って変な声を上げた。
振り返れば、そこには調を横抱き——つまりはお姫様抱っこしている緒川の姿が。
「人命救助は僕達に任せてください。ヴァン君は皆さんの援護、及び未来さんの捕捉をっ!」
「あ、ああ。……と云うか、いつの間にいた?」
「これでも忍の端くれですから」
そう言うと、残像を残しながら緒川は甲板から消えた。
訳が分からない、と頭を振り周囲を確認する。
「調を——返せぇッ!!」
—閃ッ!
驚いていたせいで緒川に対して言えなかったからか、激昂した切歌は刃の峰側を前に大鎌を振り、途中で大鎌の向きを変えて遠心力を加えた一撃を放つ。防げない、瞬時に判断して大鎌の一撃を剣で防いだ瞬間に甲板を蹴り、剣を軸に吹き飛びつつ姿勢を整えた。くるりと空中で一回転し壁に着地する。甲板に降りようとした時だった。
「マストォッ! ダァァイッ!!」
「——!」
着地するほんの一瞬の隙を狙って、切歌が放った肩のアームが変化して拘束具としてヴァンを壁に張り付けにする。しまった、と悪態を吐く暇なくヴァンは抜け出そうとするが、アーム先の
(——ヤバいッ)
この状況は、どんなに馬鹿でも結果が分かる。
故にヴァンは動く手首と手を全力で動かし剣を自分に向けようとする。
だが、切歌がヴァンの行動を待ってから行動するわけがない。肩のユニットからブースターを吹かし、刃をアームと云うレールを走らせた。
——断殺・邪刃ウォTtKkK——
—轟ッ!
—疾ッ!
「こん、のっ! 灼き尽くせッ!」
—発ッ
—燃ッ!
自分を絡め拘束するアームに剣を突き刺した途端、アームに火がついた。刹那に燃え上がりアームを灰へと変えていく。全てが焼ける前にヴァンは緩んだ隙を逃さず無理矢理引き千切り、刃をしゃがみながら前方へ滑り込む事で紙一重で回避する事ができた。
しゃがんだ姿勢を足のバネで跳び、距離を置きながら剣を構える。
「逃げるなッ。逃げるなら調を返してから逃げやがれデスッ!」
「無茶を言ってくれる。だったらお前も投降すればいい。そうすれば、月読調と一緒になれるぞ?」
「
無駄に発音の良い英語で言われ、流石のヴァンでもほんの僅かに苦笑を浮かべる。
このまま切歌を放って他のメンバーのサポートに向かう事も可能だ。だが、そうした場合、切歌の注意が連れ去られた調に向いて二課に強襲されるのは悪手だ。
かと言ってこの場で倒すのは厳しい。地味にレベルアップしていて、回避が上手くなっているのだ。
(このまま、注意を俺に向けさせて他が終わるまで耐えきるのが一番最善か)
面倒だが仕方ない。胸中だけで溜め息を漏らし、ヴァンは剣を構え直す。
切歌は既に大鎌を振るい突撃してきている。
ヴァンは切歌の行動に合わせて踏み出し、エクスカリバーを振るった。