戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
賛否は両論かもしれません。
ただ一つ間違いないのは、中二病みたいなのは元からです(苦笑)
それではどうぞ。
「——それじゃあ、翼の
奏の言葉に、槍の軌道を槍で逸らしながら頷く。
「あれから何日か経過したが、鞘の分裂やここに変化はない。翼の
「でも、何でだ?」
「知るか……と言いたいが。彼女は
「そっか。あの子に対して怒りはないけど……やっぱ、正規じゃないってのはキツいな」
オッシアの槍を手から弾き飛ばし、膝を付いたオッシアが降参を確認したのを見てフュリは首に突きつけていた槍を消した。
突かれていた喉を擦りながらオッシアは立ち上がる。
「オレは戻る。フュリ、全覚共有を入れておいてくれ。近く必要になる」
「あいよ」
スイッチを入れる感覚で全覚共有を使う。これで奏の五感、今の記憶を共有できる。入れた瞬間、フュリの脳内に濁流のように様々な感覚が感じられる。これらは全て遠く離れた本物の天羽奏の感覚や記憶。
自分ではしていない事をしていると云う感覚は、二年経った今でもフュリには慣れるものではなかった。
「うへ……やっぱしたくねーなこれ。段々とムカついてきやがる」
「我慢してくれ。恐らくこれが最後なんだ」
「最後……ねぇ」
最後とは一体何なのだろうか。フュリは最近よくそれを考える。
人生としての最後なら、フュリとオッシアには恐らくそれは存在しない。この肉体は騎士王の鞘が構築した物で、タンパク質から作られた人間の身体ではない。カリバーンやロンのような記憶と記録から具現化された謂わば偽物。生命としての死はないだろう。
(例外はありそうだけどな)
戦いとしての最後なら、それは何との戦いなのか。今回の事件は本来フュリとオッシアには関係ないし参加する必要はない。本物の鏡華や奏との関わりだって、あちらはこっちの存在に気付いていなかったし気付かせる必要もなかった。ここから出てオッシアと一緒にどこか海外でひっそりと暮らせばいいのだ。
(同じ場所に五年くらい暮らして転々としながらいけば、同じ場所で暮らすのは何十年と先だろうし)
怒りで形成されたフュリでも、日常茶飯事で怒ってるわけじゃない。胸の内で燻らせてはいても表に出さなければいいだけだ。そうすればどこからどう見ても普通の少女だろう。
「なあ、リート」
考えている間に、フュリはオッシアに話し掛けていた。
振り返るオッシアにフュリは訊ねてみた。
「アタシ達の最後って——どこなんだ?」
「————」
フュリの問いに、オッシアはすぐに答えられなかった。
少し悲しそうな表情を浮かべ、視線を彷徨わせて。
そんな彼をフュリはジッと見つめる。
数分経って、オッシアは迷った末に口を開いた。
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
「——愛ッ! ですよっ!!」
「何故そこで愛ッ!?」
自分を構成する感情の名前が聞こえ、オッシアは意識を回想から現実へ引き戻した。
事態はシンフォギアを纏った未来の出現によってわずかに戦況を変化させている。いや、アーサーが戦場に出ている時点で戦力だけなら
「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないと願う想いを
確かに小日向未来は奏者として不適合で、奏者になる事はなかった。ウェルの処置と感情によって無理矢理適合させた。
しかし、ウェルのあの表情で「麗しい」なんて言葉は、逆に彼女の想いを穢しているようにしか思えない。
「それもあの娘はマリア達よりもLiNKERを使って仕立て上げられた消耗品。
「なっ……ウェル! あの子は私達より適合係数が高いと言っていたでしょう!?」
調の前で仮面を張り続けていたマリアも流石に、ウェルに向かって叫ぶ。
「ええ。ですが実践投入レベルまでに引き上げるには時間がありませんでしたからねぇ! 限界ギリギリまでLiNKER詰め込んでここまで成長させたんですよっ!」
「くっ……」
たまらずマリアは眼を背ける。
また守れなかったのか。目の前で監視していたのに、たった一人の少女さえ救えないと云うのか。
その時、新たな聖遺物の反応を知らせるアラームが鳴る。
モニターを確認すると、ぶつかり合おうとしていた未来と奏の間に、もう一人の奏がいたのだ。
これにはオッシアも驚いた。
「っ、誰!?」
「フュリ……? どうして出てきた」
「フュリ? まさか」
「天羽奏の
だが、何故ここにいるのか。
フュリは外には出ない、ラスボスみたいに待ち構えると言っていた。
にも関わらず、こうして外に出て
考えられるとすれば——
「感情の相互共有……か?」
モニターで未来が
だが、これまで共有化は
「無意識でそれを行うか……やっぱり天才だよ、君は」
薄く笑うオッシア。
そして始まる——天羽奏同士の戦い。
相手がいなくなった未来は再び吼え、それに対してクリスが動く。
(そろそろ動く時か……)
戦場の変化にオッシアは脳内で計画を一つ進める。
「マリア。小日向未来の動向を別モニターに映せ。お前達の作戦の好機を見逃すなよ」
「わ、分かったわ」
マリアが頷くのを確認してオッシアは操縦室を出る。
戦場には出ない。今回オッシアの役割はほぼないと云っていい。
しかし役割がないからと云って何もしないわけではない。
「ここが正念場だ。ミスを犯すなよ」
——小日向。
そう呟いたオッシアの声は誰にも届く事はなかった。
〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜
——すまない。
憎まれ役を買って出たクリスに胸中で謝りながら、翼は目の前の存在を警戒して動かない。
アーサー・ペンドラゴン。遥か過去に生きた、本物の騎士にして一国を纏めた王。
今も自分の身体に埋め込まれている鞘、アヴァロンの本当の持ち主。
「はぁ、やはり静かに飲むというのはいいものだ。宴や食事の何倍もいい」
——なのだが。
目の前で酒を盛大に呷っている人物が本当にそんな高名な者なのか、と疑ってしまう。
まあ、纏う雰囲気は間違いなく別人だが姿は鏡華なのだ。そう思っても仕方がないと自分を納得させる。
「んくっ……ん、なくなったか。まだ少し掛かるか……なら、最後に一暴れして還ろうか」
空になった瓶を甲板に置き、アーサーはプライウェンから下りて立った。
たったそれだけの所作なのに、翼は思わず半歩引いて剣を構え直す。
敵はまだ何もしていない、立っただけだ。にも関らず大げさな反応。その自らの行動に翼は自分を恥じた。
「くっ……!」
「恥じずともよい。格上の敵に対する警戒はするに超した事はない」
「っ……敵でありながらこちらへの配慮、痛み入ります」
構えたまま、ほとんど誰にも使わない最上の言葉で礼を言う。
いくら過去の人物であり敵であっても、彼には言葉は選ぶべきだと、無意識に判断した結果だ。
「陛下。彼は……鏡華はどうなったのですか?」
「彼は今、鞘の内にいる。なに心配するな、もう少しで鏡華は目覚め肉体も返す事ができよう」
「そうですか……よかった」
「だが今は、私がこの肉体の主だ」
プライウェンを消し、鎧を纏う。彼の前に現れる鞘と鞘に納まった聖剣。
柄に両手を乗せて立つその姿は、まさに王者そのもの。
全身を悪寒が走る。剣を握る手が震える。息もできない圧力に、この場から逃げ出してしまいたかった。
「全力で来るがいい、我が鞘の欠片を預けられた娘よ。アーサー・ペンドラゴンの名とこの聖剣に誓い、全力で相手しよう」
「——っ!!」
アーサーの言葉に総毛立つ。震えが手だけでなく足にもきた。
彼に対して恐怖したのでは決してない。さっきは逃げ出したいと思ったが、これは——武者震いだ。
この身は一振りの剣。そう自分に暗示のように言い聞かせて、これまでずっと鍛錬に励んできた。同年代ならば、男女関係なくほとんどの相手に勝てる自信がある。年上相手でも決して一方的な戦いにはならないはずだ。
しかし、この剣は相手を屈服させるものでも、ましてや自慢するためではない。
この剣は守るためだ。防人として、一人の人間として、大切な人達を守るためのものなのだ。
(だけど……だけど今だけはそれを忘れたい)
この瞬間、アーサーとの一戦だけは別にしたい。
相手は本当の
それでも、どこまで彼に通用するか翼は知りたいのだ。
負けてもいい。今まで積み重ねた努力が完膚なきまでに崩されても構わない。
それに、この一戦を通して何か掴めそうなのだ。
何かは分からない。でも、今まで掴めなかった何かを今なら掴める気がする。
(戦場で私情を持ち出すとは……奏や鏡華に染まってきたかな)
くすりと笑い、翼は一度構えを解き深く息を吸って、吐いた。
青眼の構えから、居合いのように剣を構え腰を深く落とし前傾の姿勢を取る。
誰にも教えず、独りで編み出したこれを披露する相手に、アーサーは申し分ない相手だ。
鏡華のように
「我が身は剣と成り無辜の民を守る防人。然れど此度、己が為に剣を振るわん」
芝居がかった台詞。
言霊として、そして“
「民よ赦せ。友よ赦せ。我よ赦せ。我もまた、人の子
これは
翼が完成に至らせた新たなシンフォギア・システムの境地。
「闘神よ、我が身に武運を。我が身に汝の守護を。我が栄光は汝に捧げ奉らん」
凛と響き渡った声は空気を伝わり、アーサーの、鏡華の鼓膜を打った。
言葉一つ一つに力が宿っているかのように力強く、かつ清廉さを感じさせる。
刹那、天ノ羽々斬の刀身に変化が起きた。わずかに光り、その刀身を同色の鞘が包み隠した。
「これは……なるほど。そう云う仕組みか。いや、見事だ」
「お待たせいたしました」
「さあ、来い。
「はい。絶刀・天ノ羽々斬と奏者・風鳴翼——推して参るッ!!」